56話 空の城なんです
木の葉ヘリは快適でした。木の葉という名前は正しいようで、ふわりふわりと風に吹かれて飛ぶように、ヘリは静かに上昇していきます。
木々の葉は冬が近いのに青々としており、葉っぱ一枚が畳よりも大きく、幹から伸びる枝は4車線は取れるほどの幅があります。枝の上は色々と改修されており、枝と枝の間に板を繋ぎ合わせて、大きな広場にしたり、小屋を建てたり、屋台を開いていたり、日当たりの良いところは、サマーチェアに寝そべり、日光浴をして楽しむ人々もいます。
「ふわぁ〜、こんな所に暮らす人々は楽しそうですね、皇女様。こんな素敵な所があるんだぁ」
「だよねぇ。皇女様についてこれてラッキーだったね」
「うんうん、そうじゃなかったら、こんな光景見ることはなかったよ〜」
「あの人、葉っぱ食べてない?」
ヒナギクズは満面の笑みで、ヘリの窓に張り付いて、ファンタジーな世界を満喫して楽しそうです。
「わたくしは帝都出身ですが、それでもこの領都には完敗です。これほどの街は他にありません。帝都で勉強したので知ってはいましたが、聞くと見るでは大違いですね」
帝都出身を常に口にするガーベラでも、この光景はグッと来たようで熱心に見てます。
「『檜野スカイシティ』は帝国でも指折りの観光地として有名なんです。レイ姫がここにけけけけけ」
またもや奇声をあげて、今度はガタガタと体を震わすキオ。後で厄払いをしてあげましょう。
「それにしてもこのヘリはゆったりとしているんですね。ソファもふかふかですし」
6人座りのソファが縦に並んでおり、観光用フェリーみたいです、気に入りましたよ、このヘリ。
「木の葉シリーズはわかりますが、このヘリ自体に名前をつけてあげないんですか?」
「はい? あぁ、このタイプはたくさんあるんです。外で使うには装甲が脆弱なので使えないのですが」
「ということは、名前をつけていないと。わかりました、それじゃつけてあげましょう! ヘイ、お友達たち!」
ヘリに名前をつけないなんてもったいなと、指をパチリ。お友達たちが、私の声に合わせて、ぴょいんと飛び上がり、ポーズを取る。
「一番ミハル。かっこいいから、『カ』!」
ピシッと手を伸ばしてポーズをとるミハルちゃん。
「二番ミナツ。木の葉みたいにヒラヒラだから『コ』!」
パタパタと手を羽ばたくミナツちゃん。
「三番ミアキ。ぷーんと飛ぶから『プ』!」
フラダンスをして身体をくねくねさせるミアキちゃん。
「4番ミフユ。切りが良いから、アダダダでつ!」
「言わせんよ? どんな名前をつける気だ? お前ら仕込んでたな?」
ミフユちゃんが、額に青筋を立てるおったんになぜかぎりぎりと頭を強く掴まれて痛がってます。
ジタバタと暴れるミフユちゃんだけど、おったんはまったく気にせずに平然としています。
幼女四人衆の邪魔をするとは、おったん酷いです。紳士たちが抗議しますよ。シュプレヒコールというやつです。
あ、お友だちの名前は、ミハル、ミナツ、ミアキ、ミフユちゃんと言います。
「これはネコレンジャー、子供を虐待するのはネコレンジャーですよ! おったん、ネコレンジャーをすると可哀想じゃないですか!」
「にゃあと泣けば良いんだな?」
「こーじょしゃま、たしゅけて〜」
足をパタパタ振って、泣いちゃうミフユ。その隙にマジックペンを手にしてヘリに名前を書こうとするミハルちゃん。
「今のうちに名前書いちゃうでしゅ。必殺マジックペン!」
「させるか! お前ら、ふざけるのを止めてもらおうか」
わらわらとマジックペンを手にして、ヘリに名前を書こうとする果敢にして勇者なお友達たち。その様子にぐぬぬと唸ると、おったんはポケットからなにかを取り出す。麻袋です。
「こんな事もあろうかと、しっかりと用意しておいたんだ。ほれ」
袋に入った物を広げると━━ボーロです! 口に入れると、すぐに溶けてあまーいお菓子。
「自動販売機ではボーロは売ってなかったはずですよ!? ちゃんと確認したんですから!」
驚きの私に少しだけ得意げにして麻袋を振るおったん。
「結構簡単にボーロは作れるんだよ。これは昨日の宿屋で作っておいたんだ」
「ガ~ン! さすがはおったん。私の右腕なだけはありますね。私にください!」
「なんかおいちそう! くだしゃい!」
「あーん。おじしゃん、ここにヒナがいまつよ、あ~ん」
「一口、一口くださいでりゅ」
「このマジックペンを代わりにわたしましゅ。ちょうだーい」
「それじゃ大人しくしてろ、お前ら」
は〜いと、大人しく座って、私たちは仲良くポーロを食べるのでした。うん、ホロホロ崩れて甘くて美味しいです。ボーロ最高。
「きっとまだまだ持っているはずです。もしかしたら他にも手作りお菓子があるかもしれません」
「あたちたちにおまかせでしゅ。ネコレンジャーは隠れて探しまつ。見つけたら山分けでつね」
他愛ない可愛らしい話をククククとほくそ笑みながらしておやつタイムのレイちゃんズでした。
「けけけけけ」
ところで、あのバグったキオはいつ治るんでしょうか? ガタガタ震えてきたので、段々怖くなってきたんですけど。
◇
大木に沿って上昇し、数十分。かなりゆっくりの上昇速度かもしれませんが、それでも大木がどれだけ巨大かわかるというものです。
「そろそろ陽射しも多くなってきましたし、天頂に到達すると思いますよ」
爺やに頭を叩かれて再起動を終えたキオが爽やかっぽく説明をしてくれます。ヘリは枝葉の合間を縫うように上昇していきますが、たしかに枝が徐々に減ってきています。
それと共に、幹に貼り付けてある窓ガラスとか、ちらりと見える部屋の中の豪奢な内装。メイド服を着て歩いている大勢の召使いたち。上に行けば行くほどに、その様子は金持ちの階級へと変わっていきます。
それと共に雲もかかってきて霧のようです。
「これ、ここまで登るのは大変ですね。ヘリが壊れたら降りるのも大変そうです」
「あはは、大丈夫ですよ。木の葉は予備も含めて5台は待機していますからね」
ガーベラが不安げな顔で不穏なことを口にします。それを笑い飛ばすキオ。
そしてシーンとなる私たち。
悪気はなさそうですが━━━。なさそうですが! ここから徒歩で降りるのは疲れそうなので、勘弁してほしい。
「あぁ、そろそろ見えてきました。ほら、あのヘリポートです」
空気を変えるために、キオが指差す先には、優美なペントハウスがありました。一面ガラス張りで、未来的な外装も美しくて、機能的な建物です。
なんというか……ファンタジーさようならという感じです。お金持ちの贅沢な別荘とでも言ったほうが良いでしょうか。
「かっこいいでしゅ。まるでオババのお話に出てくるおうちみたいでしゅ」
「あ、私も聞いたことがあります。空の城という名前のお屋敷ですよね」
窓にへばりついて、頬をムニュウと押し付けてミハルちゃんたちが瞳をキラキラさせて、その横でヒナギクズも感嘆の息を吐きます。
木の葉ヘリは一旦通り抜けて上昇すると、ターンをしてヘリポートに着陸しようとし、ペントハウスの全容が私たちの目に入る。ペントハウスを何棟も合体させたかのように、段々に建てられており、内部はかなり広そう。
そして、ガラス張りの内部にいる人たちが手を振ってきています。
「どうやら大歓迎されているようですね」
私も手を振り返して、ニコニコ皇女スマイル。第十三皇女結城レイですよ〜。
相手も気づいたのか、バンバンガラスを叩いて大興奮。それに気づいて他の人たち現れるとガラスをバンバン叩きます。
「私は大人気のようてすよね。サイン会はいつ始めましょうか? 握手券は要相談ということで」
「いえ、あの、なにか様子が変です。皆どうしたんだ? 握手券は僕が買い占めます」
キオが訝し気な表情になり、よく見ようと目を凝らす。
どこも変なところはないと思いますけど。目が真っ赤に充血していて、口からはよだれを垂らし、奇声を発していそうなだけです。きっと私が訪問してきたので、初の皇女様ご訪問で大興奮しているだけだと思いますよ。
ヘリが着陸し、ガクンと揺れてハッチがゆっくりと開き始めます。
「若様、強化服を稼働させてくださいませ。明らかに様子が変ですぞ」
「うん、わかった。皇女様、私がお守りしますので、後ろへ」
「サプライズパーティーは大好きです、ここは私も降りましょう。それにこういう場合、真っ先に狙われるのは」
最後まで言うことができずに、ガサガサと音が頭上からします。なんの音でしょうか?
「ちっ、のんびり言っている場合か!」
『第一悪魔術:魔血』
『第二悪魔術:風』
『合気:発勁脚』
『融合技:魔神風脚』
一瞬だけ呼気を整えると、おったんがハッチから飛び出して床を踏み込む。他者からも見える真っ赤に燃えるオーラが吹き出すと、飛翔して蹴りを空へと繰り出す。
ドンと風の壁を破る音がして突風が吹き上げると、落下してきた電柱のような太さの木の枝に蹴りはめり込み、発勁がこの内部を伝達。内部から砕き木っ端に変えるのだった。
スタッと、綺麗な動作で降り立つと木っ端が雨のように降り注ぐ中で、おったんは忌々しそうに目を細めます。相変わらず、外面はかっこいいおっさんです。ガーベラズの目が潤んで妖しく輝いてますし。
まぁ、ゲームでよくあるいきなり脱出手段がなくなるといったパターンはなくなったようで何よりです。
「様子が変だぞ、お嬢様。外気もおかしい。高度が高いのに気圧の変化を感じないのもそうだが、なにか小さな粉のようなものが漂っている」
「どうやらそのようですね。これは呪いの胞子のようです。もしかしてファンガスに変える胞子でしょうか?」
まだ薄い密度ですが、私には隠せませんし、通じません。これ、呪いの力を感じます。
私も厳しい顔でワクワクです。
「ここまでサプライズをしてくれるとは思いませんでしたけど、キオはここまでのことを予想してたんですか」
「いえ、なんでこのようなことになっているのか、わかりません」
「皇女様、建物から誰か出てきます!」
ヒナギクさんが逼迫した声で叫び、建物からメイドさんが飛び出してきたのが見えます。
「ケタケタケタ」
よくわからない笑い声をあげて、全力疾走で走ってくるメイドさん。
「キオの笑い声と一緒ですね。やはり文化は地域ごとに違うのがわかります」
「うぇぇぇっ、あれはそのけけけけけ」
やはり同じ笑い方をするキオ。キオがバグる中で、建物からどんどん人は現れます。誰も彼もケタケタケタと笑ってます。
「ああいうの見たことあるぞ……キノコの胞子に寄生された奴ら。2は納得の行かない終わりだった」
「そういえば、イザナミちゃんがエンディングを見て絶叫してましたね。とはいえ、ここでメイドさんたちに落下してもらうのも気が引けます」
おったんが顔をつまらなそうにして呟き、私は手のひらをゆらゆらと振ると、走ってくるメイドたちへと微笑みを向ける。
「歓迎の挨拶、恐れ入ります。ではわたしも皇女としてご挨拶を返しましょう」
生気を練り上げて、私は優雅に礼をするのでした。




