【41】第12話:友達じゃない(1)
授業終わりの午後。
俺は今、学校の庭園でライラと一緒にいる。
授業が終わってすぐ、ライラに「大事な話がある」と呼び出されたからだ。
カタリーナが「もしかして、告白?!」と言っていたが、何の話だ?
ライラが、俺に告白するような重大な話があるようには思えない。
少し警戒しながら、ライラが話し出すのを待つ。
「ねぇ、フレイくん....。」
ライラの緊張が、俺にも伝わってくる。
そんなに重要な話なのか?
「私達って....」
俺達って?
「友達、だよね?」
は?
何で、友達?
話が見えない。
「ライラさん、何が聞きたいのですか?」
「私、フレイくんのこと、ずっと友達だと思っていたの。でもフレイくんにとっては違うのかな?ってここ最近ずっと疑問に思ってて....。」
そんなの決まっているじゃないか。
友達なワケがない。
そもそも友達という概念自体、小説や絵本に出てくる架空の概念だ。
そうに決まっている。
なのに、なんだこの変な感じは?
カタリーナに『友達』と言われた時もそうだ。
こそばゆいような感情と、否定したら取り返しのつかないことが起こりそうな嫌な予感。
この手の嫌な予感は、外れた試しがない。
だけど友達なんて、この世に存在するはずがない。
「前にフレイくん、『愛情や友情や家族愛なんて存在しない。ああいうのは小説なんかで出てくるだけで、実際には存在しない。』って言っていたよね?もしフレイくんが本当にそう思っているんだったら、私、友達って思われてないんじゃないかって不安になって...。」
友達なワケがないだろ。
と、即答しようと思ったが、嫌な予感が邪魔をして口が開かない。
「だから、はっきりさせたくて聞いてみたの!
もう一度聞くけど、私達って友達、だよね?」
『友達ではない』と答えようと口を動かす。
だが、断言するのがなぜだか怖い。
初めてのような、懐かしいような、そんな恐怖。
でも、嫌な予感や恐怖に屈するのは気に食わない。
「.....違います。」
俺は強引にそれらを振り切って、ライラを否定した。
するとライラは驚いて目を見開き、わなわなと震えた。
「じゃ、じゃあ、フレイくんにとって、私達って何なの?」
俺にとってのライラ達は何か?
即答できずに、少し考える。
「....よく一緒にいる顔見知り、ですか?」
そう断言した瞬間、ライラの目から溢れんばかりの涙がこぼれ落ちた。
そして俯き、目を擦る様に涙を拭いながら嗚咽する。
ライラの泣く姿を見て、俺は何故か後悔の念に駆られた。
「私達、ずっと一緒にいたのに。....友達って、思われていなかったなんて...!」
すると突然そこに、タクトとカタリーナが現れた。
「ちょっと、フレイくん!ライラちゃんを泣かせるなんて、酷いじゃない!」
「おいフレイ!我が妹とはいえ、こんな美女を振るなんざ、男の風上にも置けねえ奴だな!」
なぜか分からないが、二人は怒りながら俺を責める。
「『振る』って、何の話ですか?」
「違うの、カタリーナちゃん。そんなんじゃ、ないの。」
ライラは泣くのを堪えて、カタリーナ達に説明し出した。
「私ね、フレイくんに『私達って友達?』って聞いたの。そしたら、フレイくんは『違う』って....『ただのよく一緒にいる知り合い』だって...!うわぁぁぁん!!」
ライラは再び泣き出し、それをカタリーナが優しく慰める。
そしてカタリーナは、鬼の形相で俺を睨みつけた。
「フレイくん!アナタどういう神経してるのよ!」
「ライラのことを『知り合い』って...テメェ、それでも幼馴染かよ?!」
タクトは激昂して、俺の胸ぐらを掴んだ。
「だって、そうじゃないですか。よく一緒にいますし、初対面ではないから『知り合い』でしょう?」
するとタクトは唐突に、俺の顔面目掛けて鉄拳を喰らわした。
その衝撃で、俺はよろめいて尻餅を付いた。
「....だったら、テメェは今から知り合い以下だ。二度と俺たちの前に来るんじゃねえ!」
タクトは、泣きじゃくるライラと若干戸惑っているカタリーナを強引に連れて、去ってしまった。
「...痛っ。」
タクトに殴られた顔が、まだヒリヒリする。
思い切り殴られたのに、何故だかタクトにやり返す気が起こらなかった。
むしろ、さっきから感じていた後悔の念が、より一層強くなる。
....俺は間違ったことは言ってない。
なのに。
何故、さっきの自分の発言を忌々しく思うのだろうか。
◆◆◆
「よし!今日の宿題おわり!」
授業が終わって自分の部屋に帰った僕は、宿題を全て終わらせた。
僕は大きく伸びをして、時間をチェックするためにスマドを見る。
するとメールが何件か来ていた。
「やれやれ、今朝チェックしたばかりなのになぁ。」
差出人は誰だろう?
タクトくん達か、ドーワ侯国のみんなからか?
....はたまた変化球で姉さんか。
早速メールを確認すると、差出人はタクトくん達からだった。
「....まずい。これはまずいぞ!」
タクトくん達とフレイくんが絶交だなんて、魔物村以来の一大事だ。
これは事情を聞かないと。
僕は急いで、直接みんなに事情聴取しに行った。
タクトくんのメールによると、みんなは今、教室にいるらしい。
教室の扉の前まで来ると、中からシクシクと泣く声が聞こえた。
この声はきっと、ライラさんだ。
中に入ると案の定、ライラさんがカタリーナさんの胸の中で泣いていた。
その周りには慰めるように、タクトくんやゼルくん、レックス殿下もいた。
いつものメンバーで唯一いないのは、フレイくんだけだった。
「あっ!ホリーか!」
「みんな、何があったの?」
僕は単刀直入に話を聞く。
「フレイの野郎、ライラのこと友達じゃねえとか抜かしやがった!『よく一緒にいる知り合い』だって!子供の頃からずっと一緒にいるのに!マジでムカつく!!」
え、えぇ...。
フレイくんには申し訳ないが、普通に血の気が引いてしまった。
彼はドライな性格だとは思っていたけど、ここまでドライだと怖さを感じる。
フレイくんって、どことなく姉さんに似ているんだよなぁ。
魔物村で、死ぬかもしれない一大事に送ったメール。
そのメールに半日後、『転生した?』とだけ返信してきた姉さんに。
仮にも、血の繋がった実の弟である僕の身を、一切心配しない姉さんに。
...そのせいか、フレイくんを見ていると姉さんを見ているみたいで放っておけないんだよね。
もう少し当時の話を聞いてみよう。
「フレイくんは何故、ライラさんに『よく一緒にいる知り合い』って言ったの?」
「ライラがアイツに『私達って友達?』って聞いたらしいぜ。そしたらアイツ、知り合いだって言いやがった...!」
強く握られた拳から、タクトくんがどれだけ怒っているかが伝わってくる。
「ねぇ、ライラさん。ライラさんからも話を聞きたいんだけど、いいかな?」
するとライラさんは、泣くのをやめて、うつむきながら頷いた。
「ライラさんは、なんでフレイくんに友達かどうかを聞いたの?」
「....この前、他愛もない雑談をしていたとき、話の流れでフレイくんが『愛情や友情や家族愛なんて、この世に存在しない』って言ったの。だから、もしフレイくんが本当にそう思っているんだったら、私は友達って思われていないのかな?って思って....。」
「あー、そういえばアイツ、そんなこと言ってたな。あの後、色々あって忘れてたけど、アイツやっぱり変だろ。」
う〜ん、フレイくんの真意が分からない。
彼が本当にそう思っているとしたら、ライラさんだけでなく僕達全員が、彼に友達と思われていないってことになる。
それどころか、ライトニング公爵や夫人も、家族と思われていないのかもしれない。
そこまで考えると、彼のあまりの情の薄さに、倒れそうなくらい気が遠くなった。
「フレイくんはなんで『愛情や友情や家族愛なんて、この世に存在しない』って思っているの?」
とりあえず、これを知らないと、彼の真意が見えてこない。
そもそも、慈愛あるライトニング公爵夫婦のもとで育ったのに、なぜフレイくんは『愛や友情は存在しない』と思うような人間になったのか?
何か事情があるのか、ないのか。
それだけでもハッキリさせたい。
「それは....聞いてない。」
「そっか。」
だったら、本人に直接聞いてみるしかない。
僕は、晩ご飯のタイミングでフレイくんに話を聞くことにした。




