【105】第23話:キョウシュー帝国へ(2)
朝食を終えて小一時間が経った、とある休日。
この日、俺達はカタリーナの部屋に集まっていた。
宮藤迅とセンガ以外が集合したタイミングで、俺は宮藤迅の分身を作ってカタリーナの部屋をノックした。
「入るぞ」
「その声は宮藤くん?入って入って!」
俺が扉を開けると、みんなは快く出迎えてくれた。
「クドージンさん、本当に来てくれたんだ!」
中でもライラは俺の顔を見るなり、満面の笑みを浮かべて喜んでいた。
「おいおい。そんなに驚くことかよ。」
「だって、事前に会う約束ができたのって初めてでしょ?クドージンさんはいつも突然現れて、あっという間にいなくなるから、今までゆっくりお話できる機会がなかったもん。これからはメールで会う約束ができるんだって思ったら、嬉しくて。」
「その程度のことで喜ぶなんざ、おめでたい奴だな。」
「だったら、これからもメールしたり、一緒に会ったりしてもいい?」
「それは....」
ライラは俺を期待の眼差しで見てくる。
コイツの、たまにグイグイくるところが苦手だ。
苦手だが、嫌いとは違う。
強いて言えば、照れ臭い感覚に近い。
「........しつこかったら、テメェの連絡先ブロックするから。」
「じゃあ、しつこくなかったら良いってことだよね?」
「勝手にしろ。」
「やった!」
俺の言葉で喜ぶライラを見ていると調子が狂う。
「それとね、クドージンさん。実は私達、クドージンさんに渡したいものがあるの。」
ライラは思い出したように、持っていた紙袋から例のモノを取り出した。
「これは?」
「いつも私達を助けてくれるでしょ?そのお礼にみんなでメッセージカードを書いたの。あとこっちは、みんなの魔力がこもった水晶石で作ったブレスレットだよ。」
「へー。」
リアクションに困って、結局それだけしか言えなかった。
『要らない』とはっきり言えば良かったが、なぜか言い辛い。
かといって喜んで受け取る演技は死んでもごめんだ。
というかコレ、どう処分しよう。
今更だがメッセージカードもブレスレットも、プレゼントとしてのセンスが悪すぎだろ。
メッセージなんざ書かなくても、言いたいことがあれば直接言えば良くないか?
それにブレスレットも、全員の水晶石を無理矢理使っているからか、デザインが小学生レベルだ。
こんなもの、ダサくて身につけたくない。
....まぁ、とりあえず、俺の机の引き出しの中に入れておくか。
俺は魔法で、メッセージカードとブレスレットを、俺の机へと移動させた。
「あっ、消えちゃった!」
「手に持ってても邪魔だから、部屋に置いてきた。」
「お前なぁ。せっかくプレゼントしたんだから、メッセージカード読むとか、ブレスレットつけてみるとか、ちょっとは手に取れよ。」
「うっせぇな。俺が受け取ったんだから、どうしようが俺の勝手だろ。」
「それもそうだね。クドージンさん、それでも受け取ってくれてありがとう。」
そこ、礼を言うところか?
やっぱりライラは変なヤツだ。
「そんなことより、あの女のことを説明するぞ。」
俺は事前にゼルと打ち合わせていた通り、魔法を使ってセンガを直接部屋へとワープさせた。
「きゃっ!...相変わらず、この時代の魔法とやらは無茶苦茶ね。」
事前に説明していたとはいえ、いきなりの移動にセンガは戸惑って辺りを見回す。
「えっと、初めまして。私はセンガ・マキナと申します。」
センガは俺達に軽くお辞儀をする。
センガを初めて見たライラ達は、その姿を不思議そうにまじまじと見た。
「なるほどなぁ...。」
「確かに、どことなくクドージンさんにも似ているね。」
「服装も、以前カタリーナの夢の中で、カタリーナが着ていた服にそっくりだ。」
「そりゃそうだ。なんせこの服は、カタリーナが前世で着ていた服をそのままコピーして着せてるからな。前の服より、こっちの方がまだマシだろ。」
「私も、この服装は素敵だと思います。一見、シンプルですが洗練されたファッションで、センスを感じます。」
「センスを感じるって、それは大袈裟ですよ〜。」
カタリーナは服装を褒められて、まんざらでもなさそうだ。
「ねぇ、センガさん。センガさんが今喋っている言葉って、どこの言葉なの?口の動きと聞こえる内容にズレを感じるけど...。」
「私が今話しているのは華葉語です。ですがクドージンさんの魔法によって、私が話す言葉が皆さんに伝わるように変換されているようです。」
「華葉語とは、どこの言葉ですか?」
「おいホリー、慌てんな。その辺の質問はセンガの話をひと通り聞いたらわかるぜ。」
「そうなんですね。それではセンガさん、説明よろしくお願いします。」
「はい。」
センガはみんなに、自分が何者なのかを説明した。
大昔に起こった人類の危機について。
コールドスリープについて。
種命地のシンボルについて。
みんなは話を聴き終えると、理解が追いついていないのか、しばらく黙ってしまった。
「あの、皆さん質問はありますでしょうか?」
「....う〜ん。」
「どこから質問すべきか...。」
そんな中、意を決して質問をしたのはカタリーナだった。
「ねぇセンガさん。アナタのいた時代に、日本という国はありましたか?」
「残念ながら、私は存じません。以前クドージンさんにも尋ねられましたが、私がニホン人に似ているのは恐らく偶然かと思われます。」
「確かに見た目も日本人に似ています。ですが、それだけではありません。珍しいですが名前も日本人と似ています。センガさんのいた時代の人々は、どんな名前が多かったのですか?」
「どんな名前か、と聞かれると難しいですね。強いて言えば、苗字は家柄、名前は性別と何番目の子どもかで決まります。例えば私の苗字『マキナ』は、先祖が旧真国の綺地に住んでいた奈族であることに由来します。そして名前の『センガ』は、私は女なので『セン』、そして第一子であるため『ガ』を後ろにつけて『センガ』となります。なので私のいた時代ですと、名前でその人の出身地や家柄、性別や何番目の子供かまで把握できます。」
「だとすれば、名前が日本人っぽいのも偶然ですね。....でしたら、センガさんはアメリカや中国は知っていますか?英語という言語は知っていますか?イエス・キリストや仏陀は知っていますか?」
何かを知っていてくれと願うかのように、カタリーナは地球にあった物や概念をひたすら尋ねた。
その中には俺ですら知らない単語も結構出てきた。
でもセンガは、申し訳なさそうに首を横にふる。
「カタリーナさん、申し訳ありません。先程仰った単語は、どれも聞いたことがありませんでした。」
「じゃ、じゃあ世界地図!センガさんがいた時代の世界地図って描けますか?」
カタリーナが紙とペンを渡すと、センガが記憶を辿る様に考えながら世界地図を描いた。
「これは...。」
「カタリーナさん、いかがでしょうか?」
「私の知っている世界地図じゃない。日本がないのはまだしも、ユーラシア大陸やその他の大陸が見当たらないわ。仮に大陸が移動したのだとしても、どう移動したらこうなるのかが分からないわ。」
そんなに酷い地図なのか?
俺はカタリーナが手に持っている地図を覗く。
その地図には、いくつかの大陸が満遍なく存在し、大陸と大陸の間には細々とした小さな島が幾つか点在していた。
日本にいた頃の世界地図は記憶にないが、少なくともこの世界の世界地図とは似ても似つかない。
「だったら、センガさんの時代は....種命地は、日本とは関係ないのかしら?」
カタリーナは諦めの表情で、ぼそりと呟いた。
「そうじゃね?ここまで共通点がなかったら、見た目が似ていたのはただの偶然だと思うぞ。」
それにこの前のダイフク会長の話を聞く限りじゃ、種命地と日本は無関係だろう。
そのことを説明してやろうと思ったが、下手に説明するとあの時のやり取りについて詮索されて、そこからシヴァやゼルの正体に気づかれる可能性がある。
一応ゼル達と、『みんなにはシヴァとゼルの過去は伏せて話す』と事前に打ち合わせている手前、自分からボロを出すわけにはいかない。
「あぁ〜!わっけ分かんねぇ。結局、種命地と聖ソラトリク教団はどう関係してんだよ。何で種命地のシンボルが聖ソラトリク教団のシンボルなんだ?」
「私も、その件について知りたいです。聖ソラトリク教団とは、どんな団体なのか、調べてみたいです。」
「だったらこの後、みんなでキョウシュー帝国にある聖ソラトリク教会へ行ってみるのはどうかしら?キョウシュー帝国まで普通に行こうとしたら今日中に着かないだろうけど、宮藤くんの魔法があれば一瞬で行けるしね。」
俺の魔法頼りな案に少し呆れたが、俺自身、聖ソラトリク教団を探ってみたい気持ちはあるから賛同した。
「私も賛成です。少しでも聖ソラトリク教団に関する手掛かりが得られるのなら、是非行きたいです。」
「でもセンガさんとクドージンさんは、行っても大丈夫かな?教団が種命地と関係しているのだったら、種命地の人に似た2人は、教団に目をつけられるんじゃないかな?」
ゼルの意見はごもっともだ。
「だったら俺とセンガは、髪と目の色を変えるか。」
「確かに、それなら問題ありませんね。」
他に反対意見は挙がらなかったので、俺達は出かける準備をしてから、魔法でキョウシュー帝国へと移動した。




