【33】第10話:魔物村・余談
某日某所にて。
「魔物村の件、どうやら失敗したようだな。」
「また失敗ですか。誕生日パーティの時といい、今回といい、レックス殿下もしぶといですね。」
「だからドラゴン以外の魔物も発狂させたら良かったんじゃないか。」
「仕方ないだろ。他の魔物も発狂させるとなると、魔物村へ潜入させる団員をそれだけ増やさなければいけない。かといって、あまり多くの団員を潜入させると足がつきやすくなる。」
「じゃあ聞くが、今回の件、アーロン男爵が原因究明のために色々調べているようだが、ちゃんと証拠は消したのか?」
「そこは抜かりありません。発狂魔術の痕跡も消しましたし、魔術を施した工作員も処分しました。」
「なら問題ありませんね。」
「そもそも魔物村の件、何故失敗したのでしょうか。調査報告書を見る限り、途中までドラゴン達はちゃんと発狂して暴れていたんですよね?」
「貴様、もう一度調査報告書を読め。そのドラゴン達はレックス殿下率いる王立ディシュメイン魔法学園の生徒達の手によって倒されたと書いてあるだろう。」
「あっ、本当ですね。ちゃっかりコーキナル公爵のご子息も参戦しているじゃありませんか。自分が親に見捨てられたことを知ってか知らずか分かりませんが。」
「公爵のご子息には同情しますよ。あんな冷徹な男が父親だなんて、可哀相ですよね。
『レックス殿下を確実に殺すには多少の犠牲は仕方ない。むしろ息子が襲われたとなれば、騒動の容疑者として疑われる可能性がなくなる。次男がいるから死んでも問題ない。』
だなんて。
ご子息を少しでも愛していれば出てこない発想ですよ。」
「貴様、公爵への無礼な発言は慎め。今回の作戦もコーキナル公爵の協力があったからこそ実行できたということを忘れるな。」
「ところで発狂させたドラゴン達の中に、ブラッディスカーレットドラゴンとアメジストクルーエルグレイスドラゴンがいたのですよね?
余程の手練れでないと倒せないドラゴン達を、ただの学生が倒せるのでしょうか?」
「可能性があるとすれば、タクト・ブレイブの存在だな。なんせ魔王を倒した勇者の息子だ。ドラゴンを倒せるだけの実力があってもおかしくはない。」
「確かにその可能性はありますが、仮にタクト・ブレイブの手によってドラゴン達が一層されたとしても『被害が一切出なかった』というのは流石に不自然ではありませんか?」
「それは.....」
「もしかして『命の器』の仕業なのか?」
「「!?」」
「調査報告書の証言のいくつかに『死ぬほどの致命傷を受けたはずなのに起きたら何もなかった。』とある。もし仮にこれらの証言をした者全員が一度死んでいて、何者かが魔法で生き返らせたのだとしたら....。」
「馬鹿な!死者を甦らせる魔法なんか、ある筈がない!」
「でも、もし『命属性の魔力があれば魔法で死者を甦らせることができる』としたら、どうだ?」
「確かに、命属性の魔力が生物の生死に関与することは研究で明らかになってはいるが....」
「仮にそんな魔法が可能だとしても、行使するには命属性の魔力が必要だろう!根源から命属性の魔力が生み出されない限り、行使は不可能だ!」
「いるじゃないか。行使可能な者が。根源から命属性の魔力を生み出す者が。」
「......命の器、か!」
「それに調査報告書の目撃証言の一つに『アメジストクルーエルグレイスドラゴンのような角と翼があって、人のような頭のある魔物が呻いているのを見た』ともある。この特徴は命の器の身体的特徴と一致する。」
「しかし命の器は、厄災の魔王が龍脈を封じたあの日に死んだ筈では?」
「それは元々、あくまで可能性の一つに過ぎなかっただろう。あの日、世界の殆どが死の大地と化したわけだから、確率的に死の大地で息絶えている可能性が高いと判断しただけだ。」
「それに命の器は、発見当時キメイラ帝国の使役魔獣だった。あの日も、キメイラ帝国内にいて助かった可能性は十分にある。」
「でしたら、今回現れた命の器もキメイラ帝国による差し金でしょうか?」
「可能性としては考えられるな。だが、キメイラ帝国が魔物村に命の器を連れてくる動機がない。」
「さっきの話だと『魔物村の客を蘇生したのは命の器』ということになるが、魔物村を救うことがキメイラ帝国の目的だったのか?」
「魔物村...ひいてはアーロン男爵を助ける利点が、キメイラ帝国にあるとは思えない。それなら『偶然居合わせた命の器が、たまたま窮地に陥った魔物村を救った』と考える方がまだ現実的だ。」
「...そもそも、なぜ今頃になって命の器は現れたのでしょうか?」
「わからない。ただ一つ言えるのは『命の器を探す手がかりができた』ということだけだ。」
「『手がかり』と言われましても、命の器の目撃証言は先程の1件だけですよ?足取りを追うにしても、情報量が少なすぎます。」
「今まで何も進展のなかった命の器の捜索活動に、進展があっただけでも有難いだろう。」
「それもそうですね。なにせ、命の器は人工龍脈計画を成功させるのに必要不可欠ですから。」
「全く。せっかく各地の教会に、根源を出現させる魔道具を置いたというのに。何もせずとも向こうから現れてくれるのなら、わざわざ魔道具を用意する必要なんてなかったじゃないか。」
「それは結果論ですよ。むしろ『命の器は最後に見た魔物の姿のまま』ということがわかっただけでも、大した進歩です。」
「それに『異世界から抽出した魂の中で、魂に根源が宿っているのは命の器だけではない』ということも分かったじゃないか。」
「あぁ、アレのことですよね。数年前に教会に現れた...。」
「あの魂の根源も、命属性の魔力を生み出していれば人工龍脈計画に使えたものを。」
「仕方ないさ。そもそも同じ異世界から抽出した魂でも、根源のない魂の方が圧倒的に多かったじゃないか。異世界でも、魂に根源があること自体が稀だった可能性がある。」
「そう考えると尚更、命の器を本部から持ち逃げしたヨーグマン所長の悪行が際立ちますね。」
「そうだな。奴が持ち逃げしなければ今頃、人工龍脈計画が成功していたかもしれない。」
「まぁ私としては、命の器を持ち出したヨーグマン所長の気持ちもわからなくはありませんが。なんせ、異世界から命の器を抽出したのは彼ですし。命の器を無理矢理本部に取られた上に、取られた代物が唯一無二の価値のある研究材料だったのですから。私がヨーグマン所長でも同じことをしていましたよ。」
「おい、貴様!教団を裏切るつもりか!」
「例えばの話ですよ。私が教団を裏切るわけがありません。クロノ総裁は信じてくださいますよね?」
「....あぁ。気にしない。話を続けてくれたまえ。」
「ありがとうございます。何はともあれ、今回の一件は失敗に終わりましたが、成果があったので良かったじゃないですか。」
「確かに。君の言う通り、命の器に関する手がかりが得られたのは大きい。我々の目的はあくまで人工龍脈計画の成功。レックス・ディシュメインの暗殺は二の次だ。」
「クロノ総裁....!」
「各位、魔物村周辺及びキメイラ帝国を捜索し、命の器に関する情報を集めるように。」
「「仰せのままに。」」
「本日の定例会議は以上。これにて解散。」
「「全てはソラトリク様のために!!」」
...。
.......。
.............。
「もう直ぐだ。
命の器。お前さえいれば人工龍脈計画が最終段階へ進む。
そうなれば種命地は.....我が故郷は再び蘇る!
あぁ、ついに長年の野望が叶う日が近い!
その日が来るのが待ち遠しい。
そのためにも、命の器を必ずや我が手中に収めてみせる。
たとえ、どんな邪魔が入ろうとも。」
【注意】次のお話からシリアスな展開が多くなります。




