【109】第23話:キョウシュー帝国へ(6)
教会の連中からホリーを救出した後、俺達は遠くからホリーの分身や神父達の動向を監視することにした。
ここは教会か?
映し出した画面には、書斎のような場所が映っている。
神父はその部屋にあるソファに、どっしりと座って口を動かしていた。
どうやら電話をしているようだ。
「....はい。わかりました。では10年前同様、器へ格納して本部へ送ります。」
会話を聞き始めたところだからか、内容が今ひとつ理解できない。
もう少し聞いたら、何か分かるか?
「....本当ですか?有り難きお言葉、感謝致します。私めが聖ソラトリク教団の幹部だなんて、恐れ多い話です。」
つまり神父は聖ソラトリク教団の団員でもあった、ってことか?
「ところで、一つお聞きしてもよろしいですか?....もし今回も命の器になり得ない場合、前回同様、私の方で管理してもよろしいでしょうか?...ありがとうございます。それではよろしくお願いします。」
コイツも命の器を狙っていたのか?
「命の器...?」
ゼルと俺以外は、その言葉の意味が気になっているようだった。
これくらいは教えても大丈夫だよな?
「コイツらの言う『命の器』っていうのは、俺のことだ。」
「命の器が、クドージンさん?じゃあ、教団の人達はクドージンさんを狙っているってこと?」
「あぁ。そうらしいぜ。」
「だとすれば僕が見た記憶の中のクドージンさんは、彼らに利用されていたから、命懸けで教団から逃げ出していた場面だったのかな?」
「結果的にそうなるな。」
「『結果的に』って、含みのある言い方ね。もうちょっと詳しく教えてよ。」
「面倒だからまた今度な。」
そんな雑談をしている間にも、神父に動きがあった。
神父は少し大きめの箱を持って、書斎から移動していた。
神父をしばらく監視していると、やがて林の中にある小さな池へと辿り着いた。
池の周りには綺麗に研がれた丸い石が並べられており、池の近くにはソラトリク様とやらの石像と祭壇が置かれていた。
池には何人かの信徒が既にいて、神父に気づくや否や近づいて話し始めた。
「神父様、浄化の儀の準備が終わりました。」
「皆さんご苦労様です。では罪人、ホリケン・サイーズをこちらへ連れてきてください。」
結局ホリーは罪人扱いかよ。
神父は、信徒がホリーを呼び出しに行っている間に、持ってきた箱を開けて何かを準備し始めた。
箱に入っていたのは、丸い宝石のようなものだった。
神父はその宝石を祭壇に置いた。
小一時間、信徒は神父に言われた通りにホリーを池まで連れてきた。
連れてこられたホリーの分身は、来て早々に信徒に手枷をつけられた。
神父は祭壇の前に立つと、両手を宝石の上に置いた。
「それでは今から、浄化の儀を行います。罪人、ホリケン・サイーズ。浄化の湖の中央までお入りください。」
浄化の湖って、あの池のことか?
どう見ても『湖』って感じじゃないだろ。
ホリーの分身は抵抗することなく池の中に入っていく。
池は意外と深かったようで、ホリーが池の中央まで入ったところ、首から下が池の中に浸かってしまった。
「ホリケン・サイーズに取り憑く悪しき魂よ!今より貴様の魂を御球に封じる!」
「「全てはソラトリク様のために!」」
すると、神父の手元にある宝石が怪しく光り始めた。
その光に連動するかのように、大きな魔法陣が池を覆うように浮かび上がった。
この魔法陣には見覚えがある。
厄災の魔王がシヴァから喰らった、転生魔術だ。
いや、正確には魂を封じる魔術か。
「悪しき魂よ!御球に還るのだ!」
「「全てはソラトリク様のために!」」
魔法陣は連中の思いに応じるように、その怪しい光を一層眩しく輝かせた。
....そういえば、あのホリーはただの分身だから、魂を封じる魔術なんざ使っても意味はないんじゃないか?
とりあえず怪しまれないように、魂が抜き取られたフリでもさせておくか。
ホリーの分身は、そのまま池に顔をつけて倒れたフリをした。
そして数分も経たないうちに、池の中へ沈んでいった。
それを見届けた神父はほくそ笑み、信徒達は安堵の表情を浮かべた。
「やった!」
「厄災の魔王が滅しました!」
「無事に悪しき魂を封じることができましたね。皆さん、お疲れ様でした。」
その一部始終を見ていたホリーは、顔を青ざめて身体をガクガクと震えさせていた。
「あのままあそこにいたら、僕、ああなっていたんだ....。」
「まさか本当に人を殺しちゃうなんて。ゼルくんとホリーくんが言ってたことが正しかったよ。私、全然分かってなかった。」
「仕方ないよ。ライラさんは教団の本性を知らなかったんだから。それよりアイツら、悪しき魂を封じるとか言ってたけど、何をしたんだろう?」
「十中八九、ホリーの魂をあの宝石に封じ込めたつもりなんだろうよ。アイツらが使っていた魔術、前にシヴァの野郎が使った魔術に似ているしな。」
「僕の魂を、あの中に?僕の分身にも魂が入っていたのですか?」
「いいや。アレは俺が操って死んだように見せただけだ。ま、死んだホリーを見ても連中は何も違和感を持っていなかったし、お前があの場にいても同じ結果になっただろうな。」
「そうなんだ。......ハハハハハ。」
口では笑っているが、ホリーの口元は引き攣っていた。
「という事は、教団の奴らはあの宝石にホリーくんの魂が入っているって思っているんだ。アイツら、その宝石をどうするつもりなんだろう。」
「もう少し神父の様子を見てみるか。」
その後も、神父の動向を魔法で監視し続ける。
神父は宝石を箱の中へと戻すと、儀式の後始末を信徒に任せて、箱を持ってさっきまでいた書斎へと戻っていった。
「フフ....フフフフフ....。」
書斎へ戻るや否や、神父は不気味な声を出して笑い始めた。
そして箱の中から宝石を取り出すと、恍惚とした表情で宝石を眺める。
「これで稀有なサンプルがまた一つ、私の手中に収まった。ホリケン・サイーズ。貴様の魂は10年前の奴と比較して、どれほどの価値があるのだろうな?嗚呼、貴様の魂を早く研究所で調べてみたい!」
ホリーの魂って、そんなに珍しかったのか?
「私としては、貴様の魂が命の器ほどの価値がなくとも良いのだぞ?そうすれば、ずっと私の手元に置いておける。教団の幹部になれなくとも、その方がずっと良いからな。」
神父はまるで宝石に語りかけるように、気持ちの悪い独り言を続ける。
さっき本部へ器を提出云々の話をしていたが、器というのは宝石のことを言ってるのか?
「そうだ。ホリケンの魂と10年前の魂が混同しないように、箱に明記しておかなければ。」
神父は宝石を入れていた箱に、ホリケン・サイーズと明記して、宝石を中に入れた。
そして書斎の奥の棚に隠すように置いてあった箱を取り出す。
神父が箱の中を開けると、そこにも同じような宝石が入っていた。
宝石があることを確認した神父は、箱を閉じると、ホリーの箱と同様に、箱に名前を記入した。
「あの箱の中の宝石にも、誰かの魂が封印されているのかしら?」
「そうだろうね。今までの流れ的に、10年前に厄災の魔王として教団に裁かれた人の魂だと思うよ。」
「だとしたら、この人の魂って10年も宝石の中に閉じ込められているんだね。何だか可哀想。」
宝石に封印されただけで可哀想とか、ライラは相変わらず偽善的だな。
「そっちの宝石も気になるけど、それよりホリーくんの宝石を何とかした方がいいんじゃないかな?あの神父、ホリーくんの魂を研究したいとか何とか言っていたよね。もし調べられて魂が封印されていないことに気づかれたら、厄介なことになりそうだよ。」
ゼルの言う通りだ。
ホリーの宝石を調べられる前に、対策を打つ必要がある。
「神父様。先程、入信希望の方が来られました。」
「分かりました。すぐに向かいます。」
信徒の呼びかけで、神父は慌てて箱をしまうと、書斎の外へと出ていった。
丁度いいタイミングだ。
「クドージンさん、今のうちに僕の宝石を何とかしましょう!」
「うっせぇ、わかってるよ。」
俺は宝石を粉々にした。
こうしておけば神父は『宝石が割れてホリーの魂はどこかへ行った』と思ってくれるだろう。
「でも宝石だけ割れているのって、ちょっと不自然じゃないかな?」
殿下がケチをつけてきたので、渋々部屋全体を荒らして誤魔化す。
これで空き巣が入ったと勘違いするはずだ。
偽装工作はしたし、これ以上は監視する必要がなさそうだが、一応神父が帰ってきた時の反応を確認してから映像を切るか。
するとセンガが、真剣な面持ちで俺に話しかけた。
「すみません、クドージンさん。ついでと言っては何ですが、今のうちに10年前の宝石も頂くことは可能でしょうか?」
「あ?できるけど、そんなモンどうするつもりだ?」
「純粋に一研究者として、どのような物なのか興味がありまして。魔術は門外漢ですが、あの方がいれば一緒に調べることはできると思うのです。」
あの方、というのはシヴァのことだろう。
「ねぇ、センガさん。もし調べるのなら、その後にでもあの人の魂を解放してあげて。ずっとあのままは可哀想だよ。」
「承知しました。特に問題なければ解放します。」
「うん。ありがとう、センガさん。」
センガとライラがそんな会話をしている間に、俺は10年前の宝石を盗み、代わりに偽物を箱へ置いた。
....いや、偽物を置いてても調べられたらバレるんだった。
俺は偽物の宝石も割って、空き巣が荒らしたかのように偽装した。
「ほらよ。」
俺は盗んだ宝石をセンガへ渡す。
そしてしばらくすると、神父が書斎に帰ってきた。
書斎の悲惨な光景を見た神父は、顔を青くして暫く呆然とする。
やがて何かに気づいたかのように、ホリーの宝石が入っていた箱を手にすると、大声で発狂し出した。
「あぁぁぁ!そんな、折角の魂が...!」
余程ショックだったのか、頭を抱えてのけぞりそうになっている。
「まさか...もう一つは?!」
神父は慌てて、奥の棚にしまってあった宝石も確認しに行く。
「や...やられた....。」
宝石が粉々になっているのを確認すると、へなへなとその場で座り込んでしまった。
まるで口から魂が抜け出しているかのように、神父は大きく口を開けて放心状態になった。
この様子を見る限りじゃ、こっちの偽装工作がバレる心配は無さそうだ。
そう判断して俺は、魔法で出してた映像を閉じた。
「これでひとまずは、僕が教会の人達に追われることはなさそうだね。ありがとうございます、クドージンさん。」
ホリーは朗らかな表情で、胸を撫で下ろす。
「そういえば俺ら、教団のことを探りに行ったはずなのに、いつの間にかホリーのことで色々あって忘れてたな。」
「でも結果的に、聖ソラトリク教会について新しく知った情報もあるよね。私、教会が本当にあんな組織だったなんて、未だに信じられないよ。」
「いつの時代にも、あのような非人道的な組織があるものなのですね。個人的には、彼らの言う『天の国』が種命地と関係がありそう、ということが知れただけでも収穫はありました。聖ソラトリク歴4058年に種命地のマークが使われだした、ということは、その年に我々の時代の人間が目覚めて教団に干渉した可能性もありそうです。」
「私は宮藤くんが『命の器』って言われているのが気になったわ。教団が宮藤くんを狙っている理由も気になるけど、ホリーくんの魂が宮藤くんになり得るか?っていう話も引っかかるわ。」
俺もそれは引っかかった。
ホリーの魂が特別?命の器に匹敵するか?
それを聞いて、何かが閃きそうな感覚を覚えた。
俺の頭の中で、点と点とが線で繋がりそうな感じがあるが、繋がりそうで繋がらない。
そういえばホリーのことで、何か忘れているような...。
「...あ!おいホリー、お前そういえばキョウシュー帝国の繁華街を見て回りたいって言ってなかったか?」
「えぇ?今更それですか?この状況で行く気になれないので、やめておきます。」
それもそうだな。
「じゃあキョウシュー帝国へ行けない代わりに、この辺りでお買い物に行きましょうよ!」
「賛成ー!」
カタリーナの提案に、みんなは乗り気だ。
まぁ、別に予定はないし、付き合ってやってもいいか。
その後、俺もみんなと一緒に、近くの街まで買い物をした。




