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転生魔王の正体は?ー厄災の魔王は転生後、正体を隠して勇者の子どもや自称悪役令嬢を助けるようですー  作者: サトウミ


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【54】第13話:ドーワ侯国旅行(7)

クドージンさんの過去の話で静まった場の空気に、突然、ミラさんの笑い声が響いた。


「....おっと、失敬。」


ミラさんの手元をよく見てみると、本が開いてあった。

そういえばさっき「続・龍脈エネルギーによる転換魔術の無限の可能性」というタイトルの分厚い本を買っていたっけ。

きっと今手に持っている本は、さっき買った本なのだろう。


「あのー、ミラさん。ちょっとは空気を読んでくれませんか?今、何の話をしていたか、聞こえてましたか?」


そんなミラさんに、ゼルくんは嫌悪感を剥き出しにして叱った。


「あぁ。一応、聞いてはいたよ。確か今は、厄災の魔王の過去について話していたのだろう?」


本を読みながらでも、話は聞いていたんだ。

ミラさんは、ある意味器用な人なのだろう。

....でも何でだろう。話を聞いていたと分かって、モヤモヤとした感情が余計に膨れ上がった。


「確かにそうですけど....本当にちゃんと聞いてました?」

カタリーナちゃんも、そんなミラさんに苛立ちながら質問する。

その質問に、ミラさんは大きくため息をしてから、淡々と語り始めた。


「厄災の魔王は幼少期、両親の虐待で死にかけた。両親が捕まってからは孤児院に行った。それが理由で学校でいじめられるようになった。その後の経緯は知らないが牢獄に入った。牢獄から出ら後に就いた仕事は冤罪で解雇。その後、夏の暑い日に倒れて死亡。死んだ後はこちらの世界に転生して、魔人奴隷になり、拷問される。キメイラ帝国軍によって解放されるも、今度はキメイラ帝国の魔物として龍脈抑制計画に加担させられる。


.....こんな感じで、合ってる?」


本当に、ちゃんと聞いていたんだ。

それなのに、なぜ無感情でいられるの?

本を読んで、笑えるの?


「ミラさんは、この話を聞いて何とも思わないのですか?」

私は思わず、ミラさんに問いただした。


「何とも思わない、けどそうだな....。」

ミラさんは顎に手を当てて、少し考えてから、やがてゆっくりと口を開いた。


「強いて言えば、親ガチャ失敗した時点で、リセマラすれば良いのに、とは思ったかな。」


....え?

何を言っているの、この人?

想像していなかった答えに、私だけでなく、みんなも表情を凍らせた。


「....おや?もしかして『ガチャ』と『リセマラ』の意味が分からない?参ったな。スマドのゲームが普及していると聞いたから、通じる言葉だと思ったのに。ダイフク商会も、まだまだだね。」


言葉の意味は分かる。

『ガチャ』とは、アイテムの中身がランダムで決まることだ。

『リセマラ』とは、良い物が出てくるまで何度もやり直すことだ。

つまり...。


「もしかして、『親が残念だった時点で死ねば良かったのに』って言いたいわけ?」

「まぁ、そうとも言うね。」


カタリーナちゃんが軽蔑しながら聞いた質問に、ミラさんは一切の迷いなく即答する。

そんな彼女の悍ましい発想に、思わず鳥肌がたった。


ミラさんの暴言を聞いたゼルくんは、よく立ち上がって、今にも殴りかかりそうな勢いで、彼女を掴もうとした。

ゼルくんが殴りそうなのを察知したホリーくんは、彼を取り押さえる。


「放せホリー!その女、ぶっ殺す!」

「ごめんね、ゼルくん!姉さん、さっきの発言は良くないよ。謝って!」

「なぜ?聞かれたことに率直に答えただけなのに?彼が勝手に怒っているだけだろう?」


その言葉は火に油を注いだ。

ゼルくんは激昂して、止めに入らなければミラさんを殺しかねない勢いだった。

そんなゼルくんを宥めながら、ホリーくんはゼルくんを連れて席を外した。


「ミラさん。『親が残念だった時点で死ねば良かった』って...本気で言ってるの?」

カタリーナちゃんは、責めるようにミラさんに問いただす。


「ああ、勿論じゃないか。だって彼、最初に親に殺されかけた時に、ちゃんと死ねていれば、ここまで不幸を重ねることはなかったと思わないかい?親が残念な時点で、後の人生はハードモードだって分かりきっているんだからさ。さっさと死んで、来世で真っ当な人生送った方が効率的じゃないか。」


この人は本当に、何を言ってるの?


「....来世が、幸せとは限らないじゃないですか。」

「だったらまたリセマラすれば良いじゃないか。当たりが出るまでリセマラすれば、無駄な時間を過ごす期間が最小限で済む。」


「仮に自殺するにしても、死ぬ過程で怪我や風邪とは比較できないくらいの苦しい痛みに耐えないといけないんですよ?」


「当たり前じゃないか。親『ガチャ』なのだから。そもそもガチャというものは、お金なりアイテムなりの対価を支払わないとできないのだから、親ガチャするにも当然、それ相応の対価が必要だろう。何の対価も支払わずに、タダ同然で命を授かれるのであれば、それは親『ガチャ』じゃない。親『ギフト』だ。」


「....それに死んだら、今の自分はいなくなるんですよ?」

「でも来世の自分が幸せだったら、別に良くない?現世の自分が、不幸確定の人生を生きていたって、時間の無駄だ。わざわざ不幸になると分かりきっている人生を続けるなんて、馬鹿かマゾのどっちかでしかないよ。」


ミラさんの意見に私は、今までにないくらい自分の中の怒りが、マグマのように湧き上がるのを感じた。

彼女の意見は、辛い現実を必死に生き抜いたクドージンさんに対する冒涜だ。


「彼が今までどんな思いで生きてきたか、知らないくせに簡単にリセマラだなんて言わないで!」

声を荒げて怒りをぶつけたのは、カタリーナちゃんだった。


「おや?君は同意見だと思っていたんだけど、違ったんだ。君、さっき『私が彼のような境遇だったら耐えられない』って言ってなかったっけ?それって『自分が彼の立場だったら自殺していた』ってことなんじゃないの?それって、リセマラと何が違うの?」

「それは....」


ミラさんの意外な返しに、カタリーナちゃんは言葉を詰まらせる。


「環境が悪くたって、生きていれば、いつか幸せになれるかもしれないでしょ!」


クドージンさんの過去を聞いた後で、こんな事、言いたくなかった。

『いつか幸せに』なんて希望すら持てない環境もあるって、知ったばかりなのに。

今となっては、陳腐で薄っぺらい台詞でしかない。


だけど私は、どうしてもミラさんの考えを受け入れたくなかった。

彼女を必死に否定しようとして、出てきた言葉がアレだなんて、自分が嫌になる。


「それは無理だね。どれだけ周りの環境が改善されようが、価値観(根っこ)がダメになったら幸せになれない。環境が改善されたところで、その環境に適応できなくなってしまっているからね。だから厄災の魔王は、記憶も価値観もまっさらになって生まれ変わらない限り、絶対幸せになれない。」

「そんなこと、ないよ!」


彼女の言い分は、これ以上聞き入れたくなかった。

でも、反論しようと思っても、言葉が思いつかない。

頭ごなしに否定することしか出来なかった。


すると、ミラさんは大きくため息をついた後、持っていた本の1ページを丁寧に破りだした。

そして綺麗に破られたページを、私達の前に出した。


「この折り目のない綺麗な紙が彼の心だとする。

虐待、いじめ、奴隷、拷問......辛い過去が重なるたびに、彼の心は、こんな風にぐちゃぐちゃになっていったワケだ。」


そう説明しながら、ミラさんは紙を小さく、ぐちゃぐちゃにした。


「もし彼が今、仮に、恵まれた環境で大切に育てられていたとしよう。

愛され、大切にされ、かけがえのない仲間が出来て....。彼の心は、こんな風に立ち直っていったとする。」


すると今度は、小さくした紙を真っ直ぐ伸ばして、元の大きさに戻した。


「この紙は、元通りになった?」

ミラさんの持っている紙は細かい折り目が付いていて、遠目で見てもまっさらな紙ではないことが分かる。


「なってない...。」

質問の意図が理解できなかった私は、率直に見たままの感想を述べた。


「これが、絶対に彼が幸せになれない理由だよ。分かった?」

全然、分からない。

みんなも同じ気持ちなのか、きょとんとした顔でミラさんを眺めていた。

言いたいことが伝わっていないのを悟ったのか、彼女は続けて説明した。


「このグシャグシャにした紙は、どれだけまっすぐに伸ばそうが、ゴミにしかなり得ない。それと同じで、一度心がグシャグシャになった人間は、どれだけ改心させようが、社会のゴミにしかなり得ない。」


社会のゴミ?

どれだけ彼を侮辱すれば気が済むの?

ミラさんは紙を本に挟むと、本の小口を私達に見せた。


「ほら。グジャグシャにした紙を他の綺麗な紙に混ぜても、目立ってしまうだろう?一度折り目の入った紙は、どれだけ元通りにしようとしても、折り目は決して無くならない。だから他の綺麗な紙と一緒にすると、折り目が目立って不調和を起こす。


それと同じで、折り目のついた(価値観が歪んだ)人間は、折り目のない(真っ当に育った)人間と一緒にいても、不調和を起こすだけだ。本人がどれだけ真っ当な人間を装っていても、折り目(ゆがみ)は隠しきれない。


だから仮に彼が恵まれた環境にいても、やがて自身の折り目(ゆがみ)のせいで周囲と軋轢を生み、自分で自分の環境を悪くしてしまう。その結果、普通に生きていたら手に入る幸せですら、遠ざけてしまう。


そんな彼が、幸せになれると、本当に思える?」


ミラさんの言う折り目(ゆがみ)に、心当たりがあった。

クドージンさんは、人や魔物を殺すことに躊躇がない。

それだけじゃない。

彼は以前、人を苦しめるのは楽しいと言っていた。


彼の過去を知った今では、なぜそんな気持ちになったのかが分かる。

でも知らなかったら、いつか彼の人間性を受け入れられずに、離れていたかもしれない。


...認めたくないけど、これが彼女の言っていた折り目(ゆがみ)なのかも。


「....ねぇ、ミラさん。」

すると突然、フレイくんが落ち着いた口調で喋り始めた。


「そこまで言うのでしたら、貴女がその『リセマラ』とやらをすれば良いのではないのでしょうか?まさか人には偉そうに『リセマラした方が良い』というクセに、自分はできない、なんて言いませんよね?」


フレイくんはいつもの辛辣な言い草で、遠回しに『死ね』と言った。

いつもは言い過ぎだと思う彼の売り言葉だけど、確かに一理あると感じた。


するとミラさんはどこか呆れた顔をして、『ふぅ』とため息を出した。


「次期君主の娘だから、肉体労働をする必要がない。そこそこ経済力がある家だから、生活にも困らない。女だから領主の仕事をしなくても良い。親が決めた相手と結婚して、適当に子どもさえ作ってしまえば、よほどの事がない限り後は自由に生きられる。


....このスペックで、リセマラする必要、ある?」


苦笑いしながら答えるミラさんの顔を見て、吐き気を催しそうになった。


最初から恵まれた環境(リセマラが不要)の人が、リセマラとは無関係の立場で、そうでない人にリセマラを勧めるなんて。


ミラさんの思想は、レオンくん達コーキナル派閥の選民思想と似通った部分がある。

でも彼女の思想は、それ以上に理不尽で、暴力的だ。


....彼女は、本当に私達と同じ人間なの?

彼女の存在は、まるで人の姿を模倣した化け物のように思えた。

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