【25】第9話:授業開始(2)
「それじゃあ、当初予定通りに基礎の勉強から始めるね〜!」
するとシヴァは、黒板に何かを書き始めた。
「おいフレイ!お前、あんな凄い魔法が使えるなんて、聞いてねぇぞ!」
タクトは授業中だからか、小声で喋りかける。
「だって、あんな魔法を使えるか?なんて、今まで聞かれたことがなかったですし。」
「聞かれたことがないからって、お前なぁ....。」
「フレイくん、自分がどれだけ凄いことをしたか分かってないの?これだけの才能があったら、ライトニング公爵や家庭教師に期待されたんじゃないの?」
「いえ、全然。家庭教師の先生も父さん達も、一応褒めてくれますが『才能がある』とは言われませんでした。」
「嘘でしょ?」
今思えば『聖女サマの甥だから、あの程度の魔法が使えてもおかしくはない』って思われていたのだろうか?
それにしても『才能がない』と言われたと思ったら、今度は『才能がある』って言われたり、結局どっちなんだよ。
「だったら、フレイくんはきっと相当努力したんだね!凄いよ。」
「言うほど努力はしていませんけどね。」
むしろあの程度、努力するまでもないと思っていた。
そもそも、魔法の実技に関しては努力した記憶がない。
基本的に、家庭教師に指示された通りに魔法を出すだけだったからか『何かを教わる』という感じでもなかったし。
「はいは〜い!みんな、注目!」
黒板にひと通り書き終えたシヴァが、黒板をチョークでコンコンと叩いて話し始めた。
「ボクは教師歴ゼロだから、ちゃんとした説明ができるかわからないけど、簡単に説明していくね〜。
魔法を発動するのに必要なのは、この3つ!
・魔力量
・魔力操作
・想像力
それぞれ、順番に説明するよ。」
シヴァは家庭教師とは違う切り口で授業を始めた。
てっきり6属性の初級魔法を出すところから始めるのかと思った。
「まず1つ目の『魔力量』。
魔力っていうのは、魔法の材料みたいなものだよ。
で、魔力には6種類あってそれぞれ火属性・水属性・風属性・土属性・光属性・闇属性って言われているんだ。
魔法を出すには、この6種類の魔力が必要になってくるワケ。
料理で例えると、シチューが魔法だとしたら、鶏肉やにんじんが魔力、ってところかな?
料理によって必要な材料が違ってくるのと同じで、使う魔法によって、それぞれの属性の魔力がどれくらい必要かも変わってくるんだ。
例えば、あの恐ろしい厄災の魔王ちゃんが使ってた『最上級爆発魔法』っていう魔法は、火属性と闇属性をかなり使う、高度な魔法なんだ。」
へぇ。あの魔法って、そんな名前だったのか。
火属性と闇属性って、両方不適性じゃないか。
どおりで母さんを襲った魔物を倒す時、あの魔法を乱発したら疲れたワケだ。
「ちなみにここだけの話、第7の属性もあったりするんだよね〜♩命属性って言われているんだけど、それについてはまたいつか説明するよ。」
命属性?
そんな属性、家庭教師に教わってないぞ?
本当にそんな属性、あるのか?
「次に2つ目は『魔力操作』だよ。
料理で例えると『料理の腕』ってところかな。
いくら材料が豊富に揃っていても、料理が下手な人だと、ちゃんとした料理ができないよね?
逆に一流のシェフだったら、食材が限られていても、色んな料理が作れるでしょ?
それと同じで、たとえ膨大な魔力を持っていても、魔力操作が下手だとうまく魔法が発動できないんだ。
逆に、魔力量が少なくても魔力操作が得意だったら、使える魔法の種類は多くなるよ。
ちなみに世の中には『使いたい魔法は、念じただけで簡単に発動できる』という、恐ろしいくらい魔力操作が上手な人もいるんだ。
厄災の魔王ちゃんって言うんだけどね?
そういうのは普通、ありえないから、『自分もそうかもしれない』とか思っちゃ駄目だよ?」
へぇ、そうなのか。
普通は念じても簡単に発動しないものなのか。
この世界の魔法が何でもアリのように感じていたのは、ただ単に俺が才能に恵まれていたから、だったんだな。
「最後、3つ目は『想像力』。
これを料理で例えるなら『料理をどのくらい知っているか?』ってところかな?
例えば、材料が豊富で、一流のシェフがいたとしても、シチューっていう料理を知らなかったら作れないよね?
それと同じで、自分が使えそうな魔法を知らなかったり、そもそも『魔法を使う』という発想がないと、出来るものも出来ないんだ。」
なるほど。
だから家庭教師は「魔法は知識も大事」だと言って、色んな種類の魔法を覚えさせたのか。
「ちなみに、ボクら勇者パーティが厄災の魔王ちゃんを倒せた理由も、この『想像力』にあるんだ♩」
はぁ?
お前らが勝ったのは、ただのマグレだろ。
次に戦ったら、絶対に俺が勝つ。
「じゃあ、ここで問題です!
ボクらが必死の思いで倒した、厄災の魔王ちゃん。
彼は魔力量も、魔力操作も桁違いに凄い相手だった。
じゃあ、どうしてボクらは、そんな彼に勝つことができたのでしょーか?」
問題、だと?ふざけやがって。
「勇者様達が、それ以上に強かったからですか?」
「う〜ん、あながち間違いじゃないけど、ハズレ!」
「不意打ちしたからですか?」
「ブブーッ!ハズレ!ユシャくんはそんなことしません!」
「相手が弱っていたからですか?」
「残念、ハズレ!むしろ彼、めっちゃ元気だよ。」
生徒達は次々に答えるも、正解する者はいなかった。
仕方ない。俺が正解を言ってやるか。
「魔王がダーク何とかという名前の技を使うのを、勇者様達が魔法で打ち消して、その隙に攻撃したから、ですか?」
「まぁ正解なんだけど、ボクが答えて欲しい回答じゃなかったからハズレ!」
そんなの理不尽だろ。
「厄災の魔王が使う魔法の種類は少なくて、逆に勇者様達は多彩な魔王を駆使して戦った、からですか?」
「そうそう、そんな感じ!ボクが答えて欲しかったのはそれだよ。カタリーナちゃん、正解!」
あろうことか、カタリーナに正解を取られてしまった。
納得できない。
「厄災の魔王ちゃんって、潜在能力は凄そうなのに、馬鹿の一つ覚えみたいに最上級爆発魔法しか使ってこなかったんだよね。」
はぁ?
馬鹿の一つ覚えだと?!
喧嘩売ってんのかコイツ。
「彼くらいの才能があれば、いくらでもボクらを倒す方法はあったと思うよ。だって彼、本にも載っていないような未知の魔法ですら、念じただけで使えちゃうからね。最上級爆発魔法よりも厄介な魔法を使っていたら、きっとボクらどころか、この世界も滅んでいたかもね。」
シヴァはヘラヘラしながら説明していたが、生徒達はそれを聞いて一同に顔を青ざめた。
「まぁ、とにかく。自分の適性とかに拘らずに『この魔法を使ってみたい』とか『こんな魔法は使えるかな?』とか、そういう柔軟な考えができると、色んな魔法が使えるようになるよ♩」
柔軟な考え、か。
面倒臭いことを言いやがる。
「以上が、魔法を出すのに重要な3つの項目だよ!
ここまでで、何か質問のある人はいる?」
すると、ライラが手を挙げて質問した。
「はいはい!ライラちゃん、何かな?」
「魔法を極めたら、死者を蘇らせることもできるようになりますか?」
ライラがその質問をすると、一部の生徒...主に貴族連中がクスクスと笑い出した。
「そんな魔法が努力した程度で使えたら、墓地はいらないだろ!」
「死者の蘇生が不可能なのは常識でしょ。これだから教養のない平民は困る。」
「『3つの実現不可能な奇跡』を知っていたら、絶対出ない質問だな。」
レオンと取り巻きの連中は、こぞってライラを小馬鹿にした。
「みんなー、静かに!
ライラちゃん、残念だけどみんなが言う通り、いくら魔法でもできないこともあるのよ。
さっき誰かが言ってたけど、『3つの実現不可能な奇跡』っていうのがあってね。時間と命と理は、どうやっても魔法で干渉できない!って言われているんだ。」
シヴァの説明に、ライラは納得していない様子だった。
「でも、ここだけの話。実は干渉する方法があるんじゃないかなぁ〜って、ボクは考えているんだ!」
するとライラを馬鹿にしていた貴族連中は、目を丸くしてシヴァの話を聞いた。
「さっき説明を省いた『命属性』って言われる魔力を使えば、理論上は可能なんじゃないかって、ボクは考えているの。でもね、命属性の魔力を扱える人間はいないから、実質使えないのと同じだよ!」
「先生、そもそも『命属性』なんてもの、存在するんですか?いくら伝説の勇者パーティの一人だからって、根拠のない物を教えるのはどうかと思いますよ?」
小馬鹿にしながら質問したのはレオンだった。
「なるほど〜、確かにそれもそうだね!レオンくんは手厳しいねぇ。
それじゃあ、『命属性』の存在の根拠を教えるよ。
賢いキミだったら、龍脈が何かは説明しなくても大丈夫だよね?」
「はい。知っています。」
「じゃあさ、何で龍脈を封印しちゃうと、誰も住めないような土地になっちゃうんだと思う?」
「それは....」
レオンはシヴァの質問に、言葉を詰まらせる。
「15年前、キメイラ帝国が『全世界の龍脈を制圧した』って諸外国に脅していた時、当時の人々はそこまで深刻に考えていなかったんだ。
お偉いさんですら、龍脈は『大地から6属性の魔力が吹き出す場所』程度の認識でしかなかったからね。
だからキメイラ帝国が『降伏しない国の龍脈を封印する』って脅しても、どの国も降伏しなかった。『龍脈が封印されると生きていけない』なんてこと、実際に封印されるまで誰も信じちゃいなかった。」
教室の空気が一気に重くなる。
「もし龍脈が、本当に『大地から6属性の魔力が吹き出す場所』ってだけだったら、ここまで多くの犠牲が出ることはなかったかもね。」
シヴァはどこか切ない目で、独り言のようにボソっと喋った。
「おっと!ごめんごめん、しんみりしちゃったね。さっきの質問の答えこそが、『命属性』の魔力の存在なんだ。
これは仮説だけど、龍脈からは、ボクらが扱える6つの属性の魔力以外も流れている可能性が高いんだ。それが『命属性』って呼んでいる魔力だよ。
ボクらは龍脈から出た命属性の魔力を、体内で循環させることによって生きているから、龍脈がないと生きていけない、っていうのがボクの考えだよ。
ちなみにこれは憶測でしかないけど、『3つの実現不可能な奇跡』は命属性の魔力が必要だったから、今まで誰もできなかったんじゃないかって思うんだ。」
「その理屈ですと、龍脈から出る魔力を利用すれば、死者を蘇らせることも可能なのでしょうか?」
「できる、とボクは思うよ!」
シヴァの仮説を聞いたクラスの面々は、一様に息を呑む。
「先生、また質問してもいいですか?」
「いいよ、ライラちゃん!意欲的なのは、とっても良いことだよ!」
「もし、仮にですが、蘇生魔法が使える人がいたら、先生はその人のことをどう思いますか?」
蘇生魔法が使える人っていうのは、俺のことだろう。
ライラはシヴァに、遠回しに俺について尋ねた。
「い〜ねぇ〜!そういう奇抜な質問、結構好きだよ!」
シヴァはケラケラ笑いながら、ライラの質問に答えた。
「もし蘇生魔法が使える人間がいたら、その人の根源は、恐らく命属性の魔力を生み出しているだろうね。その人の根源を研究してみたいよ。あと、その人の祖先や種族についても研究したいね。どんな親から生まれたら、蘇生魔法の使える子供が生まれるのか、調べたら面白そうだし。」
親、か。
俺の蘇生魔法が親からの遺伝によるものだったら、兄さんも蘇生魔法を使えるのだろうか?
「他に質問のある子はいるかな?いなかったら、授業を進めるね!」
シヴァはその後、引き続き、魔法の基礎についての授業を進めた。




