【75】第17話:シヴァの正体は?(3)
ゼルは、教団に実験動物として扱われていたことや、『命の器』を体内に同化した後に意識が誰かに乗っ取られたことなどを、端的に説明した。
「この時、僕の身体を乗っ取ったのがクドージンさんです。その後の僕がどうなったかは、クドージンさんも知っているはずです。」
俺がゼルの身体を乗っ取った?
俺は改めて日本で死んでから厄災の魔王に転生した時のことを思い出す。
あの日、気分が悪くて暑い部屋の中で横になっていた....と思ったら、気づいたら見知らぬ場所で拘束されていた。
変な部屋に閉じ込められて、ワケ分かんねぇとか思っていたら、いきなり『お前が例のブツを取り出すまで死よりも苦しい拷問を続けてやる』とか気持ち悪いおっさんの声が聞こえた。
身の危険を感じた俺は、死に物狂いで拘束を解いて部屋から逃げ出した。
建物から出て外を走っていたら、奴隷商に捕まって、それから....。
.....これ以上は胸糞悪いから思い出すのを止めよう。
それに多分、ゼルの話と関係ないと思うし。
今思えばあの建物は、聖ソラトリク教団のアジトだったってことか?
そしてあのおっさんが言っていた『例のブツ』ってやつが、命の器ってことかもしれない。
日本語じゃない言葉なのに言っている意味が分かったのも、ゼルの身体を乗っ取った影響だったのか?
「クドージンくん、念のため確認したいんだけど、キミがニホンって世界で死んですぐ後に、ゼルくんの身体を乗っ取ったって解釈で合ってる?」
「多分な。日本で死んで、次に気づいた時には厄災の魔王の身体になっていたし。つーか、そもそも何で俺がゼルの身体を乗っ取ったんだ?あの身体が不死なのは聖ソラトリク教団の人体実験のせいなのか?」
疑問は尽きない。
シヴァはそんな俺の質問に対して『あくまでボクの推測だけど』と前置きした上で説明し始めた。
「キミがゼルくんの身体を乗っ取ったのは、きっとゼルくんが体内に取り込んだ命の器が関係しているんじゃない?恐らくキミはニホンで死んだあと、命の器と呼ばれている魔道具に魂が封印されたんだと思うよ。」
「俺の魂が封印された?何で教団の奴らがそんなことするんだよ。」
「さぁ。それは分かんない。ただクドージンくんの魂が封印された魔道具を、ゼルくんが体内に取り込んじゃったから、ゼルくんの身体に2つの魂が存在する状態になったんじゃないかな。魂が2つもあるから、より強い力をもったクドージンくんの魂の方が、肉体の主導権を握ったんだとボクは考えてるよ。」
「なるほどな。ゼルの身体を乗っ取った理由がソレだとして、ゼルが不死なのは何でだ?」
「それはきっと、キミが無意識に魔法を使ったからそうなったんじゃない?教団には不死の生物を作り出せるだけの技術は存在しないし。まぁ、生物とすら呼べないゲル状の何かは作れたみたいだけど。」
「俺が魔法で不死に?俺はそんな魔法を使った覚えはねぇぞ。」
「本当に?キミ、教団の連中から逃げる時に『死にたくない』って強く願わなかった?」
「確かにあの時はずっと『死にたくない』って思いながら必死に逃げていたな。」
「キミ魔力コントロール能力が凄く高いから、『死にたくない』っていう強い思いが魔法として発動したんじゃない?
ついでに言うと、キミの根源って命属性の魔力を生み出しているじゃん?だから普通なら使えない生死に関与する魔法も使えたんだと思うよ。
それに仮に魔法を発動するための魔力が足りなかったとしても、キミは龍脈の近くにいたから、龍脈から出ている魔力を魔法で取り込めば不死身の魔法が使えるんじゃないかな?
魔力コントロール能力の高い魔法使いに、そういう荒技ができちゃう人もいるって聞いたことがあるしね♪」
それで不死の身体になるとか、やっぱりこの世界の魔法って無茶苦茶だな。
...いや、無茶苦茶なのは俺の魔法の方だけか?
「ところで、ゼルの話を聞いてもやっぱり俺が教団に狙われている理由が分かんねぇ。どういうことか、ちゃんと教えろ。」
「それはきっと、キミが教団が大切にしていた『命の器』だからだと思うよ。」
「だからその『命の器』って何なんだよ。」
「さぁ。でもこの前、船の中から見つかった魔道具に記録されたレポートに命の器に関する情報が入っていたよ。」
「この前って、タコにくっついていたあの船か?」
「そうそれ!あの船に教団のシンボルが掲げてあったから、もしかしてって思って中を漁ってみたんだ~♪見事にビンゴだったよ!」
「あの船って、聖ソラトリク教団の船だったのか。」
「そうそう♪で、船の中にあった記録をざっくり言うと
『裏切り者のザボエル・ヨーグマンは行方不明』
『命の器はキメイラ帝国軍に使役する魔物に転生。近々回収予定』
『失敗作の同化した個体は海へ捨てる予定』
それから
『命の器は魂に根源を持ち、なおかつ根源から命属性の魔力を生み出す、稀有な魂だった』
と書いてあったよ。
この魂の特徴って、まんまクドージンくんだよね?」
命属性の魔力を生み出す根源を持つ魂は、どう考えても俺しかいない。
ということは、俺の魂は命の器に封印されていたってことか?
封印されていたのも、俺の魂が物珍しいからか?
「ちょっと待て、さっき記録に『命の器を回収する』ってあったよな。じゃあ奴らは今も俺の魂を狙っているってことか?」
「可能性は高いね。教団がキミをどう利用するかは知らないけど、キミの魂は研究し甲斐がありそうだしね。ボクでも興味がそそられるもん。」
きっしょ。
シヴァの一言に若干鳥肌が立った。
......ん?待てよ。
「そういえばお前、魂に根源のある人間を探していたんだったよな?だったら何で俺に転生魔術なんかかけたんだ?そんな魔術かけたら、折角見つけた魂がまたどっかに行っちまうじゃねえか。」
「あー。アレ?アレには深い事情があってね...」
シヴァは恥ずかしそうに笑いながら答えた。
「あの時、本当はキミを転生させるつもりじゃなかったんだ♪」
「はぁ?じゃあ転生魔術とか言っていたあの魔術は何だったんだよ。」
「アレは封印魔術さ。本当はあの時、キミとゼルくんの魂をまとめて宝石の中に閉じ込めようと思ったんだ。」
俺は転生させられた時のことを思い出す。
シヴァの手に会った、怪しげな光を放つ宝石。
「もしかしてシヴァは、あの時持ってた宝石に俺を封印しようとしたのか?」
「そ!というか実際、封印したの。でも封印した後すぐにユシャくんがぶつかってきて、うっかり宝石を落として割っちゃったんだ。そのせいでキミとゼルくんの魂は開放されて...あの時はボクも魂が口から抜けそうな気分だったよ。」
「じゃあ宝石が割れて魂が開放されたから、俺は転生してゼルの魂は肉体に戻ったってことか?」
「そーゆーこと。ゼルくんの魂は自分の肉体があったから転生せずに元に戻ったけど、キミの魂はゼルくんの肉体と深く結びついていなかったから、ゼルくんの身体に戻らずに転生したんじゃないかな。」
だから結果的に転生魔術で転生したように感じたのか。
「キミ達を形だけ転生させた後、ボクはゼルくんの抜け殻になった身体を回収したんだ。万が一魂が戻ってきて動き出したらユシャくん達を誤魔化すことができなくなるし、それにクドージンくんの魂が戻ってくるかもしれない。そう思って強引に回収した後は、人目につかない場所で管理していたんだ。そしたら程なくして、ゼルくんの魂だけが帰ってきたってわけ。」
「僕がシヴァさんに引き取られた後、しばらくは意識がぼんやりしていて動けませんでした。でも四六時中、意識のない僕の面倒を見てくれて、悪い人じゃなさそうだって分かったんです。だから意識を取り戻した後、お互いに情報交換をして協力関係になりました。」
だからゼルがシヴァの屋敷にいたのか。
きっとゼルが姿を変えるときに持っていたペンダントも、ゼルが人間社会に溶け込めるようにとシヴァが作った魔道具だったのだろう。
そうでもしないと、王立ディシュメイン魔法学園に入れないからな。
...あれ?
ということはつまり...。
「それじゃあゼルは今、いくつなんだよ?」
「ちゃんとは数えていませんが、30は超えていたと思います。」
「だったら何で学校に通っているんだよ!同級生の二倍は生きてるじゃねえか!」
「それはボクがお願いしたんだ♪彼が生徒、ボクが先生として、王立ディシュメイン魔法学園に潜入してキミを探していたんだ。」
「俺を?」
「そ♪転生したキミと何度か接触したことのあるタクトくんやライラちゃんを見張れば、キミと会えると思ったからね!」
その目論見は見事的中したってことか。
「そういえば魔物村に厄災の魔王が出たことがあったけど、アレもゼルだったのか?」
「あ、はい。あの時はお騒がせしてすみませんでした。」
「全くだ。下手したら大惨事になっていたところだぞ。」
「まぁまぁ、そう彼を責めないで。あの時の彼は、誰かが仕込んだ発狂魔術のせいでおかしくなっていたんだから。」
「発狂魔術だぁ?そんな言い訳通じるかよ。仮にそうだとして、誰が何の目的でやったんだ?」
「さぁ?でも魔術の痕跡やら手口からして、聖ソラトリク教団っぽいなーとは思うよ。」
「また聖ソラトリク教団かよ。そもそも教団の目的は何だ?何をしようとしてるのかも分かんねぇ。」
「元教団員だけど、ボクもあの組織の目的は分かんないや。ただ一人、事情を知ってそうな人物に心当たりはあるよ。」
「誰だよ、それは。」
「第七龍脈研究所の所長、ザボエル・ヨーグマンさ。ほら、さっきボクとゼルくんの話の中に出てきたでしょ?」
確かに、その男の存在は気になっていた。
ゼルとシヴァが共通して知っている、唯一の聖ソラトリク教団の団員。
これは偶然か?
「ザボエルはアレで組織の中でも上の地位にいたからね。一部の人間しか知らない総裁の顔を知っていたくらいだし。それにゼルくんに『命の器を本部から取ってこい』って命令したくらいだから、組織が大事にしている命の器の価値を知っていたってことになる。」
「だったらザボエルって奴を捕まえて話を聞けばいいのか?」
「それができたら苦労しないよ。教団ですらザボエルの行方が分からないらしいし、死んでいるかもしれないし、万が一生きて会えたとしても教団の秘密を教えてくれるとは思えないし。」
「だったら意味ねーじゃん。」
「うん。だから教団の目的を探るのは難しいかも。それにボク、一応あの組織に追われている身だしね。」
その割には、緊張感もなくヘラヘラ笑っていやがる。
「第一ボクは、ザボエルや教団なんかよりサラの行方の方が気になるね。そもそも彼女の探していた魂っていうのがクドージンくんなのかも分かんないし。」
「確実に俺だろ。そもそもサラって女が探してたのって、魂に根源がある奴だろ?そんな奴、俺以外にいんのかよ。」
「いたんだよなー、それが。」
「何っ?!」
俺以外に魂に根源がある奴、だと?
...そういえば最近、そんな奴がいた気がする。
どこだったっけ?
「一応、その人にもサラについてサラっと聞いてみたんだ。サラだけに。」
いきなりダジャレかよ。
「でも知らないって。二人ともサラを知らないってことは、サラが一方的にに知っていただけなのか、あるいは『根源のある魂』そのものに用があったのか......疑問は尽きないね。」
「その、もう一人の根源のある魂って誰だ?」
「それは内緒♪強いて言えば、厄介な人だよ。一見、人当たりが良さそうに見えるけど、不意を突くように相手に探りを入れてくる。悪い人ではないけど、苦手な相手だね。」
シヴァにも苦手な相手がいるのかよ。
むしろシヴァのことが苦手な人間の方が多そうだ。
もう一人、魂に根源がある奴、か。
....あ!思い出した!
「そうだ!ダイフク会長だ!この前会った時に、アイツも魂に根源があるって言ってた!」
「「っ!?」」
シヴァもゼルも、目を丸くして驚いた。
「ハハハ、まさか3人目までいるなんて....世界は広いなぁ。」
「もしかして、クドージンさんみたいな人って探せばもっといるのかな?」
「いや、そうでもないらしいぜ?ダイフク会長曰く、魂に根源がある奴は俺みたいな異世界人だけらしい。」
「へぇ〜!そうなの?何でダイフク会長はそんなこと知ってるの?」
「さぁ。でもダイフク会長も異界穴を開ける研究に投資してるみたいだし、そこの研究員にでも聞いたんじゃねぇか?」
するとシヴァはいきなり俺の両肩をガッチリ掴んで、目を大きく見開いて俺を見つめた。
「待って!その話、本当かい?ダイフク商会が異界穴の研究をしているだって?!」
「あ、あぁ。それがどうかしたか?」
「そこだ!....サラは絶対そこにいる!」
シヴァは柄にもなく興奮しているようだった。
「異界穴を開けることに固執していた彼女が、その研究に興味を抱かないはずがない!むしろ彼女なしで異界穴を開ける研究なんて無理に決まっている!絶対に、絶対にサラはそこにいるんだ!」
シヴァはよほど嬉しかったのか、幼い子どものようにはしゃぎだした。
「まさかキミからこんな有益な情報が聞けるなんて思わなかったよ!ありがとうクドージンくん!愛してる♪」
シヴァは無理矢理、俺に力強く抱擁をした。
暑苦しい上に気持ち悪いことこの上ない。
「放せクソ野郎ッ!!」
「あー、ごめんごめん!興奮してつい。」
シヴァは我にかえったように抱擁をやめた。
「とにかく、キミのおかげでサラを見つける手がかりが掴めたよ!ひとまずボクはダイフク商会を探ってみるね。クドージンくん、また良い情報を手に入れたらいつでもボクに話しに来てね♪」
「ま、気が向いたらな。」
胡散臭いおっさんだが、俺を狙っているという聖ソラトリク教団の動向も気になるし、コイツと協力関係になって損はない。
また聞きたいことができたらシヴァに話しかけるか。
話を聞き終えた俺は、そのまま屋敷を出て家に帰った。




