【59】第14話:キメイラ帝国旅行(5)
タクト達がダークノームの山に目を奪われている間に、気づかれないように木の後ろへと隠れる。
そして魔物村の時と同じように、フレイを作った後にクドージンに変装し、再び姿を現した。
「あっ!お前っ!」
俺の登場に驚くタクト達を尻目に、俺はダークノームの山へと近づく。
「まま」
「ままま」
すると山になっているダークノーム達は、俺に目標を定めて飛びついてきた。
一匹一匹、手で追い払うも、数が多すぎて目障りだ。
「圧縮、だっけ?」
俺はカタリーナの使っていた魔法をふと思い出し、襲いかかるダークノーム達を一斉に圧縮してやった。
圧縮されて体液を四散させたダークノーム達は、その体液でドロドロの大きな水溜りを作った。
俺はその汚い水溜りの中を探って、消化されかけた三人のグチャグチャになった死体を取り出した。
その死体を見ていると、さっきの自分の行いが忌わしく感じ、自己嫌悪に陥る。
蘇生魔法をかけると、3人はさっきまでの姿が嘘のように元通りになり、息を吹き返した。
「お前、なんでここにいるんだよ!」
タクトの唐突な質問に、思わず振り返ってタクトの顔を見た。
「『なんで』って、そりゃあ......。」
コイツらを生き返らせるため、と答えようとしてハッとなった。
そうか。タクト達からすれば、俺が都合よくここにいるのは不自然なのか。
「べ、別に!何でもいいだろ!」
タクトから視線を反らして、適当にはぐらかす。
「もしかして、この辺に家があるから、なのかい?」
「...え?」
殿下の突拍子もない指摘を受けて、一瞬、思考が停止する。
この辺に家?何でそんな話になる?
「はは。その表情、図星かな?ひょっとして、この辺に住んでいるのは秘密だったのかな。」
殿下は勝手に納得したようだ。
「そーか。お前、確かキメイラ帝国に住んでるっつってたもんな。そのナリだとキメイラ帝国じゃ、住みにくそうだしな。」
そういうことか。
だから殿下はあんな質問をしたのか。
この際、そっちの方が都合が良いし、その設定を採用しよう。
「今の彼の姿って、ニホンにいた頃の姿だし、元の姿も人間とは限らないんじゃないかな?」
「それもそうだな。お前って、結局、今は亜人なのか?」
「それこそ、お前らに言う義理はねぇだろ。」
「タクトくん達、さっきから何の話をしているの?この人は誰?」
ゼルは痺れを切らしたかのように、話に割って入った。
「そういや、ゼルは会ったことなかったか。コイツが前に話していたクドージンだ。」
タクトの言葉に、ゼルだけでなくアランやゲイルまでもが、驚愕して俺の方を見た。
すると、アランが急に近づいてきて、俺の首を掴んでそのまま地面に叩きつけやがった。
「っ!」
アランは俺を地面に押し付けながら、鬼のような形相で睨みつける。
いきなり何なんだ、コイツ!
俺はアランの手を取って握りつぶそうとした、その時。
ゼルがアランの頭めがけて、勢いよく蹴りを喰らわせた。
アランはよろけて掴んでいた手を離し、振り返ってゼルを睨む。
二人は互いに睨み合い、一触即発の殺伐とした空気に包まれる。
「お前、いきなり何てことをするんだ!これ以上、彼に何かしたらぶっ殺すぞ!」
「上等だ!この外道の前に、貴様を殺してやる!」
「二人とも、落ち着いて!」
相手に殴りかかろうとする二人の間に、殿下が割って入った。
そして、アランはゲイルに、ゼルはタクトに取り押さえられて、事なきを得た。
「放せ、ゲイル!厄災は、あの外道はっ...!!こんな奴に、父上はっ...!」
「アラン様、落ち着いてください!お父上の件で憎いのは分かりますが、今は無駄な争いをしている場合ではありませんよ。」
アランは俺に個人的な恨みがあるようだ。
どうやらコイツの父親が関係しているらしい。
俺は起き上がって、改めてアランの顔をまじまじと見つめる。
....あ!
わかった。コイツ、もしかして。
「お前、俺が昔に殺した、キメイラ帝国の魔王の息子か?」
それで、最初に会った時に見覚えがある感じがしたのか。
髪の色や顔立ちが、父親にそっくりだ。
「あぁ、そうだ。思い出したか?自分の罪を!」
アランは、先程までゼルに向けていた殺気のある視線を、俺に向けた。
「キメイラ帝国の魔王の息子ってことは...。」
「じゃあ、アランって今の魔王なのか?!」
そのことに気づいたタクトと殿下は、目を見開いてアランの方を見た。
「そうか。魔王の....。」
ゼルはその話を聞いて、さっきまでタクトの腕で暴れていたのが嘘のように大人しくなった。
一瞬バツの悪そうな顔をしたが、それでもまだ怒りが鎮まっていないのか、アランを睨み続けていた。
「...ぅ...ん。」
すると、俺の近くで寝転がっていたライラ達が、ゆっくりと起き上がった。
「....あれ?」
「僕、生きてる?」
「お前ら、やっと生き返ったか。」
3人が無事に生き返って、ホッと胸を撫で下ろす。
「マジかよ...!話は聞いていたが、本当に生き返らせちまうとは。」
生き返ったライラ達を見て、ゲイルは感嘆の声を漏らした。
「あっ、クドージンさん!」
「ということは、まーた宮藤くんに助けてもらったのね。いつも本当にありがとね。」
「私も。ありがとう、クドージンさん。」
「お前ら、もうちょっと危機感持てよ。いつも俺がいるワケじゃねえんだぞ。」
さっきまで死んでたのに呑気に笑っている二人を見て、危機感の無さに呆れてしまう。
だがこうなったのは元々俺のせいだと思うと、そこまで強く言及できない。
「あれ?そういえば僕達、ダークノームに襲われたんだよね?ダークノームは、もういなくなったの?」
ホリーの冷静な指摘を受けて、念のため辺りを見渡す。
だがダークノームは全く見当たらない。
さっき、ちゃんと全部駆除したはずだ。
「一応、殺り損ねはいねぇみたいだな。」
「そうですか。良かった。クドージンさん、助けて下さって、ありがとうございます。」
「だけど油断大敵だぜ。アイツら、地面と同化できるからな。」
一安心するホリーに対し、ゲイルは水を差すようなことを言った。
「....ねぇ。少し気になったんだけどさ。」
「何ですか、レックス殿下?」
心なしか、殿下の顔は少し青ざめているように感じた。
「ダークノーム達の死体の山、さっきより小さくなっていない?」
その指摘で、俺達は全員、ダークノーム達が山になっていた場所に目を向けた。
言われてみれば確かに、ダークノーム達の山は小さくなっている気がする。
さっきまでは俺と同じくらいの高さだったハズだが、いつの間にか腰くらいの高さにまで小さくなっている。
その山をじっと観察していると、じわじわと小さくなってる様子が窺える。
「ば、ババババリアッ!」
ホリーはビビって、慌てて意味もなくバリアを張った。
「今のうちに、ホリーくんにバリアを張ってもらいながら移動した方が良いんじゃないかしら?」
一同はカタリーナの提案通りに、ダークノームの山だったものから遠ざかろうとした。
だがその時、地面が脈打っているのを感じた。
「また下から来てるぞ!」
ゲイルの一言で、その場にいた全員が飛び跳ねた。
それに合わせて、ホリーは地面に向かってバリアを張り直した。
と同時に、地面がマグマのようにボコボコと勢いよく突き上げてきた。
その勢いは、今にもバリアを破りそうなくらい激しかった。
バリアを破るのが難しいと判断したのか、地面に同化したダークノームはどこかへ移動し始めた。
「まずい!そういうことか!」
ホリーは何かに気づくと、地面に張っていたバリアの端と端を繋げて、俺達をバリアの中へと閉じ込めた。
「間に合った。バリアの端から登られるところだった。」
「間一髪、だったわね。」
「でも、このままだとホリーくんの魔力が切れたら終わりだよ。何か対策を立てないと。」
「すみません、アランさん。ダークノームの弱点って何かありませんか?」
「ダークノームは光と氷に弱い。だが奴らの群れは無尽蔵だ。一匹でも倒し損ねると仲間を呼ぶから、一度に全部倒さなければ奴らから逃れられない。」
「一度に倒すっつっても、どうすりゃいいんだよ!さっきのクドージンの魔法でも無理だったろ。」
「ここに優秀な魔法使いがいれば、氷結光で辺り一面を氷漬けにすれば、勝てる可能性はある。ちなみに氷結光、もしくは光や氷を魔法で出せる奴はいるか?」
アランの質問に、名乗り出る奴はいなかった。
まぁ俺は魔法で出せなくもないが、そもそも氷結光って、どんな魔法だっけ?
記憶を辿って思い出そうとする前に、ライラが突拍子もないことを言い始めた。
「そうだ!フレイくんって確か、強い光属性の適性があったよね?フレイくんなら、ダークノームを追い払えるんじゃない?」
「えぇ?!僕ですか?」
「それにフレイくん、魔法が得意だったわよね?初めての授業の時だって、あんなに凄い初級光魔法を無詠唱で出していたし。お願い、フレイくん。光魔法で何とかして!」
全員の注目がフレイに集まる。
「...分かりましたよ。やってみますね。」
フレイにそう言わせると、俺は光魔法で辺り一面を発光させた。
「うわっ!」
「眩しっ!」
光が強すぎて、目を閉じずにはいられない。
これだと周りが見えなくて、ダークノームがどこにいるか分からない。
俺は眩しく感じないように魔法で目を保護し、目を開けて辺りを見渡す。
さっきまでマグマのようだった地面は、もうすっかり元通りになったようだ。
「多分もう大丈夫なんじゃねえか?」
「本当かぁ?」
「一応見てみたけど、地面も元通りになってそうだぜ。」
「『見た』って...この光の中で、まともに見えるワケないじゃない。」
仕方ない奴らだ。
俺は、全員の目も俺と同じように魔法で保護してやった。
「目ぇ、開けてみろ。魔法で目を保護したから大丈夫なはずだ。」
一同は恐る恐る目を開ける。
「...本当だ。全然、眩しくない。」
「クドージンさんって、こんな魔法も使えるんですね。」
「まーな。」
俺的には、訓練しないと魔法が使えないというのが理解できないが。
「ねぇ、みんな見て!宮藤くんが言ってた通り、ダークノームはいなさそうよ。」
「良かった。ホリーくん、フレイくん、二人のおかげだよ。ありがとう。あとクドージンさんも、ありがとうね!」
その三人のうち、二人は同一人物だけどな。
「もうそろそろ、フレイくんの光魔法と僕のバリアを解除しても大丈夫かな?」
「ダークノームがいなくなったとはいえ、退治したわけじゃないからまだ解除するのは危ないんじゃない?」
「だな。とはいえ、ホリー坊ちゃんが地面にバリアを張ったままだと移動できねぇから、バリアは解除した方が良いんじゃねえか?この凄ぇ光魔法があれば、ダークノームは追ってこねぇだろうし。」
「それも、そうですね!フレイくん、この光魔法を維持しながら、移動できる?」
「はい。それなら大丈夫ですよ。」
「良かった。じゃあアランさん、また道案内よろしくお願いします。」
これでひとまずはダークノームの脅威は収まったな。
用は済んだし、この姿でいる必要もないな。
「それじゃあな。」
俺はそのまま立ち去ろうとした。
「えっ?!」
「待て貴様!どこに行くつもりだ!」
「そうですよ。待ってください、クドージンさん!」
そんな俺の前に、アランとゼルが立ちふさがった。




