【56】第14話:キメイラ帝国旅行(2)
飲食店、雑貨屋、お土産屋....。
旧魔王城跡地の繁華街には、様々な店が並んでいて、歩くたびに目移りしてしまう。
そんな中、とある魔道具屋の近くを歩いていると、キャッチーな売り文句が聞こえてきた。
その売り文句が気になって魔道具屋のディスプレイを見てみると、紹介していた商品が目立つように飾られていた。
「ほら、見てくださいよ、この魔道具屋さん。タクトくんとゼルくんにぴったりのブローチが売っていますよ。」
「あ?どれどれ?」
「なになに....『ちょっとの我慢で、ずっと友達!怒りん防止くん!このブローチをつけるだけで、あなたの怒りは湧きにくくなります。』?....ははは、フレイくん。喧嘩売ってる?」
ゼルは口では笑っていたが、目は笑っていなかった。
やっぱりコイツには、ブローチが必要だろ。
「おっ!怒りん防止くん、買っていくか?コレは今じゃ、魔人の必需品になっているくらい、この国じゃ大人気の商品だ。魔人じゃなくても、怒りっぽい人間にもお勧めだぜ。」
「へぇ~。この国ならではの商品ですね。記念に買っちゃおうかな。」
なんでこのブローチが必要のないライラが買うんだよ。
「いいわね!私も一個買って、宮藤君に渡そうかしら?彼にこそ必要な魔道具だし。」
「ははは、いいですね。カタリーナさん。」
....テメェ、喧嘩売ってるのか?
「店員さん、コレください。」
ライラとカタリーナは怒りん防止くんを持ってレジカウンターへと向かった。
カウンターには、細長い尻尾と猫のような耳を持つ獣人の男性店員が立っていた。
「はい、かしこまりまし....えっ!」
獣人の店員は俺達を見るなり、驚いて目を丸くした。
店員は黙ってカタリーナの顔をじっと見つめている。
カタリーナはそんな店員の様子に戸惑って、引きつった愛想笑いをした。
「えっと.....どうかしましたか?」
「あ、はい!すみません。お会計ですね。少々お待ちください。」
店員は話しかけられて我に返ると、慌てて商品を見て会計を始めた。
そんな店員を、カタリーナはまじまじと見つめる。
「あぁ!」
すると今度はカタリーナが、大きな声を出して驚いた。
「ねぇ、店員さん!もしかして、アリーシャ様の誕生日パーティの時にいた獣人さんですか?」
アリーシャの誕生日パーティにいた獣人?
そんなの、いたか?
....あぁ。
思い出した。
いたな、確かに。
ついでにあの時の、気色悪いやり取りも一緒に思い出してしまった。
ただでさえ先日の屋形船での不快感を引きずっているのに、余計に嫌な気分になった。
「はい!覚えてくださってたのですね!」
「フレイくんも覚えているわよね?ホラ、ジョンドゥー子爵が連れて来ていた...」
「わかりますよ。僕も思い出しましたから。」
「お前ら、何の話をしてるんだ?」
獣人の店員は、ざっくりと俺達が知り合った経緯を説明した。
「へぇ、そんなことがあったんだ。」
「店員さんは....その...嫌じゃないのですか?私達、人間のことが...。」
ライラは申し訳なさそうに目を伏せて、弱弱しく尋ねる。
「....正直、昔は人間が嫌いでした。不快にさせるかもしれませんが、僕はあの日まで、人間は生まれつき残虐な気質の生き物なのだと思っていました。
でも、ここにいるお二方を見て、そうじゃないって知りました。あの日、お二人が庇ってくれたことで、僕の心は救われたのです。」
別に、コイツを救うつもりで言ったワケじゃない。
胸糞悪かったから、素直に気持ち悪いと言っただけだ。
あぁ。こんな話をしていたら、嫌な記憶が芋蔓式に引き出されそうだ。
これ以上、この話題はしたくない。
「そういえば店員さんは、どうやってこの国に来られたのですか?」
俺はなるべく自然な形で話が逸れるように、店員に質問した。
「えぇ!っと....それは.....。」
俺の唐突な質問に、店員は冷や汗を出して言葉を詰まらせる。
「店員さん、確かアリーシャ様の誕生日プレゼント...ということになってましたよね?どうやって逃げ出したのですか?」
「あの....えっと....」
店員は、まるで探偵に追い詰められた犯人のように、目をキョロキョロと泳がせる。
「分かったわ!きっと、アリーシャ様に助けてもらったのよ!」
カタリーナの予想に、店員は図星だと言わんばかりに、目を見開いて驚いた。
「アリーシャ様は奴隷にされている亜人を助けるために、わざと奴隷が好きなフリをして、奴隷を買っているのよ!」
「どうして、そのことを....」
「その反応、やっぱりそうなんですね!」
「あっ!」
墓穴を掘ったことに気づいた店員は、思わず手で口を塞いだ。
「良かったわ。乙女ゲームのヒロインはそうでなくっちゃ!...まぁ正確に言えば、乙女ゲームじゃなくて小説のヒロインだけど。」
カタリーナは、アリーシャが下衆でないと分かったからか、心から嬉しそうに喜んだ。
...まぁ正確に言えば、アリーシャは小説のヒロインですらないが。
「お願いします、カタリーナ様。この事は秘密にしてください。」
「分かってますわ。いくら奴隷をどう扱おうが合法とはいえ、奴隷を他国へ逃したとなれば、貴族内でいい顔はされませんもの。それに、奴隷好きのフォージー侯爵と軋轢を生むかもしれませんし。ご両親を大切に思うアリーシャ様に、迷惑をかけたくありませんもの。」
「え?」
カタリーナの反応が意外だったのか、店員は鳩が豆鉄砲を喰ったような顔をした。
「あれっ?どうかしましたか?」
「い、いえいえ!なんでもありません!それより、他にも商品を買いませんか?」
店員は慌てて、誤魔化すように話を変えた。
「カタリーナ様とそちらのお嬢さんには、この毛繕いブラシとかどうですか?このブラシは毛の多い獣人が、全身の毛並みを整えるために使うものですが、人間が使っても便利だと思いますよ。このブラシは、抜け毛を優しく絡めとるだけでなく、ボサボサの毛先を整えたり、毛艶を良くしたり、皮膚を傷つけないようにする等の魔術も施されています。櫛ではなく、このブラシで髪をとく獣人もいるくらいです。」
そう言って差し出したのは、動物の毛がまっすぐぼうぼうと生えているかのような、丸いブラシだった。
ライラは店員に促されて、試しにブラシで髪をとかす。
するとライラの髪は、とかす前よりも滑らかで綺麗になった。
「うわぁ!このブラシ、素敵!」
「いいですね!私、コレも買います!」
そのブラシを気に入ったライラとカタリーナは、追加でブラシもカウンターへ持って行った。
「フレイ様はこちらの水晶石のペンダントはいかがですか?これがあれば、いざという時スマドの充魔ができますよ。」
へぇ、そいつは便利じゃねえか!
「おい、店員の兄ちゃん。それ本当なんだろうな?水晶石のペンダントで充魔だなんて聞いたことがねえぜ?」
ゲイルは訝しげな顔をして、店員に異議を唱えた。
「本当です!ほら、見てください。」
店員は自分のスマドを取り出すと、電源ならぬ魔源を入れて画面を見せた。
充魔は78%と表示されている。
そこに魔法石と同じ要領で水晶石を使ってみると、スマドの画面は充魔中の表示に切り替わった。
「凄い...本当だ!」
「魔法石じゃなくても、充魔できるんだ..!」
その光景に、俺たちは感心して思わず声を漏らした。
「でも、なんで水晶石なんかで充魔できんだよ。そもそもこのペンダントって、エルフが恋人の証に送るためのモンだろ。」
うわぁ。
そんな気色の悪いペンダントだったのか。
「このペンダントって、そんな素敵なものだったんだ!その話、詳しく聞かせてください。」
引いている俺とは反対に、ライラはその話に興味深々だった。
「いいですよ。エルフには恋人に、自分の魔力を込めた水晶石をプレゼントする風習があるんです。なのでこのペンダントも、魔力を込めて恋人に贈るのが本来の使い方なんですが...」
「もしかして、水晶石に込めた魔力を使って、スマドが充魔されるのですか?」
カタリーナは店員の話を遮るように、自分の考えを口にした。
「確証はありませんが、多分そうだと思います。充魔すると水晶石の魔力が無くなりますし。ただ、どの水晶石でも充魔できるわけではないんですよ。」
「えっ?そうなんですか?」
「エルフは水晶石に込められた魔力の色で、相手の魔力の質を診るのですよ。だから相手の好きな色の魔力が込められるように、ペンダントの水晶石は込めることのできる魔力が魔術で調整されているんです。ちなみに魔力を込めるとオレンジ色になるように調整された水晶石が、スマドを充魔できる水晶石ですよ。」
その話を聞いて、店員が充魔するのに使っていたペンダントを改めて見る。
ペンダントの水晶石は、魔力を失って色が薄くなっていたが、確かにオレンジ色だった。
「しかもこのペンダント、一度充魔で魔力を消費しても、また魔力を込めたら充魔できるようになるんですよ。」
「買います。」
こんな最強商品、買い一択だろ。
今まで充魔の度に魔法石を買っていたのが、これ一個で済むようになるんだから。
これで「魔法石が切れたからスマドゲームができない」という非常事態ともオサラバだ。
よくゲームをするタクトやゼルも、俺の後を追うように、水晶石のペンダントをレジカウンターへ持って行った。
「そちらのお兄さん達は、どんな商品が欲しいですか?」
店員は、まだ商品を買っていないホリー達に質問した。
「そうですね....。店員さんから素敵な話が聞けたので、お礼に、この店で一番高い商品が買いたいです。」
ホリーは朗らかな笑顔で、店員に逆に尋ねた。
「この店で一番高い商品ですか?」
店員は少し考えてから、店の奥の棚から少し大きめの箱のようなものを取り出した。
「それだと、この『魔物個体特定機』になるのですが、大丈夫ですか?」
「はい、それで大丈夫です。」
「それは一体、何ですか?」
「あぁ、この『魔物個体特定機』は冒険者が探索する時に使う道具ですよ。落ちている毛から、魔物の種類や個体を特定したり、調べた魔物の情報を登録しておくことができる魔道具なんです。」
「へぇ。そういえば父さん達も、探索する時は落ちてる毛や足跡なんかを見て、どんな魔物が生息しているか推測してるって言ってたな。コレがあれば魔物を正確に特定できるってワケか。」
そもそも探索するのに、生息している魔物を把握する必要ってあるのか?とツッコミを入れたくなったが、話が逸れそうなので止めた。
「まぁ、この辺には冒険者がほとんどいないので、その用途で使う人はいませんけどね。」
「『その用途で』ってことは、他の用途での使い道があるのでしょうか?」
ホリーは興味深々に、店員に尋ねた。
「はい。むしろそっちの用途で買う人しか見たことがないくらいです。この魔道具の凄いところは、登録した記録から、個体の親子関係まで分析して自動で紐づけてくれるところなんです。ですので妻の不貞を疑う男性が、自分の子との血縁関係を調べるために、この魔道具を買われることがたまにあります。」
嫌な使い道だな。
前世でいうところのDLAとか言うアレか?
....いやBLAだっけ?
「こっちの世界にもDNA鑑定できるシステムがあるなんて...。」
DNA!それだ!
喉に刺さった魚の小骨が取れたかのように、頭の中がスッキリした。
「そんな用途で使う人もいるんだ...!その用途で使うわけではありませんが、魔物個体特定機、買わせてください!」
「はい、ありがとうございます。」
ホリーは律儀に、紹介された商品を買うようだ。
本来の用途でも別の用途でも、ホリーが使うところが想像できない。
それなのに買うなんて、変わった奴だ。
「おいおい、店員の兄ちゃん。お前、さっきからダイフク商会の商品ばっかり紹介するじゃねえか。少しはキメイラ帝国の商品も紹介しろよ。」
俺達が会計をしていると、ゲイルが眉をひそめて店員に文句を言った。
「そうは言われましても、僕はお客様が好きそうな商品を紹介したいだけでして....」
「それじゃあ、キメイラ帝国の商品はダメなのかよ?」
「そういうわけではありませんが....」
ゲイルの難癖に、店員は困惑して目を逸らす。
「ゲイルさんは逆に、ダイフク商会の商品だとダメなんですか?」
そんな店員を助けるかのように、ホリーはゲイルに逆に尋ねる。
するとゲイルは、少しバツが悪そうな表情をした。
「そうじゃねえけど、やっぱり亜人だからキメイラ帝国の商品を応援してぇんだよ。ダイフク商会やドーワ侯国は嫌いじゃねえ。むしろ亜人を沢山雇ってくれているダイフク商会や、人間の国なのにキメイラ帝国と同盟を結んでくれたドーワ侯国には、感謝している。でもな、それとこれとは別だ。いくら同盟国で、友好的とはいえ、俺らの国で勢力伸ばされるのはなぁ....。お前ら人間には、この感覚は分かんねぇか。」
「いいえ、分かりますわ。私も日本にいた頃、好きなゲームや流行っているアプリが海外製って分かると、ちょっと切なく感じることもありました。なんというか、日本の国力が弱いって言われているような、日本が間接的に侵略されているような...そんな気がして。海外の商品は全然悪くないのですけどね。」
「そうなんだよ!別に相手が悪いワケじゃねえんだよ!嬢ちゃん、わかる奴だな。」
「いえいえ、それほどでも。」
カタリーナとゲイルは、意外なところで意気投合した。
正直、二人の気持ちがさっぱり理解できない。
使っている商品がどこの国の製品だとかって、どうでも良くね?
「難しい問題ですね。僕としては、キメイラ帝国の皆さんと仲良く共存したいだけなのですが。それが余計に不快にさせていたみたいですね。」
ホリーはどこか切なそうな顔をして嘆く。
その反応を見たゲイルは、慌てて弁明した。
「いやいや!ホリー坊ちゃんは全然悪くねぇ!それにコトナカーレ侯爵様とダイフク商会が俺達を助けてくれたから、今のキメイラ帝国があるんだ。侯爵様がキメイラ帝国に同盟を持ちかけてくれなかったら、今頃キョウシュー帝国に侵略されて植民地になっていただろうしな。」
「いえいえ、それはドーワ侯国も同じですよ。世界中の龍脈が封印されたせいで、当時のドーワ王国はほぼ滅亡したと言っても過言ではなかったですから。ドーワ侯国として建て直せたのも、キメイラ帝国が同盟を結んでくれたおかげですよ。でなければ今頃、僕らの国もキョウシュー帝国の植民地になっていましたよ。」
さっきまでの澱んだ空気が一気に和やかになり、ホリーとゲイルは笑顔になった。
しかし、そんな二人とは対照的に、タクトは不貞腐れたように口をへの字に曲げた。
「なーんか、キョウシュー帝国が悪者みたいじゃねえか。」
「あっ!ごめん、タクトくん。そういうつもりで言ったんじゃないんだ。」
今度はホリーが、そんなタクトを気遣って弁明をした。
「そうだよ、タクトくん。むしろキョウシュー帝国は、それだけ影響力のある、世界一の大国ってことなんだ。ディシュメイン王国みたいに、キョウシュー帝国と同盟を結びたくて王族同士で政略結婚する国も結構あったらしいよ。」
「そうそう!だから誇りなさいよ。自分達の国が、世界一の大国なんだって。」
ホリーを援護するように、レックス殿下とカタリーナはキョウシュー帝国を誉めた。
祖国が世界一の大国と言われて嬉しかったのか、タクトは照れ臭そうに笑った。
「へへっ!スゲーだろ、俺の国!」
「はいはい。凄いですね。」
「凄い凄ーい!」
「お前ら、小馬鹿にしてるだろ!」
「ハハハ!」
そんな他愛もない雑談が終わると、俺達は会計を終わらせて店を出た。




