【62】第15話:ダイフク商会会長(1)
「フレイくん、大丈夫?今日は外に出れそう?」
「....はい、大丈夫です。」
ドーワ侯国旅行の最終日前日。
ホリーの問いかけに応えるように、俺は渋々、部屋の外へ出た。
今日も外に出たくない気分だったが、先約がある以上、出ないわけにはいかない。
俺はキメイラ帝国からコトナカーレ邸へ帰ってきてからずっと、客室に引き篭もっていた。
そうすればアイツらと顔を会わせずに済むからだ。
怪しまれるかもしれないのを覚悟して体調不良を訴えたら、『魔法の使い過ぎで疲れたのだ』と勝手に解釈して納得した。
そのおかげか、あの日から2日経つが特に怪しまれていない。
「よかった。でも、まだ元気がなさそうだね。ダイフクさんには体調不良で会えなくなったって伝えた方がいいかな?」
「いえ、そこまでして頂かなくて結構です。」
先に謝礼をもらっている以上、今日行かなくても、いつかは行かないといけないことに変わりない。
日を改めて会いに行くのも面倒だから、億劫でも今日会っておく方がマシだ。
それにダイフクとやらがどんな奴なのか、ほんの少しだが興味はある。
「そう?ありがとう。じゃあ、カタリーナさんも呼んでくるからロビーで待ってて!」
あー。
そういえば、カタリーナも来るんだった。
カタリーナが前に、ホリーに『ダイフクに会わせてくれ』って頼んでいたな。
で、その時ホリーは確か『フレイくんをダイフクさんと会わせる予定だったから、カタリーナさんもついでに連れてきていいか聞いてみる。』って言ってたっけ。
カタリーナやホリーとは会いたくない気分だが、こうなっては仕方ない。
さっさと要件だけ聞いて、さっさと帰ろう。
俺はロビーに行き、後から来たカタリーナ達と合流して、ホリーにダイフクの元へと案内してもらった。
◆◆◆
ホリーに案内されてやって来たのは、ニホンアイランドから徒歩数分の場所にあるタワーマンションだった。
そのマンションは、見上げても最上階が見えないくらい、高く聳え立っていた。
「このマンションの最上階に、ダイフクさんは住んでいるんだ。それ以外の階は、ニホンアイランドで働いている従業員の社宅なんだって。」
ホリーはインターホンを押してダイフクと話すと、玄関の自動ドアが開いた。
そしてタワーマンションの中に入ると、館内ロビーを通り過ぎてエレベーターに乗った。
ホリーが最上階のボタンを押すと、エレベーターは一瞬で最上階へ着いた。
どうやらこのエレベーターの構造は、テレポーターと同じらしい。
エレベーターから降りるとそこは玄関になっていた。
大理石貼りのエントランスを歩いて扉を開けると、そこは大きな窓が一面に貼られた、開放感溢れるだだっ広いリビングだった。
「うわぁ!綺麗な眺め!」
「ダイフクさんは、こっちの応接間にいるよ。」
ホリーに案内されてリビングから応接間へ移動すると、そこには細身で眼鏡とチョーカーを身につけている、初老の男がいた。
「フレイくん、カタリーナさん、こちらの方がダイフク商会会長のショージ・ダイフクさんだよ。」
「はじめまして。私はダイフク商会会長のショージ・ダイフクと申します。」
初老の男は俺達に顔を向けてお辞儀をした。
男の声は、一度聴いたら忘れないような、それでいてどこかで聞いたことのあるような、そんなクセの強い声だった。
「はじめまして、私はディシュメイン王国にある、エセヴィラン公爵家の長女・カタリーナです。」
「僕はライトニング侯爵家の次男・フレイです。」
俺とカタリーナは軽い自己紹介を終えると、ダイフクの座っているソファと机を挟んで反対側にあるソファに座った。
「じゃあ、お話が終わるまで僕は外にいるね。」
案内を終えたホリーは、応接間から出ていった。
「それで、ダイフク会長。本日僕を呼んだ要件は何でしょうか?」
さっさと要件を終わらせたい俺は、単刀直入に尋ねた。
「ははは、フレイ卿はせっかちですね。それとも、やはり体調が優れないのでしょうか?昨日ホリー卿から『体調不良で来れなくなるかもしれない』と伺っていますが。」
「いえ、そういうわけではありません!」
気が乗らないのを体調不良だと勘違いされるのは、何だか妙な不快感がある。
「それなら良かったです。では早速、要件を伝えましょうか。実はフレイ卿のお祖父様・アーロン卿とお話がしたいと予々思っておりまして。ですがこちらから直接尋ねようにも、アーロン卿に毛嫌いされているからか、なかなかお会いすることができないのです。ですのでご令孫であるフレイ卿から、アーロン卿を説得していただけないでしょうか?」
「はい、分かりました。ただ、そういうことでしたら最初からホリーくん伝手で依頼してくださって結構ですよ。」
そしたらわざわざ外に出る必要もなかったのに。
「そうですか、フレイ卿はお優しいですね。大事な要件であればある程、直接相手に会って依頼するのが礼儀だと思い、今日はお呼びしました。」
それはなんとも立派な心掛けだな。
「ダイフク会長はなぜ、アーロン卿と会いたいのでしょうか?」
カタリーナは話に割り込んで質問した。
「純粋にアーロン卿のような素晴らしい方と会ってお話ししたい、というのが一番の理由ではありますが、他にも理由はあります。実は、アーロン卿と共同でビジネスをしたいと思っているのです。」
むしろそっちが一番の理由だろ。
「アーロン卿とダイフク会長が手を組んだら、凄いことになりそうですね!」
「はい。もし交渉が成立したら、きっと今までにない新しいビジネスを起こせると思いますよ。」
「ところでカタリーナさんも、ダイフク会長と話したいことがあるんですよね?」
俺のじいちゃんについての話がこれ以上膨らんだら終わらなくなりそうなので、話を変えた。
「えっ?フレイくん、もうダイフク会長とのお話は終わりでいいんですか?」
「僕は大丈夫ですよ。」
「私もです。」
「そうですか。ではお言葉に甘えさせてもらいます。」
するとカタリーナは真剣な面持ちで話し始めた。




