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異世界の薄幸少女にチート霊が憑依しました  作者: バッド
3章 旅する巫女

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60話 天空ダンジョンはギミックだらけのようです

熱線ブラスター


 アイア、いえ、キオがビーッと熱線を撃ちながら、階段に這い巡る木の根や蔦を焼き払っていきます。命中した箇所から灰となって、空中に舞い散る植物の魔獣。


「植物なのに、獣とはこれいかに。そう思いませんか?」


「余裕なのはなによりだが、このギミック、質が悪いな。よく考えられている」


「あう、皇女様、燃やした木の根が瘴気の灰となって飛び散ってますよ」


 ほら、これと、ヒナギクさんが嫌そうな顔で空を舞う灰を摘みます。悍ましい気配を放つチョコレート味の小さな灰です。チョコレート味は入れなくて良かったでしょうか。


「燃やした後は瘴気の灰となる。そして、退治しに来た者たちを魔物に堕とすと。この組み立ては強化服を着ないとクリア不可だ」


 おったんの言うとおりです。これはよく考えられてますよ。しかも強化服を着た者たちでも、一人や二人ではこの道を進むのは難しい。


「ていてい!」


「あ、私たちならこの木の根を切ることができるよ!」


「ほんとだ、触るだけで枯れてく」


「聖女パーンチ! てへへ」


 ヒナギクズが木の根を攻撃すると枯れていくことに気づいて攻撃を開始しました。そうなんです。彼女らは呪いを弾く太陽神の加護持ち。触るだけで呪いの塊である魔獣へダメージを与えられることができます。


 とはいえ、触れてすぐに呪いが消えるわけではないので攻撃を受けたら、ダメージを受けちゃうので気をつけないといけないんですけどね。


 短剣を振るって、燃え残った木の根をサクサクと切るヒナギクズ。萎れていくのが少し楽しそうなので、私も参加しましょう。ていてい。

 

 床や天井が熱線により焦げて熱を持ち、通路の温度を高めてきて、少し汗をかいちゃいます。


「さて、魔獣は木の根だけではないし、人間たちも参加してきたみたいだぞ」


「招待状を持っていない人は参加してほしくないのですけどね」


「えーと、そうです、パーティーは招待状を選び、ううーん」


 軽口を叩き合う私とおったんに、話に加わろうとキオが振り向きますが、気の利いた返しができなさそうで、困り顔です。まぁ、こーゆーのは慣れてないといけませんしね。


「きます、皇女様!」


「きききぃぃいゃ」


 次の階の入口から全力疾走の人間たちが入ってきます。やはり胞子に感染しているようで、もはや正気ではなさそう。


「子供たちには負けていられません! はァァァ〜、私も命術を覚醒します! ヒナギクアタック!」


「第一命術熱血!」


 迫るファンガスモドキへと、階段を駆け上がり、ヒナギクさんがパンチを放ちます。防ぐという意識のない正気を失った人の頬に見事に命中し殴り飛ばす。


 呪いが少しだけ剥がれて、皮膚を突き破っていた茸がポロリと落ちて枯れていく。


「命術パーンチ、命術パーンチ!」


 とやーと吠えて、ヒナギクさんは倒れた人間にのしかかるとパンチを叩き込んでいく。呪いが解けて元の肌にだんだん戻っていくファンガスモドキ。


 でもヒナギクさん、それは命術ではありません。単なる物理攻撃です。


「よーし、そうなれば私たちも戦闘に参加だね!」


「だね! いっくぞー!」


「あたたたたァ、だよ!」


 意気軒高と士気を上げて、敵へと立ち向かい、容赦のないヒナギクズの攻撃。現れる人々を次々に殴っていき呪いを解除していく。


「女中が人々を殴り倒していくのって、シュールすぎる光景だな……」


「はっ、ここはいったい、いだ、いだっ、たんま、待って」


「ゴフッ、アベッ。なんだ、女中に殴られて」


 全ての呪が解けなくても正気に戻る人たちはいますが、攻撃を止めないヒナギクズです。頬がパンパンに腫れるからやめてあげてください。


「ヒナギクさん。命術が使えないので、呪いを解くのは厳しいです。相手が可哀想ですから、正気に戻す一撃だけでいいんですよ」


 両手を振り上げて捕まえようとするファンガスモドキへと、ゆっくりと歩いていき、一歩だけ歩幅を変えて、敵の懐に入り込むと、私は右腕を捻るように突き上げて、敵の顎にたたきこむ。


 敵は顎を揺らされて力なく倒れると、そのまますよすよと寝てしまいました。精神の呪縛が解けて、睡眠状態となったのです。


「これなら後で集めた後に神聖術で後ほど癒やせます。そうすれば完全に皆さんは回復してハッピーとなるんです」


 壇上で大々的に霊術も使って、私は敬われるのです。大量の経験気も入るでしょうしね、ふふふ。策士レイちゃんです。


「お〜、わかりました! こうですね!」


 掴みかかる敵の手をパシと弾くと、ヒナギクさんは肩を押しつけるように敵の懐に体当たりして、ソイッと掌底を敵の顎に打ち付けました。見事に敵はふらついて気絶します。


 他のヒナギクズも同じく掌底を叩き込んでいき、危なげなく気絶させていきました。


「わーい、皇女様。私もできました!」


「私も〜意外と簡単だったね〜」


「掌底のコツは呼吸と気を体内で練ることです。これぞ合気発勁!」


「たあっ!」


『合気:発勁』


 のんびりとした口調でジャスミンさんが敵に発勁を叩き込みました。弾ける敵、駆け巡る気により、ゴハァと声をあげて倒れる敵。ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶジャスミンさん。


「お〜! 私もやってみよう~!」


「とうっ!」


 なんということでしょう。天才戦士です。地球人と野菜人のハーフです。あっという間に発勁が使えるようになりました。


「まぁ、他の合気と違って技術的な部分は必要ない感覚的な技ですから、ヒナギクさんたちならできてもおかしくないですね」


「いや、おかしいと思うが……。まぁ、気にすることはないか。敵を倒せれば良い」


 おったんは気にせずに肩をすくめると楽ができるねと嬉しそうに口元を笑みにします。


 私も無駄に前に出なくて良いから楽です。


 バタバタと倒れる人間たち。屍の山を乗り越えていく修羅女中。熱線で敵を焼き尽くすキオ。らくらくですねと後ろに続く私たち。


 私たちのパーティーはポテポテと歩き進み……。


「そろそろ領主の住居に続く道となります。お気をつけを」


「領主の住居に続くのにお気をつけをとは表現がおかしい……なるほど」


 キオの言葉に納得してしまい、胡乱な顔になるおったん。


 吹き抜けとなっており、天井は五十メートルは上にあります。その間に階段がいくつもあり、通路が複雑に宙を交差している。


 問題は階段が外れており、シーソーみたいに宙で止まっているところです。しかも高圧電流のバリアが階層ごとに展開されており、階段を進まないと先に行けないようになっている。


 そして通路の突き当りごとになにかスイッチが点滅しています。

 

 トドメに、壁に木の瘤がいくつもあります。明らかに敵が隠れていそうな瘤の大きさです。


「領主の住居に入る前のセキュリティとなっていまして、普段はバリアも展開されていませんし、階段も正常な位置にあるのですが……」


 キオが気まずい顔で、私たちを見てきます。わかります、わかります。これって趣味的なゲーム的ギミックですもんね。


「あ、皇女様! 瘤から大きな虫が出てきました」


「キチキチキチ」


 大人と同じ大きさのカミキリムシみたいな虫が瘤から出てくると、カチカチと顎を噛み合わせて威嚇しています。そして、カサカサと近づいてくる。


「こーゆーギミック苦手なんだが」


 驚くイベントなのに、全然驚くこともなく、サタンブレードで真っ二つにするおったんが嫌そうに口を引きつらせる。


「階段のスイッチは決められた順序で押しながら進みます。ですが……」


「ですが?」


「申し訳ありません……その順序は忘れました。このセキュリティは年に一度の非常時訓練の時しか動かしたことがなくて………」


「あぁ〜、そーゆーのありますよね。非常時訓練って建前なのが多いようですし」


 呆れはしません。よくあることです。訓練どおりに動けるのは飛行機の客室乗務員くらいではないでしょうか。他は学校の先生でも、同じようには動けないでしょうし。


「それじゃ、ここからはバラバラに行動して、スイッチを押すんですね、皇女様!」


 ワクワクと、がんばりますよと張り切りヒナギクズ。魔獣を相手にしても勝てるとわかって、少し油断してもいそうです。


「いえ、私がなんとかしましょう。キオ、肩車をしてもらえますか?」


「へ? 肩車ですか?」


「はい。少しでもスイッチがよく見える位置にいたいのです。おったんは護衛をしないといけないので肩車お願いできませんし。あ、でも、キオが護衛でおったんに肩車を」


「いえ! ぼ、ぼきゅが肩車をしめす! します! さ、さぁ、汚い肩ですがどうぞ」


 真っ赤な顔のキオが這いつくばって、噛み噛みで言ってきます。でもよつん這いだと、肩に乗っても意味がないですよ?


「辺境伯代理様にそんなことをさせるわけにはいきません! さぁ、皇女様、私たちの肩にどうぞ!」


 私がキオを踏み台にすれば良いのか迷うと、後ろからヒナギクさんの元気な言葉がかけられました。


「でも、ヒナギクさんの背丈でわぁぉ!」


 後ろを振り向き驚きです。


「さぁ、どうぞ!」


「どぞー」


「乗って〜」


「ちょっと辛いかも」


 なんと四人がトーテムみたいに肩車して、高い高い柱となっていました。え、ヒナギクズは雑技団出身?


 驚きすぎて声を失いますよ、これ。


「わかりました! それでは登らせていただきます!」


 もちろん、こんな面白い組体操に参加しない私ではないです。よじよじと登ってヒナギクさんに肩車。かなり高いです、これ。見晴らしサイコー。


 ガ~ンと落ち込むキオが見えますが、こちらのほうが面白いので仕方ありません。


 では、私のセキュリティを無効化する奥義を見せちゃいましょう。


『霊帝の手』


 見えざる手、触れぬ手、理の外の力を使うと、私はふよふよとスイッチの元に向かわせます。バリアなどは隙間にするりと入って通過して、スイッチ目指して一直線。


 ゴゴゴとシーソー型階段が動いて、通路ができます。ふふふ、これで簡単にこのギミックはクリアです。


 そうして、私達は一時間後。このギミック満載の階段エリアをクリアするのでした。


 ━━━えぇ、パズルとか苦手なんです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 [一言] 昇天パンチ!相手は昇る!
[一言] 幼霊帝の手ズルいわ~ ヒナギク雑技団の次なる挑戦は!?
[一言] 雑技団懐かしいな。今もあるのだろうか?
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