36話 私の戦闘力は3です
私の戦闘力は3です。これは11歳の平均値の3倍。ですがステータスが3であっても、その力は単純ではありません。握力計で10kgから30kgにアップしただけではないのです。
全身の筋肉が3倍。即ち、それの意味するところは、全身の筋肉をフルに使いこなせば、30kgどころではありません。足の親指に力を込めて、肩を入れて腰を柱にすれば、ダンベル上げで100kgは軽く持てるようになるのです。
ステータスの値が1変わるだけで、別人のように強くなる。そのような意味を込めての3は、少女を大人よりも高い能力にするのでした。
「なので、スケルトンごときでは、相手にはなりません! スケルトンじゃないですけど……」
前傾姿勢となり足に力を込めていく。最後は小声になりつつ、新たに現れた自称スケルトンたちへと跳ねるように向かいます。その動きは、俊敏にして矢の如し。また『幽体変化』にて体重を1グラムにしているため、速さのバーゲンセールです。
たった一歩で姿を現したばかりのスケルトンの懐に入ります。敵にとってはようやくこちらを視認したレベルの距離。ですが私にとっては、短すぎる間合い。
鈍重なるスケルトンには瞬間移動をしたかのように見えたでしょう。ギギィと軋み音をたてて、行動支援強化服がスケルトンの腕を無理やり動かして、眼の前に現れた私を迎え撃とうとしてきますが、もう遅い。
振り上げる動作の間に、右脇をすり抜けて背中に回り込む。風に飛ばされた木の葉のようにするりと回り込む私に敵は方向転換もできずに無防備な背中を露わにするので、手のひらを向けて軽くタッチ。
「クリティカルアタック!」
背中のランドセルの一部分。カションと細い蓋が開いたので指先でちょんと突き立て、現れた上下式のスイッチを電源OFF。ガクリと動きを止めて、案山子になるスケルトン。停止したことを横目で確認し、他のスケルトンたちへと駆け出す。
コンクリート床を叩く小さな足音がトトと聞こえ、スケルトンの脇を通り過ぎながら、ペチペチと電源OFFにしていきます。先程のスケルトンを見て、緊急停止用スイッチの場所は確認済みなのですよ。
新たに現れたのは五体。ですが鈍重すぎて私にとってはカモです。クワックワッ。鴨の鳴き真似もしちゃう余裕っぷりなのでした。
停止したスケルトンたちが案山子のように立ち尽くすのを見て、皆は目を剥いて感嘆の声を上げる。ヒナギク戦にて皇女が強いとは知ってはいたが、まさか耐久力のあるスケルトンたちをたった一撃で倒すとは思っても見なかったのだ。
「さすがは皇女様! いとも簡単にスケルトンたちを倒しちゃいましたね!」
「レイ姫様のお力、しかと拝見させて頂きました」
「今のも神聖術というものでしょうか。感激です!」
見た目はたった一撃で倒したように見える不思議。ヒナギクさんは目を輝かせて興奮しきり。ガーベラはパチパチと拍手をして尊敬の眼差し、隊長さん、これは神聖術ではなく、電気節約術です。待機モードよりも電源は切った方が良いのです。
一行がやんややんやと褒めてくれる一同ですが………。
「はぁ………そんなに凄いですかね?」
なんとなく馬鹿にされているような哀しい気分なのは気の所為でしょうか? 電源OFFにしただけですよ? たった一本の指で敵を倒す奥義。お前は既に停止していると、結城神拳を創設すればよいのかしらん。
ビミョーな感じもしますが、スケルトンから電池を抜き取ります。まぁ、皆が感心しているのですから、ドヤァと胸を逸らして得意気にしましょう。ドヤァ。
銀髪の美少女がドヤァ顔になるのを見て、可愛らしいなぁと皆はますます褒めてくれるのでした。
「にしても、単2電池で動くとは……安っぽい作りですが驚異的なコストですね」
現代地球の技術者が喉から手が出るほど驚異的な技術です。電池などよりも遥かに……いえ、この電池も普通ではない可能性が高い。
見た目は普通のバッテリー式の長方形の電池。その容量はどれくらいなのでしょうか? 既存の枠を超えているのは間違いないでしょう。
「皇女様、全ての魔石を回収致しました! こんなにたくさん取れましたよ」
元気いっぱいなニコニコの笑顔でヒナギクさんが手のひらにジャラジャラと乗せた電池を見せてくる。私は手に持つ電池もヒナギクさんの手のひらに追加。体重を軽くして高速での動きをする私は必要最低限の品物しか持ちたくないので、お願いします。
「この電池、いえ、魔石は一ついくらぐらいなんでしょうか?」
百円くらいかな?
「一つ二千円です、レイ姫様。それ一つで平民の四人家族が10日を余裕で暮らせます」
「は? え? これが二千円!?」
ガーベラの落ち着き払った返答に、私は動揺してしまいます。リチウムイオン電池とか、そんなやつなんでしょうか? え? 簡単に取れましたよ? 見る限り、20個ぐらいあります。たった数分で四万円? 怪しいバイトよりも高い時給!
「魔石は全ての魔道具のエネルギーですから、高いのですよ。これくらいなら冷蔵庫や冷凍庫を半年は稼働できると思います姫殿下」
隊長さんも同意するように首を縦に振るので、ジョークとかドッキリとかではないようです。
「冷凍庫あるんですね。今度アイスを作りましょう。もちろん私の宮殿にもありますよね?」
砂糖を入れなくても、牛乳だけでも良いのです。シャクリとシャーベット状の牛乳アイスを食べるだけでも幸福で、羽をはやしてパタパタ飛んじゃいますよ。
「それにしても、高額過ぎると思うのは気の所為でしょうか これなら我も我もと集まるのは当たり前ですよね」
「他の地域ではこれほど儲かりません。大きめの魔石は色々と役に立ちますから、飛ぶように売れるのです。しかもこのダンジョンでは、多くの魔道具も手に入りますし、冒険者は大体10年ほど活動して大金を稼ぐのが普通でしたね」
「この地は、魔に汚染される可能性もありますが、それでも大金を稼げるので大人気だったようです。かつては暗くなると困るだろうと、冒険者がお札を燃やして衛兵に捕まるといったことも頻繁にあったとか」
「お札を意図的に傷つけるのは犯罪になりますもんね。でもそれだけ儲けていたということですか」
納得しちゃいます。稼げるがその代わりに魔に汚染される可能性もある地域。ゴールドラッシュなんか目ではない。そして、明日には魔物になっていると不安に思い、恐怖を忘れるためにも派手に金を使う。
あれだけの大きな街となったのは当然と言えるでしょう。
「むむむ、私はのんびりスローライフを楽しみたいのです。皆さん、シーッですよ。ダンジョンに入れるようになったのはナイショでお願いします。忙しいのは嫌いなんです」
ピトッと人差し指を唇につけて、ナイショですよとウルウルアイ。可愛らしいレイちゃんを前に、皆はわかりましたと頷きます。
「瘴気の森が焼き払われたのですが………」
「ナイショです。馬鹿には見えない瘴気の森に進化したと噂をしましょう」
頭が良いと思っている商人は見えるふりをするに違いありません。
「住人は全て魔の汚染が浄化され健康体ですよ?」
「キグルミです。魔物のキグルミを作って、商人が来ている間は住人に着させましょう」
私はリアルなキグルミを作るのは得意なんです。かつては神や悪魔の像とか作って、適当に人間に配ってました。命術をパワーアップさせる霊力を込めたりして大人気でした。
「魔石を売らないと、お菓子とか買えませんが?」
「魔に汚染される事も気にせずに、皇女が砂糖欲しさにダンジョンに入って困っていると騙りましょう」
お菓子は欲しいですからね。
皆が私の叡智の前に、優しい目つきで見てきます。どうやら反対意見はもうないようですね。
「では、皆さん。これからダンジョンとか神聖術の話は秘密にお願いします!」
ふんすと胸を張るレイ皇女です。
「わかりました皇女様! ここだけの話にします!」
「良い心がけです、ヒナギクさん。ではダンジョン攻略を再開しましょう」
どうやら口止めは成功した模様。危ない、危ない。危うくダンジョン目的に大勢の冒険者が来ちゃうところでした。
ご機嫌な私はスキップをしながら、ルンルンと進みます。霧の中で新たなるスケルトンは出現せずに、無事に正面口に辿り着く。
湾曲した屋根の清潔そうな建物です。クリーンなイメージは工場などでは特に気をつけないといけないところですからね。
正面玄関はガラス張りで、扉の前に行くと自動的にドアが開きます。小さなライトが点滅しており、センサーも動いている……。電力が生きているようです。
「わわっ、扉が自動で開きましたよ、皇女様! え、見えない敵がいるのでしょうか?」
「あら、これくらいなら前も高位貴族のパーティーで見たことあります。私は帝都出身ですので」
「皆、気をつけろ! 先程までは半人前の冒険者たちの層だ。ここからは本格的に凶悪な魔獣が現れるからな!」
「あぁっ! 皇女さま〜、先に行ったら危険だよぅ」
自動ドア一つで驚いたり、得意気にしたり……なんだかとっても恥ずかしいので、先に行きます。
スタスタと進むと、やはり建物内も霧でぼんやりとした光景。天井には蛍光灯がついて明るくなっているにもかかわらず……ふむ?
受付ロビーは広くとられており、ふかふかのソファにテーブルもあり、ここで簡単な取引とかもできそう。床はリノリウムで、埃はなく壁はクリーム色で案内図やここで製造しているのか、なにかの品物のポスター。観葉植物が置いてあり、巨大企業のお金のかかった最新の工場に見えます。
『アポイントメントのある御方はトーテムロイドにどうぞ。ご案内致します。無い方は受付窓口にどうぞ』
どこからかアナウンスが聞こえてきて、床が丸く穴が開くと━━━。
「レッサーゴーレムです。お気をつけを!」
1メートル程の円柱型のドローンが穴からせり上がって現れるのでした。細い機械の両腕を生やしており、柱の真ん中のカメラアイが赤く光ります。
『お客様、ご用件をどうぞ』
ドローンが尋ねてきますが………。
「レッサーゴーレムはたくさん現れます! 増える前に素早く倒すのがコツです、姫殿下」
隊長さんが鉄の槍で横殴りにするのでした。ガションと良い音を立てて床の上を滑っていくトーテムロイド。
これって、後で賠償金とか求められません?




