【64】第15話:ダイフク商会会長(3)
「ところで、私からも重要なお話があるのですがよろしいでしょうか?」
「はい、何ですか?」
ダイフク会長は真剣な顔で、俺達に話し始めた。
「実は私、とある研究に投資していまして。簡単に言うと『異界穴』と呼ばれる異世界へ通じる穴を作って、この世界と日本を繋げようとしているのです。」
「えっ、この世界と日本を?そんなこと、できるのですか?」
「研究所からの報告によると、理論的には可能だそうです。ただ、今すぐにはできない事情がありまして。」
「理論的には可能なんだ。この世界の技術力、凄い!」
「カタリーナ嬢とフレイ卿は、龍脈や命属性の魔力について知っていますか?」
「はい。」
「授業で習いました。」
「であれば、話は早くてすみます。日本とこの世界を繋げるには、龍脈から出る命属性の魔力が必要なのです。」
へー。
そういえばシヴァは『3つの実現不可能な奇跡』を実現させるには、命属性の魔力が必要かもしれないって言っていたな。
この世界と日本を繋げる技術って、『3つの実現不可能な奇跡』と関係しているのか?
「なるほど、話が見えてきました。龍脈は各国が厳重に管理しているから、そのせいで龍脈を使った研究が進まない、ということですね!」
「いえ、その問題については解決済みです。」
「えぇ!あ、あぁそうだったんですね!」
見当違いの推理をしたカタリーナは、恥ずかしそうに照れ笑いした。
「でしたら、何が今、問題になっているのですか?」
「問題は『龍脈ごとに繋がる世界が違う』ということです。正確には『異界穴を開けた場所によって、繋がる世界が異なる』のですが、龍脈から出る命属性の魔力を使わないと異界穴が開けられないので、似たようなものですね。」
「現存の龍脈では、日本と繋がらないのでしょうか?」
「その通りです!日本と繋がる龍脈は、クドージンさんに封印された龍脈の中にあるのです。」
「じゃあ実質、日本へ行く手段がないようなものじゃないですか。」
「それが、そうとは言い切れないのです。と言うのも、実は命属性の魔力を生み出しているのは龍脈だけではないのです。」
「えっ?どういうことですか?」
「非常に稀ですが、命属性の魔力を生み出す根源を持つ人がいます。」
それって、もしかして俺のことか?
「ダイフク会長が仰っている人に心当たりがあります!多分、宮藤くんのことです!」
カタリーナも同じことを考えていたのか、少し興奮気味に喋った。
たしか俺が蘇生魔法を使えるのは、俺の根源が命属性の魔力を生み出しているからだと、シヴァが授業で言っていた。
「クドージンさんが、命属性を生み出す根源を持っているのですか?」
「はい!彼、死んだ人間を生き返らせることができるんです。私も実は何度か殺されたことがあるのですが、その度に彼に蘇生してもらったおかげで、今もこうして生きているんです。」
「それは興味深い話ですね。その話が本当であれば、クドージンさんが命属性の魔力を生み出す根源を持っている可能性が非常に高いです。カタリーナ嬢はクドージンさんの連絡先をご存じでしょうか?彼に頼みたいことがあるのですが......」
「すみません、私も彼の連絡先は全く知らないんです。住んでいる場所も、キメイラ帝国だってことくらいしか分かりませんし。」
「そう、ですか。」
まぁ、俺の連絡先だったら教えているけどな。
「ところで、宮藤くんに頼みたいことというのは?」
「あぁ、そうでした。話が逸れてしまいましたね。実は命属性の魔力を生み出す根源を持つ人がいれば、死の大地を歩き回ることができるのです。お二人は、なぜ龍脈を封印された土地が『死の大地』になってしまったかはご存じですか?」
「はい、知っています。」
たしか龍脈から出ている命属性の魔力が、全ての生物にとって生きるのに必要なものだったから、だったよな。
だから龍脈を封印すると、命属性の魔力が枯渇して、生物の住めない土地になるわけだ。
「でしたら話が早くて助かります。死の大地に行くことができないのは、要するに命属性の魔力が供給できなくなるから。ということは逆に考えると、この問題さえ解決できれば死の大地に行くことができるのです。」
「なるほど!つまり宮藤くんに、空気ボンベと同じ要領で命属性の魔力が供給してもらえば、死の大地に入れるということですね。」
誰が空気ボンベだ。
「その通りです。そして死の大地にある龍脈の中から、日本に繋がる龍脈を探し出して復活させれば、日本へ繋がる異界穴を開くことができるのです。」
「じゃあ、日本へ行けるようになるかは、宮藤くん次第ってことですか?」
「そういうことになります。」
そうか、俺次第か。
そいつは残念だったな。俺は日本に行きたいとは微塵も思っていない。
だから自力で頑張れ。
「でも、もしかしたら他にもクドージンさんみたいな方がいるかもしれませんね。私達と同じ、転生者であれば可能性はありますし。」
「そうなのですか?」
「はい。日本からの転生者には、ごく稀に魂に根源のある人がいるんです。かくいう私も、その一人です。」
そういえばシヴァの野郎が、俺も魂に根源があるって言っていたな。
「これは識者に聞いた話しですが、この世界の生物は例外なく、肉体にのみ根源を宿します。魂に根源がある者はいないそうです。その上、命属性の魔力を生み出す根源を持つ生物は、存在しません。
ですので、肉体も魂もこの世界に属する人は、命属性の魔力を持つことはありません。
ですが、私達日本からの転生者は別です。肉体はこの世界のものであっても、魂はこの世界のものではありません。日本人の魂については、日本どころかこちらの世界でも把握できていない部分が多い。だからこそ、命属性の魔力を生み出す根源を持っている人がいる可能性がゼロとは言えないんです。
というより、クドージンさんがいる時点でゼロではなくなりましたが。」
「だからニホンアイランドを作ってまで日本からの転生者を探していたんですね!」
「確かに、結果的にはそうなりますね。ですがニホンアイランドは元々、私が望郷の念に駆られた時のために作ったものなのです。カタリーナ嬢は年に数回、『和食が食べたい』とか『温泉に入りたい』とか、日本のモノが恋しく感じる時はありませんか?」
「あります!あります!特に毎年、夏と冬になるとコミケに行きたくなります。」
「ははは、カタリーナ嬢らしいですね。カタリーナ嬢は、コミケでどんなことをしていたのですか?」
「どんなこと、ですか?」
カタリーナはその質問に、少し戸惑ったようだった。
「えっと....コミケでは主に目当てのブースに行って同人誌を買ったり、コスプレしている人に写真を撮らせてもらったりしていました。具体的に何の作品のブースか言ったら、性癖がバレそうなので言えませんが。」
また性癖の話か。
もしかしてオタクって、特殊な性癖を持つ変態どもなのか?
「それはすみません、不粋な質問でしたか。カタリーナ嬢にとって、コミケは毎年の恒例行事だったのですね。私も日本に住んでいた時、個人的な毎年の恒例行事がありました。毎年大晦日に、年越しそばを食べながらO−1グランプリを見るのが楽しみでしたね。」
「いいですね、O−1グランプリ!私も見ていました。そういえば大福商事もO−1グランプリのスポンサーでしたね。」
「あのー。さっきから何の話をされているのですか?」
コミケだのO−1グランプリだのスポンサーだの、よく分からない専門用語が多くて頭が混乱しそうだ。
「あっ、そっかフレイくんには分からない話よね。まずO−1グランプリっていうのは....」
「やっぱりいいです。大した話じゃなさそうですし。」
「あら、そう?」
本当に大したことではないからか、カタリーナはそれ以上言及しなかった。
「ところで、大福さんはなぜ日本へ行きたいのですか?」
「?」
予想だにしない質問だったのか、ダイフク会長は一瞬、言葉を詰まらせた。
「....あぁ、すみません。少し誤解がありましたね。私はそこまで日本に行きたいとは思っていないのですよ。確かに、前世でやり残したことは多少あります。かといって、今更日本に戻ってやり残したことを回収しようとも思いません。それに、こちらの世界に生まれ落ちた時点で、今の私はこちらの世界の人間です。日本に移り住むつもりはありません。」
だったら別に日本に拘る必要ないだろ。
「でしたら、なぜ日本とこの世界の異界穴を開けようとしているのですか?」
「その理由は、もう一つ大事なお話がありまして、そちらに関係します。」
「まだ話があるのですか?」
「はい。というより、こちらの方が重要な話かもしれません。」
また重要な話かよ。
「重要な話、というのは?」




