【43】第12話:友達じゃない(3)
「ゼルくん。タクトくん。
ちょっと大事な話があるんだけれど、いいかな?」
午前中の授業の終わりに、僕とタクトくんに話しかけたのは、ホリーくんだった。
ホリーくんの周りには、ライラさんとレックス殿下とカタリーナさんもいた。
「いいけど、話って何?」
「ありがとう!ちょっとここで話すのも何だし、場所を変えてもいいかな?」
「いいぜ。」
大事な話ってなんだろ?
僕達は中庭へ移動して、ホリーくんの話を聞くことにした。
「....それで、大事な話って?」
中庭に着くと、ライラさんが単刀直入に聞いた。
「フレイくんのこと、なんだけど....」
ホリーくんのその言葉で、一瞬にしてピリピリとした空気が、場に漂った。
「もしアイツと仲直りしろって話だったら、聞く気ねえから。」
ホリーくんの話を遮るように、タクトくんが牽制する。
タクトくんが仲直りしたくないのも無理はない。
妹が、長年一緒にいた相手に『友達じゃない』と否定されたんだから。
むしろ、一発殴る程度で留めることができたタクトくんは大人だと思う。
普通だったら、フレイくんは殺されていてもおかしくはない。
少なくとも、僕だったら半殺しにしていると思う。
「『仲直りしろ』ってわけじゃないけど、フレイくんに何であんなことを言ったのか、聞いてみたよ。」
僕もみんなも、固唾を飲んでホリーくんの話を聞く。
「彼自身、ライラさんに『友達じゃない』って言ったことを凄く後悔していたよ。多分本心では、彼もライラさんのことを友達だって思っているんじゃないかな。」
「はぁ?だったら尚更、あんなこと言うなんて可笑しいだろ!アイツ、馬鹿なんじゃねえか?」
タクトくんの意見は、もっともだ。
自分から突き放すようなことを言っておいて今更『後悔』だなんて、ライラさんを馬鹿にしているのか?
「それには複雑な理由があって、なぜか彼は『この世界に愛や友情なんて無い』って、本気で信じているみたいなんだ。」
「それは、前にフレイくん自身から聞いたよ。」
「問題はなぜ彼がそう思っているのか、なんだけど、それが彼自身もわからないみたいなんだ。」
彼自身もわからない?
ふざけているのか。
さっきから言っている内容が、いちいち癇に障る。
「フレイくん自身、いつから『愛や友情なんて無い』って思うようになったか分からないらしいんだけど、なぜかそれを当たり前だと思っているフシがあるんだ。その固定観念が邪魔をして、僕達を友達だと認識できないみたい。」
え、『僕達』?
ってことは、僕も友達って思われていなかったってこと??
....この場にフレイくんがいなくて良かった。
いたら、この湧き上がる殺意を抑えられずに、瀕死になるまで殴り続けていたかもしれない。
「みんな、フレイくんが何でそう思っているのか、心当たりはある?特に、フレイくんとの付き合いが長いタクトくんとライラさん、あとカタリーナさんだったら、何かわかるんじゃないかと思ったんだけど、思い当たることはある?」
ホリーくんの問いかけに、タクトくん達はうーんと頭を抱えて思い出そうとする。
そして少しの沈黙の後に、カタリーナさんが何かを思い出したかのように話し始めた。
「もしかしたらソレ、私が原因かも!」
「え?!」
「どういうこと?カタリーナちゃん。」
「この前、アリーシャ様とフレイくんと3人で、恋愛の話をしていたの。その流れで『私とフレイくんって付き合っているのか?』って聞かれたから、私が『フレイくんはただの友達』って断言したの。その時のフレイくん、様子がおかしくて....もしかして彼、あの時相当ショックを受けてたんじゃないかしら?」
なるほど。
好きな人に友達宣言されたのなら、フレイくんの気持ちも少しは理解できる。
普通だったら、ショックで相手をタコ殴りにしていても、おかしくない状況だ。
「愛も友情も信じられなくなるくらいショックを受けたなんて、フレイくんはよほどカタリーナのことが好きだったんだね。....何だか、彼に悪いことをしちゃったなぁ。」
「殿下は何も悪くありませんよ。彼の気持ちに気づかずに、友達だなんて言った私が全部悪いです。
...あぁ!私って、なんて罪深い女なの?」
カタリーナさん、本当に自分が悪いって自覚ある?
自分に酔った態度が、少し鼻についた。
「じゃあ、フレイくんが『友達じゃない』って言ったのは、カタリーナちゃんにフラれて自棄になってたからなの?」
「そうなんじゃない?彼、意外と意地っ張りだもの。」
「本当に、それが原因なのかなぁ?」
ホリーくんはカタリーナさんの説明に懐疑的だった。
「でも、それ以外に思い当たることがないでしょ?ライラちゃんはある?」
ライラさんは首を横に振った。
「だったら、やっぱり原因は私なんじゃない?」
「う〜ん....。そう言われると、そうなのかも。」
ホリーくんは渋々、納得したようだ。
「つーか、アイツがフラれたとか、どうでもいいよ!」
するとタクトくんは、声を荒げて話に割って入った。
「理由が何であれ、ライラに『友達じゃない』って言ったことには変わりねえだろ!」
「確かに、そうだけど...」
「でもホリーくんの話だと、本当はフレイくんも私達を友達だと思ってくれているんだよね?カタリーナちゃんにフラれて意固地になってるだけで、この前のは本心じゃないんでしょ?だったら、別に気にしないよ。」
ライラさんって、怒りの感情が無いのか?
一番の被害者なんだから、タクトくん以上にキレててもおかしくないのに。
....彼女を見ていると、怒りっぽい自分が嫌になってくる。
「ったく、お前は甘すぎなんだよ!そんなんだから、クドージンに馬鹿にされんだろ!」
「今はクドージンさんは関係ないじゃない!」
本当に、その通りだ。
今の話とクドージンさんは全く関係ない。
タクトくんの、何かとこじつけてクドージンさんを批判する態度は、相変わらず鼻につく。
「とにかく!ライラが許そうが、俺は絶対アイツを許さねえから!」
タクトくんがフレイくんを許せない気持ちも、よく分かる。
むしろ、「事情があったのだから仕方ない」と理解しようと努めるライラさんの方が異常だ。
「お兄ちゃん...。」
「それよりさ!来週、よその学校で使われてる最新の魔道具がウチの学校にも導入されるって、シヴァ先生言ってたよな?どんな魔道具が来ると思う?」
よほどフレイくんの話題が嫌だったのか、タクトくんはかなり強引に話題を変えた。
「あぁ、それなら検討ついてるよ。十中八九、学生用魔物転送装置だね。よその学校っていうのは、きっとドーワ侯国に最近できた学校のことだよ。なんせ、ドーワ侯国にいる知人が、学生用魔物転送装置を他国の学校に売ったって言ってたし。」
もうソレ、ほぼ答えじゃん。
ホリーくんは非情にも、みんなに想像を膨らませる猶予を与えることなく即答する。
「へぇ!ドーワ侯国って、色んな魔道具があるんだね。」
「いやいや、それほどでもないよ。」
謙遜はしているが、ホリーくんは嬉しそうだ。
「学生用魔物転送装置か。面白そうじゃねえか!来週、来たら真っ先に俺達で使ってみようぜ!」
「いいわね!」
「賛成!」
こうして僕らは来週、学生用魔物転送装置を使う約束をした。




