【111】第24話:推薦試験(2)
推薦試験、当日。
試験会場となる『魔導宮』と呼ばれる場所は、学校から馬車で1時間程の距離にある。
そこは普段、国に仕える魔術師や魔法使いが、魔法の練習などをするために使用される場所らしい。
午前中は魔導宮にある広場で実技試験を受けた後、午後は館内の一室で筆記試験を受ける。
一応シヴァから過去の推薦試験の内容をざっくり聞いていたから、筆記試験の予習はバッチリだ。
実技は予習しなくても何とかなるだろう。
俺が魔導宮へ着くと、試験官と思わしき中年のおっさんが俺のもとへやってきた。
「君がフォージー夫人推薦の、フレイ・ライトニングさんですね。では早速、実技試験から始めましょう。」
試験官に案内されて広場へ移動すると、そこには大きな台座が6つ置いてあった。
台座の上には、大きくて丸い水晶玉が置いてある。
「それでは実技試験を始めます。最初の試験では、各属性ごとの魔力量を測ります。目の前にある6つの水晶玉に、魔力を注いでください。ちなみに、こちらにある6つの水晶玉はそれぞれ、決まった属性の魔力のみを注ぐことができます。」
要は、学校に入ったときに受けた魔力測定と同じようなものか。
俺は6つの水晶玉に魔力を注ぐと、水晶玉は一瞬で色がついた。
水晶玉は左から赤・青・緑・黄・白・黒の並びで色づいたが、直後に急激に色褪せていき、一秒もしない内にもとの透明な水晶玉に戻ってしまった。
せっかく今度は色づいたというのに、結局はまた失敗か。
ま、魔力量が少なくても、後の試験で挽回すれば合格できるだろう。
俺は試験官を見て、結果を言われるのを待った。
だが試験官は、目を大きく見開いて唖然としていた。
「な、何が起こったのでしょうか...?」
試験官は固まったまま、結果を全然言ってくれない。
「あのー、すみません。僕の評価は?」
「えっ、あ、少々お待ちください!今、水晶玉を確認しますね。」
試験官は魔術を使って、水晶玉を鑑定する。
「...おかしい。どの水晶玉も壊れて魔力を溜められなくなっている。今朝確認した時は、問題なかったはずだ。」
「すみませーん。結局、僕の評価はどうなったのですか。」
「申し訳ありません。私共の手違いで、壊れた水晶玉を用意してしまったみたいです。水晶玉を用意し直しますので、再度受けてくださいませんか?」
おいおい、ちゃんとチェックしろよ。
人騒がせな奴らだ。
試験官に呆れつつも、俺は水晶玉が準備されるのを待った。
同じようなミスがないようにか、何人かが集まって何重にも水晶玉をチェックしている。
試験官達は念入りな確認を終えると、俺の方を向いた。
「お待たせしました。今度こそ正確に測定できますので、もう一度魔力を注いでください。」
やっとか。
俺はさっきと同じ要領で魔力を注ぐ。
だがしかし、なぜかさっきと全く同じ結果になった。
またかよ!
さっきまでの念入りなチェックは何だったんだ。
少し苛立ちながら、試験官達を睨む。
すると試験官達は一様に口をポカンと開けて固まっていた。
「な、何が起こったの?」
「ほんの一瞬、全ての属性があり得ないくらい鮮やかに色付いた気がしたが、まさか....?」
「やはり、さっきの光景は見間違いじゃなかったのでしょうか?」
試験官達は困惑しながら、魔術で水晶玉を確認する。
「どの水晶玉も壊れている...!」
「先程、問題がないのは確認しました。ということは...」
「注がれた魔力量が多すぎて、水晶玉が破裂した?!」
「そんな馬鹿な!この水晶玉って、少しでも色がついたら合格レベルなのよ?水晶玉が壊れる程の魔力を持った人間なんて、いるはずないわ!」
「そういえば、今年に王立ディシュメイン魔法学園へ入学した生徒の中に、水晶玉を壊す程の魔力を注いだ生徒がいたらしいですよ。」
「なるほど、それが彼なら納得だ。先程の水晶玉も、一瞬だが物凄く濃い色になっていた。水晶玉を壊すほどの魔力が注がれたのなら、一瞬だけ色づいたのにも説明がつく。」
ごちゃごちゃ何か喋っているが、結局、俺への評価はどうなった?
黙って試験官達が話し終えるまで待っていると、俺に気づいた試験官が慌てて話しかけた。
「君の魔力量は素晴らしいです。評価は全属性S+です。一般試験どころか、推薦試験ですらこれ程の魔力量は異例です。」
「えっ?」
意外な結果に、俺は思わず変な声が出た。
学校とは真逆の評価じゃないか。
ということは、どちらかが誤った評価をつけているってことか。
結局、俺は魔力量が多いのか、少ないのか、どっちなんだよ。
とりあえずS+の評価をもらえたし、良しとしよう。
すると、さっきまで試験官の手伝いをしていた奴らも、なぜか俺のもとへとやってきた。
「なぁ、君。凄いじゃないか。これだけの魔力量を持った人間、王宮の魔法使いにもいないぞ。」
「君、どうしてこれだけの魔力量を持っているの?君の親も魔力量が多いのかしら?」
「次の試験も、見ていてもいいかな?君の実力にとても興味があるよ。」
コイツら、グイグイくるな。
いきなり押しかけるように話しかけられて困惑していると、試験官が間に入ってくれた。
「皆さん、待ってください。気持ちはわかりますが、今は試験中です。受験者にプレッシャーをかけるようなことはしないでください。」
「ちぇっ。」
「はーい。」
「じゃあ静かにしているから、この後の彼の試験も見ていてもいいかな?」
「僕は構いませんよ。」
「....本来はよろしくないのですが、受験者の彼がそう言うのであれば、特別に良しとしましょう。」
試験官は半ば呆れたように、小さくため息をついた。
そして次の試験を行うために、俺をすぐ近くにある池へと案内した。
「この池の水は特殊で、水晶玉と同じく魔力を注ぐと色が変わります。ですが水晶玉と違い、魔力をコントロールすることで色を自由に変えて、絵を描くこともできます。
今回の試験では、この池に絵を描いていただきます。」
うわっ。マジかよ。
俺、絵を描くのは苦手だ。
こういう試験もあるんだったら、実技試験の範囲も真面目に聞いておくんだった。
「僕、絵心がないので自信がありません。」
「フフフ。大丈夫ですよ。絵心がない人でも『このような絵を描きたい』と念じながら魔力を注ぐことで、絵を描くことができますよ。この試験で問われているのは魔力コントロール能力です。絵が描けない人であっても、魔力コントロール能力が高ければ、この池に美しい絵を描くことができます。」
それなら安心だ。
「では今から、絵のお題を出しますので描いてください。絵の質が合格水準に達したら次のお題を出します。制限時間の30分までに、なるべく多くの絵を描いてください。」
「わかりました。」
「それでは開始します。初めのお題は『家族』です。」
俺は、父さんと母さん、兄さん、そしてじいちゃんを想像しながら、池に魔力を注いだ。
すると池には、まるで写真で撮ったかのような4人の姿が映し出された。
「馬鹿なっ...!一瞬で絵が完成するとは!」
「しかも超リアル!まるで本物をそのまま写しているみたい!」
「普通、1週間かけてもここまでリアルな絵なんか描けないぞ!」
うるさいギャラリーとは反対に、試験官はまたしても目を見開いて固まってしまった。
「すみませーん!この絵は合格ですか?」
何度もそう尋ねると、試験官はやっと正気を取り戻して口を開いた。
「し、失礼しました!勿論、合格です。次のお題は『山』です。」
言われた通り、池に山を描く。
またもや試験官は驚いた様子だったが、今度は慣れたのか、固まることなく次のお題を出してくれた。
こうして俺は、ひたすらお題を聞いて、池に絵を描くことを繰り返した。
作業が単調すぎて眠くなってきそうだ。
そういえば、このやり取りに何となく既視感を覚える。
この既視感の正体は何だろう?
そんなことを考えながら、ひたすらお題に応える。
...あ。思い出した。
この感覚、正月の餅つき大会に似ている。
一方が餅を捏ねて、もう一方が餅をハンマーみたいなヤツで叩く。
それの繰り返しが、何となく今の試験と似ているように感じたんだ。
そんな下らないことを考えている間に、30分が経過したようだ。
「そこまで!記録は....1008枚です。これは、歴代最高記録です。評価はもちろん、S+です。」
やっと終わった。
気づけば1000枚も描いていたのか。
流れ作業をずっとしていたからか、終わった瞬間に思わず両手を上にして伸びをした。
伸びをした拍子に、欠伸まで出た。
ギャラリーも退屈な作業をずっと見ていたせいか、呆然としている。
試験を受けている俺ですら眠くなったのだから、見てるだけのコイツらはもっと眠たかっただろう。
にも関わらず、ギャラリー共は全員、瞬きもせずに目を大きく見開いている。
「....彼は一体、何者なんだ?」
「どう考えても、人の域を超えてるわ。」
ギャラリー共は小声で何かブツブツ言っているようだが、まぁどうでもいいか。
「それでは最後の試験を始めます。」
「はい。」
固まっているギャラリー共は放っておいて、とっとと試験を終わらせるか。
「最後の試験では、30分の間、魔法を自由に繰り出していただきます。詠唱・無詠唱どちらかでも構いません。繰り出された魔法の難易度によって、評価致します。」
魔法を自由に、と急に言われても、何をすればいいかパッと思いつかないな。
「それでは、試験開始です。」
俺はひとまず、初級魔法6種を繰り出した。
「おぉ!あの年で中級魔法を全種類同時に出すなんて、やるじゃん!」
「しかも無詠唱....。ま、さっきの試験結果を見た後だと納得よね。」
「上級魔法6種を同時無詠唱で出す奴もいるくらいだし、今までの試験結果に比べたらまだ普通な方だな。」
ギャラリー共から遠回しに馬鹿にされた気がする。
だったら上級魔法6種同時無詠唱とやらをやってやろうじゃないか。
俺は『これでもか』というくらい大きな上級魔法を放った。
普通に繰り出したら魔導宮が魔法で丸ごと無くなってしまうから、もちろん天に向かって放った。
「....『まだ普通』とか思った私が馬鹿だった。」
「やっぱり彼は化け物ね。」
どうだ、思い知ったか!
偉そうなことを言うギャラリー共を黙らせたのはいいが、この後は何の魔法を使おうか?
とりあえず、クラスのみんなの特殊魔法をひと通り使ってみるか。
淡々とみんなの特殊魔法を繰り出したが、あっという間にネタが尽きた。
次は何をしよう?
....そうだ!
「さっき僕が壊した水晶玉を直しますね。」
俺は台座に置かれた水晶玉を魔法で修理した。
ついでに交換する前の水晶玉も魔法で目の前に持ってきて、それらも修理する。
「あの水晶玉って、修理できるの?」
「魔法石はともかく、水晶玉は作り出すのですら高度な技術が必要になる。直すとなるとそれ以上の技術が必要だ。ましてやあのサイズの水晶玉を、修理できる者などいるはずがない。」
「....でも、ちゃんと直っているみたいだよ。アナタも確認してみてよ。」
「....本当だ。信じられない。」
ギャラリー共が勝手にチェックしてくれたお陰で、俺がちゃんと魔法を使ったことが証明されたな。
それはいいが....う〜ん、他に魔法が思いつかない。
『じゃあ、ここで問題です!
ボクらが必死の思いで倒した、厄災の魔王ちゃん。
彼は魔力量も、魔力操作も桁違いに凄い相手だった。
じゃあ、どうしてボクらは、そんな彼に勝つことができたのでしょーか?』
どんな魔法があるか考えていると、学校での初めての授業でシヴァが話していたことを思い出した。
今思い出しても腹が立つ。
何が『馬鹿の一つ覚えみたいに最上級爆発魔法しか使ってこなかった』だ!
その『馬鹿の一つ覚え』に苦戦していたのは、どこのどいつだよと言ってやりたかった。
『まぁ、とにかく。自分の適性とかに拘らずに、この魔法を使ってみたいとか、こんな魔法は使えるかな?とか、そういう柔軟な考えができると、色んな魔法が使えるようになるよ♩』
シヴァの助言が少しでも役立つかと思ったが、今更思い出したところで何の役にも立たなかった。
クソッ!全然、思いつかねぇ!
これだからシヴァの奴に『想像力がないからボク達は勝てた』とか調子に乗られるんだ。
ここで何も出てこなかったら、シヴァの奴に負けた気がする。
何とか、捻り出さないと。
「あら、彼の手が止まっちゃった。」
「ここで終わりか。まぁ、あれだけの高度な魔法をバンバン繰り出せるだけで異常だけどな。」
「私はてっきり、魔法大全に載っている魔法は全て使えるのではと思っていました。」
魔法大全?それだ!
ギャラリーの奴らも少しは良いこと言うじゃないか。
「すみません、試験官さん。今って、魔法大全を読んでも大丈夫でしょうか?」
念のため試験官に許可を取る。
「え?えぇ、構いませんが。ただし、試験会場から離れてはいけませんよ?」
「わかりました!」
許可がおりたので、俺は魔法で部屋にある魔法大全を取り出した。
「今更、魔法大全なんて取り出して、何をする気なの?」
「今読んだところで、その魔法が使えるようになるわけじゃない。それを分かっているのか?」
俺が魔法大全を取り出すと、ギャラリー共は訝しげな顔をした。
「えっと....この辺の魔法はもう出したから....あ、ここからですね。」
まだ使っていない魔法を見つけると、俺は早速それを繰り出した。
そして1ページずつめくっては、使っていない魔法を順番に繰り出す。
「...やっぱり、魔法大全の魔法は全て使えるじゃないですか。」
「ねぇ、もしかしてさっき彼の手が止まったのって....」
「『使える魔法がなくなった』からではなく『他に何の魔法があるか思いつかなかった』からだろうな。....ハハハ。凡人とは考えることが違う。」
俺が魔法を繰り出す傍で、ギャラリー共がそんな会話をしていた。
魔法大全を持ち出してからは、さっきの試験同様、流れ作業になった。
退屈ではあったが、残り時間が少なかったため眠気に襲われることはなかった。
「そこまで!記録は129種類です。...これまた、新記録です。しかも、どの魔法も高水準ですので、評価はもちろんS+です。」
よし。実技試験は全部評価S+だ。
ま、このくらいは余裕だな。
これだけ評価が良ければ、筆記試験の結果が良くなくてもカバーできるだろう。
「以上で、実技試験は終了です。午後からは筆記試験があります。昼食は魔導宮内の食堂を利用してくださって構いません。お疲れ様でした。」
魔導宮の食堂か。
どんな料理が出るんだろう。
少し楽しみにしながら食堂へと移動しようとした時、ギャラリー共が再び俺のもとに集まってきた。
「なぁ、この後昼食だろ?食堂まで案内してやるから、一緒に食べようぜ!」
「私達、是非君とお話したいのです。君のお師匠は誰ですか?」
「貴方は一体何者なの?何であんなに凄い魔法が使えるの?」
ギャラリー共は俺を取り囲んで、怒涛の勢いで話しかけてくる。
面倒な奴らに捕まってしまった。
適当にあしらって退散しようにも、囲まれているから逃げるに逃げられない。
....どうせ昼食が終わるまでの辛抱だ。
渋々、コイツらと一緒に昼食を取ることになった。




