68話 マイルームに向かいます
美味しかったお料理。お土産にたくさんのデザートももらいました。ドレスや宝石類もパーティーで使用させてもらいましょう。
「これがキオから貰ったお土産です。な、なんとゼリーの詰め合わせ、お早く食べてくださいねと言われた人気ナンバーワンレストランのデザートです。ジャジャン!」
「おー! すごいです、皇女様。このゼリーはひんやりしてますよ。少し凍ってます」
「あ、冷凍なので冷蔵でゆっくりと溶かしてから食べてくださいと言われました。えいっ」
待っていられないので、命術にて熱を流し込み溶かしちゃいます。ちなみに冷凍したまま食べるという選択肢はありません。
かつて、イザナミちゃんがお取り寄せグルメでゼリーを取り寄せた際に、冷凍だったのですが、溶かすことを知らないでアイスのままで食べて味がなかったと落ち込んでましたからね。冷蔵で溶かすというのは意味があったんだなぁと、冷蔵庫ミミックはその時の光景を記憶したものです。溶かしたらちゃんと美味しかったですしね。
だからお友だちたちはスプーンをガシガシ突き立てて無理矢理食べようとしないように。後悔しますよ。
「冷凍で、冷蔵ですか。帝都では高級デザートでそんなものがありました。残念ながらお金がなく買えなかったので知識のみですが。私は帝都出身なので知ってます」
「そこは悲しくなるので、言わないでいいと思います、ガーベラさん」
胸を張るガーベラにヒナギクズが憐れみの目を向けるので、ゼリーをあげちゃいます。ちょっと可哀想ですし、今はたくさんありますしね。
「とはいえ、冷蔵庫がないのですが、いかがしましょうか、レイ姫様」
困り顔になるガーベラの言葉に、私もポンと手をうち困った顔になる。
「あ〜……そう言えばそうですね。これは冷蔵庫ありき、客室に冷蔵庫ないですもんね。ホテルとかならあるはずなんですが、高級すぎて、全部接待側の召し使いにやらせるパターンですか」
今の私たちは訪問客用の客室にいます。客室のレベルはとんでもなく豪華で、少し小さめの屋敷と言っても良いでしょう。
フローリングの床にフカフカの絨毯が敷かれて、木目調のテーブルに座ったら沈み込み脱出不可能なソファ、天井はシャンデリアが吊るされて、家具もひと目で分かる一級品。それがリビングルームなのです。
なので、寝室や召使の待機部屋も同じレベルの内装であります。広々として居心地はとても良いのですが、ここに来て弱点が判明しましたね。
冷蔵庫がない! ドドーンと外では雨が降り始めて雷がなっても良いほどのショックです。今日は晴れですけど。
「う~ん……それは困りました。こーゆーのは、お店の薦める解凍をしないと真の味がわからないんです。おったん、冷蔵庫をどこかで確保してきて……あれぇ、おったんは?」
頼りになる究極生命体に命令をしようと思ったら、この部屋にはいませんでした。もしや既に冷蔵庫を確保しに行ってくれたのでしょうか。頼りになる男なので、間違いありませんね。
「姫様。なにをご期待なさっているかはなんとなくわかりますが、おったん様は冷蔵庫を確保しに行ったのではありません。辺境伯と今回の報酬について話し合っております」
「ガーン、そう言えば、そんなことを言っていたような気もします。たくさん酒を飲んでくると張り切ってましたね」
「おったん様はそんなにお酒好きなのですか? 交渉の場で酔ってしまったら危険です。わたくしがサポートに行ってもよろしいでしょうか?」
「よしなに」
「ありがとうございます。未来の妻として支えてみせますので、吉報をお待ち下さい」
ふんふんと鼻息荒く、ガーベラは部屋を競歩で去っていきました。スタタタと足音が聞こえるくらいに早かったです。
おったんがどうなるのかは興味が少しありますが、それよりも重要なのが冷蔵庫です。ゼリーをどこの冷蔵庫にしまえば……。
オロオロウロウロとしちゃうレイちゃんです。後ろでカルガモのヒナのようにお友だちを引き連れてお部屋を彷徨いて━━━。
「この土地のダンジョンを調べようと思っていましたが、その前にやれることを思い出しました。これならうまくいくかもしれません」
ポムと手を打って、笑みを浮かべます。
「なにか良い方法を考えたのですか? ホテルを貸し切るとか? 観光に訪れている人たちが可哀想なので、それはおやめになった方が良いかと思います」
「そんなことはしません。まぁ、話は簡単で部屋を………神の巫女たる私が神に与えられし、マイルームへの扉を開きましょう、というわけです」
人差し指をフリフリと振って、ソファから立ち上がると皆を見渡す。私の悪戯そうな顔に、コテンと体を傾けて、いまいちわかっていなさそうな顔になる面々。
「えっと、どーゆーことなのかな? マイルーム? お部屋があるんですか?」
サザンカさんが挙手をして、皆の言葉を代弁するので、むふふと秘密主義な私は頷きます。
「そのとおりです。まぁ、百聞は一見にしかず。今からお見せしましょう」
マイルーム。霊術もだいぶ回復してきましたので、これくらいはできるはずです。
なにせ━━━一気にレベル5になりましたからね。ユグドラシルのダンスを見た人たちからのお代は楽々に経験気を大量に貰えました。
結城レイ
11歳
結城帝国第13王女
『神女』
魂の器:4
経験気 36350/50000
体力5
筋力5
命術レベル5 9/6/3/3/1
霊術レベル5 1日1回
神術受肉:レベル回数分
ただで皆さんの身体が健康になったのではないのです。ふふふふ、策士レイちゃんです。霊術もレベル5となれば、結構強力になります。人間相手なら、たとえ強化服を着ていても相手にはなりません。まぁ、一日一回しか使えないので、使い所を考えないといけないですが。
レベル5の霊術。このレベルに至ったのはつい最近です。パンやワインを無限に出す奇跡を人間に授けた神様が現れた頃でしょう。
それまでは、特に意思というものは曖昧で、フラフラと飛んでは、晴れにしたり、雨にしたり、風を吹かせたりと遊んでいました。
時折、供物とやらを捧げられて、あんまり美味しくないなぁと思ったことが記憶に薄っすらとあります。それまでは、自身の力を高めようとは考えていませんでしたが、衝撃的な光景でした。
パンっていう食べ物は美味しいんだなぁと。そして、料理に興味を持った私は急速に自我を獲得。こっそりと、神域に侵入したら、もっと驚きました。
美味しい桃とか、甘い水とか、パンとか焼き肉とかたくさんあったのです。しかも神様は………。
まぁ、懐かしい思い出はそこまでにして、神域で衝撃を受けた私は一つの霊術を創造することにしました。
「では、マイルームを呼び出します」
すっくと立ち上がると、手をゆっくりと掲げて、ゆっくりとゆっくりと舞い始めます。くるりくるりと回転して、ふわふわとした空気をまとわせつつ、霊気を収束していく。
「バームクーヘーン、ちよこれーとーショートケーキ! 創造されよ我が亜空間に封印されし部屋よ」
『第5霊術:霊帝の鏡』
ちっちゃい手のひらをピタリと止めて、霊術を発動。蒼き光が手のひらに集中していくと、一枚の手鏡が創造されます。装飾品もなく、銀製の枠の質素ではありますが、上品な手鏡です。
「皇女様、それは?」
「これは霊帝の鏡。かつて偉大にして至高にて、究極では勝てないモノが持っていた秘宝です」
「秘宝ですか? そこまでのものには見えませんが………」
「見た目はそうでしょう。ですが、その効果はなかなかのものです」
なにせ、長い間研究して常にバージョンアップさせてきたものですからね。むふふと自慢げに手鏡を翳します。
「さぁ、虚ろなる鏡の世界を映し出しなさい、霊帝の手鏡よ!」
私の掛け声に合わせて手鏡が光り出す。皆がゴクリと息を呑み、皇女様の力ならとんでもないことが起きるのではと、期待のこもった目を向けています。
もちろん、期待には答えますよ。
鏡から光が放たれて、壁を照らします。その光はドアの形となると、一際輝く。眩しさに皆が目を細める中で、ドアは具現化し黒に金地の入った高級マンションの玄関扉と変わるのでした。
「おぉ、これは!?」
「これこそマイルームです。ドアを開けてみればわかりますよ」
ドアには『霊帝のおうち』と表札が掲げられてます。手を伸ばして、ドアノブを握り、皆の注目の中で、慣れていますといった風で開いて、玄関は広々としていました。絵画も廊下に飾られて、階段も見えます。
ふふふ、このマイルームはマンションでも2階と繋がっているのですよ。贅沢でしょう?
「わぁ、靴があります。ここは玄関ですか?」
「そのとおりです。あ、ここは土足厳禁なので、靴は脱いでくださいね」
私が莫大な霊気を使い、霊術の粋を集めて作り上げた次元の狭間にあるマイルーム。鍵を作るだけで、この部屋には来れるようにしてあるのですよ。
その鍵が第5霊術なのです。
「先ほどの部屋とは見劣りしますが、便利さではこちらの方が上です」
スイートルームとはいきませんが、結構広々としたさんえるでけー。
「冷蔵庫ももちろんあります。そこで解凍させて頂くとしましょう」
「はい、わかりました皇女様。リビングルームはこちらですか?」
「はい、ここをまっすぐ行ったところです。この部屋は冷蔵庫、電子レンジにコンロに水道、エアコン、テレビ、パソコンと便利な物がたくさんあるので使ってくださいね」
「はーい」
「わわっ、靴を脱ぐのは新鮮だね」
「なにか音楽も聞こえてくるよぉ」
ヒナギクズがマンションの内装に感心しながら、廊下を歩いて行きますが……音楽? いつもいつも鍵はかけてますし、火の元のチェックや水が出しっぱなしでないか、テレビの電源は切ったかを確認してるのに……。
まさか!?
とてちてと急ぎ歩きで、ヒナギクズを追い抜かして、リビングルームに繋がるドアを開けると━━━。
「ギャー、落下ダメージで死んだのです。これは落下ゲーなのですよ。クソゲーです、クソゲー!」
巫女服を着て、テレビの前に寝っ転がりゲームをしている幼女がいました。
「イザナミちゃん、何をしているのですか!」
そう、なぜかイザナミちゃんが私のマイルームにいました。




