【32】第10話:魔物村(5)
竜族エリアの奥から現れた魔物は、厄災の魔王そのものだった。
「おい、クドージン!なんでお前が二人もいんだよ!」
「知るか!俺が聞きてぇよ!」
そもそもシヴァの話じゃ、厄災の魔王の身体は消滅したんじゃなかったのか?
コイツは一体、どこから湧きやがった?
その魔物はよく見ると、苦しそうに呻いている。
「....ッァアアアアアア!!!」
すると、その魔物は急に大きな雄叫びを上げた。
「危ないっ!」
ホリーは条件反射でバリアを繰り出す。
それと同じタイミングで、魔物は俺の十八番の爆発魔法を、あちこちに乱発して暴れ出した。
ホリーが咄嗟にバリアを覆ったお陰で、俺達は爆発魔法を喰らうことはなかった。
でもバリアの外にあった建物は跡形もなく粉々になり、ドラゴン達も木っ端微塵になった。
折角直した魔物村が、爆発魔法のせいでまた滅茶苦茶になった。
「ったく、余計な仕事を増やしやがって!」
俺はバリアから出て、瞬時に魔物の目の前まで近づき、頭に思い切り蹴りを入れた。
魔物の頭は明後日の方向へと吹っ飛んでいき、頭を失った胴体は大人しくなった。
「あの得体の知れない魔物を、一瞬で倒すなんて...。」
「そういえば宮藤くんって一応、元魔王なのよね。流石だわ。」
「父さん達が戦った相手って、こんなに強い奴だったんだな。」
もう一人の俺の耳を介して、カタリーナ達のそんな会話が聞こえてきた。
俺は再び、無惨な状態になった竜族エリアを魔法で修繕する。
さて、あとはこの魔物の死体を処分するだけだ。
そんなことを考えていると、魔物の首の周りが急にうねうねと脈づき始めた。
そして首の切断面から、吹っ飛ばしたはずの頭が、あっという間に生えてきた。
こういうところまで厄災の魔王と同じなのかよ!?
頭を修復した魔物は再び暴れ出し、爆発魔法を繰り出した。
「クソッ!死ね!」
今度は胴体を蹴飛ばして真っ二つにし、爆発魔法で破壊された場所を修繕する。
しかし、またしばらくすると魔物は胴体を生やして復活した。
何度も何度も殺して魔物村を修繕しては、その度に復活して魔物村を滅茶苦茶にしてくる。
キリがない。
「あんな強い魔物を一方的に殴り続けれるなんて、クドージンさんって凄いなぁ。僕なんか、バリア貼ってるだけでも段々疲れてきたのに。」
「あの魔物、本当にクドージンさんと関係ないの?何度も死ぬような攻撃を受けているのに、その度に復活して....。あれじゃ、まるでクドージンさんの前世と同じ『不死』じゃない。」
「畜生、あんなの相手にどう戦えばいいんだよ!このままじゃ、クドージンの体力が尽きた時点で俺達終わりだぞ。」
俺の体力が尽きたら....?
そういえば今の俺は、魔法で身体能力を強化している状態だけど、魔力が尽きたら身体能力も元に戻るのか?
それに今、分身しているけど、魔力が尽きたらどちらかが消えるのか?
もし魔力が尽きると片方が消える場合、消えた方がフレイだったら正体がバレかねない。
それだけならまだしも、クドージンの方の変身が解けて元の姿に戻ってしまったら、それこそ誤魔化しようがない。
魔力がまだ残っているうちに対策を立てないと。
とりあえず状況を整理するか。
俺は今、2人に分身している。
一方は元の姿のままでホリーのバリアの中にいる。
こちらは特に魔法を使ってはいないから、魔力が尽きても大きな変化はないはずだ。
意識すればフレイ側が何をしているか分かるが、俺自身が動かしている感覚があまりない。
もう一方は魔法で前世の姿に変身している。
さらには魔物と戦うために、身体能力を強化する魔法も使っている。
だからもし魔力が尽きた場合、元の姿に戻った上で魔物に倒される可能性がある。
ちなみに今の俺の意識は、主にクドージン側だ。
こんな感じか?
状況的に考えて、同じ分身でもクドージン側が本体だろうな。
だから仮に魔力が尽きて分身の魔法も解けた場合、フレイ側が消えてクドージン側が残る可能性が高い。
正体がバレる可能性を考えると、クドージン側が残るよりフレイ側が残る方が都合が良い。
俺は本体をクドージン側からフレイ側へ変更した。
そしてクドージン側は念のため、魔力が無くなりかけたら人目につかないところへ逃げて消滅するように念じた。
これで万が一、魔力が尽きても正体がバレることはないだろう。
「あんな化け物、どうすれば良いのよ!今は宮藤くんが抑えてくれているからいいけど、このままじゃ時間の問題よ!」
フレイ側が本体になったからか、コイツらの会話がよく聞こえる。
「おい、コトナカーレ。貴様、バリアを貼りながら移動できるか?」
「え?うん、一応できるけど。」
「だったらあの黒髪が相手をしているうちに、バリアを維持してここから逃げるぞ。」
レオンはあっさり俺を見捨てる決断を下した。
まぁ、あっちは本体じゃないし、別にいいけど。
「駄目だよ!クドージンさんを置いて逃げれるわけ、ないじゃない!」
するとライラが速攻でレオンの提案を却下した。
「そうよ!私達が今死んでいないのは、彼があの魔物を食い止めてくれているお陰じゃない。それなのに見捨てるなんて、アンタ言ってて恥ずかしくないの?!」
「この阿呆どもが!ここにいたところで、奴の手助けどころか足手纏いになるだけだろ!この中に伝説の勇者パーティくらい強い奴がいれば別だが、今この場でまともに戦えるのは、あの黒髪くらいしかいないだろうが!だったら、コトナカーレの魔力が尽きる前に避難した方が、奴も心置きなく戦えるだろ!」
確かに、レオンの言い分も一理ある。
ホリーのバリアが今消えたら、蘇生させる死体が増えて余計に面倒になるだけだ。
「『勇者パーティくらい強い奴』?!
それだよ!なんで今まで気づかなかったんだよ!」
するとタクトは興奮気味でスマドを取り出した。
「どうしたの?お兄ちゃん。」
「シヴァおじさん呼べばいいんだよ!魔物村にいるし、なんたって厄災の魔王を倒した実績があるんだからさ。」
タクトはシヴァ宛にメールを書き始めた。
「シヴァ先生って、スマド持ってたんだ....!」
「タクトくん、よくシヴァ先生の連絡先を知ってたね。」
「へへっ。この前学校で使ってるの見かけて、連絡先教えてもらったんだー!」
それって自慢げに言うようなことなのか?
まぁ、いい。
もうそろそろ俺も魔力が尽きそうだし、あとはあの胡散臭いおっさんに任せるとするか。
厄災の魔王そっくりな魔物は、相変わらず暴れてはもう一人の俺にボコられて、復活してまた暴れるのを繰り返している。
....ように見えていたが、何かおかしい。
さっきまでは生き返る度に暴れていたのに、だんだん大人しくなってきた。
いや、大人しくなったというより、どこか苦しんでいるようにも見える。
俺はクドージンの視界を介して、様子を見た。
クドージンは俺の考えを読み取るように、殺す手を止めて魔物を観察した。
「ウ......アァ.....」
魔物は頭を抱えて、呻き声を出す。
そういえばコイツ、暴れ出す前もこんな感じだったよな。
もしかして、何かが苦しくて、そのせいでさっきから暴れているのか?
「....ニ.......」
ん?
コイツ、何か言おうとしている。
「....ゲッ........テェ.......」
ニ・ゲ・テ。
逃げて?
すると魔物はまた激しく暴れて、爆発魔法を繰り出そうとした。
「クソッ!また攻撃してくんのかよ!」
これ以上施設を破壊されたら、魔力が尽きて修繕できなくなる。
クドージンが魔物に攻撃をしようとしたその時。
「はいは〜い!皆さん、お待たせ!」
地面に光る魔法陣が浮き出たと思ったら、その中からシヴァが現れた。
「そこのオニーサン、ちょ〜っと、どいてくんない?」
クドージンは素直に魔物から離れる。
すると魔物の下に魔法陣が現れたと同時に、魔物は項垂れて大人しくなった。
そして魔物は段々と小さくなり、拳大になったところでシヴァが捕まえて魔道具の中に入れた。
一件落着、か。
とりあえず魔力が尽きる前に、クドージンに施設を元通りにさせて消えてもらうか。
「じゃあな!」
「あっ!待ってキミー!」
クドージンは脇目も振らずに人気のない場所へと移動して、姿を消した。
そして俺達はシヴァのもとへ駆け寄った。
「うそーん!せっかくまた会えたのに。」
シヴァは俺と会いたかったのか、立ち去る俺の背中を追うように、俺が消えた方角を呆然と眺めていた。
「さっすがシヴァおじさん!クドージンですら手こずった相手を、あっさり片付けるなんてスゲー!」
タクトは尊敬の眼差しでシヴァを見つめた。
「ははは。まぁね。伊達に勇者と一緒に戦ってないよ。」
「先生はあの魔物に、一体何をしたんですか?」
「あぁ、さっきの魔術かい?アレは永久睡眠と縮小の魔術さ。永久睡眠は、術者の僕が解除しない限り起きることはないから安心して!」
永久睡眠って、本当にそんな都合のいい魔法なのか?
そうは言っても、ただ眠っているだけだろ。
『シヴァが解除しない限り起きない』って言われても、今一つ信じられないが、周りの連中はそれで納得したようだ。
「そういえばシヴァ先生、さっきあの魔物を捕まえているように見えたんですが、捕まえた魔物はどうするんですか?」
「この子は一応、こっちで処分しておくよ!起きないとはいえ、凶暴な不死の魔物がそのまま放置されてたら、みんな心配でしょ?」
「確かに、そうですね。....でもアレ?厄災の魔王の身体って、魂を転生させたら消滅したって言っていましたよね?さっきの魔物も、永久睡眠させるより転生させた方が、より確実に倒せるんじゃないですか?」
「ホリーくん、キミってホントに鋭いよね.....もしかして前世は、マンガに出てくる『名探偵』ってヤツだったりして♪」
「いえいえ、そんな大したものじゃありませんよ。」
ホリーはシヴァに煽られて、照れ笑いする。
「そんな名探偵ホリーくんの質問に、特別に答えてあげるよ!実はね....僕は『厄災の魔王』って呼ばれている存在が、一体どんな魔物....いや、生物なのかを調べているんだ。」
何っ?
コイツ、俺のことを....。
だからさっき、俺と会いたそうにしていたのか。
「だって、あんな獣人なのか魔物なのか分からない生き物、見たことないでしょ?それに、何回殺しても死なないんだよ?だからあの生き物が、どこに生息していて、どういう体構造をしているのか、純粋に興味があるんだよ。」
確かに『不死の生物』という意味では、俺も前世の身体に興味はある。
それに唯一無二の消滅したあの身体が、どうしてもう一人存在するのかも気にはなる。
だからといってシヴァに協力するつもりはないが。
「でもさ、厄災の魔王ちゃん倒した時は、まさか肉体が消滅するなんて思わなかったからさ。今度はおねんねさせて、じっくり調べる予定だよ♪」
「なるほど!それでシヴァ先生はさっきの魔物を捕獲したんですね。でも、よく考えれば厄災の魔王の時に永久睡眠を使っていれば、肉体が消滅することはなかったんじゃ...」
「ふはははは!残念だったな、名探偵!ボクが厄災の魔王ちゃん相手に永久睡眠を使わないとでも思ったのかい?」
「え、使ったんですか?」
「あぁ。使ったさ。使ったとも。でも厄災の魔王ちゃんは規格外でさ。永久睡眠をかけても秒で目を覚ますんだよ。意味わかんないでしょ?」
そういえば勇者達と戦った時、何度か睡魔に襲われたな。
クソみたいな夢のせいで何度も起きたけど。
....ってことは、やっぱり永久睡眠は当てにならないだろ。
「シヴァ先生、それでしたらさっきの魔物にも永久睡眠は効かないのでは?」
「ははは、心配ご無用だよ、フレイくん。さっきの魔物にはちゃんと効いてたから。じゃなきゃ、捕まえる前に目を覚まして、今頃あの魔物に倒されてるよ。永久睡眠が効かない厄災の魔王ちゃんが特別なだけさ。」
「でも....」
「心配性だなぁ、フレイくんは。まさか....先生が魔物に襲われないか心配してくれているの?
わー!先生、嬉しくって涙がちょちょぎれそう!」
「そんなんじゃありませんって」
「あ!もしかして、照れてるの?わかった!これってマンガの『ツンデレ』ってヤツなんでしょ?普段はツンツンしているフレイくんも、心の奥底ではボクを心配してくれているんだねぇ。嬉しいよ♪」
何でそういう話になるんだよ?!
俺は馬鹿馬鹿しくなって、シヴァにこれ以上言及するのはやめた。
「すみません、先生。質問、いいですか?」
するとレオンが急に、控えめにシヴァに質問した。
「はいは〜い!何だい、レオンくん?」
「ずっっっっっと、気になっていたのですが、先生はあの魔物や黒髪の男を知っているのですか?というか、先程の魔物は厄災の魔王と関係あるのですか?」
今更そこを聞いてくるのかよ!
「嘘!レオンくん、今の今までに何も知らずに今の状況に巻き込まれていたの?!それじゃあ、ちんぷんかんぷんだったね。じゃあ、全部ざっくり説明するよ。」
シヴァはざっくりと、厄災の魔王についての説明をした。
「....ってことなんだ!
あっ、そういえばコレはみんなに言っておきたいんだけど、今日見たことは内緒にしてくれるかな?特にこの魔物ちゃんのこととかさ。この魔物の存在が公になったら、世界中が大混乱になりそうだし。」
そりゃ、そうだろな。
その場にいた全員が、シヴァのお願いに対して首を縦に振った。
「『そういえば』で思ったんだけど、そういえば私達、何か忘れてる気がしない?」
「え?」
「何か?」
ライラのその言葉で、さっきまでの行動を振り返る。
「....あ!」
「どうしたの、フレイくん。」
そういえば。
じいちゃんからもらったガラケー、消した分身側が持っていたんだった。
あのまま消したから、今ごろ魔物村のどこかに落ちているかもしれない。
まぁでも、回収するほどでもないか。
「いえ、何でもありません。」
あのガラケーにはまだ個人情報を登録していなかったから、俺の身元が割れることはない。
あのガラケーは拾ったヤツにあげよう。
「じゃあ、とりあえず今日は校外学習は終わりにするね。一応、事態は収まったとはいえ、あんな事があった後だし。
あ、ちなみに魔物の調査記録はちゃんと出してね♪」
「あぁ!」
「忘れてた!!」
この日、俺達は学生寮に戻った後、魔物の調査記録を大急ぎで作成した。




