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異世界の薄幸少女にチート霊が憑依しました  作者: バッド
2章 ダンジョンの巫女

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45話 配下はくたびれたおっさんです

 究極生命体おったんは冷徹な目でヒナギクさんたちとは逆方向に悠々たる足取りで歩き出す。


「どこらへんが、やれやれなんですか。逃げちゃ駄目ですよ、おったん」


 なので、首元を掴んで引き止めます。もう体力もないので、ふざけないでください。ぐえと呻いて立ち止まるおったん。


「これは人間の身体だろ? 君子危うきに近寄らず。くたびれたおったんは危うきに近寄るだけで死ぬと、言われてるのだよ」


 凛々しい顔で、口調はクールなエリートサラリーマンなのに、セリフはへたれなおったん。離してくれたまえと、堂々たる態度で逃げようとしています。どんなときでも威風あふれるその態度、さすがは悪魔王おったんです。その何処までもへたれな態度はさすがは究極生命体。


「魂を他の悪魔に入れ替え――」


「さーてっ、敬愛するお嬢様のために頑張るかぁ」


 やるといったら本当にこの人やるからなと呟いて、額にたらりと汗をかき、うーんと伸びをするとおったんは歩く方向を切り替える。


 血相を変えたヒナギクさんたちが駆けてくるので、目を細めておったんはすれ違う。


「あれ? あの人は誰ですか?」


「見たことない人ね」


「おい、あんた。テビルフォークは危険な魔獣だぞ!」


 ヒナギクさんたちがおったんへと声を掛けるが、気にせずに手を振って、フォークリフト、いえ、デビルフォークの前に悠然と立つ。


「大丈夫だ。私は『攻殻機動』のテンナンだからな」


 豪殻です。それはサイバーなやつ。間違ってます、おったん。イザナミちゃんが最近設定を変えただけあって、少しアニメやゲームの知識が混ざっちゃってるや。あの娘は設定厨ですからね。長々と設定を書いて満足しちゃって、実際の本やゲームは作らないタイプですけども。


 デビルフォーク、蜘蛛のように脚が太く先端はタイヤになっている四本脚だ。金属製の胴体は丸っこく頑丈そうで全長は四メートルほど、爪は荷物を運べるように五本爪。まぁ、フォークリフトなんですけど。


 それでもその動きは速く原チャリレベル。爪は一応尖っているので、あの勢いでぶつかれば人間は突き刺さる可能性が高い。


 運転席はないので、これも工場で制御されている自動ドローンだ。


『配送致します。配送致します』


 ヒナギクさんたちには魔獣の鳴き声に聞こえるだろうデビルフォークが迫り、おったんに突進する。だが、おったんの手前で爪は停止して、デビルフォークのタイヤはキュルルと空回りする。


「無駄だ。この攻殻機動にはその程度の攻撃は効かない」


 涼しい顔で、慌てることなく冷然とおったんは告げる。どんなにデビルフォークが力を入れようと、体幹は揺るがず、押されることもない。


 タイヤが摩擦で焦げる匂いがしてきて、さらに後ろから二体のデビルフォークが走ってくると、おったんへと爪を刺そうとする。


 しかし、三体の爪は全ておったんの強化服の障壁を前に、虚しく空中で阻まれて貫くことはない。ハニカム構造の障壁は作業用の重機程度ではびくともしていないので感心しちゃいます。さすがは豪殻と呼ばれるだけはありますね。味方にしたら強力です。


「ふん、つまらぬな。魔獣というものがどんなものかと興味があったのだが……この程度では話にならぬ。今の私の戦闘力は42%だ」


 半分もパワーを出していないと余裕の態度のおったん。


「ふ、41%、40%、39%……どんどんパワーが減ってるな?」


 どうやら戦闘力というのは強化服のバッテリーのことらしいです。まったく動かない表情で動じない様子ですが、私にはわかります。彼の内心は━━━。


『ひょえー! なにこれ? この強化服欠陥品じゃないか? どんどんバッテリーが減ってるよ? こんな強化服のバッテリーってある? このバッテリーヘタってない? 古いバッテリーだろ!』


 私たちは遠い距離でも話せるように念話が使えるのですが、早速念話を使った模様。さすがはおったん、能力を検証するのに余念がないですね。


『念話を検証してるんじゃないよ? ピンチなんだよ? ああっ、もう30%に! ひぇ~、逃げて良いかな? おっさんは逃げ出します!』


 情けなさMAXのおったん。さすがは究極生命体おったん。


『さっさと倒しなさい、貴方の戦闘力は私と同等なのですから、その強化服を着ていれば簡単でしょう? さぁ、究極生命体と呼ばれる力を見せるのです!』


『究極生命体って頭文字に使えば誤魔化せると思ってないか? うぬぬ、この人間の能力を把握しないといけないのにぶっつけ本番か。できるだけバッテリーを節約しないといけないし……わかった、やってみよう』


 表向きは平然とした顔で爪を握ると、まるで軽い箱のように数百キログラムの重量の重機を軽々と持ち上げる。


「ふんっ!」


 そのまま、テビルフォークを他の重機にぶつけると吹き飛ばす。二機のテビルフォークはグシャリとへこみ、残骸へと変わるのを横目に、つまらなそうな表情で最後の一機へと腕を伸ばす。


「やれやれと呟いてよいのかな? これだけでは拍子抜けなのだがね」


 トンと重機に手を添えると、足を踏み込む。ピシリと床に微細なヒビが入ると、重機の装甲が陥没し弾けるように吹き飛び、空中を飛んでいった。


『第一悪魔術:魔熱』

『合気:発勁』

『融合体術:魔神拳』


 ガシャンと床に叩きつけられて装甲が大きくへこみ、一瞬のうちにスクラップとなったテビルフォークへと、おったんはかぶりを振りながら冷笑を浮かべる。名前は違うけど、悪魔術は命術と同じ。使いこなしています。


「ふ、私の力の前に、どうやら貴様は相手にならないようだ」


 そうして、パンパンと手をはたいて踵を返すと、私へと優雅な動きで頭を下げるのであった。


「いかがでしょう、これで私の力をお見せできたかと思いますが」


「良いでしょう、テンナン子爵。貴方の忠誠を受け取りましょう」


『ひょえー、バッテリーが残り25%! このバッテリーコアは代わりはあると思うか? あるよね、あるだろうね? あんまり使いたくないんだけど。私はこういうバッテリーコアとかはなるべく使わないでとっておきたいんたけど』


 念話はまるで正反対のおったんでした。セコい性格すぎます。おかしいな、おったんの性格がかなり変だよ、イザナミちゃんはどういう設定にしたのかな、長すぎる設定に最初と最後しか読んでないけど。


「テンナン子爵!? この男がテンナン子爵ですと?」


 驚いた隊長さんが険しい顔となり、素早く私の前に壁となって守ろうとしてくる。先程まで命を狙ってきた相手だから当たり前だろう。兵士たちもヒナギクズもガーベラも警戒を露わにする。


「良いのです、隊長さん。テンナン子爵は既に魔に汚染されていて、オークの呪いを受け魔物に堕ちていたのです」


「そのとおりだ、私は先程お嬢様に浄化された。その瞬間、私の魔は汚染から逃れ、その身体は元の身体に戻り、忠誠をお嬢様に捧げることとしたのだ」


「そして今は記憶喪失になっちゃいました。えっと日常生活には支障ないのですが、貴族の礼法、人脈、現在の状況は綺麗さっぱり消えてしまったのです」


 さらに私の完璧なフォロー。これで皆は納得するでしょう。えっへん。


 胸を張り得意げなる美少女レイちゃんです。我ながら頭の良さが恐ろしいです。


「記憶喪失……ですか? テンナン子爵が?」


「え、別人なのでは? その雰囲気まったく違いますけど」


「たしかにオークのような身体からほっそりとした身体付きにはなっていますが……本人なのですか?」


 皆は少しだけ疑問に思ってるようです。ここはおったんの出番ですよ。ほら早く。


 パチリパチリとウィンクをおったんへと向けると、顔を引き攣らせて、わなわなと唇を震わせて私のフォローに感謝を示す。いやぁ、それほどでもありません。さぁ、フォローに対して補強するのです。


「そのとおりだ、私はテンナン子爵で間違いない。この生体認証が必要な強化服も私をテンナン子爵と認めているしな」


「ほら、おったんがそう言っているので間違いないんです。私も保証します」


 強化服の生体認証は完璧な身分証明書となるはず。さすがはおったん、頭がまわります。私も保証しちゃいますよ。


「おったん?」


 コテリと小首を傾げるヒナギクさんに教えてあげます。


「昔から渾名はおったんと呼んでいるんです。皆さんもこれからは究極生命体おったんと呼んであげてくださいね」


「究極生命体と頭につけたやつは総じて後悔する羽目になるから気をつけるのだな」


「はずかしがりやなんです。でも、心の中で究極生命体とつけてあげてくださいね。それに彼は事務能力が極めて高いんです。失われた記憶を教えてあげれば、これからはまともな仕事をしてくれるでしょう。私のフォローをしてくれるはずです。領地経営、資産管理、人事と完璧な仕事をしてくれますよ」


「あくまでフォローだ。お嬢様がサボっていたら遠慮なく叩くからな」


「というわけで、おったんをよろしくお願いしますね」


 最後のセリフはよく聞こえませんでしたが、問題はなさそうです。


 これでおったんは皆の輪の中に入れます。そんなに感謝の表情を向けてこないでも大丈夫ですよ、おったん。


 おったんが仲間に入った! ちゃらららー。


『そこでポーズをとってください、おったん。仲間に入った時にポーズを取るのはお決まりですよ? なんで、肩を落として手で顔を覆っているんですか? ポーズ、ポーズ!』


『ねぇ、なんでそんなに私を窮地に追い込むの? お嬢様は私のことが嫌いなわけ? 見てくれないかな、周りの反応!』


 周りの反応? 皆はニコニコと笑顔でおったんを歓迎してますよ? 優しい心の人たちですから、虐められることはないと思います。


『あぁ、神よ。このお嬢様をなんとかしてくれ、酒の一杯も奢るから。オーガキラーを奢るから』


 くたびれた声が念話で聞こえてきますが、設定がくたびれたおっさんだからデフォルトですね。気にしないこととします。


「あの〜、先程皇女様のいる方向から光の柱が空へと立ち昇っていったように見えたんですが」


「うん、神々しい光だったねぇ」


「涙が自然と流れたよ」


 メイドズがなにか言っているようですが、神術の副作用ですね。神術は目立つから、使う時は気をつけないといけません。


「あぁ〜、というわけで、私は記憶喪失のテンナン子爵だ。これからはおったんと呼ぶように。今後ともヨロシクな」

 

 なぜか疲れたように嘆息して、おったんは皆へと挨拶をする。不機嫌そうでつまらなそうな目つきなので、あまり良い自己紹介とはいえませんが。


「よろしくお願いしますおったんさん」


「私の名前はヒナギクです!」


「はじめまして、ガーベラと申します」


 皆が歓迎の笑顔になり、おったんは私の新たなる仲間となるのでした。

 

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― 新着の感想 ―
[一言]  うん。  どうにもコンハザの遥が暇だから遊びに来ました〜みたいに、キャラがかなり似てますわな。
[良い点]  面倒な政務周りを全部投げつける姫さまと記憶が無いとは言え元がテンナン子爵である以上“イエス”と頷くしかないおったんさんの気心しれたハートフルなやり取り(・Д・)元の世界で霊帝劇場をやって…
[一言] 活躍できるビジョンないなーw
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