【15】第6話:ライトニング領でパーティ(3)
ライトニング領でのパーティの途中で、フレイくんのお兄ちゃんのアニスさんが入ってきた。
アニスさんは去年、王立ディシュメイン魔法学園に入学したらしい。
魔法の授業って、どんなことをするのかな?
「ねぇねぇ、アニス。最近、学校はどう?楽しい?」
「うん。最近、特殊魔法の授業があってさ。俺は前々から自分の特殊魔法を知ってた上で、改良して使ってるって話を先生にしたら、すごく褒めてもらえたよ。」
「おぉ!良かったじゃないか!」
ライトニング家の3人は、久々に親子水入らずで話していた。
「あとクラウスが、自分の特殊魔法が腐敗だって知って『もしかしたらこの魔法を使えば美味しい発酵食品が作れるんじゃないか』って目をキラキラさせてたなぁ。」
クラウス?
カタリーナちゃんのお兄さんの名前も、そうだったような...?
「いいわね。ウチの特産物を使って、ワインでも作ってくれないかしら?」
「今度あいつに聞いてみるよ。」
「あの、アニスさん!クラウスさんって、もしかしてカタリーナちゃんのお兄さんですか?」
「カタリーナちゃん?」
「ほら、エセヴィラン公爵のご息女の...」
「あぁ!あの物騒な特殊魔法の子か。確かに、クラウスはカタリーナちゃんのお兄ちゃんだよ。」
「やっぱり!エセヴィラン公爵とライトニング公爵って、家ぐるみで仲が良いんですね。」
「まぁ、仲が良い、というかは.....」
「ウチ、エセヴィラン公爵の派閥に入ってるし...」
「おいおい、勇者ご一行サマ。大事な客を忘れてんじゃねーか?」
突然、男の人の声が園庭中に響き渡った。
その声にみんな警戒して、場が静まり返る。
この声、どこかで聞いたような....?
すると突然、庭園の中心にあった噴水の前に、魔物かと見紛う程に大きくて人間離れした獣人が現れた。
この人は、もしかして....。
「お前は....厄災の魔王!!」
「クドージンさん!」
みんなが『厄災の魔王』だと騒ぐ中、彼の名前を呼んだのは私だけだった。
「クドージン?」
「彼の名前だよ。本人がそう言っていたよ?」
「ライラが言っていたのは、アイツのことだったのか?!.....というかアイツ、そんな名前だったのか。」
もしかして、みんなが『厄災の魔王』って呼んでいるのは、名前を知らないから、なのかな?
「貴様っ!その姿....!」
「そもそもアンタ、転生したんじゃないの?!」
「転生?したさ。したとも。どっかの誰かさんのせいでな。」
クドージンさんはシヴァおじさんを恨めしそうに睨んだ。
「だったらアレはどういうことだ?シヴァ!奴の肉体は死んだんじゃないのか?!」
「そんなこと、ボクに聞かれたって、何がなんだか!」
「そういえばクドージンさん、前に別の姿で現れてたし、魔法で姿を変えられるんじゃないの?」
「御名答。」
するとクドージンさんは、以前会ったときに見た、別の姿へと変身した。
アニスさんと同い年くらいの、独特な顔立ちと服装の男性。
前に聞いた時は『前世の姿だ』って言っていたけど、一体どういう事なんだろう?
「なっ!」
「うそーん!」
「アンタ、変身できるの!?」
「あの姿は、お前らに『俺だ』ってわからすために、わざわざ変身してやっただけ。つか、それ以外であの姿になるメリットないだろ。」
「じゃあ、その姿が今の貴様、なのか?」
「さぁ?どうなんでしょうねー。そこまでお前らに言う義理ねーよ。」
クドージンさんが現れたことで、張り詰めた空気が漂う。
その空気を壊したのは、ホリーくんだった。
「すみません。素人質問で恐縮なのですが、そもそもクドージンさんは、本当に厄災の魔王なのですか?」
「あぁ!テメーも俺を偽物扱いすんのかよ?」
「いえ、そこまでは言いません。ですが、魔法で変身できるのであれば、偽物でも今みたいに魔王を語ることができるんじゃないかって思うのですが。それを言い出したら、何をもって魔王かどうかを判別すれば良いのかな?ってわからなくなりまして....。」
確かに、転生した厄災の魔王さんにとって、自分が『厄災の魔王』だって証明できるものって、何もなさそう。
例えば、私が生まれ変わったとして、お父さんとお母さんに『私はライラだよ』って言っても、信じてもらえないかも。
お父さん達との思い出を語っても、『どこかの誰かから聞いたのだ』って思われるだろうし、好きなことや得意なことをしても、きっと『好きなものや得意なことがライラと同じ子』としか思われないのかもしれない。
それと同じで、厄災の魔王さんは、例え本物でも自分を証明できる確実なものが何もないんだと思う。
.....そう考えると、なんだか可哀想かも。
「........いや、あの子は確かに、魔王ちゃんだよ♩」
そう断言したのは、シヴァおじさんだった。
「なぜ、そう断言できるのですか?」
「んー、とね。言ったことないけど、実は魔王ちゃんって、魂に根源があるんだよねぇ〜。」
「何だって!?」
お父さん達は一斉に驚いたけど、そもそも『根源』って、なに?
「すみません、『根源』とは一体....」
私に代わって、ホリーくんが質問してくれた。
「根源っていうのは、簡単に言うと『魔力の源』だね。僕らが多少なりとも魔法が使えるのは、根源で魔力が生み出されているからなのよ。でもフツー、根源って肉体に宿るものなんだけど、魔王ちゃんはなぜか、魂にも根源があるんだよねぇ〜」
「つまり、厄災の魔王は根源が2つあったってことですか?」
「そういうこと!」
すると突然、クドージンさんの胸から、2つのぽうっと光る玉のようなものが現れた。
「根源って、コレのことか?」
「そうそれ!.....って、えぇ!根源見えるの?魔王ちゃん!」
クドージンさんどころか、私にも見える。
他の人には光る玉が現れていないから、もしかしてクドージンさんが自分の根源だけ見えるようにしたのかな?
「じゃあ、コレをこうすれば」
すると、2つあった光る玉のうち、1つが消えてしまった。
「あっ!一個消えた!」
「コレで、俺の本当の姿を見ても、お前らは俺だって気づけないワケだ。」
「そんなの反則ー!!キミ、何でもアリなの??」
クドージンさんって、色んな魔法が使えて器用だなぁ。
「でもそうなると、ますますクドージンさんが厄災の魔王かどうか分からなくなりましたね?なんせ、『根源を偽造した偽物』である可能性が出てきましたし.....」
「あぁ?!テメェ、まだ疑うのか?」
「ハハハ。冗談を言っただけですよ。」
「そんなことより!」
怒鳴り声のようなお父さんの大声が、さっきまでの緩んだ空気を引き締めた。
「何でお前が、ここにいるんだ!」
「そりゃあ、勇者ご一行サマが揃っているんだから、魔王もいなくちゃな?サプライズゲストってヤツだよ。」
「ふざけるなっ!何が目的だ?!」
「目的ぃ?んなもん、パーティを盛り上げるために決まってんだろ?例えば、そうだなぁ......この屋敷をぶっ潰す、なんてのはどうだ?」
クドージンさんは、ライトニング邸に向けて手を翳した、その瞬間。
お父さんは、どこから取り出したか分からない剣で、クドージンさんの喉元に突きつける。
お母さんは、クドージンさんの頭に蹴りを入れるすんでのところで止めた。
リファルさんはクドージンさん周りに、ファイヤーボールやサンダーボールなどの複数の攻撃系の魔法を準備する。
シヴァさんは、クドージンさんの足元に魔術を展開し、そこから出てきた複数の鎖で、彼を縛って身動きが取れないようにした。
「そう、警戒すんなって。ただのジョークだろ。」
クドージンさんは、その状況でも薄ら笑いを浮かべて、軽い口調で喋った。
「ねぇ、お父さん達、ちょっと待って!」
「...ライラ?」
私のお願いに、お父さん達はクドージンさんを警戒しつつも、私の方を向いた。
「私、クドージンさんと、話がしたいの。」
「あぁ?」
「話?コイツと?」
「うん。」
「んなこと言われてもなぁ〜。こんな状態じゃ、怖くてなーんも話せねぇよ。」
クドージンさんは、わざとらしく怯えたフリをする。
「お願い、お父さん達。警戒を解いて。お話させて。」
「.....何を話すつもりだ、ライラ?」
お父さん達は訝しげに思いながらも、渋々警戒を解いてくれた。
「ありがとう。」
私はクドージンさんに近づき、目を見て話しかけた。
「ねぇ、クドージンさん。あなたはなぜ、世界中の龍脈を封印したの?」
「...はぁ?」
「世界中の龍脈を封印して、世界のほとんどを、ヒトが住めない土地にしたんだよね?何でそんなことをしたの?きっと、理由があるんだよね?」
するとクドージンさんは驚いて、顔を伏せた。
「....何で、そう思うんだ?」
「だってクドージンさん、何度も私達のこと、助けてくれたでしょ?そんな人が、理由もなく世界を滅ぼそうとするハズないよ!」
「.....そうか」
クドージンさんはしばらく黙ったあと、ゆっくり口を開いた。
「....俺はあの時、キメイラ帝国の奴隷だった。」
「!?」
「首に特殊な魔道具つけられて、逆らえば魔道具を使って罰が下される。よくある話だ。」
奴隷。
その言葉が出てきた瞬間、場の空気が変わったのを感じた。
屈辱的で、辛い生活を強いられていたのかと思うと、胸が締め付けられるような気持ちになった。
以前、亜人の奴隷の人たちに対して「人生詰んでる」って言っていたのは、過去の自分がそうだったから、なのかな。
「本当はあんなこと、やりたくなかった。でも命令には逆らえなかった。罰が怖くて....。」
「クドージンさん.....。」
なんて声をかけたら良いのか、思いつかなかった。
クドージンさんは当時の事を思い出してか、肩を震わせていた。
彼はきっと、命令に逆らって罰を受ける恐怖と、世界を滅ぼす罪悪感とで葛藤したんだ。
でも罰を受ける恐怖に勝てなかったんだ。
....やっぱり彼は、悪い人じゃない。
悪いのは、彼に命令した人だったんだ。
「.......ッククク.....」
?
「アッハハハハハハハハハッ!!!!」
「...え?」
その笑い声を上げたのは、クドージンさんだった。
さっきまで俯いていた彼は、顔を上げて、お腹をかかえて、大きな声で笑った。
「あんな話、本気で信じちゃった?」
クドージンさんはニヤニヤしながら、私に問いかけた。
彼の態度の急変についていけず、私は言葉を失った。
「あの話、全部ウ・ソ!アッハハハハハ!!!
世界を滅ぼそうとしたのは、単に面白そうだったからに決まってんだろ?」
「.....面白そう?」
面白そうって、何が?
世界中を死の大地にして、大勢の人を苦しめるのが、『面白い』?
理解のできない感情に、一瞬、頭がくらくらした。
「あぁ。だって、そうだろ?城で偉そうにふんぞり返っている王様も、豪華なパーティ開いている金持ちも、偉そうに偽善を吐いている牧師も、みーんな、見苦しくもがきながら死ぬんだぜ?想像しただけで面白いじゃん。」
人が死んで『面白い』?
たった、それだけの理由で、世界中の人を殺したの?
そんな軽い気持ちだけで、世界中の人が死んでしまったの?
「貴様ぁぁぁ!!」
「この外道がぁあ!!!!!」
お父さん達がクドージンさんに攻撃を仕掛ける中、私はそれを、ただ腰を抜かして眺めていることしかできなかった。
「おっと、勇者サマのお怒りだ。今日は面白ぇものも見れたし、大人しく帰ってやるよ。じゃあな。」
「待てっ!!」
「逃すかぁ!!」
お父さん達は追いかけようとするも、クドージンさんはあっという間に目の前から消えてしまった。
お父さんの言った通りだった。
あの人は、正真正銘の『悪』だ。




