【30】第10話:魔物村(3)
「すみません、おじいちゃん呼んできます!」
そう言うとフレイくんは、私達が止める間もなく走り去ってしまった。
「あの阿呆は!今更アーロン男爵を呼んだところでどうにもならないだろ!」
フレイくんには悪いけど、レオンの言う通りよ。
アーロン男爵が仏陀でもない限り、今の魔物達を落ち着かせられるわけがない。
「圧縮!圧縮っ!!」
ひたすら特殊魔法で魔物達を退治していくも、数が多すぎて追いつかない。
「カタリーナさん!こっちです!」
振り向くとホリーくんが、魔法でドーム状のバリアを貼っていた。
中にはすでにライラちゃんがいる。
私もバリアの中に入れてもらって、安全圏から魔物退治を続けた。
「ホリーくん、よくこんな凄い魔法が使えるわね!」
「コレ、僕の特殊魔法なんだ。魔法は全然使えないけど、唯一使えるのがこの魔法で良かったって、今はじめて思ったよ。」
バリア越しに、殿下達の様子を見る。
殿下も、タクトくんも、あと一応レオンも、剣がないからか戦いにくそう。
「この辺に剣があったら、あの3人に渡せるのに!」
ただでさえ強い魔物達なのに、武器なしで戦うのはあまりにも分が悪い。
「せめて私も魔法か魔術で戦えたら...。」
ライラちゃんは、戦えないことに不甲斐なさを感じているみたい。
「魔法か『魔術』?それだよ!」
すると突然、ホリーくんが何かを思いついたように、片手でスマドを取り出した。
そして片手でバリアを維持しながら、もう片方の手でスマドを操作し始めた。
操作し始めて少し経ったあと、ホリーくんのスマドが鳴った。
ホリーくんはスマドを確認する。
「早っ!流石あの人だな。」
そう呟くと、ライラちゃんにスマドを渡した。
「ライラさん、その写真の通りに魔法陣を描いて魔力を流してみて!」
「え?う、うん!やってみる!」
ライラちゃんは言われた通りに、スマドを見ながら魔法陣を描き出した。
「ねぇホリーくん、ライラちゃんに何させようとしているの?」
「剣を作り出す魔術だよ。さっきメールで、知人に剣を作り出す魔術を聞いたんだ。あの写真通りに描いて、魔法陣に魔力を流せば剣が作れるハズだよ。」
なるほど。
ナイスアイデアよ、ホリーくん!
そしてこの世界に文明の利器を作ったダイフク商会もナイス!
...欲を言うと、ネットで検索できるようになれば、もっと手っ取り早いんだけどなぁ。
「描けたよ!」
ライラちゃんは魔法陣に手を当てて、魔力を流し始めた。
...しかし、何も起こらない。
「え?なんで?」
ライラちゃんは魔法陣とホリーくんのスマドを見比べる。
するとその時、ホリーくんのスマドがまた鳴った。
「ねぇ、ホリーくん。ザボエルって人からメールが届いたみたいだよ。」
「っ!?ライラさん、メール見せて!」
ライラちゃんは急いでホリーくんにスマドを渡した。
ホリーくんは慌ててメールを確認する。
「そういうところ、ホント最高だよ。」
メールを読み終わると、ホリーくんは微笑みながら、ライラちゃんにまたスマドを渡した。
「コレを読んだ上で、もう一回さっきの魔法陣を描いてみて!」
「うん!えっーと.....。
『取り急ぎ魔法陣だけ送ったぞ。
どうせ貴様の高慢な姉は返信しないだろうからな。
念のため、貴様が魔術の使い方を知らない場合を考慮して、補足説明をしておく。
魔術はただ魔法陣を描くだけでは発動しない。
魔法陣は、魔力の流れを作っておかないと、ただの絵と同じだ。
魔力の流れを作るには、魔法陣を描く時、常に微量の魔力を流す必要がある。
この時、流す魔力量が多すぎると、描いている途中で変な魔術が発動する可能性があるから気をつけろ。
もし魔力を流すのが難しい場合は、血で描け。
血には、魔法陣を描くのに丁度いいくらいの微量な魔力が含まれているからな。
そして魔法陣が完成したら、必要量の魔力を流せ。
流す魔力の量が少ないと、魔術は発動しないぞ。
仮に必要量以上の魔力を流しても、発動する魔術に副作用や変化はないから安心しろ。
魔力量の調整が難しい場合は、魔法陣に全魔力を注ぐつもりでやれば、失敗しないだろう。
検討を祈る。
(追伸)生きて帰れたら、給料を倍にしろ。』」
メールの差出人は、学校でまだ魔術の基礎を習っていない可能性を想定していたかのように、懇切丁寧に魔術の基礎を教えてくれた。
ライラちゃんはメールを読んで、魔術が発動しない理由に気づいたようだ。
「血だよ!血で描けばいいんだ!」
ライラちゃんは指を切って、もう一度魔法陣を描き始めた。
そして魔法陣を描き終えて、魔力を流す。
すると魔法陣は神々しい光を放ち、魔法陣の中から剣が3本出てきた。
「できた...!できたよ!」
ライラちゃんは剣を抱えて、タクトくん達に届けるためにバリアの外へ出ようとした。
「待って!私が届けるわ。外は危ないわよ。」
「カタリーナちゃん!でもそれだと、カタリーナちゃんが危ないよ。」
「大丈夫!私には圧縮魔法があるから!」
そう言って、私は強引にライラちゃんの剣を奪い、バリアの外へ出た。そしてドラゴンと戦っている殿下達に、剣を渡した。
「ありがとう、カタリーナ。」
「殿下、お礼ならライラちゃんに言ってください。」
「コレで本気が出せるぜ!」
そこから殿下達は、水を得た魚のように勢いづいて、ドラゴン達を圧倒した。
ディシュメインの王族は代々、身体能力が高く、剣術や武術に秀でた人が多い。
そのためか、殿下は『剣豪』と言われるくらい、剣術に長けている。
...まぁ、『王族だから身体能力が高い』っていう理屈は、レオンにも当てはまっちゃうけど。
タクトくんは、伝説の勇者の息子だからか、一太刀の威力がすさまじく高い。
そんな3人の手にかかれば、ドラゴン退治は余裕だわ。
私はホリーくんのバリア内に戻って、安全圏からドラゴンを駆除することにした。
その後、私たちは順調にドラゴン達を始末していった。
あともう少しで、ひと通りドラゴン達を退治し終える。
そう思った矢先、竜族エリアの奥から2匹の大きな魔物が移動してくる気配を感じた。
「...嘘、だろ?」
「ははは......そういえば、こいつらもいたんだっけ。」
ブラッディスカーレットドラゴンと、アメジストクルーエルグレイスドラゴン。
どちらも国一つ滅ぼせるレベルの魔物だ。
いくら3人が剣を持っているからって、この2匹を相手に戦うのは厳しい。
「圧・縮!!」
それでも僅かな可能性に懸けて、私は2匹に圧縮魔法をかけた。
しかし力不足だからか、ドラゴン達は小さく丸まるだけで、肉団子になるまで圧縮するのは無理だった。
「やっぱり駄目か。」
するとドラゴン達は、私を睨みつけて襲いかかってきた。
だけどホリーくんのバリアのおかげで、攻撃を喰らうことはなかった。
「このドラゴン達、強い!このままじゃ、バリアが解けちゃうかも!」
ホリーくんは額に汗をかきながら、弱音を吐いた。
このままじゃ、ホリーくん達まで私の巻き添えを喰らっちゃう。
「私、ここから出るわ!身体強化魔法!」
「あっ!ダメだ、カタリーナさん!」
私は、自分自身に身体能力を強化する魔法をかけた。
そしてドラゴン達の隙を突いて、バリアの外へ出て全力疾走で竜族エリアへ向かった。
ドラゴン達の狙いは私だ。
私が人のいないところまで移動すれば、ドラゴン達も付いて来て被害を抑えられるはず。
ドラゴン達は竜巻や氷塊で私を狙ってくるも、身体能力が強化された今の私には当たらない。
常人の何倍ものスピードで移動できるようになった私は、ドラゴン達の攻撃をうまく躱しながら竜族エリアへと進む。
身体能力を強化する魔法は、原作の破滅フラグを回避するために覚えた魔法だ。
『国外追放後に亜人に殺される』って宮藤くんに教えてもらってから、必死に魔法を練習した甲斐があったわ。
....あれ?でも、宮藤くんから聞いた原作には、こんな展開なかったわ?
宮藤くん、きっとそこまでは覚えていなかったのね。
そんなことを考えていると、竜族エリアの中央付近まで来た。
ドラゴン達が散々暴れた後だからか、建物はほぼ全て崩壊していた。
ところどころに、ドラゴン達に襲われた人達の亡骸が、散在していた。
ここなら、ドラゴン達が暴れても被害が最小限で済む。
「さて、問題は『ここからどうするか?』よね。」
ドラゴン達を連れてきたのはいいけれど、ここからどうすればいいか、全く思いつかない。
身体能力を強化したとはいえ、武術を習っていない私が殿下達のように戦ったところで、返り討ちにあうのは目に見えている。
かといって、このまま逃げ続けるだけだと、いずれ限界が来てしまう。
どうすればいいか考えていると、殿下達がこちらに来ているのが見えた。
「この阿呆が!一人で対処できる相手じゃないだろ!」
「そうだよ、カタリーナ!自分がどれだけ危険なことをしているのか、分かっているのか?」
「ごめんなさい....。」
合流するや否や、レオンと殿下に盛大に怒られてしまった。
レオンに怒鳴られて腹が立つとか、殿下に心配してもらえて嬉しいとか思ったけど、今はそんなこと考えている場合じゃない。
....そうだ。
いいこと思いついたわ!
「それより3人とも、今からみんなに身体能力を強化する魔法をかけるけど、戦えそう?」
「おう!任せろ!」
私は3人に身体強化魔法をかけた。
ただでさえ相当強い3人に身体強化魔法をかければ、鬼に金棒だ。
ドラゴン2匹と殿下達3人は、互角に渡り合っている。
....いや、よく見たら徐々に3人が押されていた。
他に私にできることはないかしら?
さっきまで散々魔法を使ったから、もうほとんど魔力が残っていない。
使えたとしても、圧縮魔法2回が精一杯だ。
せめて圧縮魔法で、ドラゴンに大ダメージを負わせることができれば...。
「そうだ!」
私はアメジストクルーエルグレイスドラゴンの目玉だけに、圧縮魔法をかけた。
目玉だけだったら、潰せるかもしれない。
私の思惑通り、アメジストクルーエルグレイスドラゴンの目玉は、グシャっと音を立てて潰れた。
目玉を潰されたアメジストクルーエルグレイスドラゴンは、大きな悲鳴をあげながら暴れ出した。
私はすかさず、もう一つの目玉も圧縮して潰す。
これでもう私は魔法が使えなくなったが、代わりにアメジストクルーエルグレイスドラゴンの視界を完全に潰すことができた。
「みんな!今のうちにアメジストクルーエルグレイスドラゴンを先に倒して!」
敵が多い時は、弱っている敵を集中的に攻撃して、数を減らした方が合理的だ。
殿下達3人はアメジストクルーエルグレイスドラゴンに狙いを定めて、一斉攻撃を仕掛ける。
そのおかげか、アメジストクルーエルグレイスドラゴンは力尽きて倒れた。
「...やったわ!」
これで残すは、あと一匹。
でも、みんな体力をかなり消耗しているみたい。
3人は肩で息をしながら、残りの一匹....ブラッディスカーレットドラゴンを睨みつける。
「龍華月翔!」
「鳳凰天空斬!」
タクトくんとレオンが渾身の一撃を放つも、ブラッディスカーレットドラゴンは、よろめきもしない。
殿下も高くジャンプして、追撃しようとした。
「虎跳猛襲うっ....!」
しかし、殿下の一撃が入ることはなかった。
殿下はブラッディスカーレットドラゴンの尻尾に撃ち落とされ、地面に叩きつけられた。
尻尾の威力は凄まじく、地面に叩きつけた勢いで砂埃が大きく舞った。
「殿下っ!」
私はいてもたってもいられなくなって、殿下のそばに駆け寄った。
「殿下!大丈夫ですか?殿下!」
思い切り地面に叩きつけられた殿下は、目を覚まさない。
「殿、下...?」
殿下の息遣いを感じない。
そんな、もしかして....。
嫌。こんなの、嘘よ。
認めたくない。
だけど。
「ぅあああああ!!」
無駄だとわかっていても、ブラッディスカーレットドラゴンを攻撃せずにはいられなかった。
殿下をこんな目に遭わせたアイツが許せない。
私は殴りかかろうとしたけど、殴るどころか近づくことすらできなかった。
奴が繰り出した竜巻に巻き込まれて、私の身体は空高くに吹っ飛ばされた。




