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異世界の薄幸少女にチート霊が憑依しました  作者: バッド
2章 ダンジョンの巫女

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32話 健康は早起きから

 チュンチュンチチチと雀の鳴き声が聞こえます。もうギチャンガチャンとか不気味な鳴き声はどこからも聞こえてきません。


 あぁ、もう朝ですかとぼんやりとした頭でがっかりしちゃいます。そろそろ肌寒くなる今日このごろ。ゴロニャンと布団にもう一度潜り込んじゃう。この地が青森県の可能性が出た以上、季節が秋に移り変わるとかなり寒いと思うのです。


 雪、楽しみですね、雪。大雪なら雪女レイの手番ですよ。熱々のおでんとか弱点なので、家に訪れたときには是非、弱点であるお鍋とかで迎え撃ってください。マイ箸用意しておきますので。


 となると、親友たるお布団ともっと親交を深めないといけないと思うのです。平和を愛して、地球では綱渡りレベルで善と悪の天秤を釣り合わせていたものです。私、もういないですけど、余程のことがない限り、人類同士でハルマゲドンを起こそうとはしないでしょう。


「おやすみなさ~い」


「駄目ですよ、姫様! もうすっかりお昼です。もうそろそろ起きてくださーい」


 ユサユサと揺さぶられるので、薄目を開けて唇を尖らせちゃいます。


「私の立場を思い出してください。領主としての実権もなく、追いやられているこの状態。平和を愛しているので、寝るしかないのです。よよよよ。平和は夢の中だけにあるのです」


「もうお味方ばかりですよ、皇女様! 召し使いさんたちはもちろんのこと、領民たちも皇女様を愛しております!」


 薄目で見えるのは青みがかったミディアムヘアの女の子、ヒナギクさんです。ミディアムっていう名前からステーキのミディアムを連想させる可愛らしい娘ですが、常にお仕事に懸命なところが玉に瑕です。もう少し肩の力を抜いても良いと思うんですけど。


 古びた女中服から、新しい女中服に変わっています。最近はお風呂にも入って、身だしなみは小綺麗で年頃のモテそうな少女という感じ。なんというか人懐っこくて、隙がありそうで彼女が欲しい男たちは俺でもいけるんじゃねと思わせるのです。高校生だと告白の一回や二回はあるでしょう。


「そうですよ、姫様。そろそろ子供たちもやってきます。お昼ご飯の用意は始めてもよろしいでしょうか?」


「すぐに起きます! さぁ、すぐにお昼ご飯を用意するのです」


 ガーベラの一言でカバリと起きます。子供たちが来ると、自動的に私のお昼ご飯が減ってしまう不思議仕様なので、さっさと食べないと駄目なのです。まだまだご飯の量を気軽には増やせない不甲斐ない皇女なのでして。


「その前に身支度をさせていただきますね」


 ━━━神女お披露目会から一週間。頑張って仕事を覚えているヒナギクさんは、やっとこと髪を整えることができるようになりました。ガシガシ鰹節を削る勢いで髪を梳かしていたのは過去の話。今は丁寧な手つきなので、訓練の成果が出ているようでなにより。ガーベラが後ろで監督しているので、どちらが筆頭側仕えかわからないですけどね。


 人の髪を梳かすのも技術が必要なのです。服を着させるのも、部屋を整えるのも全て卓越した技が必要でして、ちょっと側仕えを甘く見てました。

 

 ヒナギクズはわかりやすく女中服。ガーベラズはメイド服と分かれてます。これは派閥みたいな感じもありますが、和洋折衷で面白そうなので私が分けました。過去にも面白そうということで命術の改良版を天使術と悪魔術として人類に教えた覚えがありますが、この術は二つの術のどちらかを使える相手にしか使えない縛りだらけの術なのに、随分と人間たちは喜んでくれました。派手なエフェクトが受けが良かったのだと思います。

 

 姿見の前で大人しく髪を梳かされるのを、ぼーっと見ています。


 鏡に映るのは輝かんばかりの銀の髪。背中までストレートに伸びており、光の加減で透き通るような色合いにもなる美しい髪です。サラサラで艷やかで枝毛もありません。櫛を通しても引っかかることもなく、素麺が食べたくなりました。


 常にお腹を空かしているレイちゃんなのです。紅き瞳もルビーよりも深い紅き色合い。吸い込まれそうで、飴が食べたくなりました。


 すらっとした鼻梁に、色素の薄い小さな唇。小顔の可愛らしくも美しい絶世の美少女です。なんだかニャ~ンと鳴くと子猫の庇護欲も喚起させちゃいます。背丈も11歳にしては高く、胸もちょっぴりあって将来も期待できます。


 結城帝国の第13皇女。瘴気の森から帝国を守る最前線『ラショウ』の街の領主であり、魔に汚染された者たちを浄化する神の巫女である『神女』。


 その名も結城レイなのです。ででーん。


 現在は皇女としての仕事を懸命にするべく早起きして日々頑張ってます!


「お昼ご飯お持ちしました〜」


 早起きして頑張ってます! ででーん。


           ◇


 身嗜みを整えてもらい、朝食兼昼食というこの街の貧弱な食糧事情を考えての、皇女自らの摂食をしています。


 眼の前には白米のおにぎり一個とタクアンと塩の利いた野菜がちょっぴり入っているスープと人参とじゃが芋の煮物。なかなかの品揃え。


 本当はおにぎりは三個でしたが………。


「白いお米って美味しーね、こーじょしゃま」

「はんぶんこ〜。真っ白であみゃいの」

「いつもありがとうでつ。はぐはぐ」

「食べたら何してあしょびまつか?」


 二個は小さなお友だちにあげました。仲良くはんぶんこずつにして食べる良い子たちです。お昼ご飯を狙って現れるような気もしますが、頬を膨らませてモキュモキュ食べる姿は小動物みたいなので許しちゃいます。


 今日は何をして遊びましょうか。昨日はリバーシで遊んだので、ババ抜きが良いですかね?

 

 むむむと唸って、真剣な顔で腕を組んで悩んじゃいます。これは皇女の能力が試される時!


 ですが、皇女の器量を求められるこの時、運命の歯車は狂い始めたのです。


 コンコンとノックの音がしました。これは最近になって変わったことの一つであり、以前はコンコンガチャリと扉は開いたものですが、許可を得るまで扉は開かなくなりました。


 とてててと早足でヒナギクさんが扉を細目に開けて、小声で相手と話します。そして、ちょっぴり目を見開き振り向くと、どうすれば良いのかわからない顔を見せまてきめした。


「皇女様、テンナン子爵が病気がだいぶ良くなったので、出仕したとのことです。神聖術に目覚めた皇女様に是非に拝謁したいと仰っておりますが、いかがいたひましょうか」


 丁寧語が慣れなくて、最後で噛んじゃったヒナギクさんである。お茶目なところにほっこりとしながらも、意外な連絡に少し驚いてしまいます。


 もう少し泳がせてから張り倒す予定でしたが、まさか自分からやってくるとは思いませんでした。


「わかりました。それではテンナン子爵には、執務室で謁見すると伝えなさい。きっと代官は立派な仕事をしていたはずですから、その勤勉ぶりも評価したいのです」


 女神レイの微笑みを見せて、謁見を許可するのでした。


結城ゆうきレイ

11歳

結城帝国第13王女

『神女』

魂の器:2

経験気 2350/10000

体力3

筋力3

命術レベル3 3/3/1

霊術レベル3 1日1回

神術受肉:レベル回数分

基本技:『霊視』『幽体変化アストラルシフト


魂の器もレベル2。ちょっぴり上がりましたし、色々と面白いことができそうです。それに、テンナン子爵が何を企んでいるか興味ありますしね。


 それに腸詰めの怨みはまだ覚えています。食べ物の怨みはコワインデスヨ。


           ◇


 執務室は入ったことがありませんでした。だって執務する気ゼロでしたし、代官いましたし。扉の外でぐぬぬぬとエアハンカチを口にして、キュウと唸っていただけです。


 そのため、掃除もろくにされていないのかアルコール臭く、テーブルの上には食べかけでカビの生えたパンや腸詰め。陰には酒瓶がゴロゴロと転がってます。はっきり言って汚い。ですが、これ、わざとです。掃除はするなと召し使いたちにニッコリと笑顔を見せた結果です。


 まさかこんな惨状になっているとは予想していなかったのでしょう。テンナン子爵は顰めっ面で、なんで掃除をしないんだとヒナギクさんたちを睨みますが素知らぬフリで。


 隠れて領主の仕事なんかしません。今の状況は全てテンナン代官の責任にするつもりなのです。惜しむらくは、たった五千人の街なので、一、二週間程度では少し書類が溜まっただけなところですか。本当は山となっているところを見せて、プレッシャーをかけたかったのですけどね。


「ご機嫌麗しゅう、皇女様。太陽が必ず昇るのと同様で、皇女様も必ずや勇者の血筋に目覚めると、このテンナンきっといつかはと、毎日毎晩信じておりました」


「そのいつかは私が死ぬ寸前とか、数百年後の話ですか、まぁ、気持ちはわかります、気持ちは」


 執務室の椅子に座り、冷酷な目つきでスラリとした脚を組み威圧します。私の冷え切った目つきに、テンナン子爵はタジタジです。後ろで今日の遊びなんだねとふんふんと鼻息荒く楽しげにして、椅子に座って脚を組もうと、うんせうんせと頑張るお友だち四人もいるから効果倍です。椅子がないからポテリと体育座りになって睨んでくれる頼りがいのあるお友だちです。


「お戯れを。今日明日には覚醒するのではと、このテンナン、毎日お神酒を奉じて祈っておりました」


 いけしゃあしゃあと言うテンナン子爵は自分の腹にお神酒を奉じる新しい方法を考えついた模様。その姿は天パに頬はたるんでおり、身体も風船のように膨らんでいます。


「はっきり言うと贅肉だらけの豚野郎ですね。正直、豚の方が豚肉になる分、遥かに役に立ちますが、まぁ、そのへんは良いでしょう」


「お、お戯れを………」


 氷の如き表情で口元を歪めて言うと、悔しげに憎々しげに、テンナン子爵は顔を歪めて、ますます豚っぽくなります。


 だが、なんとか侮蔑に耐えたのか、顔を緩ませると揉み手をしてくる。


「実はですな。覚醒した皇女様ならば、もはや大丈夫であろうと、代官を辞して帝都に帰還しようと考えている次第でして」


 代官を辞めさせようと、出仕を促していたのに、まさかのあちらかの提案。ふむむ?


「それは驚きですね。帝都に裸一貫で帰還して頑張ろうと。推薦状を書いてあげても良いですよ。この者蓄財に長けており、代官として倉庫に自分の財産を山と積んでいたと。裸一貫になった貴方を見て、推薦状を読んだ相手は喜んで雇うことでしょう」


「いやはや、皮肉めいてますな。ですがこのテンナンは代官です。帰還にあたり、皇女様に一つお願いがございまして。代官を辞するにあたり、皇女様の仕事ぶりをお見せくださいませ」


 皮肉をバーゲンセールで売っても、素知らぬ顔で買わないテンナン子爵。代官をクビになる。物理的に首だけになる可能性があるというのに、ちょっぴり余裕そうに見えます。


「どんな仕事ぶりでしょうか? この書類を片付ければ良い?」


「いえ、そんなものではなく……皇族たる証。収穫祭の前に、皇女様の武をお見せ願いたい。即ち、ダンジョンに潜り、これはという遺物を見つけてくだされば、私も安心して代官を辞め、全ての権限を皇女様に返還します」


 ふてぶてしく嗤うテンナン子爵の意外なる言葉。………ふむ、楽しそうです。その提案を呑んであげましょう。鬼が出ても、蛇が出てきても、私は楽しめますので。


 フフッと微笑み、私は明らかなる罠に引っ掛かろうとするのでした。


 あ、お友だちが体育座りに飽きてでんぐり返しを始めましたね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 過去作も全部見ています、素晴しい作品を何時もありがとうございます。 私は健気に生きている子が救われる展開に弱いぞ! [気になる点] ここで術のどちらかしか使える相手にしか効果が無い術と言い…
[一言] はやく処分したいわー
[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 [一言] 代官が動かせる手勢っていたっけ?
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