【55】第14話:キメイラ帝国旅行(1)
『可哀想だな、宮藤...。』
『だからさ。みんなで彼を助けようよ!彼がこれ以上辛い思いをしないようにさ。僕達で彼を幸せにしようよ。』
....。
......あぁ。
胸糞悪い夢に起こされ、俺はベッドから起き上がった。
あんな夢を見たのは、この前の屋形船での会話のせいだ。
勝手に過去を暴かれて、勝手に同情されて、勝手に泣かれて。
それだけでも最悪な気分だった。
挙句の果てに『親が残念な時点で死ねば良かった』と言われた時は、全員、船ごと沈めてやろうかと思った。
だけどもっと不愉快なのが、ミラが言っていたことが、全部ぐうの音も出ない正論だったことだ。
....俺だって、あんなクソみたいな人生、好き好んで生きてたわけじゃねえ。
死ぬのが嫌だったから、惰性で生きてただけだ。
今は誰とも会いたい気分じゃないが、そうはいかない。
今はドーワ侯国へ旅行中だし、急に理由もなく『誰とも顔を合わせたくない』と言うのは不自然だ。
変に勘繰られても厄介だから、予定通りに今日もみんなと出かけるしかない。
今日はキメイラ帝国で日帰り旅行をする日だ。
俺達は朝食を終わらせた後、準備をしてテレポーターでキメイラ帝国の国境門前までワープした。
◆◆◆
「ここがキメイラ帝国かぁ〜!」
「なんだか、ちょっとドーワ侯国っぽいよね!」
入国のための手続きを終えて、国境門からキメイラ帝国に入る。
するとそこには、ドーワ侯国の文化が混じったような、それでいてドーワ侯国とも違う、独特な街並みが広がっていた。
街中や空を自由に行き来する魔物や、ビルが立ち並ぶ光景は、ドーワ侯国と似ていた。
だがキメイラ帝国のビルはドーワ侯国のビルより低く、せいぜい2〜3階建だ。
それに、ところどころに木や畑もある。
ドーワ侯国が都心だとすれば、キメイラ帝国は郊外のように感じた。
道ゆく人々のほとんどが亜人なのは、この国では当たり前なのだろうが、俺達にとっては新鮮に思えた。
亜人にとっても人間は珍しいのか、時折、すれ違う亜人に睨まれたりもした。
亜人達の服装は人間の服装と少し違っていて、亜人のほとんどが、魔法石のついたブローチやペンダントをしていた。
「あっ。ゲイルさん、アレじゃない?」
カタリーナが指差した方向を見ると、ゲイルが俺たちを見つめながら、小さく手を振っていた。
俺たちはゲイルの元へ行き、合流する。
「よう!坊ちゃんたち。初めて見るキメイラ帝国はどうだ?」
「すごく『異世界』って感じがします!」
「でも、どことなくドーワ侯国っぽい感じもします。」
「ドーワ侯国っぽい、かぁ〜....」
その言葉を聞いて、ゲイルは複雑そうな顔をした。
「もしかして、言ってはいけないことでしたか?」
「まぁ、俺は別に良いけどな。亜人の中には、同盟国とは言えドーワ侯国を心良く思っていない奴もいるから、あんまりソレ言うなよ?坊ちゃん達は、ただでさえ人間だからな。」
『厄災の魔王』に続いて『ドーワ侯国に似てる』も駄目なのかよ。
キメイラ帝国の亜人って、面倒くさいな。
「それじゃあ、早速キメイラ帝国を案内するぞ。....つっても、この国じゃ人間はまだまだ歓迎されないからな。案内できるところも限られてはくるが。」
さっきからすれ違う亜人達に睨まれるのはそのせいか。
「今日、お前らを連れて行く場所は旧魔王城跡地だ。あそこは今、外国人観光客を呼び込むための観光地にしようとしているからな。むしろ人間視点から改善点を教えてくれりゃ、ありがてぇ。」
なるほど、要はこの機会を利用して、人間の観光客を呼んで問題ないか試そうとしているワケだ。
「そういうことなら、私達にお任せください!」
「ついでに魔王城も見れるなんて、楽しみだね。」
俺達はゲイルに指示された通り、テレポーターで旧魔王城跡地へとワープした。
「ここが、魔王城跡地...?」
テレポーターから出ると、そこには色々な店で活気づいた街並みが続いていた。
そして、少し視線を上に向けると、建設途中の大きな建物が見えた。
「おい、おっさん。魔王城なんか無ぇじゃねえか!」
「魔王城は伝説の勇者パーティとやらに、ほぼ壊滅されたからなぁ。」
それだけ聞くと、勇者はまるでテロリストだな。
「代わりに、観光スポット用に魔王城を再現した建物を建設しているところだ。ほら、あそこに見えるどデカい建設中の建物がソレだ。」
「へぇ〜。竣工するのが楽しみですね!」
「外国人観光客を呼び込む政策をしているから、この街にいる亜人で人間を差別する奴は少ないと思うぜ。」
「そっか、私達の国だと亜人差別があるけど、キメイラ帝国だと差別されるのは私達なんだ。」
「どっちの国も、種族による差別が無くなれば良いのにね。」
「そうだな。未来を担うお前ら若い世代がそう考えてくれりゃ、未来は安泰だな。」
ゲイルは嬉しそうに、ゲラゲラと笑った。
「そういえば、デニスの店もこの街にあるぜ。なんでも、人間に恩人がいるらしいから、そいつらに会える可能性が高いこの街でお店を出そうって決めたらしいぞ。」
「恩人って、もしかして....!」
「キメイラ帝国へ逃亡しようとした時に、国境壁付近で助けてくれた子どもらしいが.....。もしかして、お前らのことか?」
「やっぱり!」
「そういやあの人、去り際に『今度キメイラ帝国に来ることがあったら会いに来てくれ。今日のお礼をしたい』って言ってたよな。俺らのこと覚えててくれたのか。」
なぜかタクトは誇らしげにしている。
別にお前が助けたワケじゃねえだろ。
「だったら昼飯はデニスの店で決定だな。それじゃあ昼までの間はどこに行くか?ケンタウロス競馬場、マーメイドビーチ、魔人ミュージカル、魔王軍管轄魔物展示会.....色々あるぞ。」
デニスはそれぞれどんな場所か、簡潔に説明した。
「そうだなぁ。」
「どこに行くか、迷うね。」
「でしたら、ニホンアイランドの時のように、各々で行きたい場所に行くというのはどうですか?」
すると俺の提案に、全員が渋い顔をした。
「キメイラ帝国で人間だけで行動するのはやめておけ。この辺はまだマシとはいえ、人間を快く思っていない奴の方が大多数だ。いきなり殴られる、なんて事はないとは思うが、嫌がらせに金を盗まれたりぼったくり商品を掴まされたりするかもしれねぇぞ。」
「それにお兄ちゃんを一人にしたら、また問題を起こすかもしれないからね。」
「だから!それは向こうが勝手に突っかかってきただけだって言ったろ!」
「はーい。そういうことにしておきまーす。」
ははは....。
タクト以外は全員笑っていたが、俺は内心、後ろめたさを感じた。
「ねぇ、観光スポットに行くのもいいけど、このまま繁華街を歩きながら色んなお店を見るのはどうかしら?」
「それは良いね!」
「賛成!」
話はまとまり、俺たちは街の中をぶらぶら歩きながら、お店を見て回った。




