【29】第10話:魔物村(2)
ふれあい広場をひと通り堪能した後は、すぐ近くの猩猩族エリアを見て回った。
猩猩族エリアには、子どもの頃ライラ達を襲ったクレイジーモンキーもいた。
「俺、猿って嫌いなんだよなぁ〜。子どもの頃のこと、どうしても思い出すからさぁ。」
「私も。強引なお兄ちゃんのせいで、あの時は酷い目に遭ったよね。」
クレイジーモンキーを見ていたタクトとライラは、あの時のことを思い出していたようだ。
「それにしてもあの時、フレイくんよく無事だったよね。」
「ホント、不思議だよな。お前あの時、どこに逃げてたんだ?」
「あ、あの時は必死で、.....僕も何が何だか。」
焦った。
タクト達が急に昔のことを言及してくるから、一瞬ヒヤッとしたじゃないか。
「そういえばクレイジーモンキーの看板に『走行速度は成人男性の2倍』って書いてあったけど、子どもなのによく逃げ切れたよね。」
うわっ!
看板め、余計なことを書きやがって!
「えっと、その、あの....タ、タクトくんとライラさんに気を取られていたおかげで、逃げ切れたのかもしれませんね!」
思いっきり動揺してしまったが、大丈夫だろうか?
「そっか。運が良かったね、フレイくん。」
「お前、レオンに喧嘩売る度胸はあるくせに、亜人や魔物からは速攻で逃げるんだな。何か、小物っぽいな。」
「あははは、そうかもしれませんね。」
小物扱いは癪だが変に疑われても困るので、あえて否定しないでおこう。
そんな話をしていると、向こうにいるカタリーナ達が誰かと揉めているのが見えた。
相手は案の定、レオン達だった。
「あーあ。タクトくんがレオン卿の名前を出すから、レオン卿が湧いちゃったじゃないですか。」
「レオンくんが湧くって....虫が湧くみたいに言わなくても....。」
「あぁ?アイツがいんのか?」
タクトは振り返って、カタリーナの方を見た。
「あ、ホントだ!またカタリーナにちょっかい出してんのか。懲りない奴だよな。」
「案外、レオンくんってカタリーナちゃんのことが好きなのかな?」
「プッ!」
「ハハハハ!」
ライラがあまりにも馬鹿馬鹿しいことを言い出すので、思わずタクトと一緒に笑ってしまった。
もし仮にライラの言う通りだとしたら、アップスターオレンジで母さんが考えた設定そのものじゃないか。
ライラといい、母さんといい、何で女ってメルヘンな趣味のヤツが多いんだ?
「あのレオンがカタリーナのこと好きなわけねーだろ!会うたびに悪態ついてる奴だぞ?」
「でもそれって、実は愛情表現の裏返しかもしれないよ?」
「だとしたら、レオンは愛情表現が不器用すぎるだろ。」
「それに未だに『好き』とか言ってるなんて、ライラさんは可愛いですね。もしかして恋愛とか、友情とか、家族愛があるなんて、まだ思ってたりしますか?ああいうのは、小説や物語を面白くさせるためのものであって、現実にはありませんよ。」
俺がそう言うと、なぜか一瞬、場がしんと静まり返った。
ライラが黙るのはまだしも、タクトまで表情を凍りつかせて無言になったのは何でだ?
「....え?なに言ってるの、フレイくん?」
「なにって、現実を教えてあげただけですよ。あ!もしかして『真実の愛』とか『一生の友達』とかに憧れてましたか?だとしたら、もうそろそろ現実を受け入れた方が良いですよ。」
「お前...それ、本気で言ってんのかよ?」
タクトは同調するどころか、信じられないものを見るかのように俺を睨む。
もしかしてタクトも、ライラ寄りの考えだったのか?
....勇者サマー。お前、どういう教育したら、こんなメルヘン思考な子どもに育つんですかー。
すると、ライラ達との会話に割って入るかのように、遠くの方から悲鳴が聞こえてきた。
方角からして、竜族エリアから聞こえてくる。
「え?なに?」
「なんか、人がこっちに来てねぇか?」
竜族エリアの方角を見ると、大勢の客が逃げるように走ってこちらに来ている。
そして、その人混みの後ろから、沢山のドラゴンが追いかけるように、こっちに来ていた。
「やばい!逃げろ!!」
タクトの叫びとともに、俺達はドラゴンを背にして走り出した。
前方を見ると、カタリーナ達がレオン達と一緒に逃げているのが見えたので合流した。
「フレイくん、あれ一体どういうことよ!」
「知りませんよ!僕だって、おじいちゃんから何も聞いていませんって!」
あのドラゴン達は、どう考えても竜族エリアにいたドラゴン達だ。
何で今更、脱走したんだ?
檻は魔道具で結界を張っていたし、何より人を襲わないように教育させていたハズだ。
それにあのドラゴン達、明らかにいつもと様子がおかしい。
「それより、ゼルくんはどこ?カタリーナちゃん達とは一緒にいなかったの?」
「ゼルくんは、さっきトイレに行ってから帰ってきてないよ!」
ゼルのやつ、タイミング良く難を逃れやがって。
「クソッ!逃げてても埒があかねぇ!」
するとタクトは急に立ち止まって、ドラゴン達の方を向いて構えた。
「火炎連脚!」
タクトは脚に炎を纏わせて、ドラゴン達のうちの1匹に飛び蹴りを入れた。
その蹴りは、昔戦った勇者パーティの女格闘家の蹴りに似ていた。
...まぁ、キレも威力も女格闘家とは程遠いが。
頭に蹴りを喰らったドラゴンは、地面に叩きつけられた。
「へへっ。どうだ!母さん直伝の火炎連脚は!」
「ちょっとタクトくん!ドラゴンを傷つけないでくださいよ!アレでも、おじいちゃんの大切な魔物なんですから!」
「うるせぇ!そんなこと言ってる場合か?!」
「タクトくん、私も手伝うわ!」
今度はカタリーナが前に出て、1匹のドラゴンに向かって手を翳した。
「圧・縮!!」
すると手を向けられたドラゴンは、四方八方へと血飛沫を出しながら、小さな丸い肉塊へと姿を変えた。
「どんなもんよ!悪役令嬢の特殊魔法ナメんじゃないわよ!」
タクトとカタリーナが攻撃したのを皮切りに、殿下やレオン、その場に居合わせた大人たちまでもが一斉に応戦し出した。
そのおかげか、ドラゴン達の進行スピードが緩やかになった。
だがドラゴン達が暴れているせいで、猩猩族の魔物達の檻が次々と破壊されていった。
檻の中から出た魔物達は、騒動のせいでパニックになって、人を襲い始める。
そのせいか、じわじわと魔物達の勢いに押されてきた。
「おい!そこの半分平民!貴様、魔法がそこそこ使えるんだから応戦しろ!」
「嫌ですよ!これ以上魔物達が死んじゃったら、魔物村が潰れちゃうじゃないですか!」
「アホか!こんだけ人も魔物も死んでんだから、どのみち魔物村は潰れるに決まってんだろ!」
えっ。
魔物村、潰れちゃうのか?
もしそんなことになったら、じいちゃんが莫大な負債を抱えてしまう。
そしてライトニング家も、じいちゃんの負債を肩代わりして借金地獄に。
そして没落・一家離散.......。
完。
まずい。
まずいまずいまずい!
何としても、それだけは避けないと!
....そうか!
施設も人も魔物も、全部魔法で元通りにすれば解決じゃねえか。
いや待て。
今、魔法で全部元通りにしたら『フレイくんも蘇生魔法が使えるの?もしかしてフレイくんがクドージンさん?!』と勘づかれる。
何か他に方法はないか?
....あ!
そういえば今日、じいちゃんは魔物村のステージにいるんだった。
『授業を受けてる俺の顔が見たい』とか何とか言ってたな。
ほとんどの魔物達はじいちゃんに懐いている。
じいちゃんだったら、暴れている魔物達を落ち着かせられるかもしれない。
「あっ!フレイくん、どこ行くの?」
「すみません、おじいちゃん呼んできます!おじいちゃんだったら、きっと魔物達を落ち着かせられるハズなので!」
その言葉を残して、俺は急いでステージまで走った。
走って。
走って、走って....。
ステージに向かって走っている途中、あることに気がついた。
「今なら誰もいないし、変身して魔法を使えば正体バレないんじゃないか?」
だったら、じいちゃんも呼ぶ必要ないか?
いや、生き返った魔物がまた暴れ出す可能性もある。
やっぱりじいちゃんも呼びに行こう。
俺は魔法で分身し、一方は前世の姿に変身して猩猩族エリアに戻り、もう一方は元の姿のままステージへと向かった。




