【106】第23話:キョウシュー帝国へ(3)
キョウシュー帝国・聖ソラトリク教会。
白くてどデカいその建物は、厳かな雰囲気を漂わせていた。
休日だからか、そこそこ観光客が入っていたが、客はみんな教会の重い空気感に合わせるように静かにしていた。
「ここが、聖ソラトリク教会、なのですね。....皆さん、行きましょう。」
センガが張り切って教会へ入ろうとしたその時、『ぐぅ〜』という大きな音が響いた。
音が鳴った方向を見ると、そこにはライラがいた。
「....ごめん。」
ライラは恥ずかしそうに顔を真っ赤にした。
「ったく、こんな時に呑気なやつだなぁ。俺やフレイみたいにちゃんと朝ごはんを食べてないから、変な時間に腹が減るんだよ。」
「ちゃんと食べたもん!お兄ちゃんやフレイくんが食べ過ぎなの!」
「それに、何だかんだでもうお昼ご飯の時間だよ。せっかくだし、お昼ご飯を食べてから教会に入ろうよ。」
ホリーの提案を受けて、俺達は近くの飲食店を探して、そこで昼食を取ることにした。
教会から歩いて数十分。
近くの繁華街へと着いた俺達は、大人数でも入れそうな大きな飲食店を見つけ、中に入った。
「キョウシュー帝国の繁華街も楽しそうだったね。僕、この国に来たことがないから、時間があったら繁華街を見て回りたかったよ。」
「だったら、教会に行った後で時間があったら寄ってみるか?その程度だったら付き合ってやってもいいぞ。」
「え?いいんですか?クドージンさん、ありがとうございます。」
「ホリーさん、その時に私も一緒に繁華街を見てもよろしいでしょうか?今の時代の観光地に、とても興味があります。」
「もちろんですよ。でもセンガさんは、お金は持っているのですか?」
「はい、少しは持ってます。ですがもしお金が足りなければ、お店の中を物色するだけでお買い物は諦めます。」
それは店側にとって迷惑なんじゃないか?
そんな雑談をしながら、俺達はメニューを開く。
ソラトリクパンにソラトリクスープ、双頭鶏のソラトリクステーキなど、観光名物なのか聖ソラトリク教会をあやかった料理が多い。
ってか、教会の唯一神を料理にするのは失礼なんじゃないか?
「『ソラトリク』と名のつく料理のイラストは、どれも頭が2つあるように見えますね。何か理由があるのでしょうか?」
「そういえばここに来るまでも、繁華街の至る所に頭が2つある人のイラストやマスコットキャラがいたわね。もしかしてアレが『ソラトリク様』とやらなのかしら?」
「そうだよ。ソラトリク様は、異郷の地から現れた双頭の神様なの。ソラトリク様は全知全能の神で、この世界に魔法と魔術の知識を授けたんだって。私の家は教会が近いから、牧師さんに教えてもらったんだ。」
「へぇ。ソラトリク様って全知全能の神様だったんだ。でも唯一神を名乗るくらいだから、万能なのは当然かもね。双頭ってことは、もしかして結合双生児だったのかしら?」
「ケツゴーソーセージ?何だそりゃ。食べ物か?」
「違うわよ。結合双生児っていうのは、体の一部がくっついた状態で生まれた双子のことよ。私のいた世界にも、非常に稀だけどいたわよ。頭が2つある状態の双子とか、逆に頭がくっついている双子とか、足がくっついている双子とか。」
「へぇ、マジか。じゃあ俺も、ライラとくっついて生まれた可能性もあったのか。」
「それはないんじゃない?結合双生児って確か一卵性双生児で起こる現象でしょ。二卵性双生児のタクトくんとライラちゃんには関係ないと思うわよ。」
「イチランセーソーセージ?ニランセーソーセージ?」
「...そっか、この世界の知識じゃ、そこから説明しないといけないのね。」
カタリーナは双生児とやらについて説明をし始めた。
双生児云々については俺も知らなかったから、説明を聞いていて『なるほどな』と感心した。
「双子にも色んな種類があるんですね。カタリーナさんは物知りですね。」
「この程度の知識、向こうの世界じゃ『物知り』のうちに入らないけどね。でもフレイくん達にも伝わって良かったわ。」
カタリーナにとっては謙遜のつもりなのだろうが、『この程度の知識』すら知らなかった俺は、その態度が少しだけ鼻についた。
「カタリーナさんとライラさんのお陰で、ソラトリク様という方がどんな方なのか、少し勉強になりました。教会へ向かう前に、聖ソラトリク教について知れることは知っておきたいです。ライラさん、もしよろしければ聖ソラトリク教について教えてくださいませんか?」
センガは前のめりになってライラに尋ねる。
「もちろんですよ。聖ソラトリク教は世界最古にして世界最大の宗教なんです。世界で最も広く使われている紀年法の『聖ソラトリク歴』は、ソラトリク様がこの世に降臨された年を元年として数えられているんですよ。」
「私が元いた世界で言うところの、キリスト教的な感じね。」
「へー。日本にもキリスト教とやらが存在したのか。」
「えっ...。宮藤くん、それ本気で言ってる?」
キリスト教を知らないだけでカタリーナに引かれた。
解せない。
「まぁ宮藤くんのことはさておき、ライラちゃん、説明を続けて。」
「うん。それでソラトリク様についてだけど、ソラトリク様は大昔、キョウシュー帝国にあった来神山に降りたったんだって。そして当時、人々は魔術どころか魔法も使えなかっとんだけど、ソラトリク様が人々に魔法と魔術の使い方を教えていったんだ。人々の中にはソラトリク様に心酔して、弟子入りした人が何人もいたの。その人達が後に聖ソラトリク教団を作ったんだって。でも当時の人々の中にはソラトリク様の姿や魔法、魔術を気味悪く感じた人も多かったみたい。そういった人達に危険人物扱いされて、最終的には殺されちゃったの。」
「人間如きに殺されるなんざ、弱っちい神様だな。全知全能が聞いて呆れるぜ。」
「クドージンさん、私は別にいいけど、信者さんの前ではソレ絶対言っちゃダメだよ?」
「言われなくても、わかってるよ。」
「それなら良かった。ちなみにソラトリク様は死後4000年を経て、再びこの世に降臨されたんだよ。」
「『再びこの世に』って、私達みたいに転生したってことかしら?」
「それはわかんない。でもソラトリク様はその時『この地上には既に悪の申し子が蔓延っている。奴らを排除するのです。』という言葉を残して、再び天の国へと帰ったんだって。その『悪の申し子』は亜人のことを言っていたみたいで、キョウシュー帝国が亜人を毛嫌いしているのはその教えのせいでもあるの。今でも、熱心な聖ソラトリク教の信者さんはみんな亜人が嫌いだしね。」
それを聞いたゼルは、あからさまに不快感を示した。
コイツも一応亜人だし、不愉快に思うのは当然だ。
「やっぱり、聖ソラトリク教なんかクソだよ。人種差別する理由を宗教に盛り込むとか、発想が蛆虫以下だ。」
「ゼルくん、それは思っていても今言うのは良くないよ。この町やお店にも聖ソラトリク教を信仰している人がいるんだし。」
ライラの注意を受けて、ゼルは渋々怒りを抑えた。
「聖ソラトリク教を否定するつもりはないけど、もしかしたら政治利用するために、そういう教えを作ったのかもしれないね。
キョウシュー帝国がここまでの大国になれたのも、聖ソラトリク教を政治利用したから、っていう話も聞いたことがあるよ。
例えば、聖ソラトリク教が知っている魔術の知識も、『異教徒にその叡智を教えるのはソラトリク様への裏切り行為』とすることで、高度な技術を独占できたんだ。恐らくは、今でもディシュメイン王国にも知られていない高度な技術を持っているかもしれないね。」
聖ソラトリク教団がろくでもない組織だと知っているからか、殿下の考察には説得力があった。
「私もその話は聞いたことがあります。『力を得るためには犠牲はつきものだ。だがその犠牲は異教徒であれば許される』っていう教えを建前に、キョウシュー帝国は他国を侵略していったそうよ。キョウシュー帝国の侵攻を逃れようとした弱小国は、聖ソラトリク教を国教にすることで難を逃れたんだって。でも、そういう国は聖ソラトリク教が裏で政治を操ってたから、事実上のキョウシュー帝国の植民地になっていったそうよ。」
もはや、やりたい放題じゃねえか。
「...なぁ。この話、もうやめないか?メシが不味くなる。」
「あ?タクト、どうした?珍しく元気がねぇな。」
「さっきからキョウシュー帝国の悪い話ばっかで、嫌なんだよ。俺は別に聖ソラトリク教に入信してないから、聖ソラトリク教がボロカスに言われようが、どうでもいい。でもキョウシュー帝国の悪口は萎える。これでも、俺はキョウシュー帝国民だしな。」
すると殿下とカタリーナはバツの悪そうな顔をした。
「タクトくん、ごめんね。君の気持ちも考えずに色々喋っちゃって。」
「ライラちゃんも、ごめんなさいね。差別するつもりで言ったわけじゃないの。」
「全然、気にしてないよ。殿下もカタリーナちゃんも、聖ソラトリク教について参考になりそうな話をしてくれただけだもん。」
その時、タイミングを見計らったように料理が運ばれてきた。
「料理も来ましたし、聖ソラトリク教の話はやめて料理をいただきましょう。僕もお腹がペコペコです。」
「だな。聖ソラトリク教の話はもうお腹いっぱいだぜ。それより、メシだメシ!」
それから俺達は、運ばれてきた料理を黙々と食べ始めた。
フレイが頼んだのは双頭鶏のソラトリクステーキだ。
双頭の鶏なんざ存在しないだろうが、それでも鶏2匹分のボリューミーなステーキが出てきて、俺的には大満足だ。
ちなみに宮藤迅は何も注文していない。
みんなから『食べなくていいのか?』と聞かれたが、分身の食事なんて無駄だろ。
そして食事を終えると、俺達は再び聖ソラトリク教会へと移動した。




