【63】第15話:ダイフク商会会長(2)
「ダイフク会長、実は私、前世は日本人でした。」
カタリーナは真剣な面持ちで話した。
「....そうなのですね。」
ダイフク会長は落ち着いた様子で、カタリーナの言葉を聞き入れた。
「ホリー卿に聞いていた通りでした。同郷の方に会えて嬉しいです。」
「私も日本から転生してきた人に会えて嬉しいです!ダイフク会長は前世ではどんな方だったんですか?」
「私は前世で『大福商事株式会社』という会社の代表取締役をやっていました。」
「えっ、大福商事って....それって、本当に、社長本人ですか?」
「はい。本当に、本人です。」
「えぇぇ!」
カタリーナはよほど衝撃的だったのか、品のない大声を出した。
「あのー、カタリーナさん。どうかしたのですか?」
「そっか、フレイくんは知らないんだったわね。大福商事は、私達がいた世界にあった会社で、世界トップクラスの大企業よ。大福製菓とか、大福家電とか、大福銀行とか、色んな方面に事業展開していたわ。特にDaifukuポイントには、生前よくお世話になっていたわ。何より、私の地元・紫陽花市に本社があるの。地元の誇りだわ。」
「へぇ。よく分かりませんが、とにかく凄い会社だったんですね。」
俺も紫陽花市にいたが、そんな大企業があったなんて全然知らなかった。
「ダイフク商会という名前は大福商事が由来なんだろうなぁとは薄々思っていましたが、まさか会長が社長本人だとは思ってもみませんでした。こっちの世界でも、こんなに大きな商会を作っちゃうなんて凄いです!」
「ははは、ストレートに褒められると照れちゃいますね。」
ダイフク会長は朗らかに笑った。
「そういえばニュースで『風呂場で溺死していた』って聞きましたが、アレは事故だったんですか?それとも他殺...?」
そんなニュースまで流れていたのか。テレビも新聞も全然見ないから知らなかった。
「アレはただの事故です。あの時マイブームだった半身浴をしていたら、うっかり風呂場で眠ってしまいまして。気がついたらこの世界に転生していました。」
「そうだったんですね。...ご愁傷様です。」
苦しい思いをせずにポックリ死ねたなんて、ラッキーな奴だな。
「ところで、私はあなたが死んでから1年も絶たずに死んだのですが、ほぼ同じ時期くらいに転生したんですよね?それにしては年がだいぶ離れていませんか?ダイフク会長は今って何歳なんですか?」
「私は今、55歳です。コレはあくまで私の予想ですが、こちらの世界と日本とでは時空間に歪みがあるのではないでしょうか?そのせいで転生するタイミングがおかしなことになっているのだと思います。現に、私より先に死んだのに、私より若い人もいました。」
「えっ、そうなんですか!....というより、私たち以外にも日本人っているんですか?!」
「はい、いますよ。何人か、貴女と同じように私のところまで尋ねに来ました。キョウシュー帝国の貴族だったり、亜人だったり、色んな人がいますよ。」
「ウソ....信じられない!もしかして、その人たちと会うことって、できますか?」
「う〜ん、こればかりは皆さんに聞いてみないとわかりません。仕事が忙しくて休みがなかなか取れない人が多いですし、そもそも他の転生者に個人情報を教えて欲しくないという人も結構います。」
「そうですか....。」
カタリーナは残念そうに俯いた。
「ところで、私もカタリーナ嬢にお聞きしたいのですが、よろしいですか?」
「はい、何ですか?」
「カタリーナさんは、生前どんな方だったのですか?名前とか、趣味とか、職業とか、差し障りなければ知りたいです。」
「あっ、すみません。自己紹介がまだでしたね。私は生前、桜井千佳という名前のしがないOLでした。豹堂県紫陽花市出身で、実家に住みながら隣町の卸売会社で働いていました。乙女ゲームと異世界モノのラノベが好きで、推しに課金するのが趣味でした。」
おかしいな。
同じ日本に住んでいたはずなのに、後半何言ってるのか、さっぱり分かんねぇ。
「いわゆる推し活ですね!どんなキャラを推していたのですか?」
「それは性癖がバレるのでノーコメントです!」
性癖て。
そんなアレな話だったのか。
「それは失礼しました。ところで、失礼な質問かもしれませんが、生前のカタリーナさんは享年何歳ですか?話を聞く感じだと、とても死ぬような年齢には感じられませんでしたが?」
「私は25歳の時に、交通事故で死にました。」
「25歳で亡くなったのですか?それはとても辛かったでしょうね。家族や友達と別れる準備ができていないまま、いきなり全て失ったのですから。私のもとに来た転生者の方は、皆さん寿命を全うした方達だったので、若くして死なれた方を見ると心が痛みます。」
「確かに、今でもたまに前世の友達や家族に会いたいって思っちゃいます。でも、昔も今も何だかんだで幸せなので、全然辛くありません。」
「それは良かったですね。」
「それに、彼に比べたら私なんか....」
また同情ごっこかよ。
どうせ俺のことだろ。聞いてるだけでイライラする。
「すみません、『彼』とは?」
「あっ、『彼』というのは私が知っているもう一人の転生者のことです。厄災の魔王・クドージンって聞いたことはありませんか?」
「はい、知っています。なんでも、十数年前に世界の大半を『死の大地』に変えたという恐ろしい人のことですよね?」
「それです。名前の通りクドージンは、『宮藤迅』という名前の転生者なんです。」
「それは本当ですか?」
「はい。彼も生前は日本の紫陽花市に住んでいて、死んでこちらの世界へ転生してきました。」
「あの厄災の魔王が同郷の人だったなんて意外です。カタリーナ嬢とクドージンさんはどういった関係なのですか?」
「えぇっと...難しい質問ですね。実は彼とはあまり会わないんです。私が魔物に襲われたり、殺されそうになったり、呪いをかけられたりした時に、彼が一方的に助けてくれるだけの関係性です。」
「それはつまり、彼は貴女のヒーロー、ということですか?」
ヒーローって。
変なことを言うおっさんだな。
「『ヒーロー』と言われるとかなり違和感がありますね。なんせ世界の大半を滅ぼした人ですし。」
その単語に、カタリーナも苦笑いした。
「そういえば彼の話で思い出しました!とっても重要な話があるんです!」
「重要な話、ですか?」
何のことだ?俺も寝耳に水だ。
「はい。実はこの世界は『アップスターオレンジ』という名前の小説の世界なんです!」
「.....はい?」
今、ここでその設定が出てくるか?
突拍子もないことを言ったせいで、さっきまで冷静に話を聞いていたダイフク会長も、目が点になった。
「えっと、どういうことでしょうか?」
「前の世界には『アップスターオレンジ』という小説があったみたいで、その小説に出てくる登場人物や世界観が、この世界とそっくりらしいんです。だから最近流行っている悪役令嬢モノと同じで、私達も物語の世界に転生した可能性が高いんです!」
カタリーナのアホな発言に、ダイフク会長は呆れたように頭を抱えた。
やばい。この状況、面白すぎる。
そうだよ、俺が嘘シナリオに求めていたのは、こういう展開だ!
うっかりニヤけてしまっていないか心配になった俺は、気づかれないようにそっと顔を横にした。
「その『アップスターオレンジ』とは、どんな小説なのですか?」
「主人公はディシュメイン王国のフォージー侯爵家の令嬢・アリーシャ様です。舞台は王立ディシュメイン魔法学園で、アリーシャ様とレックス殿下が結ばれるお話だそうです。ゆくゆくは、それに嫉妬した私・カタリーナがアリーシャ様に嫌がらせをして、それをレックス殿下が告発して、国外追放される予定です。」
「なるほど、確かに偶然にしては、この世界との類似点が多いですね。」
「それだけじゃないんです。アリーシャ様が実は養子であることとか、聖ソラトリク教団が実は異世界人の集団で、ショーン殿下を次期国王にするためにレックス殿下を殺そうとしていることとか、結構重要なことが書いてあったみたいです。」
「それが本当なら、一大事ですね。」
ダイフク会長は、まるで子どものおままごとに付き合う大人のように、設定を否定せずに優しく聞き入れた。
「ちなみにカタリーナ嬢は、アップスターオレンジを読んだことはあるのでしょうか?先程から『だそうです』や『みたい』など曖昧な言い回しばかり使っていますが?」
「それが実は、私の全く知らない小説だからです。」
ダイフク会長は呆気にとられて、口を開いたまま一瞬、固まった。
開いた口から溜息が漏れているように感じる。
「でしたらなぜ、小説の内容を知っているのですか?」
「宮藤くんが前世で読んでいたそうなので、彼に内容を教えてもらいました。」
「クドージンさんが、ですか?クドージンさんは小説が好きだったのですか?」
「いえ。学校の女の子から奪った小説を、からかい半分で読んでいたみたいです。それがたまたまアップスターオレンジだったようです。」
「そうなのですね。ちなみに実際にアップスターオレンジに書かれているような出来事って起こったのでしょうか?」
「いえ、まだ何も起こってません。アリーシャ様が養子だという事実が学校中に広まるところから物語は始まるようなのですが、私が阻止しているからか、まだその事実は浮上していません。ですがアリーシャ様自身、養子なのではと勘付いているみたいです。」
「なるほど。小説の出来事はもうすぐ起こりそうな感じなのですね。」
「ただ、私が物語のあらすじ通りに動いていないからか、それとも私以外の転生者の影響もあるのか......とにかくイレギュラーな出来事が多いんです。」
「ほぅ、例えば何ですか?」
「私、何度か殺されそうになっているんです。多分、レックス殿下の命を狙う聖ソラトリク教団が、婚約者である私もまとめて殺そうとしているのかと思います。」
「それは深刻ですね。今すぐにでも何か、対策を打たないとカタリーナ嬢の命が危ないじゃないですか。」
「そうなんです!しかも、危険なのはそれだけじゃないんです。実は聖ソラトリク教団の真の目的は『ノスとラダムスの夜』を決行することなんです!」
「ノストラダムスの夜、ですか?ノストラダムスの大予言でも、ワルプルギスの夜でもなく?」
「はい。『ノスとラダムスの夜』です。」
お願いだから、そこは深く追求しないでくれ。
「『ノスとラダムスの夜』では、各国が管理している3つの龍脈の魔力を使って、教団の異世界人が住んでいた母世界を蘇らせようとしているんです。その際、この世界のありとあらゆるものから魔力が抜き取られるので、このままだと世界ごと破滅してしまうのです!」
「それは一大事ですね。カタリーナ嬢。この件について、一度私の方でも調べてみてよろしいでしょうか?そうすれば、いい対策が打てると思うのです。」
「是非、お願いします!ダイフク商会の会長が協力してくださるなんて、心強いです。」
「それは良かったです。」
ダイフク会長は、カタリーナとの茶番を良い感じに終わらせた。
適当にあしらうのが上手だな。
「ところで、私からも重要なお話があるのですがよろしいでしょうか?」
ダイフク会長から重要な話?
今更、何だ?
「はい、何ですか?」
カタリーナと俺は、黙ってダイフク会長の話を聞いた。




