【28】第10話:魔物村(1)
「よし、みんないるね。それじゃあ、今日の校外学習について説明するよ!」
今日の授業は、学校から徒歩30分圏内にあるレジャー施設で行われる。
『魔物村』。
それがこの施設の名前だ。
この施設では数多くの魔物が飼育されている。
一部の魔物は、なんと触れ合うことも可能だ。
...というか、ぶっちゃけ動物園だろ。
俺達生徒と担任のシヴァは、施設の受付の前に集まっていた。
「今日の校外学習は、みんなに実物の魔物を見て、魔物の生態系について勉強してもらうのが目的だよ。
...というのは建前!
みんな、今日はいっぱい魔物を見て、触れ合って、楽しんでおいで〜♪」
相変わらず、コイツの授業は適当だな。
「あっ、でも一応授業だから課題もあるよ。一人最低5種類以上、魔物村にいる魔物の調査記録を提出してね〜。」
うわー。
面倒くさい課題を出しやがって。
ただ単にシヴァが手を抜きたいだけだろ。
シヴァから課題用のプリントを受け取り、魔物村の中に入ったら、後は自由行動になった。
俺はいつものメンバーと一緒に、魔物村内を歩き回ることにした。
「うわー!すっげー!!魔物がうじゃうじゃいる!!」
「本当に凄いね。これだけの魔物を間近で見ることなんて、王族の僕でもそんなにないよ。」
「こんな素敵な施設を作るなんて、フレイくんのお祖父さんは流石だね。」
「いえいえ、それほどでも。」
魔物村は祖父のアーロン男爵が経営しているレジャー施設だ。
この施設はダイフク商会の『ニホンアイランド』に対抗するために作られた。
元々じいちゃんは趣味で魔物をたくさん飼っていた。
そんなじいちゃんがニホンアイランドに対抗するレジャー施設を考えていた時、兄さんが『沢山飼っている魔物を使って動物園にしたら?』という助言をしたことで、この魔物村ができたのだ。
「私、魔物のふれあい広場に行ってみたい!」
「いいわね!でも、ここからだと少し距離があるし、竜族エリアを見ながらふれあい広場に向かうのはどうかしら?」
「賛成!」
俺達は竜族エリアで竜の魔物を見ながら、歩き回った。
「うわぁ...!竜族の魔物って、こんなに沢山いるんだ!」
「動物園にドラゴンがいるなんて、異世界っぽいわね!」
「レッサーピクシードラゴンに、フレグランスドラゴン、トゥインクルエネルドラゴン.....どれも同じにしか見えねー。」
「こっちのブラッディスカーレットドラゴンは、大昔に一国を滅ぼしたくらい凶暴な魔物らしいよ。」
「へぇ、怖いね。」
ブラッディスカーレットドラゴンって確か、子供の頃母さんを襲った魔物だよな?
あの魔物、一国を滅ぼせるくらい強い魔物だったのか。
「コイツら、間違って俺達を襲って来ないよな?」
「それは大丈夫です。魔物が檻から逃げないように、魔道具で何重も結界を張ってますから。」
ここにいる魔物のほとんどが、元々じいちゃんが長年飼っている魔物だ。
今更、檻から脱走する魔物はいないだろう。
「見て。檻の端の看板、魔物の特徴や生体について細かく書いてあるよ!」
「ホントだ!調査記録、これの丸写しでいいじゃん!」
「お兄ちゃん、流石に丸写しは悪いよ...」
「そうですよ。みんなで丸写ししたら、みんな同じ調査記録になって、丸写ししたのがバレちゃいますよ。」
とはいえ、調査記録を書くのは面倒だ。
俺は、他のやつの調査記録を覗き見して種類が被らないようにしながら、看板の説明書きを文脈を変えて写すことにした。
竜族エリアで書くのは、ブラッディスカーレットドラゴンだけにしておこう。
流石に5種類ともドラゴンだとバランスが悪い。
ライラ達も俺と同じで、調査記録を書くのは1種類だけだった。
だけどタクトだけは違った。
ドラゴンだけで調査記録を全部書き終わらせるつもりらしい。
....アホなタクトらしい行動だな。
アホなタクトのせいで、タクトが調査記録を書き終えるまで、他全員がドラゴン達を見ながら待つ羽目になった。
あー、暇。
じいちゃんには悪いが、動物園って何が面白いのかさっぱりわからない。
動物園って基本、動物を一回見たら終わりじゃねえか。
スマドで動物の写真見るのと何が違うんだ?
そんなことをぼーっと考えながら目の前のドラゴンを眺めていると、後ろからライラとゼルが現れた。
「フレイくんも、アメジストクルーエルグレイスドラゴンが気になるの?」
「え?アメ...何ですか?」
「フレイくんが今見てるドラゴンのことだよ。ほら。」
そう言ってライラは看板を指刺した。
確かにそこには、アメ何ちゃらドラゴンの説明が書かれている。
「このドラゴン、覚えにくい名前ですね。」
「そうだね。僕はこのドラゴンを調査記録に書いたんだけど、名前が長くて書くのが大変だったよ。」
「これだけ名前が長いと、名前を乱用するだけで調査記録が埋まりそうですね。」
「あはは!お兄ちゃんじゃあるまいし、ゼルくんはそんな姑息なことしないよ。」
もしかして、遠回しに『タクトと同じ発想』だって馬鹿にしてるのか?
「このドラゴン、綺麗だよね。キラキラ輝いていて、まるで宝石みたい。ゼルくんが調査記録を書きたくなるのも分かるよ。」
「....うん。確かに、綺麗だね。」
?
ゼルのヤツ、歯切れの悪い返事をしやがる。
「ねぇ、あの翼と角、あの人に似ていると思わない?」
ゼルは、アメ何とかドラゴンを指差しながら、俺とライラに尋ねた。
「あの人って、誰ですか?」
「....厄災の魔王だよ。」
前世の俺?
俺は改めてアメほにゃららドラゴンをじっくり見た。
確かに、紫色に輝く翼と角は似ている気がする。
....もしかして、コイツも素材の一部だったのか?
「ホントだ!クドージンさんに似てるかも。もしかしてクドージンさんのご先祖さまの中に、アメジストクルーエルグレイスドラゴンがいたのかな?」
「....それは違うと思うよ。ただの勘、だけど。」
前世の祖先、か。
そもそも俺は前世のルーツなんざ知らない。
少なくとも、祖先にドラゴンはいないと思う。
そもそも、あのドラゴンと俺が似ていた理由は、遺伝とは関係ない。
「アメジストクルーエルグレイスドラゴンも、凶暴な魔物らしいよ。美しい上に素材としての価値も高いから、毎年沢山の冒険者が挑むんだって。でもほとんどの冒険者は返り討ちにあうから、『冒険者殺しの龍』なんて言われているんだ。」
「へぇ〜、そうなんだ。」
「調査記録の参考に看板を読んだんだけど、そんなことが書いてあったよ。」
そんな雑談をしていると、タクトから『調査記録が書き終わった』と連絡が入った。
俺達はタクト達と合流して、魔物のふれあい広場へと移動した。
◆◆◆
「わぁ〜!この子、もふもふしていて気持ちいい!」
ふれあい広場には、比較的小さくて大人しい魔物が、数多くいる。
広場は、そんな魔物と戯れている子連れ客で賑わっていた。
「この世界のスライムって、大きいグミみたい。『僕は悪いスライムじゃないよ』ってね。」
「カタリーナ、悪いスライムって、何?」
「....殿下、元ネタは前世です。」
「わからないけど、何となくわかったよ。」
カタリーナって、たまに俺も知らないような前世の知識を言うよな。
カタリーナの前世って女オタクっぽいし、多分オタクの専門用語か何かなのだろう。
「私、この子達の調査記録を書こうかな。」
「いいわね。私もスライムちゃんの調査記録でも書こーっと!」
ライラとカタリーナは、ここでも調査記録を書くようだ。
俺も一応、書いておくか。
そう思って、ここにいる魔物の説明が書いてある看板を読んだ。
だけど、竜族エリアほど詳しい説明が書いていない。
これじゃ、仮に丸写ししても調査記録を埋められない。
仕方ないが、ここの魔物は調査記録を見送るか。
そんな事を考えていると、スライムをバンバン殴っている子どもが視界に入った。
ふれあい広場じゃ魔物への暴力は御法度だ。
それなのに親が離れているからか、好き勝手にスライムをいじめている。
仕方ない。親の代わりに俺がしつけてやるか。
「コラ!スライム殴っちゃ駄目ですよ!」
俺は子どもの頭を掴んで、床に何度も叩きつけてやった。
そして頭を持ち上げ、目を合わせて話しかけた。
「ほら。叩かれると痛いでしょ?スライムも同じ気持ちだったんですよ。」
子どもはガクガクと震えながら俺を見つめている。
もちろん、訴えられないように、回復魔法で怪我は治してやった。
怪我は治したとはいえ、これだけ痛めつければ懲りて2度としないだろう。
「フレイ、お前なにやってんだよ!」
すると急に、タクトが怒鳴った。
その隙を狙うかのように、子どもは俺の手から離れて逃げていった。
「何って....見ての通り、躾けてあげていたんですよ。」
「しつけって.....やりすぎよ!」
「大丈夫ですよ。ああ見えて怪我をしないように調整してますから。」
「そういう問題じゃないよ。」
「そうだよ。いくら悪いことをしていたとしても、暴力を振るうのは良くないよ。」
なぜかタクト以外からも総スカンをくらった。
「そう言われましても。子どもはお馬鹿さんですから、注意したところで言うことが聞けるわけないじゃないですか。だからこうやって、殴って覚えさせないと、いつまでも改善しませんよ?」
「そんなことないよ!」
「つーかお前の親、一体どうゆう教育してんだよ。」
はぁ?
百歩譲って俺に文句があるならまだしも、なんでソレで父さん達の話になるんだよ。
「それ、父さん達は関係ない話ですよね?」
「お兄ちゃん、さすがにフレイくんのお父さん達はそんな教育していないんじゃない?」
「確かに、公爵もアネッサ様も穏和な人だしね。」
「まぁ、そう言われてみれば、そうか。」
タクトはライラ達に指摘されて、思い直したようだ。
...そういえば父さん達は、俺を躾ける時に殴ったことは一度も無かったな。
まぁ俺は子どもとはいえ、精神は大人だから殴る必要も無かったってことか。
「まぁまぁ、みんな。フレイくんは悪気があって殴ったんじゃないよ。あの子がちゃんとした大人になれるように、ダメなことを教えてくれたんだよ。だよね、フレイくん?」
「ええ、そうですよ。」
この場で唯一、俺の味方なのはホリーだけだった。
「フレイくんも災難だね。せっかくあの子のために躾けただけなのに、みんなから否定されて。」
「はい。」
本当に、とんだ災難だ。
親の代わりに躾けてやっただけなのに、何で全員から総スカン喰らわなきゃいけないんだ。
悪いのはルールが守れないクソガキと、躾がちゃんとできていないカス親だろ。
「そこで、思ったんだけどさ。今度からは口での注意だけにするのはどうかな?それでもし、言っても伝わらない子の場合は、親に相談するっていうのはどう?フレイくんが損な役を負ってまでして、知らない子どもを躾けてあげる義理はないよ。」
「それも、そうですね。」
確かに、わざわざ躾けてやるより、そっちの方が手間が省けて良い。
「今度からはホリーくんの言う通り、言っても分からない子どもには、親に連絡しますよ。殴ってまで躾けるのも馬鹿馬鹿しいですし。」
「うん!それが一番だよ!」
するとホリー以外のみんなも、うんうんと納得して頷いた。
...なんか、ホリーにうまく丸め込まれた気がするが、まぁいいか。
俺達はその後、ふれあい広場の魔物と戯れながら、ライラとカタリーナの調査記録が書き終わるのを待った。




