【79】第18話:武闘会(4)
午後の部の最初の競技はウォールブレイクだ。
ウォールブレイクは全学年の男子が参加する競技で、その競技名の通り、壁を壊す競技だ。
目の前に出された岩の壁をクラス全員で割っていき、最終的に壊した壁の枚数で勝敗が決まる。
壁は壊せば壊すほど、次に出る壁が頑丈になっていき、中には特定の魔力属性の攻撃でないと壊せない壁も出てくる。
さっきまでの俺だったらこんな競技、楽勝だと思っていただろう。
だけど『正体がバレない程度に加減して』という条件がつくと、一気に難易度が高くなる。
まぁ、タクトや殿下あたりに任せておけば大丈夫か。
案の定ウォールブレイクが始まると、タクトと殿下、それからレオンが中心となって次々と壁を壊していった。
いいペースで壁を壊していく。
これなら俺が出るまでもないな。
と思っていたが、途中でなかなか壊せない壁が出てきた。
色付きの壁、ということは特定の属性攻撃でないと壊せない壁ってことか。
だが壁は赤・青・黄・緑・白・黒の6色が、エリアを6分割するように塗られていた。
「クソッ!属性が足りないせいで全然割れねぇ!」
「6属性同時に攻撃って、どうすればいいんだ?」
そういうことか。
「ちょっと皆さん、下がっててください。」
俺は前線にいるタクト達を壁から離れさせると、6属性全ての初級魔法を繰り出して壁にぶつけた。
すると、今まで壊れなかったのが嘘のように、あっさり壁が壊れた。
「おぉ!やるじゃんフレイ!」
「フレイくん、さすがだね。」
よかった。正体を疑っている様子はない。
一番始めの授業で繰り出した魔法だから、今更疑われるはずもないか。
俺が壁を壊すと、さっきまでのペースを取り戻し、その後は順調に壁を壊していった。
その結果2位...1年だけで見たら1位と、高成績を収めた。
「お兄ちゃん達、お疲れ様!」
「みんなよく頑張ったわね!」
観客席に戻るとライラとカタリーナが出迎えてくれた。
「ほとんど頑張ってくれたのは、タクトくんと殿下とレオンだけどね。」
ゼルは苦笑いしながら謙遜した。
「そんなことないわよ!ゼルくんだって魔法を壁にぶつけて健闘したじゃない。」
「ははは。全然割れなかったけどね。」
そりゃ人の頭サイズの初級魔法じゃ、簡単に割れねぇよな。
せめて初級魔法でも、俺みたいに人一人分くらいのサイズの初級魔法でないと話にならない。
...そういえばゼルって、魔物村の時に暴れて、俺の十八番の爆発魔法を使っていたよな?
あの魔法が使えるんだったら、最初から使っていればぶっちぎりで一位になれたのに。
まぁでも、ゼルがあの爆発魔法を使ったら、それこそ正体を疑われるか。
アイツも俺と同じで、派手な魔法が使いにくい立場なんだろうな。
「そういえばフレイくんも凄かったよね!お兄ちゃん達が壊せなかった壁をあっさり壊しちゃったんだから!」
「初めての授業の時に見た時も驚いたけど、フレイくんって魔法が凄く上手だよね。まるでクドージンさんみたいだよ。」
ホリー、一言余計だ!
『宮藤迅みたい』とか言わなくていいんだよ、バレるだろ!
「曲がりなりにも、伝説の聖女サマの甥っ子ですからね。あれくらい、出来て当然ですよ。」
「だったら最初からお前も本気出せよ。」
「仕方ないよ。フレイくんはこの後のバトルロワイアルがあるんだから。僕とタクトくん達で十分壊せたんだから、いいじゃないか。」
「それなら仕方ねぇか。」
「魔力温存ということでしたら、殿下の方こそ大丈夫ですか?この後すぐ多種目リレーが始まりますけど、さっきバンバン魔力を消費しながら壁を壊していませんでしたか?」
「大丈夫だよ。あの程度、魔力を使ったうちに入らないよ。」
「そういえば殿下、もうそろそろリレーが始まっちゃいますよ!」
「あっ、本当だ!カタリーナ、急ごう!」
カタリーナと殿下は、慌ててアリーナの方へと走っていった。
多種目リレーは1年の個別競技だ。
ウチのクラスからは、殿下・カタリーナ・レオン、それからレオンの取り巻きの1人の、合わせて4人が出場する。
障害物競争をリレーにしたような競技で、第一走者から第四走者まで、それぞれ違う障害物が待ち受けている。
とはいえ、出てくる障害物は障害物競走と違って事前に教えられているので、対策はできる。
障害物との相性を考慮した結果、レオンの取り巻き・殿下・カタリーナ・レオンの順で走ることになった。
「レオンやレックスはともかく、カタリーナの奴、大丈夫か?」
「カタリーナちゃんなら、きっと大丈夫だよ!さっきのクイーンズ・ティアラの時だって、アリーシャ様に狙われてもうまく躱わせていたじゃん!」
「カタリーナさんは身体強化魔法が使えますからね。それに魔法も得意な方ですし、きっと何とかなりますよ。」
そうこうしているうちに、リレー開始の合図がなった。
第一走者のレオンの取り巻きは、スタートダッシュからして遅かった。
「はぁ?アイツ何でこの競技に出てんだよ!」
タクトがキレそうになるのも無理はない。
でもレオンが『第一走者はコイツしかいない』と言い切ったくらいだから、一応何か理由があるのだろう。
走ってすぐに障害物に直面すると、レオンがコイツを勧めた理由が分かった。
最初の障害物は『暗闇混乱エリア』と呼ばれている。
このエリアは光の一切入らない真っ暗な空間で、入ってきた走者に混乱魔術をかけてくる。
このエリアの面白い所は、観客からはエリアの中の様子が丸見えだということだ。
他の走者が暗闇の中で走る方向を模索する中、レオンの取り巻きはまっすぐ進んでいた。
「彼、混乱魔術が効いていないのでしょうか?」
「しかもあの感じだと、ちゃんと前も見えていそうだよね。レオンくんが彼を推薦した理由が分かったよ。」
レオンの取り巻きは断トツビリの状態から徐々に追い抜き、順位が3番目になったところで殿下にバトンタッチした。
「レックス殿下!頑張れ!」
殿下が走り出すと、誰が見ても分かるくらいの猛スピードで前の二人に迫った。
だが、前の二人を追い抜く前に障害物に直面した。
次の障害物は『マグマ渡り』だ。
文字通り、マグマのようになっている地面を渡る必要がある。
殿下は初級水魔法をマグマへ放って冷やし、足場を作りながら慎重に渡っていた。
前を走っていた選手も殿下と同じく初級水魔法で足場を作りながら渡っていたが、殿下ほど早く魔法が使えないため、殿下はすぐに追い越すことができた。
しかし先頭を走っていた選手はマグマを凍らせながら走っていたため、先頭との距離がどんどん離れていった。
殿下はとうとう先頭に追いつくことなく、2位の状態でカタリーナにバトンを託した。
「カタリーナちゃん、ファイトー!」
カタリーナは事前に身体強化魔法をかけていたからか、前の選手にそこまで引き離されることなく、ほぼ同じ速さで追いかけていた。
だが後ろから迫っている奴が足が速く、追い抜かれそうになる。
追い抜かれる直前で、カタリーナは障害物に直面した。
次の障害物は『サンダーハードル』だ。
電気が流れているハードルがいくつか設置されており、前に進むにはハードルを飛び越えるか下を潜り抜ける必要がある。
「大地の盾!」
カタリーナは魔法で、自身が隠れるほどの大きさの、土でできた盾を2つ出した。
そして盾2つを左右に構えて、電気のハードルをガードしながら走る。
「おっしゃ!行け、カタリーナ!」
盾2つが邪魔なのか走るスピードが落ちたものの、身体強化魔法のおかげでそこそこ速いペースで走れている。
ほとんど選手はハードルに悪戦苦闘しているため、むしろ先頭に追いつくチャンスだ。
「あっ!」
だがカタリーナは、あと少しで先頭に追いつくというところで、勢いよくコケてしまった。
その上ハードルに引っかかる形でコケたため、電気が当たってカタリーナはその場で苦悶した。
カタリーナが倒れている間に、さっきまで引き離していた連中がどんどん追いついてきた。
「クソっ!」
「頑張れー!カタリーナちゃん!」
立ち上がって走り抜いたものの、後ろから来ていた選手に追い抜かれ、3位になってしまった。
カタリーナは悔しそうにしながらレオンにバトンを渡した。
するとレオンはバトンを受け取ってすぐに、前の選手を追い抜いて再び2位になった。
レオンは他の選手と比較して、飛び抜けて速かった。
最後の障害物『逆風』エリアで、先頭が向かい風に苦戦していたが、レオンの走るスピードは落ちるどころか、むしろ速くなっていた。
まるでレオンに追い風がきているようだった。
そしてレオンは、そのままあっさりとゴールし1位になった。
「よっしゃー!また1位だ!」
俺達は観客席に帰ってきた殿下とカタリーナを、盛大に褒め称えた。
「殿下もカタリーナさんもお疲れ様です。お2人とも、いい走りっぷりでしたよ。」
「カタリーナちゃん、途中でハードルにぶつかっていたけど、大丈夫?」
「えぇ。あの程度、どうってことないわ。でも転んだせいで、あの後散々レオンに馬鹿にされたのだけは悔しいけど。」
「アイツが良いところを持っていったのだけは許せねーよな。」
「まぁまぁ2人とも、彼のおかげで1位になれたんだから良いじゃないか。それにレオンはああ見えて、カタリーナのことを凄く心配していたよ。」
「あははっ。殿下ってば、冗談が面白いですわ。アイツが私を心配だなんて、天地がひっくり返ってもあり得ないですよ。」
レオンの奴、今頃調子に乗ってるんだろうな。
アイツが観客席に戻ってきてからも絡んでこないだけマシか。
それから小一時間後、全学年・全生徒による競技『球入れ』だ。
この競技は言わば『複数チームで行うサッカー』のようなものだ。
各クラスごとにゴールポストが設置されており、自クラスのゴールになるべく球が入らないように守りつつ、他のクラスのゴールに球を入れる競技だ。
球はあちこちにばら撒かれていて、それを拾って他のクラスのゴールに入れる。
するとゴールに入れられたクラスは、1球につき1点加算される。
最終的に点数が一番低いクラスが優勝となるのだ。
「ゴールキーパーは僕に任せて!」
球入れが始まる直前に、ホリーは自信満々にクラス全員に話した。
ゴールを守るのにホリーのバリアはうってつけだ。
ゴールポストをバリアで囲っていれば、誰も球を入れられないだろう。
その時点でウチのクラスの優勝は確実だ。
「ホリーくんが守ってくれれば安心だね!」
「相変わらず、いざという時のホリーくんのバリアって、頼もしいわよね。」
「ハッ!この競技、楽勝だぜ!」
ホリーが守ってくれるのもあって、ホリー以外の全員は攻撃に回ることになった。
審判の開始の合図とともに、ホリー以外は一斉に球を拾いに走った。
俺は球を拾うと、比較的ガードの緩そうなクラスへ行って球を投げる。
他のクラスの選手を全員ねじ伏せてからゴールポストに球を入れていこうかとも考えたが、それだと目立ちすぎて正体が疑われかねない。
あくまで目立たない程度に、球を拾ってはゴールポストへ投げた。
適当に球を投げながら、ふとタクト達の様子を見た。
タクトや殿下、それからレオンは、積極的に点数の低いクラスを狙いに行っている。
正直、自由にやれているアイツらがちょっと羨ましい。
カタリーナは他のクラスの守備を崩しに行っている。
他のクラスのガードは基本、魔法で出した壁や盾などだ。
それらを圧縮魔法で粉々にして、球がゴールに入りやすいようにしていた。
ゼルとライラは俺と同じく、入れやすそうなクラスを狙っていた。
ライラは全然入っていない様子だったが、ゼルはそこそこ入っているようだった。
まぁ、ゼルは俺と同じで本気を出し辛いからタクト達みたいに攻められないのだろう。
そしてホリーは、ひたすら他クラスの生徒たちからの総攻撃に耐えていた。
特にアリーシャの攻撃は凄まじく、バリアに攻撃が入る度に鼓膜が破れそうなほどの衝撃音が響いた。
それでもホリーは耐えれている....と思っていたが、よく見たら何点か入れられている。
バリアは壊れていないのに何故だ?
しばらく見ていると、誰かがゴールポストの中に入っていくのが見えた。
何だアイツは?
ゴールポストに入った男子生徒は、球をゴールに置くとバリアをすり抜けて外に出ていた。
その男子生徒がすり抜けているのはバリアだけではなかった。
まるで透明人間かのごとく、他の生徒の身体をすり抜けてゴールポストから離れ、球を探しに行く。
厄介な奴だ。
他のクラスと比べて全然ボールが入っていないとはいえ、看過できない。
何とかしてアイツを止めないと。
今まで授業で使ったことのある魔法で役立ちそうなものはないか考えてみたが、何も思い浮かばない。
....待てよ?
そもそもクイーンズ・ティアラの時みたいに、俺が魔法を使ったことに気づかれなければ大丈夫なんじゃねーか?
誰にも気付かれずにあの男子生徒を妨害する魔法、なぁ...。
ホリーのバリアやゴールポストを細工したら、流石に気づかれてしまう。
かといって、いきなり男子生徒を物理的に排除したら、周りに不審に思われる。
...そうだ!
アイツに、この競技の間は何に触れても透けてしまう魔法をかければ良いんだ!
仮に本人や周りが怪しんでも『あの男子生徒は身体を透過する魔法のコントロールができなくなった』のだと勘違いするはずだ。
俺は早速ソイツに魔法をかけると、案の定、球を掴むことができずに困惑していた。
ホリーもアリーシャの攻撃に耐えれているし、これでウチのクラスに点数が入ることはないだろう。
その後、アリーシャを中心に色々な生徒がウチのクラスに猛攻撃をかけるも、一点も入らなかった。
逆に、タクトを中心にウチのクラスが他のクラスに総攻撃を仕掛けて点を入れまくっていたので、ウチのクラスは余裕で1位になった。
「よし!今回も1位!こんだけポイント稼いでいたら総合優勝確実だろ!」
「これも全部ホリーくんのおかげだね。」
「そうよ。あのアリーシャ様の攻撃に耐えられるなんて、ホリーくんのバリアって最強よ。」
「いやまぁ。それほどでもないよ。」
ホリーは女子2人に褒められて照れ笑いしていた。
「でもエレブン先輩が透過の魔法でバリアをすり抜けてきた時は焦ったよ。」
エレブン先輩って、あの男子生徒のことか?
「そういえばウチのクラスも何点か入っていたわね。アレってエレブン先輩のせいだったのね。流石去年のバトルロワイアルで、アリーシャ様を倒して優勝しただけのことはあるわ。」
エレブン先輩とやらは意外と実力者だったようだ。
多分この後、バトルロワイアルで戦うことになるんだろうなぁ。
「エレブン先輩が途中でいなくなったおかげで何とか勝てたよ。もしあのまま攻められてたら、流石に1位にはなれなかったと思う。」
「途中で諦めてくれてラッキーでしたね。」
エレブンに魔法を使ったことには気づかれていないようだ。
みんなそれほど他の選手のことを気にしていなかったようで助かった。
これで残る競技は最終競技のバトルロワイアルだけだ。
俺達はバトルロワイアルが始まるまで、他の学年の競技を見ながら観客席で他愛もない会話をした。




