【23】第8話:魔法学園、入学(3)
もうそろそろ、魔力測定の時間だ。
俺たちは適当な席に座って、教員の説明を聞いた。
「新入生の皆さん、こんにちは。今から魔力測定について説明します。まずは皆さんの座っている席に、透明な液体の入ったコップと、水晶玉があることを確認してください。.....道具が揃っていない人はいませんね?それでは、まずはコップを、指示があるまで掴んでください。」
指示通りにコップを掴む。
するとコップはあっという間に、真っ白になった。
「コップの中の液体は今、コップを介して皆さんの魔力を吸収しています。そして、吸収した魔力によって色が変わります。」
「わぁ、凄い!」
「不思議ですね。」
周りのコップをのぞいてみると、タクトは淡い橙色、ライラは鮮やかな黄緑色、といった感じで、ヒトによって変化した色は様々だった。
「それでは、手を離してください。」
手を離してしばらく待つと、底の方に青・緑・黄色の層ができた。
また周りのコップを見てみると、俺と同じように、底の方に何色かの層が出来ていた。
「それでは今から、教員が皆さんの測定結果を確認していきますので、しばらくお待ちください。」
教員が数人、前の席から順に結果を確認していく。
「...次は、レックス・ディシュメイン様ですね。主な色は青なので、適性は水属性ですね。黄色の層がないので、不適性は土属性です。」
「ねぇ、カタリーナちゃん。適性と不適性って、何?」
「えっと、それはねぇ....体内で生み出せる魔力量って、ヒトによって違うのは知ってるわよね?実は、生み出せる魔力量って、属性ごとに変わって来るのよ。ここまでは大丈夫?」
「うん。」
「適性は、その人が一番多く生み出せる魔力の属性で、不適性はその逆よ。」
「そうなんだ。じゃあ殿下は土属性の魔法は使えないのかな?」
「元々の生み出せる魔力量が多ければ、そうとも限らないわよ。」
教員は殿下の測定結果を書類に記録すると、順番に他の生徒の測定結果も確認した。
「次は、タクト・ブレイブさんですね。主な色は赤なので適性は火属性・黒の層がないので不適性は闇属性です。」
「適性は火か!いいなぁ、勇者っぽくて!」
「ライラ・ブレイブさんは、適性が風属性で、不適性が水属性です。」
「双子でも、お兄ちゃんと全然違う!」
「カタリーナ・エセヴィランさんは、適性が闇属性、不適性が光属性です。」
「いかにも悪役令嬢って感じのステータスね....。」
「ホリー・コトナカーレさんは、適性が....おや?珍しいですね。全ての属性の層がある上に、多少の差はあるものの、どの層も一定の厚みがある。適性も不適性もありません。」
「そんなことがあるんだ....。可もなく不可もなく、だね。」
「ゼル・ポーレイさんは...こちらも珍しいですね。全ての属性の層がありますが、黒と赤の層だけ他の層より分厚い。適性は火属性と闇属性、不適性はなし、といったところでしょうか?」
「ゼルお前!適性2つとかズルいぞ!」
「えぇ....なんかゴメン。」
そしていよいよ、俺の番がやってきた。
「フレイ・ライトニングさんは....こちらも、これまた珍しいですね。赤と黒の2色がない上に、白の層が圧倒的に分厚い。光属性が強い適性、火属性と闇属性が不適性です。」
極端な結果だな。
適性が光属性ってことは、回復魔法が使いやすいってことか?
家系的に光属性が得意とはいえ、回復魔法は性に合わない。
「お前、二つも不適性があんのかよ!残念じゃねぇか!」
「しかも『強い適性』か....フレイくん、あまり気にしちゃダメだよ。」
「適性が強いことって、良いことじゃないの?」
「強い適性がある場合って、大抵、他の属性は全然ダメなのよ。」
「でもそのかわり、フレイくんは強力な光属性の魔法が使えるんでしょ?」
「まぁ、そうなんだけど。魔法って、各属性の魔力配分によって、どんな魔法が使えるかが決まるのよ。だから、ホリーくんみたいに満遍なく全属性の魔力を持っている方が、使える魔法の種類は多くなるの。逆に、光属性以外の魔力が弱いと、それだけ使える魔法の種類も限られてくるのよ。」
そうなのか?
今まで、使おうと思った魔法は全部使えたが、あれはたまたま全部光属性の魔法だったから、なのか?
「それでも、元々の魔力量が多ければ、光属性の魔法以外もそれなりに使えるかもしれないわよ。」
なるほどな。
つまり俺は魔力量が多いから、今まで魔法で失敗したことがなかったんだろう。
転生してから魔力量が減っている感じはするものの、曲がりなりにも『厄災の魔王』だ。
あの勇者どもと対等に戦ったくらいだから、魔力量が普通以下のはずがない。
「全員の測定結果を記録しましたので、次に移ります。皆さん、もう一つの測定道具である水晶玉を持ってください。そして水晶玉にめい一杯、魔力を注いでください。水晶玉に魔力が入るように強く念じるだけで、魔力を注ぐことができます。水晶玉がどのくらい白く濁るかによって、魔力量を測定します。」
俺達は指示通り、水晶玉に魔力を注ぎ始めた。
....だが、俺の水晶玉には全く変化が起こらない。
周りを見てみると、個人差はあるが、ちゃんと水晶玉は濁っていた。
ゼルに至っては濁っているというより、むしろ真っ白だ。
水晶玉に変化が見られないのは、俺とホリーくらいだった。
「それでは今から測定結果を確認していきます。」
さっきと同じように、教員がこっちに来て測定結果を確認する。
「レックス・ディシュメイン様の魔力量はA+ですね。
カタリーナ・エセヴィランさんはA、タクト・ブレイブさんはB−、ライラ・ブレイブさんはB+です。」
「B−かぁ。ライラやカタリーナより少ないのかよ!」
「でも普通はC〜C+だから、平均よりかは若干多い方よ。」
タクトはその結果が納得できずに、不貞腐れた。
平均がCってことは、コイツら意外と魔力が多い方だったのか。
大して魔法が使えないイメージだったから、少し驚いた。
「そしてゼル・ポーレイさんはA−.....いやB+....B....これは!」
ゼルの水晶玉を見てみると、さっきまで真っ白だった水晶玉が、徐々に白みが薄くなっていった。
「これは素晴らしい!あまりの魔力量に、水晶玉が壊れて魔力が漏れ出ています!こんな事例は初めてです!記録はS+にしておきますね。」
「そんなのアリかよ?!」
俺の思考を読み取ったかのように、タクトがツッコミを入れた。
「適性が2つもあって、不適性がなくて、魔力量も桁外れで.....。ゼルくんは絶対、私達の学年で一番才能があるよ。」
「それどころか、『数百人に一人の天才』って言われてもおかしくないわ。」
「魔力量だけでいえば、ショーン殿下以上だ。あの兄上ですら、水晶玉を壊すほどの魔力量は持っていなかったよ。」
ゼルの圧倒的な才能に、皆が皆、褒め称えた。
こうなってくると、ますますゼルの存在が気になってくる。
魔王の時の俺にそっくりで、桁外れの魔力量。
もしかしたら前世の俺の、生き別れた双子の兄弟とかか?
わからない。
そもそも前世の俺って、結局、どこの誰だったんだ?
まぁ、そんなことより測定結果だ。
教員が俺とホリーの水晶玉を確認した。
「ホリー・コトナカーレさんとフレイ・ライトニングさんは、ともにEです。」
Eってことは、魔力量がほぼないってことか?
魔力属性が極端に偏っている上に、魔力量がない?
....嘘だ。
そんなはずはない。
だってこれでも一応『厄災の魔王』だったんだぞ?
それにあんなに簡単に、魔法が使えてたじゃないか。
絶対に測定結果が間違っている。
「水晶玉が壊れると魔力が漏れて白くならないのでしたら、僕やホリーくんも水晶玉に収まりきれないくらい魔力があったから壊れて白くならなかった、という可能性はないのでしょうか?」
「それはあり得ません......が、念のためにお聞きします。あなた方の水晶玉も、私が確認する前に白くなりましたか?」
そう聞かれて、魔力を注いだ時のことを改めて振り返る。
一瞬、ほんの一瞬、目にも止まらぬ速さで白くなっていた......ような気がする。いや、きっとそうだ。絶対そうだ。
「フレイ....もう、諦めろ。」
「世の中、魔法が全てじゃないよ。」
「それに、鍛えれば魔力量も増えるよ。これからだよ、フレイくん。」
「そうそう。仮にもし魔法が使えなくても、お前は新・勇者パーティの格闘家枠なんだから大丈夫だろ!」
「魔法が使えなくても、筆記試験の成績が良ければ落第することはないしね!」
あまりにも残念な結果だからか、みんなが一斉に励ましてきた。
結果自体は全っっ然、気にしていないが、励ますテイで見下してくるのが、心底ムカツく。
「おい聞いたかよ!そこの半分平民は、魔法の才能が全くないんだってよ!」
振り返って声が聞こえた方を見ると、案の定そこにはレオンがいた。
レオンは取り巻きの奴らと一緒に、俺のことを嘲笑っている。
このくらい分かりやすく煽られた方が、いっそ清々しい。
「あれ?僕達の会話をいちいち聞いていたんですか?もしかして、この前のこと、まだ根に持ってます?」
「ハッ!これだから勘違い平民風情は困る。貴様らが下品に馬鹿騒ぎしていたから、勝手に聞こえてきただけだ。」
「下品に馬鹿騒ぎ....って、今のあなた方みたいに、ですか?」
「本当に貴様は、目上の人間に対する礼節がなっていないな。ブスのカタリーナの派閥にお似合いの人材じゃないか。」
「それはどうも。彼の態度が不愉快なら、わざわざ話しかけてこなくてもいいのよ?」
「そうですよ。口で言い負かせられないからって、カタリーナさんに逃げるなんて女々しいですね。」
「はぁ?貴様に言い負かされた記憶なんざ、一切ないが?半分平民だと記憶力も残念になるのか?」
「そうですか、半分平民に言い負かされたことがショックで、その時の記憶がなくなっちゃったんですね。可哀想に。よければセージャ叔母さんを紹介しましょうか?頭に回復魔法をかけてもらえば、思い出せるかもしれませんよ?」
「むしろ可哀想なのは貴様の方だろ。折角あのセージャ様の血族なのに、ほぼ平民が父親になったせいで、魔法の才能に恵まれなかったのだからな。あぁ、平民の血が混じると劣化が激しいなぁ!」
「そうですね。僕の魔力は父譲りなのかもしれません。ですがもし、万が一、そんな僕に成績で劣るようなことがあれば、レオン卿は一族の恥ですね!」
するとレオンとその取り巻きは、机を叩きながら大笑いした。
「貴様、冗談が面白すぎるぞ。魔力量Eが、魔力量A+の俺様に勝てるはずがないだろ!それに俺様は、魔力量以外も一流だから、才能皆無の平民がどう足掻いたところで、俺様を超えられるわけがない!」
レオンの言い分を肯定するかのように、みんなが俺を憐れむような目で見つめてくる。
あぁ、クソッ!
ムカつく!
「....ですが、魔力量がA+ってことは、魔力量Sのゼルくんより下ですね。ところでゼルくんって、貴族でしたっけ?」
「いや、一応平民だよ。」
「ですって。由緒正しい生まれのレオン卿が、平民なんかに魔力量が負けてて恥ずかしくないのですか?」
「おいおい、自分じゃ勝てねぇからって、他人を引き合いに出すのはみっともないぞ?それに、そこの平民が仮に優秀だとしても、お前が残念だっていう現実は変わんねぇだろ。」
ぐうの音も出ない反論に、怒りで頭が沸騰しそうになる。
あー、やっぱりコイツ殺したい。
でも言い負かされたまま殺すのは、逆に負けた気がして、それはそれで腹が立つ。
「だったらせいぜい、僕に追いつかれないように頑張ってください。僕に負けた時の言い訳、楽しみにしています。」
俺はそう言って、嘲笑ってくるレオン達との会話を打ち切った。
さっきの台詞はアイツらにとって、負け犬の遠吠えにしか聞こえていないだろう。
いいさ。
今は『負けた』ってことにしといてやるよ。
でもいつか絶対にレオンに追いついてやる。
その時は今日の屈辱を、倍にして返してやるから、覚悟しておけ。
俺はその日から、スマドのゲームを控えて魔法の勉強をがむしゃらにするようになった。




