【39】第11話:永久睡眠・余談A
「カタリーナ様の催眠魔術は、お父様の策略ですか?」
実家に戻った私は、執務室にいるお父様に問いただした。
「アリーシャ、余計なことは考えるな。」
お父様は否定しなかった。
「やっぱり、お父様だったのですね。」
理由は分かっている。
レックス殿下と私を結婚させるのに、カタリーナ様は邪魔になるからだ。
でも、私はカタリーナ様に死んで欲しくない。
だってカタリーナ様は、まるで実の妹のような、大切な人だから。
「お父様、カタリーナ様はすでに私達が狙っていることに気づいておられます。」
「っ?!」
お父様は私の報告に、動揺して息を呑む。
「カタリーナ様が探しておられた厄災が、私達が狙っていることに気づいているようで、厄災経由で情報を知ったそうです。」
「そうか、やはり厄災が絡んでいたか。もしかして奴は、ライトニング領でカタリーナ嬢を襲撃した時から気づいていたのかもしれないな。」
厄災ことクドージンさん。
アラン様のお父上を殺した張本人。
でも、彼の過去を見てしまった今は、彼をそこまで憎めない。
むしろ彼は、私達が救うべき同胞だったのだと思う。
....そんなこと、お父様やアラン様の前では、口が裂けても言えないけれど。
「カタリーナ様に気づかれた以上、これ以上彼女を狙うのはやめた方が良いと思います。」
「いや、予定は変更しない。我々亜人の悲願を達成するには、アリーシャがレックス殿下と結婚する必要がある。たとえエセヴィラン公爵家を敵に回すことになろうとも。」
カタリーナ様に気づかれたことを知っても尚、お父様の意思は揺るがない。
「どうしてもカタリーナ様ではいけないのでしょうか?カタリーナ様が王妃になれば、きっとこの国を亜人にとっても良い国にしてくださるはずです。」
カタリーナ様は以前、亜人が奴隷として扱われている現状に、強い不快感を持たれていた。
それを見た時、私は確信した。
彼女だったら絶対、亜人と人間の架け橋になれる。
「確かにカタリーナ嬢は亜人に対して理解があるように見える。長年、人間社会で生きてきたから、亜人に友好的な人間がいることも知っている。」
「でしたら....!」
「だが、王妃になるのはアリーシャ、お前でなければいけないのだ。」
「えっ?」
「この計画には、この国で虐げられている全ての亜人の運命がかかっている。そんな重大な役割を、生半可な覚悟の者に託してはいけない。一番重要な計画を任せる相手は、一番信頼できる者でないといけないのだ。私が一番信頼できるのは実の娘であるアリーシャだけだ。」
『実の娘』。
お父様に信頼されているのは嬉しいけれど、その言葉だけ引っかかる。
本当に私は、実の娘なの?
「....ですがお父様。もしレックス殿下と私の間に子どもができたら、必然的に私が亜人であることが明るみになってしまいます。ひいてはフォージー侯爵家がキメイラ帝国の工作員であることがバレてしまうのではないのでしょうか?」
「その心配はない。魔人のように目が赤い子が産まれた場合は、目をくり抜けば良い。エルフのように耳が尖っていれば、耳を切り落とせば良い。今までのようにすれば良いだけだ。」
『今までのように』?
「お父様...。なぜ私は、魔人のように目が赤くないのですか?エルフのように耳が尖っていないのですか?」
私はうっかり、心の内に秘めていた疑問を口にしてしまった。
こんな質問、お父様を困らせるだけだと分かっているのに。
「それはお前が奇跡的に、人間そっくりに産まれてきたからだ。お前の目が赤くないのはエルフに似たからだ。そして耳が尖っていないのは魔人に似たからだ。」
「本当に、それだけですか?」
「っ.......。」
「私が似ていないのは、お父様とお母様の、本当の子じゃないからではありませんか!?」
違う。
こんなことを聞きたかったわけじゃない。
むしろ言いたくなかった。
言ったら、お父様達との関係が崩れるから。
なのに、なのに....。
「すまない、アリーシャ。お前を傷つけるつもりはなかった。」
お父様は俯いて、弱々しい声で謝った。
違う、違うの。
私は、お父様を謝らせたかったわけじゃないの。
お父様が謝ることなんて、何一つないのに。
「確かにアリーシャの言う通り、私達夫婦とお前は血が繋がっていない。聡いお前のことだ。ずっと前から気づいて、悩んでいたのだろう。辛い思いをさせてすまなかった。」
アイマスクをしていても、お父様が哀しい目をしているのが分かる。
謝るのは私の方だ。
今まで血の繋がりのない私を、本当の娘のように可愛がってくれたのに。
それなのに余計な詮索をして、今までの関係を壊してしまった。
「だが、これだけは信じて欲しい。」
お父様は私の両肩に手を置き、まるで私の顔を見つめるかのように顔を合わせて、力強い声で話した。
「たとえ血の繋がりはなくとも、アリーシャは私達夫婦の大切な娘だ。」
その瞬間、私は涙が溢れた。
そしてお父様に強く抱きついた。
「お父様っ....!お父様っ.....!」
血の繋がりを気にしていた私は馬鹿だ。
そんなものがなくても、お父様達はお父様達だ。
代わりのいない、世界で一番大切な人達だ。
「お父様、ごめんなさい。」
「よしよし。お前が謝る必要はないよ。」
正直なところ、お父様に聞きたいことはまだある。
『なぜ自分を養子にしたのか?』
『本当の親は誰なのか?』
でも、これ以上質問するのはやめよう。
本当の親や、私を養子にした理由を聞いたところで、お父様達への気持ちは変わらない。
それに大体は想像がつく。
私を養子にしたのは、きっと子宝に恵まれなかったからだろう。
だから人間の姿に近い孤児を引き取ったのだと思う。
そして私の本当の両親は、きっと獣人だ。
私はヒトより成長速度が速いし、身体能力も高い。
獣人の特徴と一致する。
獣人特有の部位が見当たらないのは、きっと私が物心つく前にお父様達が切り落としたからなのだろう。
身体を見回しても切断面が見つからないことを考えると、翼や尻尾のように自分自身で確認できない場所に、獣人特有の部位があったのかもしれない。
お父様に質問したところで、きっと私の予想通りの答えが返ってくるだけに違いない。
だから。
私は、お父様達との関係に水を差すような質問は、もう二度としないと心に誓った。




