【19】第7話:アリーシャ嬢の誕生日パーティ(3)
フォージー侯爵家の中庭は、整然と配置された花壇や美しい装飾植物で飾られ、色とりどりの花々が咲き誇っていた。
中庭の中央には、豪勢な噴水があり、そこから上がる水しぶきは、陽光を浴びてキラキラと輝いていた。
噴水の周りに、大理石のベンチと優雅な彫刻が配置されていたため、私はベンチに座った。
フォージー侯爵家は代々、盲目の一族だ。
恐らく遺伝による先天的な目の病気なのだと思う。
まぁアリーシャ様は幸い、その病気を発症しなかったようだけれども。
そんな一族なのに、こんなにも中庭が豪華で綺麗なのは、何となく皮肉に感じる。
この中庭は代々、屋敷の主人の目には入らないのかと思うと、綺麗に咲き誇っている花達が、少し不憫に思えた。
「はぁ...。みんながハッピーで幸せになれる方法はないのかしら。」
奴隷制度の件とか、乙女ゲームの件とか、色々問題が多すぎて嫌になっちゃう。
『今日から奴隷制度なくして、みんな平等にします!』とか、『乙女ゲームのヒロインも、攻略対象も、殿下も、私も、みんな幸せウルトラハッピー!』とかサクッと実現できれば、どれだけ気が楽だろう。
そもそも、乙女ゲームのシナリオを全く知らないのが、諸悪の根源な気がする。
シナリオがある程度分かってて、それなりに対策が打てていたら、他のことをする余裕も生まれそうなのになぁ。
そう考えると、今の私に必要なのは『ピンチ』だ。
ピンチの時に現れる彼に、もう一度乙女ゲームについて質問するのが、一番可能性がある。
でも....。
「一体、どうやって、ピンチになればいいの〜?!」
そんな時。
私の嘆きに応えるかのように、不審者が背後から襲ってきた。
そして、気を失った私を、どこかへと連れ去ってしまった。
◆◆◆
「.....っ。ん〜...。」
目を覚ますと、私は小屋のような場所で、口と手足を縛られた状態で横たわっていた。
目の前にある扉の向こう側から、誰かが会話しているのが聞こえる。
「おい、このガキ殺すって話じゃなかったのか?」
いきなり、恐ろしいセリフが飛んできた。
逃げようにも、手足が縛られていて動けない。
下手に動いて起きていることがバレても、ヤバい気がするので、静かに会話の続きを聞いた。
「さっさと始末しないと、起きたら厄介だぞ?」
「いや、むしろ起きるのを待ってるところだ。」
「はぁ?」
「起きたら、このガキまわすぞ。」
「まわすって、お前何言ってんだ?!」
えっ、まわす??
それってつまり、アレをするってこと?
さっきまでとは違う、吐き気を催すような恐怖が、私を襲う。
「あの人のために、わざわざこのガキ攫ったんだろ?余計なことするより、さっさと殺して山に埋めないと。万が一にでも、逃げられたら逆にあの人の迷惑になっちまう。」
あの人のために、ってことは、首謀者は他にいるってこと?
私を攫ったのは、彼らの独断なのかしら?
「んなこたぁ、分かってんだよ!でもな、俺は人間の貴族が死ぬ程ムカつくんだよ!お前らは、アイツらの奴隷になったことがないのか?!」
「それは...」
「ある、けど....」
「だったら分かるだろ?アイツらは俺達亜人のことなんざ、動く玩具くらいにしか思っていない!あんな小さいガキですら、俺らの歯ぁ抜いたり、指の骨折って遊ぶんだぞ?イカれてんだろ!」
「確かに」
「アイツらは、クソだ。」
彼らは亜人なのね。しかも奴隷で....怒る気持ちもわかるわ。
フォージー侯爵やジョンドゥー子爵のような、奴隷をヒトと思わない貴族ばかりだったら、憎んで当然よね。
「な?だから、死ぬ前にこのガキにも同じ屈辱を味わせてやなねぇと気が済まねぇ!」
「それも、そうだな。」
「俺達亜人を奴隷だって見下している貴族のご令嬢が、その卑しい連中にまわされる。....これ以上の屈辱はないだろうな。」
彼らには同情するけど、彼らが私に対してアレするのは、完全なお門違いだ。
「あぁ。だからコイツには起きててもらわないと困るんだ。自分が亜人にまわされてるって自覚させないと意味がねぇからな。」
彼らは会話を終えたからか、突然、扉が開いた。
亜人の男達が中に入ってくる。
慌てて寝たフリをするも、すぐにバレてしまった。
「このガキ、ずっと起きていやがったのか?!」
「聞いてたなら話が早い。お前には、俺達が味わったのと同じ屈辱を味わってもらう。」
嫌っ!!
誰か助けてっ!
恐怖で思わず目を閉じたその時。
男達の後ろから現れた人物によって、彼らは瞬時に伸された。
「おい、生きてるか?」
そう言って現れたのは、宮藤くんだった。
彼は私の手足を縛っている紐を解いてくれた。
「宮藤くん、また助けてくれて、ありがとう!会いたかったわ。」
私は口を縛っていた布を解いで、彼にお礼を言う。
「お前、今回は生きてたのか。まぁ、生き返らす手間が省けたから別にいいけど。」
死んでも生き返らせてくれるつもりだったんだ。
案外、悪い人じゃないのかもしれない。
「じゃあ、コイツら始末してさっさとアレ渡すか。」
すると彼は、どこからか剣を取り出して振り翳そうとした。
「いやいや!ちょっと待って!」
少しでも『悪い人じゃないかも』と思った私が馬鹿だった。
やっぱりヤバい人だ。
平然と『殺す』という選択肢が取れるのが怖すぎる。
「なんだよ。いちいち五月蝿い奴だな。」
「だから殺すのはナシって言ってるでしょ!」
「何で?」
「それは.....。そうよ!その人たち、『あの人のために攫った』って言っていたわ。だから今殺したら、黒幕が分からなくなるじゃない!」
私は咄嗟に、それっぽい理由を並べて彼を説得した。
こうでも言わないと、本気で殺しかねない。
「ちっ。折角ストレス発散にぶち殺せると思ったのによぉ。」
すると彼は剣をしまって、亜人達を紐で縛った。
「宮藤くん、聞きたいことがあるんだけど...」
「おっ、何だ?」
「宮藤くんって、生前はシリアルキラーだったの?」
「は?シリ....何て?」
「連続殺人犯。もしくは極道の人?それとも、それ以外のヤバい組織の人だったの?」
「おいちょっと待て。お前、何でその話になるんだよ!」
「だって人を殺すのに躊躇なさすぎなんだもの。見た目的に、ただのヤンキーかチンピラかな?とか思っていたけど、それにしては度が過ぎているというか.....」
「そもそも、ヤンキーとチンピラの違いって、何?」
「それは....」
私にも分からない。
たぶん、きっと、恐らくは同じ意味だ。
「まぁ、一応少年院に入っていたことはあるけど、お前が聞きたいことって、そういうことか?」
「え、少年院?!ってことは未成年なの?」
「お前なぁ、少年院入ってたからって未成年って決めつけんなよ。」
「あっ、そうか。」
「まぁ、死んだのは19の時だけど。」
同じようなものじゃない!
と言うか、やっぱり年下だったのね。
前世じゃ大人でも童顔の人は結構いたから、年上の可能性もあるとは思いつつ、彼は言動的に年上のように感じなかった。
「19でって....私が言うのも何だけど、死ぬの早すぎじゃない?もしかして異世界転生テンプレの交通事故?」
「テン何とかは知らねぇけど、死んだのは事故じゃねぇよ。夏の暑い日の昼、暑さと喉の乾きでクラクラするから横になっていたら、いつの間にかこっちの世界にいた。」
それって、熱中症じゃない?
「ってか、そもそも何をやらかして少年院に入っていたワケ?」
もし『同級生を殺した少年A』とか、『連続児童殺害犯の少年B』とかだったらどうしよう。
「窃盗、暴行、脅迫、強姦........あと、なんかあったっけ?」
出てきたのは意外とまともな犯罪だった。
...って、いやいや!
犯罪って時点で、どれもまともじゃないわよ!
むしろ犯罪者の模範解答みたいな経歴じゃないの!
「もしかして、殺人もやってたりするの?」
「あー、それはコッチに来てからだな。」
そっかー。こっちに来てからかぁ。
てっきり少年Aの類だと思っていたけど、違って良かったー。
.....って、全然良くないわよ!!
「そんな事より、お前に渡すモンがあったんだった。」
そう言うと彼は、私にメモを渡した。
「何、コレ?」
メモを読むと、『アップスターオレンジ』という題の下に、いくつかの項目が箇条書きされていた。
「コレって、もしかして....乙女ゲームのシナリオ?!でも、どうして?」
「あの後、お前の言ってた事が気になって記憶を遡ったら、偶然思い出したからメモしといてやったぞ。」
まさか宮藤くんが、本当に知っていたなんて。
しかも内容を丁寧にメモして持ってきてくれるなんて、感謝しても、しきれない。
「宮藤くん、本当にありがとう!」
改めて内容を確認してみる。
ヒロインは....まさかのアリーシャ様?!
しかも養子?でもそう言われると、フォージー侯爵夫妻と似ていない気もするわ。
「でもアレ?他の攻略対象はいないの?」
「それは....アレだ。クラスのオタク女が書いていた小説だから、乙女ゲームじゃねーんだよ。」
なるほど、そのパターンか。
最近は原作が乙女ゲーム以外のパターンも結構あるから、この世界もそのパターンだったのね。
きっと宮藤くんが小説をからかうために、無理矢理奪って読んだのでしょうね。
作者の少女には同情するわ。
「これで乙女ゲーム、もといアップスターオレンジの対策が打てるわ。」
「おぅ!せいぜい、頑張れ!」
宮藤くんは、今まで見たことのないようないい笑顔で親指を立てた。
よーし!
原作も知ったことだし、早速破滅フラグをへし折るわよ!
待っていなさい!
王立ディシュメイン魔法学園!




