【86】第20話:舞踏会(1)
「はいは〜い♪みんなお待ちかね!今日は舞踏会について色々決めていくよ♪」
授業終わりのホームルーム。
武闘会が終わって1ヶ月も経っていないというのに、もう次のイベントの準備が始まった。
この学校の舞踏会は、一般的な舞踏会とは全く違う。
元々この学校には貴族の子どもしか入れなかったため、舞踏会は社交界デビューのための教育の一つだったらしい。
しかし平民でも学校に入れるようにした結果、社交界デビューの予定のない平民でも楽しめるようにと、演劇や歌などの要素が色々加わり、本来の意味での舞踏会とはかけ離れたイベントに変化したようだ。
今では各クラス、約1時間程度のミュージカルを行う裏で、カフェや売店などの出し物で商売をするという、お祭りのようなイベントになった。
「とうとうこの時が来たわね!舞踏会...という名の文化祭!」
カタリーナは前から舞踏会を楽しみにしていたからか、話が出た瞬間に分かりやすいくらいにテンションが上がった。
「カタリーナさん、文化祭って何ですか?」
「文化祭っていうのは、日本の学校にあったイベントで、内容は舞踏会と同じような感じよ。」
へぇ。日本の学校にもそんなイベントがあったのか?
あったのかもしれないが、思い出せない。
「はーい、静かに!それじゃあ早速、ミュージカルの演目を決めるよ。演目は既存の脚本でも、自分達のオリジナルでもオッケーだよ♪先にどっちの路線でいくか、多数決で決めようか。」
そんなの、オリジナルに決まっている。
舞踏会ではオリジナル脚本が人気で、毎年最優秀賞に選ばれる作品は大体がオリジナル脚本だ。
それに兄さんに聞いた話だと、舞踏会でできそうな脚本自体が少なく、あったとしても作家に許可を取るのが難しいらしい。
案の定、俺以外のほぼ全員もオリジナル派で、圧倒的多数でオリジナルに決まった。
「やっぱりオリジナルは人気だね。それじゃあウチのクラスはオリジナル脚本で決まりね!じゃあ次に、どんな劇にするかのアイデアをみんなで出していこうか。脚本の内容じゃなくて、演出やキャストの要望とかでもオッケーだよ。何かいい案がある人は手を挙げて!」
すると真っ先に挙手したのはレオンの取り巻きだった。
「先生、レオン様を主人公にした物語を希望します!レオン様は由緒あるコーキナル公爵家の次期当主となるお方です。それだけで注目が集まると思います。」
「レオンくんが主人公か。いいね!」
シヴァは取り巻きの案を黒板に書いた。
「他に、いいアイデアがある人はいるかな?」
すると、カタリーナがさっきの案は不服だと言わんばかりの険しい顔で、勢いよく手を挙げた。
「それなら、レックス殿下こそ主人公にすべきです。この国の第二王子が主役となれば、その注目度は他とは比べ物になりません。」
「確かに!この国の王子様が主役だったらみんな見たがるかもね♪」
おいおい。主人公が2人もいて大丈夫なのか?
しかもどっちも見た目が同じだし、見る方も混乱するだろ。
「他に、何かある人ー?」
「はいっ!」
今度はライラがウキウキした表情で手を挙げる。
「カタリーナちゃんをヒロインにするのはどうですか?彼女はエセヴィラン公爵の子女ですから、もっと注目が集まりそうです。」
「いいねぇ〜!カタリーナちゃんは舞台映えしそうだしね♪」
脚本の内容より先に、キャストがどんどん決まりつつある。
これはこれで良いのか?
「他には?」
「はいはいはーい!」
ライラに続いて、タクトも目を輝かせながら挙手をした。
「伝説の勇者が凶悪な魔王を倒す話がしたいっす!」
「それなら、15年前に現れた厄災の魔王と伝説の勇者をモデルにした話はどうでしょうか?」
タクトの意見に追随するようにゼルも意見を出した。
俺をモデルにした話、か。
何だか不愉快なような、恥ずかしいような、複雑な気分だ。
「でしたら、伝説の勇者役はタクトくんというのはどうでしょうか?勇者の息子が勇者役というのも、目を引く配役だと思います。」
ホリーまでもが2人の意見に乗っかるように意見した。
というか、配役ばかり先に決めてどうするんだ。
「いいねぇ〜!3人とも面白い意見だよ!他に意見のある人はいる〜?」
すると一人の女生徒が恐る恐る手を挙げた。
「わ、私は王子様とお姫様の恋物語がいいです。レオン様とレックス殿下が主人公なのでしたら、二人がカタリーナ様を取り合う三角関係も素敵だと思います。」
うわぁ...。
想像しただけで退屈で胸焼けしそうな話だな。
だがライラや他の女子達はその設定に歓喜しているし、設定を聞いたカタリーナは顔を赤くして照れている。
女って、なぜ何でもかんでも恋愛要素を入れたがるんだ?
「恋物語かぁ。いいねぇ、青春って感じがして。他に何かある人ー?」
次に手を挙げたのは殿下だった。
「僕とレオンは外見がよく似ているので、僕達が演じるキャラクターは性格を真反対にするのはどうでしょうか?その方が観客の皆さんもキャラクターの見分けがつくと思います。」
それ、まんま殿下とレオンじゃねーか。
「いいアイデアだ♪他に意見がある人は?」
「はいっ!僕は魔法演出が多くなるような脚本希望です。このクラスには魔法が得意な人が多いので、その強みを活かす舞台にしたいです。」
「私はドロドロな人間関係を書いた脚本にして欲しいです!」
「僕はハッピーエンドになる話がいいです!」
「私は登場人物はなるべく少ない方がいいと思います。登場人物が多すぎるとお客さんも覚えるのに苦労しそうですから。」
クラスのみんなは次々にアイデアを出す。
....アイデアを出すのはいいが、収拾がつかなくなるんじゃないか?
「もう他に意見のある人はいない?.....いなさそうだね。じゃあ今度は、今出たアイデアを元に脚本を書く人を決めようか!書いてみたい人ー!」
シヴァは挙手を促したが、今度は誰一人として手を挙げなかった。
おいおい、さっきまでの勢いはどうしたんだよ。
とツッコみたくなったが、俺も手を挙げたくないので人のことは言えない。
これだけ色んな要素を満たした脚本を書けだなんて、無茶にも程がある。
みんながみんな、貧乏くじを引きたくないからか、誰かが手を挙げてくれるのを待っていた。
「あれ?誰もやりたくないの?困ったなぁ〜、それじゃあ....」
「わ、私、やります!」
慌てるように手を挙げたのはライラだった。
わざわざ全員のために自分から面倒ごとを引き受けるなんて、相変わらずの偽善者っぷりだ。
「おっ!助かったよライラちゃん♪他に脚本を書きたい子はいないね?...それじゃあライラちゃん、急だけど来週のホームルームまでに大まかでいいからストーリーを考えてきてもらっていいかな?」
「はい!」
来週までに、全部の条件を満たすような話を作れるのか?
かなり無茶振りな気がする。
「それじゃあ演目も決まったことだし、次は出し物を決めるよ!みんな、何がいいかな?」
「はいはーい!俺、メイドカフェがいいっす!」
タクトは食い気味に、勢いよく手を挙げて意見した。
「メイドカフェかぁ。ここ数年、舞踏会でブームになっているし、悪くないね♪」
メイドカフェが流行り出したキッカケは、兄さん達が出し物にしてからだ。
今までにないスタイルの出し物に、来場者の心は釘付けになったらしい。
それ以降、毎年3〜4クラスはメイドカフェをするくらい、人気の出し物になった。
「えぇー!メイドカフェ〜?」
「女子ばっかりに働かせるの、反対!」
だが一部の女子からは不満の声が出た。
「いいじゃねーか!メイドカフェが人気ってことは、それだけ可愛い女の子に接待されたいんだよ、客は!それにウチのクラスは美人が多いから絶対人気になるぜ!」
ブーイングを受けたタクトは、鼻息を荒くして女子達に反論する。
「だったら男子もメイドやりなさいよ!」
「アホか!誰がむさ苦しい男のキモい女装を見たがるんだ!」
「自分がやりたくないのに、なんで女子にさせようとするのよ!」
「だーかーらー!需要だよ、需要!」
気づけばメイドカフェ賛成派VS反対派で口論になっていた。
「はいはーい!みんな落ち着いて。今は出し物を決める時間だよ。メイドカフェの他に案がなかったら、メイドカフェで決定するよ〜!」
すると反対派の奴らは一気に黙って、他の案を出そうと考え始めた。
「他に案がなかったら...」
「はい先生!」
シヴァが打ち切ろうとしたその時に、手を挙げたのはホリーだった。
「おっ!何だい?ホリーくん。」
「執事カフェ、というのはどうでしょうか?」
「執事カフェ?それってどんな出し物なの?」
「簡単に言えば、メイドカフェの男女逆バージョンです。男性が執事になりきって、お客さんを接待するんです。」
うげぇ〜。
執事になって接待とか、考えただけで面倒くさそう。
メイドカフェも大概だが、もっと楽にできる出し物を考えろよ。
「ホリー!テメェ、裏切ったな!」
「第一、そんなの誰が喜ぶんだよ!」
ホリーの案に、タクトを始めとしたメイドカフェ賛成派か一斉に非難した。
「メイドカフェは毎年色んなクラスがやるくらい人気だから、似た系統の執事カフェも人気が出ると思います。」
「何が悲しくて、野郎の接客に喜ぶんだよ!それじゃあ普通のお店に行くのと変わらねぇだろ!」
「執事カフェのメインターゲットは女性です。それにメイドカフェのメインターゲットは男性なので、他のメイドカフェと客の取り合いにならずに済みます。
しかもウチのクラスは殿下を始めとした美男子が多いので、話題性もありますし、女性人気が見込めます。」
「いいわね、執事カフェ。私もイケメンに接待されたいわぁ。」
「本物の王子様に、もてなしてもらえる機会なんて一生ないから、殿下目当てで来るお客さんも多そうね。」
ホリーの案に、メイドカフェ反対派はウキウキしながら賛同した。
「さっきまで散々『女子ばっかりに働かせるの反対!』とか言ってた奴、何なんだよ。男ばっかりに働かせるのは反対しねぇのかよ!」
「女性が執事になるのもアリだと思いますよ。女性って、案外男装の麗人が好きですから。」
「男装するの、楽しそう!」
「それにカタリーナ様が男装する姿が間近で見れるなんて、最高です!」
メイドカフェ賛成派渾身の反論もホリーにあっさり言い返された上に、反対派の女子達も乗り気だ。
それにしても女子が男装したがるなんて意外だ。
俺は死んでも女装なんかしたくないのに。
やっぱり女は根本的に感性が違う生き物なのかもしれない。
「メイドカフェだって、男子が女装して接客するって言うんだったら、賛成してもいいのよ?」
メイドカフェ反対派からの皮肉に、賛成派はたじたじになり黙ってしまった。
「先生、執事カフェに関連して、もう一つ思いついた案もあるのですが、良いでしょうか?」
「はいは〜い!どうぞ!」
「執事達の魔力が込められた水晶石も、併せて販売するというのはどうでしょうか?自分のお気に入りの執事のグッズが売っていたら、お客さんは喜んで買ってくれそうだと思います。」
「いいねぇ〜!それ、面白いよ♪もし出し物がメイドカフェに決まっても、同じように水晶石を売り出したら、繁盛しそうだね!その案は、どっちの案になっても採用しようか♪」
水晶石か。
ホリーの案を聞いて、キメイラ帝国で買った充魔ができる水晶石のペンダントのことを思い出した。
アレは魔術で水晶石に込められる魔力を調整していたから、舞踏会で売る水晶石は別で用意するのだろう。
「他に案のある人はいる?いなかったら、多数決でどっちの出し物にするか決めるよ〜♪」
シヴァが意見を出すよう促すも、手を挙げる者は俺を含めて誰もいない。
そのためメイドカフェか執事カフェの2択から選ぶことになった。
...どっちも選びたくないが、代替案が思いつかなかったから仕方ない。
「それじゃあ、メイドカフェがいい人ー!」
すると、タクトを始めとした賛成派の連中は勢いよく挙手した。
よく見ると意外なことに、ライラとカタリーナも手を挙げていた。
「えっ?2人ともメイドカフェ派なんですか?」
「だって、男装して執事になるより、メイドさんになる方が楽しそうだもん。」
「それに男子の女装姿も見てみたいわ♪ゼルくんとフレイくんは細いし背も高くないから、ちゃんと化粧すれば美女になるわよ!」
さも当たり前のように女装させようとするな!
ってかコイツ、サラッと俺とゼルを馬鹿にしてきやがった。
...万が一、メイドカフェになっても女装なんかするものか。
「ハイみんな、手を降ろして。今度は執事カフェがいい人、手を挙げて!」
俺は渋々、手を挙げた。
本当は執事カフェもしたくないが、女装してメイドをやるくらいなら執事になった方がマシだ。
「フレイ、ゼル、レックスまで...!この裏切者共がっ!」
俺達を睨みつけて舌打ちするタクト。
そんな目で睨まれてもメイドカフェなんざ願い下げだ。
「え〜っと、10対17だから執事カフェで決まりだね♪」
その結果に、タクトは落胆して不満を漏らした。
「クソッ!お前らのせいだぞ、この裏切者共!女子に媚を売りやがって!少しはライラとカタリーナを見習え!」
「まぁまぁ、タクトくん落ち着いて。それにこれはタクトくんにとってもチャンスだと思うよ。」
「チャンスぅ??」
「もし執事カフェで人気が出たら、そのままモテ期に入るかもしれないよ?」
「モテ期?!....いいなぁ、それ!よっし、俄然やる気が出てきたぞ!」
ホリーの説得で、執事カフェに乗り気じゃなかったタクトが一瞬で意欲が湧いた。
「それじゃあ、ミュージカルと出し物が決まったことだし、今日のホームルームはここまで!ミュージカルの配役とか、執事カフェのメニューとか、細かいところは来週決めるから、各自考えてきてね♪」
次に話し合うのは来週か。
『考えろ』って言われても、大して考えることもないだろ。
それから、舞踏会について特に何かを考えることもなく、時だけが過ぎていった。




