35話 スケルトンを倒します
霧煙る工場群。どことなく不気味さを感じさせるシチュエーションバッチリのダンジョン。やはり薄っすらと周りが見えて昼間でも霧のせいで薄暗いというのは、ホラー要素によく使われるだけあるのです。
人気がなく、私たちの足音と装備の奏でる金属音だけがダンジョンの中で聞こえて、ワクワクしちゃいます。霧の中から魔獣がいつ飛び出てきてもおかしくありません。
正門はコンクリートの分厚い壁に、自動改札タイプの鉄扉。研究所とかでよくあるタイプ。門脇に警備の待機室があります。
見慣れた地球の近代的な工場です。街のように広い敷地に軒を並べているので、その点は元の地球とは違う点ですが。ここまで大きな工場群はアメリカのデトロイトでもなかったです。
非現実なところがダンジョンといえばダンジョンですが、もしこの世界ではこのようなファクトリーが建てられていたとなれば話は変わりますが。
「皇女様、あのゲートを潜るとダンジョンとなります。我らが先行致しますので、お待ち下さい」
「よしなに」
真剣な表情で隊長さんが言ってきます。魔物の特性を失った今は危険極まる場所だと理解しているために、兵士たちも皆が顔を緊張で強張らせています。
それでも勇気を見せてくれて、自動改札ゲートを潜り抜けて━━━。
『不法侵入者あり。不法侵入者あり。その場を動かないでください。すぐに警備員が参ります』
警告音が鳴り響き、壁からニョキリと出てきたパトランプが赤点灯しくるくると周ります。
「ここからがダンジョンになります! 全員戦闘準備!」
「おう! 了解です!」
「我らが力を皇女様にお見せせねば!」
凛々しく動揺せずに、隊長さんが部下に指示を出し、部下の皆さんも気合十分で武器を構えます。ヒナギクズもガーベラも武器を構えて、周りを警戒し、皆の闘志に当てられて空気がひりつきますが……。
「えっと、ヒナギクさん。この警告音がなんと言っているかわからないのですか?」
「? ただ魔獣の鳴き声がうるさいだけですよ、皇女様」
ヒナギクさんは不思議そうな顔で私を見てきて、周りの人たちも同意見の模様。
『不法侵入者につぐ。警備員が来ますので、大人しくその場で待機していなさい』
少し高圧的な口調の機械音声。マジですか、この音声の意味がわからないと。『日本語』で、私たちを泥棒扱いしてますよ? いや、間違ってはいないんですけど、気まずいです! これじゃ強盗ですよ! ダンジョンから正論で言われると心が痛みますよ!
まぁ、ちょっぴりしかない良心なので、ちくりとするだけですぐに忘れるレベルですけど。
「来たぞ、スケルトンたちだ! 数は3体、動きは鈍重だが、怪力で耐久力が高い。気をつけるのだ!」
「おぉっ! 周りを囲み慎重に攻撃するぞ!」
霧の中からうめき声をあげて、のそのそと姿を現すのは人型3体。
「確かにスケルトン。不死者が歩いているのは初めて見ました」
「私もですっ。骨が歩いているなんて、ちょっと怖いです。皇女様、私の後ろに!」
ガーベラが手慣れた様子で短剣を横に構えて、目を鋭いナイフのように細め、暗殺者のよう。ヒナギクさんが槍を突き出し構えるが、兵士たちよりも堂に入っている。サザンカさんたちも怖がるよりも、戦いに際して厳しい顔だ。
なんて言うことでしょう。私の側仕えの半分は戦士職みたい。召し使いが護衛なのは、フィクションではないのですね。
少し呆れちゃいますが、それよりもスケルトンです。現在はバトル中、「結城レイは様子を見ている」のコマンドを選択するのも悪いですし。
「うぉぉ!」
現れたスケルトンに隊長が果敢に槍を突き出す。スケルトンに命中するとガキンと鈍い音をたてて、スケルトンの骨にかすり傷がつく。
「硬い!」
肉が一片もついていない白骨化した人の骨がもはや汚れて元がなにかわからないほどのぼろぼろの服を着て、立っています。なるほど、確かにスケルトンです。どこからどう見ても不死者。有名な雑魚モンスター。
鉄の槍が命中しても、骨ではクリティカル無し、斬撃はダメージ半減。あまり効果はありません。まぁ、効果云々はゲームから持ってきた概念ですけど、概ね間違ってはいなさそう。
スケルトンは攻撃してきた隊長さんへとギギィと軋み音をたてて緩慢な動きで腕を振り上げる。振り上げるとすぐに振り下ろすが、隊長さんはその攻撃を予想しており、腰を屈めると横に飛び出す。
スケルトンの振り下ろしは、振り上げるよりも遥かに速く、隊長さんの身体に危うく当たりそう。コンクリート製の地面にぶつかり、その威力にてガッとコンクリートを僅かに削ると一欠片のコンクリート片を弾き出す。
スケルトンにしては怪力です。攻撃を食らったら、骨ごと叩き潰されそうな威力を持っています。
「おぅりゃぁ!」
だが、隊長さんは回避盾のタンク役だったようで、兵士たちが後ろに回り込むと、気合いの声をあげて槍を突く。動きの鈍いスケルトン、右腕の肘関節に狙い違わずに命中させる。
スケルトンが攻撃をしてきた兵士へと向き直ると、他の兵士たちも関節部分を攻撃し始める。カキンと音が響き、関節部分を攻撃する兵士たち。スケルトンはそのたびに振り向き、攻撃を仕掛けますが、振り向くだけでもとてもゆっくりなので、ターゲットになった兵士が慌てて逃げると攻撃は間に合いません。
基本はターゲットに振り向くスケルトンの後ろから攻撃するようです。安定した戦いで、どうやらコツは最初にきっちりとターゲットを取ることのようですね。
ゲームのようにきっちりとした戦いで、他の兵士たちも残りのスケルトンたちを危なげなく攻撃しています。やがて、スケルトンの動きが停止して、ガクリと身体を傾げて地面に倒れ伏すのでした。
「よし! 傀儡糸は全て切ったか?」
「とりあえずは腕と脚は切断したので動けないでしょう」
額にかいた汗を拭い、隊長さんが他の兵士たちへ呼びかけると、皆も怪我なく親指をたてて、ニカリと笑う。
「うわぁ~、皆さんかっこいいですね、皇女様!」
「たしかに綺麗な戦い方だったよね〜」
「そうですね。これならば皇女様もご安心できるでしょう」
ヒナギクさんがパンと手を打ち兵士たちを褒め称えると、サザンカさんもガーベラも感心の表情を浮かべる。それほどに見事な戦いぶりでした。
ああいう戦い方は慣れていないと駄目なんです。稼ぎが良いからと野良パーティーで同じことをすると、火力が弱くてヘイトを稼げない黒魔法使いがターゲットを取るのを失敗。逃げた仲間が追いかけられて殺されると、そのままパーティー崩壊とか、ネトゲーでよく見る光景でした。
夜中のレベル上げで人間が遊んでいたので、どこかの幽霊が最下級魔法使用のマクロボタンを後ろからこっそり押したからじゃないですよ。使えねーやつと罵られて、パーティーから追放されてごめんなさい。
「姫殿下、スケルトンを倒したら背中にある魔石を回収します。骨は素材にならないので捨てる感じですね」
隊長さんが手足の関節部分を破壊されて、それでもまだ動こうと藻掻くスケルトンをひっくり返すと、背中に短剣を突き立てる。ガチャガチャとそのまま短剣を捻ると、魔石を取り出して私に手渡してくれました。手のひらに乗る長方形の物体です。
ふむふむ、これが魔石。よく小説である設定。何故か魔物が持っている無限のクリーンエネルギー。バッテリーみたいなもの。
『単2電池』
バッテリーでした。電池でした。ちゃんと電池に品名の書かれたシールが貼ってあります。
なるほど、魔石は本当は電池……じゃないっ!
「スケルトンじゃないですよ、これ。白骨化している骨を強化服が動かしているだけですよ! これ不死者でもなんでもないです!」
絶叫しちゃいます。もはやツッコミマシーンレイちゃん。ぶんぶんと細っこい腕を振って、むぅと唇を尖らせちゃいます。
だってスケルトンなのは見掛けだけ。その手足には金属製の細い外骨格、背中に小さなランドセル型エンジンを担いでいる。簡易的で現代地球では開発中だった人の動きを補佐する重さも軽い行動支援強化服ですね。
これ、あれです。死んだ人の強化服がコンピューターの命令で動いているだけです。たぶん不法侵入者に対抗する警備員のはず。
「ちょっと見せてもらいますね」
自称スケルトンをよく見ると、関節部分のコードが切断されていました。なるほど、あくまでも簡易的で装甲もない強化服。コードを狙えば簡単に動きを停めることができると。そして人間が死んでいるために、動き自体も遅いと。怪力だけが取り柄なのですね。
『青森トヨハツビシ製警備支援強化服』
強化服の横に書かれている表示は予想通りのものでした。
「この文字は読めますか、ガーベラ?」
「………いえ、意味のない絵に見えますが?」
製造社名を指差しますが、やはりわからない模様。嘘はついてはおらず戸惑っているだけ。ふむふむ………。読めない………。明らかに『日本語』なのに………。
この状況………知っています。明らかに日本語なのに他の者は読めないし、言葉も理解できない。いえ、本当は私も読めなかったんでしょうね。ただの人間なら。
「どうかしましたか、皇女様?」
「いえ、少し考えていただけです」
様子がおかしい私へと心配げに尋ねてくるヒナギクさんへと、ひらひらと手を振り、その口元に薄っすらと笑みを浮かべる。
「姫殿下、新たなるスケルトンたちです。お下がりくださいませ!」
ガシャンガシャンと音を立てて、霧の中からスケルトンが数体歩み出てくる。洞穴のような眼窩と、身体が動いているため、カタカタとなる歯。不死者にしても意識の欠片もない。強化服が動いているだけなのだから当然なのでしょうが……。
「スケルトンとは名前負けです。もう少し人間に恐怖を与えるようにしませんと」
なっていませんね、このダンジョンの主は。お化け屋敷のほうがマシというものです。
「私が片付けますので、皆さんは下がっていてください!」
腰を落として、前傾姿勢になると肉食動物のように獰猛な笑みへと変える。
「ニャ~ン」
子猫のように遊んじゃいますから覚悟してくださいね?




