【71】第16話:海水浴(5)
勇者サマ達があっさり死んだせいで、ライラがピーピー泣いてやがる。
…...仕方ない。
これ以上泣かれてもウザいだけだし、あの3人を蘇生してやるか。
問題はどうやって宮藤迅に変身するかだ。
海のど真ん中じゃ隠れる場所もない。
…待てよ?そもそも隠れて変身しなくとも、分身を作る要領で宮藤迅の分身体を作ればいいんじゃね?
でもそうするにしても、何もない所から宮藤迅が出てくるのは不自然だ。
…そうだ!シヴァの使っていた移動魔術だ!
アレで移動してきた風に出現させれば不自然じゃない。
そこまで思いつくと、俺は早速宮藤迅の分身体を作って、移動魔術で移動してきた風に出現させた。
「ハッ!そんな雑魚相手に苦戦してんのかよ、お前ら。」
「あっ......!貴方はっ!」
「クドージン、さん?」
ライラは宮藤迅を見るや否や、ピタリと泣くのをやめた。
「全く、情けない勇者サマだなぁ。この程度の魔物にやられちまうなんて。」
「なんだとテメェ!」
激しい剣幕で宮藤迅に威嚇するタクトを無視し、俺は魔法で魔物の肉塊から勇者達3人を取り出した。
同化とか移植とかよく分かんねぇけど、コイツらちゃんと生き返るよな?
念のため蘇生魔法をかけて、バリアの上に置いた。
「お父さん!」
ライラ達は3人のもとへ駆けつけて、安否を確認する。
「でもクドージンさん、どうしてここに...?」
ゼルは不思議そうに宮藤迅の顔を見る。
いい機会だ。この際、コイツらに俺の方が上だってことを分からせてやる。
「お前らが可哀相なくらい非力で弱いから、情けをかけてやったのさ。」
「あぁ?!俺らが弱いだと!」
「あぁ。弱ぇよ。雑魚だよ。だってこんな雑魚一匹、倒せやしないんだから。」
反論できないタクトは、俺を睨みながら舌打ちをした。
「惨めだねぇ。哀れだねぇ。お前らは俺の気分で生かされてるんだからさ。生かすも殺すも俺次第。お前らは一生、俺に媚びへつらわねぇと生きられねぇんだから可哀相で泣けてくるぜ。」
「ふざけんな!俺らはそんなヤワじゃねえ!」
煽られてキレたタクトは父親譲りの剣技で斬りかかるが、俺は親指と人差し指で剣をつまむように止めた。
そして剣ごとタクトをぶん投げる。
吹っ飛ばしたタクトを見て、俺は高笑いしてやった。
「お前は初めて会った時と変わんねぇな。相変わらず、威勢がいいだけの甘ちゃんだ。」
「クソッ!」
「これで分かったか?俺がちょっと本気出せば、お前らなんか一瞬で殺せんだよ。だからこの前みたいに舐めた態度取ってたら、どうなるか分かるよな?」
「......テメェに少しでも同情した俺が馬鹿だった。お前はいつか絶対、俺が倒す!」
それでいい。
偽善的な同情より、敵意の方が何倍も心地いい。
「それじゃあクドージンさん、前みたいなことをしなかったら、また会ってくれるの?」
はぁ?
突然、ライラが素っ頓狂な質問をしてきた。
「お前、さっきの話聞いてたか?お前らが生きるのも死ぬのも、全部俺に主導権があんの!もちろん、お前らに会うかどうかも俺が決める!お前らが決めることじゃねえよ!」
「....そっか。そうだよね!」
コイツ、本当に分かってんのか?
ニコニコしながら返事をするライラの考えが読めない。
....ホントに調子の狂うヤツだ。
「それじゃあ、クドージンは何でここに来たんだ?」
そう問いかけたのは兄さんだった。
「別に。曲がりなりにも俺を倒した勇者パーティが、こんなワケわかんねぇ魔物にあっさり倒されるのが癪だっただけ。」
「それで助けてくれたの~?やっさしー♪」
うざったいノリで茶化すのはシヴァだった。
「テメェはそこの魔物に食われて死んでろ!」
「え~っ?なんかボクにだけ冷たくない?」
シヴァがうざ絡みをしている間に、元勇者パーティの3人は目を覚ましたようだ。
「.....あ....れ...?」
「生き...てる.....?」
「お父さんっ!お母さん!」
目を覚ました勇者サマに、ライラはぎゅっと抱きついた。
「やっと生き返ったか。お前ら、よくソレで勇者名乗れるよな。」
勇者サマ達は俺に気づいた途端、憎悪に満ちた表情で俺を睨みつけた。
「貴様っ...!」
「何でお前がここにいる!」
「もしかしてこの魔物もアンタの差し金?!」
見当違いもいいところだ。
3人は立ち上がって戦闘体制に入ろうとした。
「待って!」
そんな3人の前に立って制止したのは、ライラだった。
「クドージンさんはお父さん達を生き返らせてくれたんだよ。」
「生き返らせる?馬鹿な。ありえない!」
「それにライラちゃんは『3つの実現不可能な奇跡』を知っているか?蘇生魔法は私のような一流の魔法使いでも不可能なのだよ。」
「第一、仮に出来たとしてもコイツがするはずないわよ。」
「ん~。でも彼、実際生き返らせてたしなぁ~。」
ライラの言葉が信じられない3人だったが、シヴァもそう言ったことで一応は信じたようだ。
「......だったら、何が目的だ!」
「目的ぃ?そんなの決まってんだろ。こんな雑魚にやられるマヌケな勇者サマご一行をからかうためだよ。」
「はぁ?!蹴り飛ばされたいの、アンタ?」
ロインは蹴りを入れる構えをする。
「もう!お父さん、お母さんやめてって!」
止めに入ったのは、またしてもライラだった。
ライラは珍しく怒っている様子だった。
「クドージンさんはお父さん達を助けてくれたんだよ?お礼を言うのが先でしょ!?」
「何を馬鹿なことを言ってる。コイツは厄災の魔王だぞ?何か裏があるはずだ。」
「仮にそうだとしても、お父さん達を助けてくれたことに変わりはないじゃん!」
「何の目的で生き返らせたか分からない以上、お礼を言う気になれないわ。」
「お父さん達の馬鹿っ!!」
ライラのありえないくらい大きな怒鳴り声は、一瞬で場をしんと静かにさせた。
「クドージンさんが助けてくれなかったら、お父さん達死んだままだったんだよ?もう二度と、会えなかったかもしれないんだよ?お父さん達が死んじゃったら、死んだままだったら......私.........うわぁぁぁぁ!」
嗚咽して泣き散らすライラを、ロインは優しく抱きしめた。
そんなライラの様子を見て、勇者サマはばつが悪そうな顔をする。
そして舌打ちをすると俺と向き合い、キッと睨みながら頭を少し下げた。
「....礼を言う。」
「はぁ?なんて?」
「感謝すると言ってるんだ!」
それが感謝する相手に言う態度かよ。
「お父さん!そんな失礼な言い方しないで!」
「そーそー!一体、誰のおかげで生き返ったんだっけ、お父さん?」
勇者サマは恨めしそうな顔で歯を食いしばる。
そして娘に怒られたからか、嫌々ながらも俺に頭を深く下げた。
「.....助けてくれて、ありがとう。」
「えー??聞こえねぇな?」
「助けてくれてありがとう!」
苛立ちを隠しきれていない言い方だ。
それにしても嫌々俺なんかに頭を下げる勇者サマ、面白すぎだろ。
「ヒャハハハ!こんないいモン見られるんなら蘇生するのもアリだな。まぁこれからは俺に蘇生されなくてもいいように頑張れよ、お父さん。」
俺は勇者サマの肩をポンと叩いて煽る。
勇者サマはそんな俺を、悔しそうに歯ぎしりをして睨みつけた。
「さてと。勇者サマ達も生き返ったことだし、アレだけ片付けてさっさと帰るか。」
シヴァの魔術で拘束されている魔物に視線を向けると、魔物は相変わらず鎖の魔術で縛られたままだった。
この大きなドロドロの肉塊みたいな魔物でも、鎖の拘束から抜け出せないようだ。
身体が柔らかそうだから、すぐに鎖から抜け出せそうなのに意外だ。
そんなことより問題はコイツをどう倒すかだ。
普通の攻撃は粗方勇者サマご一行が試して、効果がないことは分かった。
かと言って、これといった策はない。
まぁ、テキトーにぶん殴っていたらそのうち何か思いつくだろう。
そう思って魔物に殴りかかろうとしたその時、俺を制止する声が聞こえた。
声の主は兄さんだった。
「おいクドージン。お前まさか『テキトーにぶん殴っていたら倒せるだろう』とか思ってないよな?」
「はぁ?そんなワケねぇだろ。」
とはいえ、半分当たっているから一瞬ドキッとした。
「じゃあその魔物、どうやって倒すつもりだ?」
「それは...」
何も考えてないから当然、言葉が詰まる。
すると兄さんはそんな俺の考えを見抜いているかのように話を続けた。
「特に考えがないんだったら、ちょっと俺の言う通りにやってもらってもいいか?」
「なんだ?言ってみろ。」
「まず、この海の中にその魔物と同じ類の魔物がいないか、魔法でくまなく探してくれ。」
言われた通りに探すと、まだまだ海の底にもゴロゴロいるじゃねえか。
「もしいたら、一旦海から出してくれ。」
兄さんがそう言うから、俺は海にいたそいつらを全て、海上へ出した。
海から一斉に出てきた大量の魔物に、俺と兄さん以外は驚いて口を開いた。
「それで次は、シヴァさんが拘束している魔物と海から引き上げた魔物全部に試して欲しい魔法がある。」
「その魔法って?」
「さっきユシャ様達を魔物の体内から抽出して蘇生しただろ?それと同じように、あの魔物達に取り込まれている生き物も助けてやってくれ。」
「魔物に喰われた生き物まで助ける必要あるか?」
「そうしないと漁獲量が減ってアーロン男爵の収益が減っちゃうからな。それともこれだけの数の魔物にそんな魔法をかけるのは、やっぱり難しいか?」
「はぁ?んなワケねーだろ。」
俺は魔物達に取り込まれた生き物を、勇者サマ同様に魔法で取り出して蘇生し、それらを全て海へ還してやった。
「あれだけの魔法を無詠唱で、しかも複数同時にやり遂げる...だと....?馬鹿な。私ですらそんな高位な魔法は使えないというのに。」
「アイツの魔法、一体どうなってんのよ!」
そんなリファルとロインの話し声を聞いていたゼルは、なぜか誇らしげだった。
「で?まだ魔物は残ってるけどコイツらはどうすんの?」
「残った魔物達は一旦全部合体してくれ。それで最後に一匹に集約された魔物に対して、魔法で『封印』状態.....つまり肉体と魂が別々になるようにしてくれ。」
言われた通りに魔物を一つにまとめて、肉体と魂を別々にする。
するとうねうねと動く黒緑色の魔物は、黒緑色の宝石へと姿を変えて動かなくなった。
『封印』なのか『移植』なのかは分からないが、少なくとも『同化』ではないはずだ。
「こんな感じか?」
魔物が宝石へと姿を変えた途端、シヴァの魔術は発動条件から外れたからなのか、一瞬で鎖の拘束が消えた。
「多分それで大丈夫だ。念のため触っても大丈夫か、魔法でチェックしてくれ。」
そんなの確認するまでもないだろうと思いつつ、一応魔法で確認したところ、やっぱり問題はなさそうだ。
「大丈夫そうだぜ。」
「だったらこっちにパスしてくれ。」
兄さんは俺に向けて手を差し出し、俺はその上に宝石を置いた。
「.....なぁ、父さん。父さんは一体どうやってアイツを倒したんだ?」
「さぁ。俺にも分からない。何で俺達はあんな化け物に勝てたんだ?」
勇者サマとタクトがそんな会話をしているのが聞こえた。
「シヴァさん、コレだったら転生魔術は効きそうですか?」
「あぁ勿論。でも魂はその宝石に封印されてる状態だから、わざわざ転生させる必要もないよ♪」
「でもそれだと中の魂が可哀想じゃないですか?」
「だったらその宝石、貸してくれない?ボク、ちょっとその宝石を調べてみたいんだよね。ある程度調べた後でちゃんと転生させるからさ、借りてていい?」
「良いですよ。というかむしろ差し上げます。」
兄さんは躊躇なく宝石をシヴァへ渡す。
「おいちょっと待て。あの魔物を宝石に変えたのは俺なんだから、俺に許可なく勝手にあげるなよ。」
「え?クドージンもコレが欲しかったのか?」
「そうじゃねぇって!」
むしろこんな石は要らないが、勝手に他人に渡されるのは気に食わない。
「う〜ん。じゃあさ、クドージンくん。この宝石を、こっちの宝石と交換してくれない?」
シヴァが代わりにと差し出したのは、紫色に輝く小さな宝石だった。
「なんだソレ。」
「コレ、特殊な魔法石らしいんだ。なんでも、夜に自分以外誰もいない密室で魔力を注ぐと、何かが起こるって逸話があるんだって。ただボクが試した時は何にも起こんなかったけどね。でも、もしかしたらキミだったらその『何か』を起こせるんじゃないかな?」
何かが起こる特殊な魔法石、か。
シヴァの説明を聞いて、少し興味が沸いた。
「いいぜ。じゃあ交換な。」
俺はシヴァと宝石を交換すると、受け取った魔法石を宮藤迅の手からフレイの水着のポケットへと魔法で移動させた。
とりあえず要は済んだし、宮藤迅を消すか。
俺は転送魔術を使ったフリをして宮藤迅をその場から消滅させた。
その際、ライラや勇者サマが宮藤迅を引き止めようとしたので、捕まらないようにさっさと消した。




