【69】第16話:海水浴(3)
「おー!ライラ、元気になったか?」
「うん、ちょっと休んだおかげですっかり元気になったよ。」
「それは良かったわ。フレイくんも、元気そうです何よりよ。」
海にいるタクト達と合流すると、そこには殿下やゼルにホリーといった、いつものメンバーが集結していた。
さっきまでの俺だったら、今のこの状況に耐えられなくて逃げ出しただろう。
だけど『舐めた態度を取ったらぶっ殺す』と思い始めてから、コイツらと一緒に居ても嫌ではなくなった。
むしろ『せいぜい俺の機嫌を損ねないように頑張れ』と言わんばかりの、謎の余裕がある。
「ユシャ様ー!シヴァ先生ー!ライラちゃんとフレイくんが来ましたー!」
げっ。
話には聞いていたが、勇者サマご一行もいるのかよ。
少し離れたところに、セージャ叔母さん以外の4人がいるのが見えた。
4人はカタリーナの呼びかけに反応して、こっちに来る。
「ライラ、元気そうだな。で、そっちがフレイくんか。何だかんだで会うのは初めてだな。」
この姿で今まで勇者サマと会ったことがなかったのは、きっと父さん達が計らってくれたお陰だな。
「初めまして。ライトニング家の次男・フレイです。タクトくん達からお話は伺っています、勇者サマ。」
「俺も聞いてるぞ。子どもの頃からずっと一緒に勇者ごっこをしているって。」
今もその設定、生きているのか?
「はい。一応、僕は格闘家ということになっています。」
「へぇ、じゃあ私と同じじゃん。良かったら武術を教えてあげましょうか?」
そう話しかけたのはタクト達の母親のロインだった。
「いえ。物騒なので遠慮します。」
「あらそう?」
「そうだ!せっかくパーティのみんなが揃ってるし、紹介するから父さん達も聞いてくれよ!」
するとタクトは、俺達学校のメンバーを両腕で囲った。
「ここにいる7人が、新・勇者パーティだ!」
堂々と宣言するタクトとは裏腹に、俺達も、勇者ご一行も生暖かい目でタクトを見つめた。
「勇者はもちろん俺な!でもってライラが僧侶で、フレイは格闘家、カタリーナは魔術師でホリーが魔法使い。あとは....」
「僕が王様役で」
「僕が魔王役だったよね。」
殿下とゼルも、一応職業があったのか。
勇者サマご一行が元々五人なのに対して俺達は七人いるから、二人は溢れているのかと思っていた。
というか、二人のは職業と言えるのか?
「ねぇ、改めて聞いて思ったんだけど、やっぱり役割変えない?」
新・勇者パーティに口出ししたのはカタリーナだった。
別に本当にパーティを組むわけじゃないし、こだわる必要なくね?
「ライラちゃんやフレイくんはともかく、ホリーくんが魔法使いって....無理があるでしょ。」
「言われて悲しいけど、僕もそう思う。」
ホリーは全然、魔法が使えないからなぁ。
とはいえ唯一使えるバリアは、意外と役に立っている気がする。
「確かにな。じゃあ魔法使いは誰にすっかなぁ〜。」
「それならゼルくんかフレイくんはどう?二人とも、魔法の才能があるもん」
「僕は格闘家のままがいいです。」
「じゃあ僕が魔法使いってことで。そもそも『魔王』っていうのも彼に似てるってだけで決まっただけだし。」
相変わらずタクトの役職決めは無茶苦茶だな。
「アイツに似てるってだけで魔王だなんて言われるなんて、ゼルくんもお気の毒ね。」
「別に、僕は魔王でもよかったんですけどね。」
気遣うロインに対して、ゼルは棘のある言い方で応えた。
「ところで今度はホリーくんの職業が空いちゃいましたけど、どうしますか?」
「バリアが使えるし、守護者とかどうかしら?」
「いいね!僕もそれ気に入ったよ。」
「じゃあ守護者で決定な!」
案外、あっさり決まったな。
「それなら、僕も役職を変えたいな。王族ってだけで王様役はちょっと....。」
「だったら剣士な!」
「うん。剣技は得意だし、そっちが良いよ。」
どうやら、ひと通り職業変更が終わったみたいだな。
タクトが勇者。
ライラが僧侶。
俺が格闘家。
カタリーナが魔術師。
レックス殿下が剣士。
ホリーが守護者。
ゼルが魔法使い。
改めて見ると大所帯なパーティだ。
もしこのメンバーで冒険することになったら、俺とタクトと殿下が前衛で、あとの四人が後衛ってところか?
まぁ深く考えたところで、このメンバーで冒険に出ることはないから無駄か。
「というわけでさ、父さん達。今回の依頼は俺達新・勇者パーティに任せてくれよな!」
唐突なタクトのトンデモ発言に、その場の空気が一瞬で静まり返った。
コイツはいつも調子のいいことを言いやがる。
だがそんなタクトを茶化すように、シヴァだけはヘラヘラとしていた。
「へぇ〜!それは楽しみだねぇ♪キミたち次世代の活躍に期待しているよ!」
「おいシヴァ。そんな呑気なこと言えるような依頼じゃないのは分かっているだろ?」
「まーまー、ユシャくん。そう固いこといいなさんなって。そのためにボクらがいるんでしょ?」
「確かに、シヴァに一理ある。ユシャ。ロイン。お前達が子どもを思うのであれば、ここで強敵との実戦を積ませるのも良いのではないか?」
「そーそー!リファルくん、分かってるぅ〜♪本気でヤバくなったら、ボク達が守ってあげればいいんだよ。」
『守ってあげる』とか聞こえのいいこと言ってるけど、シヴァはただ単に面白半分で言ってるだけだろ。
「ま、待ってよシヴァおじさん...じゃなくて先生!私、回復役とはいえ、そんな凶暴な魔物相手に戦うのは怖いよ!」
「そうですよ。僕のバリアだって、何でも防げるわけじゃないですし。」
非戦闘員の二人は、慌てて戦う流れを止めに入った。
「おいおい、ライラにホリー。今からそんな弱気でどうすんだ。敵はあのリヴァイアサンだぞ?父さん達SSS級冒険者じゃないと倒せない相手だぞ?今からそんな弱気でどうする!」
「そんな敵だから戦いたくないって言ってるの!」
「私も、ライラちゃんに賛成ね。学校にある魔物転送装置で魔物を召喚するならまだ良いけど、転送装置で召喚できないレベルの魔物と戦うのは勘弁だわ。」
「僕も。ただでさえ強い魔物なのに、僕達を守りながらだと勇者様達も戦いにくいと思うし。」
ライラとホリーに続いて、カタリーナと殿下も難色を示した。
「僕も賛成。リヴァイアサンが怖いわけじゃないけど、せっかく遊びに来ているんだから面倒事は引き受けたくない。」
ゼルまでもが反対派に入った。
当然、俺も参加しないから、これでタクト以外全員が反対派になった。
「この裏切り者どもめっ!これでも喰らえ!」
拗ねたタクトは、俺達にバシャバシャと海水をかけてきた。
「ちょっと何するのよ!お返しよ!」
そんなタクトに俺達も海水をかけて反撃する。
それを皮切りに、いつの間にか勇者サマ達も巻き込んで水掛け合戦が始まった。
そうやってしばらく全員で遊んでいると、突然、アーロン男爵の使用人が慌てた様子でこちらにやってきた。
「ゆ、勇者様!大変です!魔物が...魔物がぁ...!」
使用人は、来た方向を指差す。
その方向を見ると魔物の群れらしきものが見え、遠目からでも場が混乱しているのが分かった。
「俺に任せろ!」
「あっ、待てタクト!勝手に行くな!」
勇者サマの抑止を無視して、タクトは現場へと泳いで行く。
相変わらず喧嘩っ早い奴だ。
そんなタクトに呆れながらも、俺達もタクトの後について行くように現場へ向かった。
使用人が指差した場所へ来てみると、そこにはフジツボのような鬣とウツボのような尻尾を持つ、馬に似た魔物が何十匹もいた。
馬に似た魔物達は、水面の上を走るように暴れている。
「シーケルピーの群れだ!」
「でもなんでシーケルピーがここに?シーケルピーの生息地って、海の奥の方でしょ?」
「....何か嫌な予感がする。」
シーケルピーの群れに警戒している勇者サマ達とは反対に、タクトは息巻いて戦闘体勢に入った。
「父さん達、ここは俺らに任せてくれよ!この程度の魔物だったら俺らでも余裕だぜ。
おい、お前ら!シーケルピーだったら一緒に戦えるよな?」
タクトは同意を求めるように、俺達を見つめる。
「まぁ、魔物村で戦った魔物に比べたら大したことないわね。この程度だったら戦ってもいいわよ。」
「僕も。どうせバリアを張るだけだし、ちょっとなら手伝えるよ。」
意外なことに、カタリーナとホリーは一緒に戦ってやるつもりのようだ。
「僕は、剣があれば一緒に戦っても良いんだけど...」
「それだったらボク、出せるよ♪」
シヴァは宙に魔法陣を浮かべると、そこから剣を2本取り出した。
「はいコレ、タクトくんにレックスくん。剣があれば思う存分戦えるでしょ?」
「先生ありがとうございます!」
「それじゃあみんな、今日は校外学習だよ!思う存分、シーケルピーをやっちゃってね♪」
シヴァの号令とともに、タクト達はシーケルピー達と戦い始めた。
「足場は僕に任せて!」
ホリーは水面にバリアを張って足場を作る。
「ホリー、サンキューな!...風雅炎神光雷斬!!」
「真・虎跳猛襲斬!」
タクトと殿下は、バリアの足場に乗ってシーケルピー達に斬りかかる。
「圧縮っ!」
一方のカタリーナは、特殊魔法で一体ずつシーケルピーを潰していく。
「カタリーナさん、一体ずつ倒すよりまとめて圧縮した方が効率良くないですか?」
「馬鹿言わないで!そんな荒技使ったら、間違ってみんなも魔法で潰しちゃうかもしれないじゃない!」
「....カタリーナちゃんの特殊魔法、やっぱり物騒だな。」
隣にいた兄さんは顔を引き攣らせて苦笑いをした。
3人の活躍により、シーケルピーはあっという間に数匹にまで減った。
「よし。もうすぐで終わりだ。」
「へへっ。この程度の魔物、何十匹もいたところで俺達の敵じゃねえぜ!」
タクトが最後の一匹に飛び掛かろうとしたその時。
ザバァッ!!
という鼓膜が破れそうな爆音とともに、大きくて頭が5つある蛇のような水竜が現れた。
「リヴァイアサン?!」
「何でコイツまでこんなところに..!」
「みんな、校外学習は終わりだ!ここからは我々、大人に任せなさい。」
勇者パーティの面々は、真剣な顔つきで戦闘準備に入った。
「ホリーくん、周りに被害が出ないようにボク達とリヴァイアサンをバリアで覆えるかな?」
「はい先生!バリア改!」
ホリーは指示された通りに、リヴァイアサンと元勇者パーティの4人をバリアで閉じ込めた。
その直後、リヴァイアサンは無数の氷柱のような氷の矢を作り、四方八方へと勢いよく放った。
勇者パーティの面々は、飛んできた氷を砕いたり魔法でバリアを張ったりして回避する。
当たらなかった氷の矢は、ホリーのバリアにぶつかって砕け散った。
「勇者様達、大丈夫かな。」
「心配すんなって。俺らの父さん達は強いんだから、負けるはず無えって。」
タクト達はバリアの中にいる勇者サマ達を見守る。
リヴァイアサンの攻撃が止むと、シヴァはすかさず魔術で複数の鎖を呼び出して縛りつけた。
鎖で身動きが取れなくなったリヴァイアサンは、全ての口を大きく開けて青いビームを一斉に吐き出す。
しかしそれと同時に、魔法使いのリファルが光線を相殺するように、雷のビームを同じ数だけ放った。
そして雷のビームは青いビームを押していき、リヴァイアサンのそれぞれの口の中にまで届いた。
雷のビームを喰らったリヴァイアサンは怯んで、鎖にもたれるように倒れる。
その期を逃さないように、勇者サマと格闘家のロインが、剣技と蹴りでリヴァイアサンの頭を分断した。
ホリーはリヴァイアサンが討伐されたのを確認すると、バリアを解除する。
「凄い...!あのリヴァイアサンが一瞬で倒されちゃうなんて!」
「リヴァイアサンの攻撃も僕らなんかじゃ手も足も出ないくらい強いのに、それをもろともしないなんて流石は勇者様だ。」
「お父さん達、かっこいい!」
一瞬でリヴァイアサンを片付けた勇者サマ達に、賞賛の声が集まる。
「まぁな。このくらい倒せなきゃ、勇者は務まらねぇぜ。」
「それにタクトもレックス殿下も、スジがいいからいずれは私達みたいにあの程度の魔物も倒せるようになるわよ。」
「リヴァイアサンを『あの程度』って...勇者パーティは言うことが違うなぁ。」
「....俺、もっと修行していつか父さんみたいに強くなる!」
さっきの戦いを見て、タクトは圧倒的な実力差を身に染みて感じたようだ。
「ところで、リヴァイアサンって沖合の方にいるんじゃなかったの?」
「確かシーケルピーも本来の生息地から外れているんだよね?どうなっているの?」
そんなカタリーナとライラの疑問に、勇者サマは顔を顰めた。
「それが一番の謎だな。この手の不自然な現象は、大抵厄介ごとが絡んでいる。」
「依頼はあくまでリヴァイアサンの討伐だけど、この違和感を放置して終わるのは良くないわよね。」
勇者サマ達が考え込んでいる中、兄さんは唐突にボソッとつぶやいた。
「もしかして、シーケルピーもリヴァイアサンも逃げてきた、とか...?」
「逃げるって、何から?」
「自分たちよりも強い魔物からですよ。仮に沖合に強い魔物が出て、ソイツから逃げてきたのなら、普段見ない魔物がここにいてもおかしくないですよね?」
「なるほど。だけどもし仮にそうだとして、その強い魔物って何だ?海に棲む魔物で、リヴァイアサンが逃げ出すレベルの魔物なんて知らないぞ?」
「それは...。」
勇者サマに論破されて、兄さんは言葉を詰まらせた。
「ねぇ、ユシャくん。もしかしてリヴァイアサンはアレから逃げてきたんじゃない?」
シヴァが指差した方向には、不自然な船があった。
船は遠くの方にあって見辛いが、船尾が沈んでいるように見える。
船の周りにはトビウオのようなものが跳ねていた。
「....何だアレは?」
「難破船のように見えますけど、それにしては変な感じがしますね。それに心なしか、こっちに近づいてきてませんか?」
兄さんの指摘を受けて船をよく見ると、確かにこっちに近づいているようだった。
船が近づくにつれ全貌が見やすくなる。
船の周りにいたトビウオは、よく見るとうねうねとした大きな触手だった。
「ねぇ、あの船って...もしかして魔物?」
ライラは怯えた声でボソッと呟く。
「ホリーくん、バリアを使ってあの船のところまで道を作れるか?」
「は、はい。作れますが...。」
「じゃあ頼む。」
ホリーは戸惑いながらも、勇者サマのために道を作った。




