【46】第12話:友達じゃない(6)
第一アリーナにある転送装置で召喚した未知の魔物に苦戦していると、どこからか呑気な鼻歌が聞こえてきた。
と同時に、第一アリーナの扉が開く。
現れたのはシヴァさん....ではなくフレイくんだった。
フレイくんはなぜか顔が真っ赤になっている。
「フレイくん!」
「テメェ、何しにここに来たんだよ!」
フレイくんの顔を見るなり、タクトくんは嫌な顔をして悪態をついた。
「なにって、ソレを聞くためにココに来たんじゃないですかー?」
若干呂律の回っていない喋り口調と、いつもと違うハイテンションぶりに、酔っ払っているのだと悟った。
というか、なんでこんな時間から酔っ払ってるの?
「フレイくん、ちょっと空気読んで!今は呑気な会話をしている場合じゃないの!アレ見て!」
カタリーナさんはバリアの中にいるドラゴンを指差して、端的に状況を説明した。
「アイツ、首を斬ろうがミンチ肉にしようが死なないのよ。」
「へぇ〜、死なないんですかぁ〜?面白〜い!」
「ホント、ふざけてる場合じゃないんだってば!」
カタリーナさんは酔っ払ってうざいノリになっているフレイくんに、若干キレている。
「アレの身体が不死身なんだったら、魂を強制的に転生させればいいんじゃなーい?」
フレイくんはどこかで聞き覚えのあるセリフを言うと、マンガに出てきた『拳銃』のような形を手で作り、ドラゴンに向けた。
「バァーン!!」
拳銃を撃つかのように手を上げると、それに合わせるようにドラゴンは急に動きを止めて倒れた。
「来世ではいい子になってね〜♪ ハハハハハッ!」
フレイくんはケラケラ笑いながら、ドラゴンに対して大きく手を振った。
その光景に、フレイくん以外は状況が飲み込めずに固まる。
「....え?」
「フレイくん、アナタ....何をしたの....?」
「へぇ?ナニオシタ??」
駄目だ。フレイくんは完全に仕上がっててまともに会話できない。
「あぁ〜もう!だから、ドラゴンに何をしたの!!」
「あぁ〜!なにって、魔法でちょちょいと転生させただけですよ〜!」
「そんな馬鹿な....!」
「アハハハハッ!そんなバナナって、どんなバナナですか〜?」
魔法で転生させた?
そんな魔法は聞いたことがない。
シヴァさんがかつて使った転生魔術だって、彼が独自に開発した魔術式だと聞いた。
....だとしたら可能性があるとすれば、転生させる魔法が彼の特殊魔法の場合だ。
そうでなければ、無詠唱であのドラゴンを倒せる魔法を繰り出せるはずがない。
すると突然、タクトくんがフレイくんの胸ぐらを掴んで睨みつけた。
「このクソ野郎が!今更どのツラさげて俺達の前に来たんだよ!」
「えー?なんてー??タクトくん、もっかい言ってくーださーい!」
酔っ払ったフレイくんって、果てしなくウザいな。
タクトくんはフレイくんの顔面にパンチしようとしたが、それをライラさんが止めに入った。
「お兄ちゃんやめて!私はもう気にしていないよ。」
「うるせぇ!お前が良くても俺は許せねぇんだよ!」
「だったらせめて、フレイくんと話すからお兄ちゃんは今だけ黙ってて!」
珍しく押しの強いライラさんに、タクトくんはしぶしぶ、黙って身を引いた。
「フレイくん、あのドラゴンはフレイくんが倒してくれたの?」
「えー?違いますよぉ〜。僕が魔法で転生させたら、勝手に倒れただけですよー?」
「それって、ドラゴンを倒してくれたってことだよね?」
「だーかーらー、倒したんじゃなくて、勝手に倒れたんですってー!」
話が通じているようで、まるで通じていない。
こんな状態のフレイくんと話す意味あるの?
「ところでフレイくん、なんで酔っ払ってるの?」
「チョコをー、いーっぱい食べたからでっす!」
「チョコって、食べたら酔っ払うものなの?」
「お酒が入ってるーって、シヴァセンセー言ってました。」
「え?じゃあ、シヴァ先生からお酒の入ったチョコを貰ったってこと?」
「そーそー!」
なんてものをフレイくんにあげてしまったんだ、シヴァさん。
まぁ彼も、こうなるとは予想していなかっただろうけどさ。
それにしても、彼はいつココに来るんだ?
もしかしてメールを見てない、とか?
「そういえばフレイくんは、用事があってここに来たんだっけ?」
「あー!そうでした!!みんなに聞きたいことがあったんですよぉー!」
「聞きたいこと?」
「そー!僕さぁ、なんでココに来ないといけなかったんですか〜?」
知るか。
君が勝手に来たんだろ。
「『来ないといけない』って、どういうこと?」
「みんなが危なーい!ってシヴァセンセーが言ってたんですけどぉ、ソレ聞いたとき、急いで第一アリーナに来ないとって思ったんですよぉ〜。」
ということは、シヴァさんはもうメールを見ているのか。
それなのに未だに来ないのか?
フレイくんですら、ここにいるのに?
そう考えると頭が沸騰する程の怒りが込み上げてきた。
何なんだよ、あの人!!
今すぐ殴らないと気が済まない!!
...って、駄目だ!
冷静になれ自分!
僕は必死に自分で自分を宥めた。
なにか理由があって来れなかった可能性だってあるじゃないか。
そうだ。そうに決まっている。
「じゃあ、フレイくんは私たちを助けに来てくれたの?」
「だーかーらー!聞いているのは僕の方だーって!なんで僕はみんなを助けないとって思ったのかを聞いてるんですよぉ!
だってぇー、僕がみんなを助ける理由なんか無いじゃないですかぁ?
でもー、『助けないと!』って思うってことは、僕が分からないだけで、実は助ける理由があるってことですよねー?
だからぁ、それが何かをみんなに聞けば分かるんじゃないかって思ったんですよ〜!」
言ってる意味がわからない。
フレイくんが僕達を助ける理由?
本人が分かってないのに僕らが分かるワケがない。
「だいたい、いやーな予感がする時って、いつもこうなんですよね〜。この手の嫌な予感は、理由が分からないくせに、理由が分かった時には手遅れになってるんですよねー。しかも、嫌な予感は外れたことがないですし〜。
ライラさんに友達じゃないって言おうとした時も、ここに来る時だって嫌な感じがして...。
だから、今回こそは嫌なことが起こる前に、理由を突き止めたいんです!
何でもいいから、知ってたら理由を教えてください!
このとーり!」
彼は芝居かかった言い方で、大袈裟に頭を下げた。
一見煽っているようにも見えるが、彼が言ったことは本心のように感じられた。
すると、ライラさんは急にお腹を抱えて笑い出した。
「アハハハハ!感情表現が不器用すぎるよ、フレイくん。」
「えー?」
「それって、やっぱり私達が大切ってことでしょ?そこまで自覚があるのに、分からなくて私達に聞きに来るなんて、不器用にも程があるよ。」
ライラさんは、笑いすぎて出た涙を拭った。
「みんなが大切ぅ?どういうこと?」
「だから、私達のことが大好きなんでしょ?」
「大好き??」
「そう。フレイくんは、みんなのことが大切で大好きなんだよ!」
「僕は、みんなが、大切で、大好き?」
「うん、そうだよ!」
...なんだろう。
見ているこっちが恥ずかしくなってくる。
ライラさんとフレイくんのやりとりがまるで、分別のない子どもにモノを教える母親のやりとりのように感じた。
「ライラさんの言う通りだよ。前に食堂で話した時も思ったけど、フレイくんは難しく考えすぎだ。もっとシンプルに考えようよ。
『僕たちを助けたい』っていう気持ちこそが、フレイくんが今まで存在しないって否定してた『愛情』そのものなんだよ。」
ホリーくんは、追随するようにフレイくんに優しく諭す。
「この気持ちが『愛情』?でも、愛も友情も、この世界にはないって...」
「逆だよ。フレイくんは愛情を感じているのは紛れもない事実なんだから、『愛も友情も無い』っていうのが嘘なんだよ。それともフレイくんは、自分の中にある感情を否定してまで、愛も友情も無い世界を信じたいの?」
「別にぃー....。そんな世界を、信じたいわけでもないですけどぉ。」
「だったら認めなさいよ。この世界には愛も友情もあるって。そして私達はみんな、友達なんだって。」
「友達...。」
するとフレイくんは、今まで見たことのないような満面の笑みで、変な笑い声を出した。
「ふふふ....みんな友達、ですか!」
「そうだよ、みんな友達!」
「みんなぁ、ともだ、ち.....」
フレイくんは笑いながら突然、眠るように後ろへ倒れた。
「フレイくん?!」
「ウソ、大丈夫っ?」
急に倒れたからか、さすがのタクトくんも心配そうにフレイを見た。
よく見るとフレイくんは、酔っ払って眠っているようだ。
「ありゃ〜、フレイくん大丈夫?」
前触れもなく現れたのはシヴァさんだった。
やっと来たか。
僕は怒りを堪えて、シヴァさんを睨みつけた。
「シヴァ先生!」
「どうしてここに....」
「ゼルくんから『先生!助けて〜!』ってメールもらったから、来てみたんだ〜。」
そんな言い方はしていない。
シヴァさんのこの口調は最初こそ苛ついたが、今はスルーできるようになった。
「そしたら一緒にいたフレイくんが『助けに行く』って言うからさ。様子を見てたんだ〜♪どう?みんな、仲直りできたかい?」
なるほど、シヴァさんは僕らを仲直りさせようと思って、あえて先にフレイくんに行かせたのか。
きっとシヴァさんのことだから、隠れて見守りつつ僕達が本気で危なくなったらすぐに助けに行こうとしていたんだろう。
そう考えると、少しは怒りがおさまった。
「仲直りは、タクトくん以外は一応できましたけど....」
「フレイくん、大丈夫かな?」
タクトくん以外のみんなは、心配そうにフレイくん見ている。
どう見ても寝ているだけだし、みんなそこまで心配することないのになぁ...。
「どうしよう。彼、急性アルコール中毒になってないわよね?」
「急性...なに?」
「急性アルコール中毒よ。お酒を一度にたくさん飲みすぎると出る症状よ。最悪、死んじゃうことだってあるんだから!」
その話を聞いたタクトくんは、少し動揺するも意地を張ってフレイくんを見て見ぬフリをする。
「あぁ〜、知ってるよ!ボクも勇者パーティの一員として一緒に冒険していた時、酒場で死んでる人、結構いたなぁ〜。アレって急性何とかで死んでたんだ!」
そんなタクトくんに揺さぶりをかけるように、シヴァさんはわざとらしい話をした。
それを聞いたタクトくんは、バツが悪そうな顔をしてフレイくんの様子をチラッと見た。
「とにかく、一旦彼を医務室に運びましょう!」
殿下は軽々とフレイくんを背負った。
そして僕達は、そのまま医務室へと向かった。




