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異世界の薄幸少女にチート霊が憑依しました  作者: バッド
3章 旅する巫女

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75話 再びのバラトです

 思い出しました。バラトは賢者の石を私にプレゼントしてくれた良い人間です。ドヤ顔でイザナミちゃんを人質にとっているところが、優しいですね。他の人なら死んだら悲しむので助かりました。


 イザナミちゃんの身体はアバター。死んだ場合、その魂は元の神の肉体に戻るだけです。なので、私は特段なにも思わずに、イザナミちゃんを見捨てます。


「貴様っ! 人の心がないのか!? こんなに可愛らしい幼女だぞ? 連れ帰ってペロペロしたいレベルの幼女だぞ?」


 怒鳴るバラト。その優しさにイザナミちゃんはますますジタバタと暴れて抜け出そうとする。


「うびぃぃ、助けるのです! 霊帝、妾を助けるのですよ! このままだと貞操の危機なのです!」


「貞操って」


 バツイチでしょ。あ、もう新しい身体だからノーカン? なるほど。


 イザナミちゃんの目から言いたいことを読み取って納得。


「むむ、もしかして助けないといけないパターンですか」


「そうなのです。イイエにすると、ハイを選ぶまで永遠に繰り返す選択肢なのです!」


 なにかループ物のストーリーらしいです。私は時をかけるのでしょうか。


「いや、そんなことより、あの男はどうやってこのダンジョンに入ったんだ? 今はマイルームに……。ジェネレーターを稼働させた時に、入口を檜野スカイシティに設定したのか」


 そんなことよりじゃないのですと、子猫の鳴き声を無視して、おったんが自己完結します。その通りです。ジェネレーターを稼働させる時にダンジョンの入口を設定する必要がありましたからね。まぁ、遠隔操作もできるようにしておいたんですけど、それでも一旦は外に出る必要がありますので。


「檜野スカイシティの街の前に設定しました。どうせ入口は改変しますし、良い場所だと思ったので」


「それは誰でも入れるな。あいつ、懲りずに虎視眈々と狙ってたわけか」


「たぶん開園を入口で待つお客様だったと思いますよ。賢者の石も持ってますし」


 きっとダンジョンへの入口が開き始めたことに気づいて、今か今かと首をキリンのように伸ばしてワクワクと待っていたんでしょう。幼女なら許されますが、おっさんがアトラクションを待つのはいかがなものかと思いますよ。


「量産されたらしいからなぁ、1個しか持っていないと考えるのは迂闊だったか。あいつ何個持ってるんだ?」


「あの賢者の石は前回よりも遥かに劣ったパワーを感じます。作ったばかりなのは間違いないでしょう」


 あまり強くない反面、経験気があまり入りそうもないので、がっかりです。ですが、それでも大量に経験気は入るでしょう。


「おったん、倒しますよ!」


「わかった。目に物見せてやるとしよう」

 

 私とおったんは凛々しくキリリとした顔つきで、剣を構えて迎え撃とうと━━。


「待て待て待て。まずは俺の目的や、背後に組織があるかとか聞くと」


「隙ありなのです!」


 なんか顔を真っ赤にして犬みたいにギャンギャン吠えるバラトですが、隙ありとイザナミちゃんが力を使う。


「妾の第二形態を見せてやるですよ!」


 イザナミちゃんの真の力、神なる者の正体が露わとなる。


 シュポンと蔦から抜けて、落下します。その姿は輝いており、誰もが目を疑う光景が眼前に現れる。


 ━━━ジャージ姿のイザナミちゃんです! ヨレヨレの使い古した布地、その服装はイザナミちゃんの可愛さを全て打ち消し、残念なニート風が吹き荒れます。


 これこそ、イザナミちゃんの真の姿! 巫女服の下にジャージを着ていた模様。


「ジャージ姿となったイザナミちゃんは、今までよりもさらに怠惰になり、術も雑になって、すぐに寝ちゃうか、漫画を読むか、ゲームをやるかしか動かなくなります!」


「そのとおりなのです! というか、たーすーけーてー」


 結構高く持ち上げられたので、落下ダメージが大きそう。イザナミちゃんはジタバタと空中で手足を動かし、無駄な抵抗をする。なぜに脱出したのでしょうか? 考え無し過ぎます。


 ですが大丈夫。


「ミアキちゃん、イザナミちゃんを頼みます!」


 こちらには念動力を使える頼りになるお友だちがいるのです。


「まかちてくだしゃい!」


『テレキネシス』


 ミアキちゃんがピコピコハンマーを掲げて、念動力を発動させます。空気が蜃気楼のように揺らめくと、念動力が落下するイザナミちゃんを包み込み、その体を空中でピタリと止めます。


「むむー、テレキネシス〜」


「おぉ、やったのです! 褒めてあげるのでゆっくりとおろしてください」


 むぅぅと、頬を膨らませて頑張るミアキちゃんに、イザナミちゃんが大喜びします。


「ぶんぶんあたっーく!」

 

「あだぁっ!」


「ゲフラッ!」


 といやと、イザナミちゃんをバラトへと投げつけちゃいました。二人の頭がぶつかり合い、ゴスンととても痛そうな音を立ててのけぞる。


 そして、ミアキちゃんは満面の笑顔です。くねくねと身体を揺らし、得意げな可愛い顔です。


「てへへ、ほめてほめて〜」


 さっきの活躍を褒められたので、同じことをしてみた模様。幼女は一度褒められると同じことをして褒められたくなるものなのです。


「よくやりました、ミアキちゃん」


「あぁ、敵に大ダメージだ」


 落下して、バタンバタンと転がるバラトを見て、私たちは褒めちゃいます。頭もナデナデしてあげて、褒めちゃいます。


 かなりのダメージを負ったはず。ファーストアタックはミアキちゃん。


「妾もダメージを負ったのだが? とっても痛いのですよ?」


 落下して幼女型の穴から這い出てきて、よろよろと歩いてくるイザナミちゃん。


「爪になって敵を倒したいと言ってたではないですか。爪になって敵に突撃できて良かったですね、イザナミちゃん」


「あれは、妾が爪を操りたいと言ったのであって、爪になりたいと言ったわけではないのですよ!」


「あまり違いはないと思いますよ、イザナミちゃん」


「大きく違う所があると思うのは妾だけです?」


 なぜかプンスコ怒るイザナミちゃん。せっかく爪になって空を飛べたのに、なにか嫌なことがあったのでしょうか?


「ふざけるのもそこまでだ。そのジャージはただのジャージではないだろう。永き間に神気を吸収して、あらゆる攻撃を防ぐジャージになっている。第二形態はニートな装いだが、その性能は伊達ではないはずだろう?」


 おったんの冷静なセリフに、むぅと口籠るイザナミちゃん。そうなのです、ジャージを着て、着たきり雀だったジャージは、大きな力を予想外に得てしまい、イザナミちゃんの最強に近い服になっちゃったのです。ニートな幼女はますますニートである理由ができて大喜びしてました。


 ご不満、不機嫌な幼女とは別に、落下ダメージが大きかったバラトはというと━━━。


「は、話を聞かぬ奴らめ、貴様らは侘び寂びというものを知らんのかっ、風流を解さぬ奴らめ!」

 

 イザナミちゃんの怒る演技とは違い、バラトは顔を真っ赤にして、本当に憤怒に満ちて、周囲の空間がその怒りに熱気を持つような恐ろしい力を持つ。侘び寂びと風流は関係ないと思うのですが。


「あれ、結構ダメージを与えたはずなのに、たいしたダメージは負っていないですね?」


「うむ、どうやら先日の戦闘の反省をしたようだな」


 人間なら大怪我確実の落下ダメージを受けたはずなのに、血も流していないし、骨も折れていないようです。少し黒ローブが埃で汚れている程度。


「ちっ、お前らが私の話を聞かないのはよくわかった。だが、この地の封印を解いたのは間違いだったな。見よ、賢者の石の力を!」


「バックボーンを話してもいいんですよ? もう少し切り札はとっておきませんか?」


「ジリジリ近づいてきて、貴様っ、賢者の石を奪うつもりだろっ!」


 摺り足で近づいているのがバレちゃいました。せっかく落とし物を拾おうと思ってたのに。殴って落とした所を拾おうとしてたのに。手から離れた瞬間、ミアキちゃんにテレキネシスで拾ってもらおうと思ってたんですけどね。バレていたようです。


「はっ、人間は学習するものなのだよ。発動せよ、賢者の石!」


『瘴気操作』


 賢者がパズルのパーツのように複数の正方体に分離すると禍々しい紫色の煙が吹き出す。この間も見た技のように見えますが━━━。


 紫色の瘴気は、バラトに集まってその体を覆っていく。


「クククク、魔物になってパワーアップとか思っているのだろう? そんな簡単なパワーアップでは、相手にならない。魔物を浄化できると考えているのだろう? 知ってるぞ、魔王級を浄化したその手並み」


「まぁ、隠していませんでしたし。で、その余裕の態度は━━なるほど」


 含み笑いが瘴気の煙の中から聞こえてきて、その煙が膨れ上がる。


「サタンの力を知っているかね? サタンは竜の体を持ち、その力は世界を滅ぼす」


『悪魔王サタン変貌』


「皆さん、後ろへ下がってください! 危険です」


 煙は私達の方にまで漂ってくるため、慌てて下がると、煙は段々と姿を変えていく。長い竜の首が何本も伸びていき、その鱗は膨大な霊気を纏い、肉体は巨大な岩山のような塊となる。


「数多の信仰と恐怖を集め、あらゆる悪魔を統率する。それがサタンだ」


 完全なる魔物、いえ竜へと変わったバラト。ズシンと床をへこませて、圧倒的な威圧感をみせる。


「理性を保っている? そこまでの強力な魔物に変貌して?」


「そうです。なぜ普通に話しているんですか? もう理性は無くなっても良いのに!?」


 ガーベラとヒナギクさんが戸惑った声をあげるがその通り。これだけの力を感じさせる魔物なら、理性は消えて完全なる魔物に堕ちるはずです。


「フハハハ、我の研究の粋。魔物に堕ちることなく魔物の力を手に入れる。悪魔王の力を我が物とする」


 煙が完全に消えると、その姿が露わとなる。


 竜の首を複数生やし、竜の鱗でその身を覆い、岩山のような肉体、その体を支える柱のような六本の足。


 ━そして胴体に潜るバラト。


「そうか、魔獣の肉体で自分を覆い、悪影響から逃れたのか」


 おったんが舌打ちし、バラトの狂喜の哄笑が響く。


「その通り、これこそ研究の結果。悪魔獣モードだ! これぞサタンよ!」


 哄笑は周囲に響き、私たちも真剣な顔となり━━。


「あれってヒュドラです」


「ですよね」


 どう見てもヒュドラです。これは口にしてよいのでしょうか?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 [一言] 地面さんの攻撃を受けておなくなりになってないだとぉ 強い
[一言] サタン(偽) ほんものはおっさんである。
[一言] 本人(悪魔)を前にしてサタンの名を語る・・・ 名(迷)脇役の予感がしますわ~ つっこまれるまで繰り返す天丼芸まで披露するなんて 準レギュラーを狙ってまつね
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