【44】第12話:友達じゃない(4)
タクト達と絶交してから、一週間近く経った。
あれから、俺はアイツらとつるむことが殆ど無くなった。
最初のうちはホリーが話しかけてきていたが、それがかえって煩わしく感じた俺は、付き纏ってこないように突き放した。
そのおかげか、今はホリーすら話しかけてこなくなった。
これで晴れて、独りになれた。
これで良い。
人間、誰しも一人なんだから、一人でいるのが当たり前なんだ。
愛だの友情だのを信じている奴は、その現実から目を逸らしたいだけの馬鹿だ。
そもそも、ロクでもないことが起こるのは、いつだって誰かと関わっている時だ。
今だって、鬱屈とした気分になっているのは、アイツらと中途半端に関わったせいだ。
アイツらと関わらなければ、『一人でいる時間が息苦しい』なんて感じずに済んだのに。
「あぁ........。眠ぃ....。」
タクト達と絶交した日から、なぜか俺は不眠に悩まされるようになった。
寝ようとしても寝付けない。
ようやく寝れたと思っても、過去のクソみたな出来事が夢に出てくるせいで、すぐ起きてしまう。
眠りの魔法を自分にかけてみるも、クソみたいな夢のせいで、やはり起きてしまう。
何だかんだでこの1週間、まともに寝れた記憶がない。
そのせいか頭がボーっとして、今なにをやっているのか頭に入ってこない。
今は、そう.....。
.....午後か。
確か、もう授業は終わったんだっけ?
こんな時間まで俺は、教室の席に座っていたのか。
自分の間抜けさに笑う気力もない。
俺は教室を出て、自分の部屋へと移動する。
「おーい、フレイくん。」
まともに寝れていないせいで頭が痛い。
「フレイくん!」
寝ぼけているからか、幻聴が聞こえてくる。
「フ・レ・イくん!」
すると突然、肩を掴まれたと思ったら、視界がぐらついた。
振り向くとシヴァがそこに立っていた。
「シヴァ....先生?」
「そ。シヴァ先生だよ!」
シヴァの話口調は平常時でもウザいが、今はウザいを通り越して会話するだけで苦痛だ。
「最近フレイくん、ホントどうしちゃったの?先生、フレイくんが心配だよ。」
「心配には及びません。」
「及ぶよ!今日だって授業中、当てられたのに全然気づいてなかったじゃん!先生、いない人間に喋りかけたのかと思ってビックリしちゃったよ。」
「それは、すみません。」
「それにフレイくん、ちゃんと生きてる?最近のフレイくんから、生気が全く感じられないんだけど、どうしたの?」
「...るさい。」
「そういえば、最近タクトくん達と一緒にいないね。いつも仲良しだったのに、何かあったの?」
「...うるさい。」
「え?なになに?もっかい大きい声で喋って♪」
「うるせぇんだよ!!こっちはロクに寝れてねーんだから、いちいちウザい声出して喋りかけんな!カスが!!」
イライラがピークに達した俺は、シヴァを思い切り怒鳴りつけた。
そして怒鳴ると同時に、俺の意識はプツンと途切れた。
◆◆◆
「あ!フレイくん、起きた?」
意識が覚醒し、目を開く。
すると、シヴァの心配そうな顔が真っ先に視界に入った。
冷静に辺りを見回す。
どうやら俺は医務室のベッドで寝ていたようだ。
寝たと言っても、身体は一切、休まった気はしないが。
「良かったよ目が覚めて。それにしてもさっきはビッ〜クリしたよ!フレイくんがあんな怒鳴り方するなんて。先生、ショック!」
「えっと...すみませんでした。」
そうだった。
確か廊下でシヴァとすれ違って、シヴァがウザ絡みをしてきたから怒鳴って、そこで記憶が途切れたのだった。
「いいって、いいって!それよりフレイくん、もしかして最近様子が変なのは、寝不足のせいなの?」
「変、ですか?」
シヴァに変だと言われるのは不服だ。
だが寝不足で頭が回っていなかったため、変な行動をしていた可能性も否めない。
「確かに、ここ最近なかなか眠れなくて、寝不足です。」
俺は素直に、シヴァに打ち明けた。
「そっか!フレイくん、寝不足なんだ〜!だったら先生、とびっきり眠れる方法でも教えてあげようカナ?」
「永久睡眠は遠慮しますよ。僕自身、自分に催眠魔法をかけてみましたが、効果はありませんでしたし。」
「ありゃ、魔術で眠るのはダメ?」
「はい、ダメです。」
するとシヴァは困った顔をして、頭をポリポリと掻いた。
「ん〜、だったらコレとかどう?」
シヴァは、どこからともなく箱を出す。
そして箱の蓋を開けると、中には立方体のチョコレートが沢山入っていた。
シヴァは箱の中のチョコを一つ取り出し、俺に渡す。
「コレ、食べてみて!」
俺は渡されたチョコを不思議に思いながらも口に入れる。
すると口の中に、チョコ特有の甘味とは別の、独特な苦味が広がった。
「何ですか、このチョコ。」
「ブランデーチョコだよ。お酒が入っているから、何個か食べたら酔っ払って寝れるんじゃないかな?」
だったら普通にお酒を渡せよ。
と思ったが、シヴァは教師だし、未成年にお酒を渡すのは立場的にマズイか。
いや、そもそも未成年はお酒がダメなのは日本での話だ。
こっちの世界だったら、俺はもう酒を飲んでも良い年だったはずだ。
まぁ、そんなことはどうでもいいか。
それより。
「おかわりください。」
「おっ!いいよいいよ。もっとあげる!」
クセのある味のチョコだが、食べられなくはない。
コレを食べるだけで寝れるのであれば、それに越したことはない。
俺はシヴァが持っていたチョコを全部食べ尽くした。
「うわぁ、全部売り切ちゃった!このチョコ、そんなに好きだった?」
「普通です。」
「えぇ〜....。」
「ブランデーチョコって、まだ他にもありますか?」
「もうコレで全部だよ!ってかこのチョコ、お酒が結構強いけど全部食べて大丈夫?」
「大丈夫です。今のところ。」
むしろ、寝たいから早くお酒が回って欲しい。
「ところでさ、フレイくんはなんで最近、寝不足なの?もしかして、夜更かししてゲームしてるとか?」
「いえ、僕にも原因がさっぱりわかりません。」
確かにシヴァの言う通り、夜更かししてゲームはしている。
だけどそれは、眠れないからゲームで暇つぶしをしているだけだ。
眠れなくなった原因が分かっていたら、こんなに苦労はしていない。
「そっか〜。それは大変だね。ブランデーチョコもいっぱい食べたし、横になって目を閉じていたら、そのうち眠くなるよ。」
「それだと良いのですが...。」
「ま、フレイくんはしばらく医務室のベットで横になってなよ。それとも、寮までお姫様抱っこで運んであげようか♪」
「それは止めてください。」
「ハハハ!冗談だよ!」
そんな下らない話をしていると、スマドの着信音が鳴った。
俺のかと思って確認したが違った。
どうやらシヴァのスマドのようだ。
シヴァはスマドを確認すると、一瞬、顔をしかめた。
そして、いつものふざけた笑顔を作って俺に話しかけた。
「フレイくん、ちょっと僕、用事ができたから出かけてくるね!」
「用事、ですか?」
「そう!それも、とびきり急ぎの。」
シヴァは何かを言おうとしたが、躊躇って口を閉じ「う〜ん」と唸りながら考え始めた。
そして結論が出たのか、再び口を開く。
「実はさ、第一アリーナでタクトくん達が魔物に襲われているらしいんだ!相手はすごく強くて、すぐにでも助けに行かないと死んじゃうかも!って!」
「えっ?」
何やってんだよアイツら。
よりによって、寝不足で疲れている時に面倒ごとを持ってきやがって。
俺は第一アリーナへ向かうために、ベッドから立ち上がる。
「ちょ、どうしたのフレイくん?」
「ちょっと行ってきます。」
「行くって、もしかしてタクトくん達を助けに?」
シヴァの一言で、ふと我に返った。
何で俺は第一アリーナに行こうとしていたんだ?
タクト達を助けるためか?
いや違う。そんなワケがない。
だって俺とアイツらはただの知り合いだ。
アイツらが死んだところで、何とも思わない。
だとしたら、なぜだ?
今も、一刻も早く第一アリーナに行かねばという焦燥感に駆られている。
このまま放っておいたら取り返しがつかなくなりそうな、そんな嫌な予感が焦燥感を助長している。
ライラに「友達ではない」と言おうとした時に感じた、あの嫌な予感によく似た予感だ。
「あれ〜?どうしたの?急に止まって。」
「別に....」
「そう?じゃ、僕はみんなを助けに行くね!」
そう言い残して、シヴァは医務室から出て行った。
「〜〜〜ッ!クソッ!!」
何なんだよ、この嫌な感じは!
さっきから『第一アリーナへ行け』と脅迫してくる。
この手の嫌な予感は、いつも手遅れになってから理由がわかる。
このうざったい嫌な予感は、一体、何を警告しているんだ?
アイツらを助けないとヤバい理由が、考えても思いつかない。
「.....そうか。」
わからないんだったら、アイツらに直接聞けば良いじゃん。
なんで今まで思いつかなかったんだ。
やる事がわかった途端、一気に気が軽くなった。
ブランデーチョコのせいで頭がぐらぐらして気持ち悪いが、気が軽くなったお陰か、テンションはむしろ上がってきている。
「さて、行くか!」
俺は鼻歌を歌いながら、第一アリーナへと向かった。




