58話 天空のダンジョンです
結界が働き、中の人たちは安全となりました。なので、お友だちたちにコクリと頷くと、以心伝心、私たちは天空のペントハウスへと足を進めます。
「大人しくここを守ってろ。これやるから。帰ったら、もっと良いの作ってやるから」
魔法のようにポッケからカルメ焼きを取り出すと、おったんはココにひとり残ったら3人は冒険に行けるよねとじゃんけんを始めた幼女たちに一つずつ渡します。
スンスンと匂いを嗅いで、リスみたいに端っこを齧ってびっくりするお友だち。
「あーい。良い子で待ってましゅ」
四人は素直な良い子で体育座りをすると、満面の笑みで大人しく食べ始めるのでした。もちろん、私もお友だちの隣りに座って、手を差し出します。カルメ焼きください。
「私も大人しくしているので、カルメ焼きくださいおったん」
「君は攻略パーティーだ、お嬢様。それにカルメ焼きは四つしかない」
嘘だと追及したいところですが、空気を読んで我慢、我慢します。
「この戦いが終わったら、私はお菓子を沢山食べるんです」
「死亡フラグは止めたまえ」
しっかりとボケを拾ってくれるおったんです。さて、ふざけるのは止めて、中に入りますか。
◇
予想外にも天空の城を攻略することになった私たち。メンバーは私、おったん、ヒナギクズ、キオです。残りの人たちはここでお留守番となります。
「主君を守れずに申し訳ありません、若様。本来は我らが盾とならなければならないのですが………」
「レイ姫様と共に行けない私たちをお許しください。戦闘ならばお役に立てると思っておりましたのに」
爺やさんが口惜しそうに歯噛みをして、体を震わせてます。肝心な時に護衛の役目を行えないのは役立たずですから、気持ちはちょっぴりわかるような気もします。
ガーベラはメイドさんなので少しだけ口惜しそうですが、活躍する場が遠ざかるのは惜しそう。
まぁ、呪いの胞子が蔓延しているので、呪いが通じない私たちと強化服を着て完全に外気を遮断しているキオ以外は風の結界から出たら危険なので仕方ありません。命術を使えればアフロ隊長たちはついてこれたんですけどね。間に合いませんでした。
超高空にいるにもかかわらず、気圧差もなく強い風が吹くこともない、不思議な大木をてこてこと進んで、中に入ります。金属製の分厚い扉が開いたままで、少し廊下を進むと二枚目の金属製の扉。潜水艦のハッチのようにバルブが取り付けられており、その上には金属製の閂。気圧のコントロールが破損した場合のエアロック代わりとなっていそう。
「ここは檜野スカイシティの城内でも端になります。内部がどうなっているのかわかりませんのでお気をつけを」
強化服を着ており、この城の一族であるキオが閂を外しバルブに手をかけて忠告していますので、私たちも顔を厳しくさせて頷く。
「皇女様、私たちの後ろにいてくださいね」
「絶対に守って見せますよ!」
「任せて〜」
「武器は持ってきました」
ヒナギクズが緊張の面持ちで前に出ると、短剣を構えてフンスと鼻息荒く言う。彼女らは一般人ですが、それでも元は魔獣との戦闘を数多く重ねてきた人たち。その構えは素人のものではありません。
でも、その身体能力は人間のもの。限界はあるので、今度命術を教えようかな。
キオがバルブを回して、ゴゴンと重い音がする。これは異変を感じ内部から出ようとしても不可能であるように封鎖したに違いないです。悪辣なことですね。
「開けます!」
「よしなに」
ギギと重い扉を開けて、中が目に入りますが━━━。
「おぉ………これが檜野スカイシティですか」
「……ファンタジーはどこに消えた?」
「ふわぁ、綺麗なお城。皇女様、お空に文字が浮いてますよ」
三者三様ですが、その光景は感嘆するものでした。
受付ロビーなのでしょう。吹き抜けのフロアで木目調の内装に、シャンデリアが天井から吊り下げられて、煌々と周囲を照らしてます。ソファは現代風の見ただけでふかふかそうな座り心地の良さそうな物。
受付カウンターはホテルのラウンジのようで、薄いモニターが置かれており、タッチパネル式のキーボードがカウンターに嵌め込められている。どこからかおとなしいピアノの音楽がBGMとして流れても来ています。
そして、天井で円を描きながらホログラムで文字が浮かんでました。
『本日の檜野スカイシティは晴れ。降水確率はゼロ%となります。外出される際には、外気に触れないようにマスクをしてください』
音声はありませんが、明らかに科学技術。魔法は介在していないようです。
「これが檜野スカイシティなのですか? これをキオの祖先は作ったのでしょうか?」
これ、ちょっぴりファンタジーの世界から飛び出てます。信じられないことですが。
「えぇ。こんなことがなければ、ようこそと歓迎するのですが。昔は檜野総合植物合成なんとかと名乗っていたらしいですよ」
キオは透明なヘルメットをかきながら苦笑いします。
『ますますこの世界に興味が出るよな。多分会社だろ、この檜野の坊っちゃんの祖先』
『おかしいですよね。生気あふれるこの大地に、まるで人類が閉じこもって暮らせるようなコロニーのような木々。ファンタジーではないと言う前に、不自然です』
『元はこの大地に存在していなかった、か。だとすれば、この巨大な建築物をどうやってここに持ってきたかだが……それは後にしたほうが良さそうだな』
思念でおったんとやり取りする間に動きがあります。
「皇女様! あそこに!」
悲鳴にも似た声を上げるヒナギクさん。カウンターの後ろから手が伸びてきて、ゆっくりと女性が這い出て来ています。
その顔は目が真っ赤になっているだけではなく━━。
「うっ、なんてことだ! 早くもファンガス化が進んでる!」
キオがその顔を嫌悪で歪めて言う。
頰から鱗のようにキノコが生み出てきて、手も胞子で溶けたかのようにボロボロです。
「ケタケタケタ」
まるでクルミを合わせて鳴るかのように乾いた笑い声をあげると、女性はこちらを認識して走り出す。
奇声を発しながら全力疾走で走り出す女性、いや、ファンガス。
「ホラーですね。寄生タイプは一際悍ましい」
「あそこを見ろ。どんどん現れるぞ!」
ソファの陰から、テーブルの下から、柱の後ろから。その数は数十人。
「クッ、仕方ない。無辜の民の命を奪うのは心が痛むが、許せよ!」
キオが悲痛の顔で拳を固めて構える。強化服を着込んだキオならワンパンで倒せるでしょう。おったんも同じく。
「駄目ですよ、キオ。この方たちは治せるのです。ここは私の命術を叩き込んで治していきます。後ろに下がっていて下さい。おったんも命術をたたきこむのです」
ヒュウと呼気を吐き、生気を拳に宿す。
『第一命術:熱』
拳が熱くなり、呪いを浄化する力を宿す。摺り足で半身となり、構えます。
「ケタケタケタ」
ファンガスが手を伸ばすと、私はその手に腕を伸ばしてからめとるように引きながら受け流す。ぐらりとファンガスの身体が泳ぐ横で背中から脊髄に掌底をたたきこむ。
『合気:発勁』
命術により生気を宿した掌底がファンガスの体内に発勁を流し込む。振動するかのようにファンガスの身体が揺れると、内部から爆発するようにキノコが弾け飛び、元の肌に戻ると呪いが解けて倒れ込む。
「きききぃぃいゃ」
「ウァァァ」
「いくら来ても無駄ですよ。ただ手を伸ばして、捕まえようとするのであれば、私の相手ではありません」
ゆらゆらと手を揺らすと、次々と飛び込むように駆けてくる敵を受け流し、その体に掌底をたたきこむ。するりするりと蛇のように敵の身体を障害物を避けるかのようにすり抜けながら、倒していく。
その動きは澱みはなく、摺り足で進み、身体を舞うかのように手を振るい、身体を揺らして戦う姿は美しくもある。
敵はまるで倒されるのを待つかのように倒れていき、その体の呪いを浄化していく。
「やれやれだな」
対しておったんの戦いは単純で、迫るファンガスへと腕のリーチの差を利用して、パンチを繰り出すだけだ。近づくファンガスに一瞬腕を動かすと、頬にパンチを叩き込み容赦なく倒していく。
「おぉ、華麗です、レイ姫」
キオが感心しきりで拍手をしてくれます。ヒナギクズもパチパチと拍手をしてくれるので、調子に乗っちゃいます。
「やれやれだな、やれやれだな、やれやれだな」
やれやれだな星人がなんだかアピールしていますが、私は無駄に踊るように戦うので、その存在は影が薄い。
『ずりーよ。俺も褒めてくれない? ここは、俺の手が真っ赤に燃えているとか、太陽の光を宿すオーバードラゴンとか特殊な呼吸で倒した方がいいかな?』
嫉妬のこもった思念を送りつけてくる悪魔王。せこいところが悪魔ですね。
『おっさんでは、飛んだり跳ねたりしてもしても、画面外になると思いますよ。主人公が戦っている横で、頑張る兵士みたいに』
『もうお嬢様は休んでいて良いよ? 俺に残りを任せてくれない?』
『だめですよ、どうも私は軽く思われがちなので、戦闘で活躍しないといけません』
お互いに軽口を叩きながら、ファンガスたちを倒し尽くし、数分で戦闘は終わるのでした。
━━━が。受付ロビーに繋がる扉が轟音と共に吹き飛ぶ。重厚な木目の綺麗な扉が床を転がり、壁にぶつかる。
「ゴォォ」
手足を生やした3メートルくらいの背丈のキノコが受付ロビーに繋がる扉を破壊して入ってきました。キノコといっても、段々の傘状が重なり合っている不気味なタイプです。
ドスドスと音を立てて、新たなるファンガスはこちらへと向かいながら、手を前に出してきます。
驚くことに、手のひらに魔法陣が描かれると、魔力が高まり、なにかが描かれる。
まずい予感!
「おったん!」
「ちっ、仕方あるまい」
『第三悪魔術:魔気』
『魔剣創造:サタンブレード』
その手に星空を固めたような闇に星の光を瞬かせている神秘の魔剣が創造される。
「ふんっ!」
片足を踏み込み、おったんは瞬時に私たちの前に出ると剣を振るう。空中に輝線が奔ると、私たちの横をなにかが分断されたものが飛んでいき、壁に激突すると爆発を起こすのでした。
「どうやら魔獣のようです。どうやってか運ばれてきたようですね」
さっきのファンガスとはその体の構成が違うことが私にはお見通し。さて、この敵はどんな強さを持っているのでしょうか?




