表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の薄幸少女にチート霊が憑依しました  作者: バッド
1章 浄化の巫女

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/76

30話 その頃の地球の神々

 地球の神域━━━。


 穏やかな草原に、聖なる小川が流れており、中心には山脈にも見える壮大な規模の宮殿が並び立っている。


 神域では、毎夜毎晩の宴会が行われていた。皆、達成感に包まれて、酒盃に酒を注いで、おっと注ぎすぎたと、溢れてしまってワハハと笑い、食べすぎたかと料理に舌鼓を打つ。


 無限の空間をお釈迦様が作り出し、世界中の神々がその場に集まり騒いでいる。まさにどんちゃん騒ぎと言って良い。


 神性などどこへやら、どこかの会社の飲み会にしか見えない有り様だ。なにしろ神々なのに、へべれけに酔っ払っていたり、夢中になってひたすら料理を食べている者もいる始末。


 まぁ、神性を忘れるほどにめでたいことがあったのだから仕方ないとも言える。


 天照大神に釈迦、キリスト教の神や北欧神のオーディーンたちに、ゼウスやハデス、ノルンやらが集まって、大騒ぎをしていた。


「ぶははは、我は天才なのじゃ。数多ある神々の中でも、やはり頭の回転が違うのじゃ。褒めよ、敬え、我こそは天照大神。世界を照らす太陽神なり!」


 居並ぶ神々の中で、今回の功労者たる神。太陽神の化身にして、天津神のトップである天照大神が、漆塗りの酒盃にオレンジジュースを並々と注いで、あははと笑っていた。見た目は幼女であり、巫女服を着てはいるが、正直裾も余っておりブカブカだ。とてもではないが天照大神には見えないが天照大神なのだ。


 その後ろには『祝霊帝討伐』と書かれた幟が立っていた。今回の宴会は宿敵にして怨敵たる霊帝を討伐した祝いなのである。


「やれやれ、お主は先程からそればかりではないか。他の神々も根回しに頑張ったのだぞ? 密かにそなたの『魂柱』を破壊するように、パワースポットの噂を流し小鳥遊家とやらを稲荷神が降臨して騙したのだから。ゆえに稲荷神は無理をしたので、あと数十年は下界に介入はできまい」


「あーん? そんなことはわかってはおる! だがのぅ、神の命たる『魂柱』を破壊されたのじゃ。あの『魂柱』は我のだったのじゃぞ?」


 むぅと頬を膨らませて睨む相手は、釈迦である。切れ長の目の妙齢の美女だが、口調は老人っぽい。よくよく見れば、神々の大半は美女か美少女だ。その原因は、最近の人間の信仰先が何故か女性化した神々の偶像相手だからだ。


 即ち、人間のせいでありスサノオちゃんあたりは不満であったが、どんどん人間たちは偶像を女性化させてしまうので止められなかった。


「ふん、壊された『魂柱』は既に修復したのだろう? それにそなたは何百柱持っているのだ。蚊に刺された程度であろうが」


「まぁの。それでも人間には大罪。神罰を与えるために神術の使用が可能となったのじゃ。チート能力を与えて、その代償として異世界に落とす。その際に『神術:受肉』を使用して異世界への身体を作り出せば、復活を求める霊のさが。霊帝は必ず覗きに来て、神術を真似るであろう」


「そうだな。神術は生気と霊気がなければ使えぬ。いかに膨大な霊気を持った霊帝といえど使用すれば、その霊気を全て消耗し尽くして、消滅するであろうな」


 今回の作戦は、霊帝を討伐するために練られたものだった。『魂柱』を破壊した人間に神罰を与える。しかも霊帝に覗かれるように結界を解除して。


 ホイホイやってきた霊帝に、馬鹿なやつとほくそ笑み、神罰を執行したのである。霊帝は一度見た術を真似ることができる。きっと『神術:受肉』を盗み取ると予想していたのだ。真似ることはできても、その本質に気づかない霊帝は神術の失敗で消滅するだろう。


「異世界にて、奴は既に消滅しておる。くくく、今頃は輪廻転生して、ミジンコにでもなっているじゃろうて」


「うむ……万が一、肉体創造を成功しても、あの世界は歪んだ世界。赤ん坊のような力しか持たぬ奴はすぐに殺される。二重の作戦なのだから問題はあるまい。そうだなノルン殿?」


 釈迦が料理をのんびりと食べている女性に声を掛ける。白いトーガを着込む美女は気怠げに肩を竦めると、手を宙に振るう。


「そのとおりよ〜。奴の消滅は既に確定している未来。運命のダイスの達成値は3以上。大失敗ファンブル以外に失敗はないの。もう余計な心配はせずとも良いわ〜」


 時を司るノルンの太鼓判に、さり気なく聞き耳を立てていた他の神々もドッと笑う。


「良きかな、良きかな。まったくたかだか霊如きが、我らに危機感をもたせるとは不遜も良いところだ」


「まさしく、まさしく。ちょっと昔から存在していたからと調子に乗りおって」


「おーい、中国の農さん、もっと酒を作ってくれぇ、お祝いなのだからなぁ」


 ご機嫌な神々は、また乾杯とコップを打ち合う。本来は霊などそこまで気にすることはなかったのだと、またも騒ぐが━━。


「はっ、ハルマゲドンでボロボロに負けて、セコい作戦で滅しようなどと、神々らしくないのです」


 少し離れた場所で、携帯ゲームをしながら、アニメキャラの絵が描いてあるシャツを着て、下はジャージの幼女がポツリと呟く。その一言は意外と響き、騒いでいた神々はシンと静まる。


 と、すぐに猛然と食ってかかる。


「手加減していたのだ! 奴に神術を見せて戦うのは危険だったからな!」


「そうだ! 万が一神術を真似られて逃亡されたら大変なことになったかもしれぬ!」


「そうそう。我らはほんの一割程度。まったく本気を出していなかったのだ、わかるか、イザナミ!」


 イザナミと呼ばれた幼女に、神々は大人げなく食ってかかるが、イザナミは半眼でヘッと鼻で嗤う。


「嘘つけ。神術を真似られないように、隠蔽と情報防壁を使いながら使用してたではないか。しかも草薙剣やグングニル、ゼウスの雷と、神器も使いまくって」


 ウッと皆は気まずそうに顔を背ける。イザナミはその様子を見ながら携帯ゲームのモニターを指で叩く。10連ガチャが始まり、その結果に眉を顰める、


「スサノオはサタンに負けていたのです。竜の口に噛みつかれて、バラバラに。唯一神は八岐の大蛇とルシフェルとミカエルにボコボコにされていたの。八咫の烏とラーはパズズとケツアルカトルとメデューサに羽根を毟られていたのです」


「うぬぬ、奴の力は卑怯。『第十霊術:ハルマゲドン』はチートすぎる! 何だあれ? 神々に襲われたら自動発動するなんて!」


「あれは容赦なかったな……」


「アレスなんか、ガイアのボディプレスでぺちゃんこにされていたし」


「あいつと戦うのは、もう嫌だよ」


 怒るのは数柱、あとは畏れの表情となり、小声で呟く。


 霊帝の力。神々以外の眷属と呼ばれる天使、悪魔や妖魔に妖しと、どんなものにでも変身できる恐るべき力。しかも分体を生み出すこともできるので、ハルマゲドンに相応しい敵を軍勢として霊帝は作り出した。


 神々の眷属、天使や英霊たちをも作り出して、神々との戦争に挑んできたので、所詮は一介の霊如きと、馬鹿にして見下した神々は激しい戦争にて大敗して、逃げたのである。


 悲惨な思い出であった。まさか人間たちが勝手に想像したハルマゲドンを実際に霊帝が作り出せるとは思いも寄らないことでもあった。


「まぁ、誤魔化すのはよしましょう。我らが負けたのはたしか。敵わぬことも理解しました。ですが、あの者を滅ぼすのは決定事項だったのです。あの者が創り出そうとしていた霊術の中身を知っていますか?」


 穏やかな表情で、戦鎧を着込む美女アテネが、困った顔で話に口を挟む。イザナミもその霊術のことは後で知った。ちょうど大作ゲームが発売されたので、夢中になってやっていたので、ハルマゲドンがあったことも知らなかったのだ。なんか神々の緊急通知がきたけど、一区切りした後に見るのですと放置してゲームクリア後に確認して驚いたのだ。


「使うなとお願いすれば、あいつは使うことはしなかったはずなのです。それを危険視して戦争を始めたのはやり過ぎですの」


「我らは願われることはあっても願うことなどあり得ぬ! しかも霊如きに願うと? 頭を下げろと言うのか!」


 長いひげが立派な関聖帝君が怒りと屈辱の表情で、ガンと床を叩く。そうだそうだと、他の神々も同調して、やんややんやと囃し立てる。その騒ぐ姿は、国会で騒ぐだけで政治を放置する政治家のようだ。


 神々というのは無駄にプライドだけは高いのですと、イザナミは冷たい視線を向ける。


「イザナミさんの仰ることはわかります。ですが、かの霊術は危険すぎました。昔なら放置していたでしょう。ですが、今の世では看過できませんでした」


「アテネの言う通りじゃ。あやつの第十一霊術。どんなのか知って背筋がゾッとしたわ! 『霊帝の手』を使って……使って……」


 天照大神が怯えた顔になり、ギュッと握り拳を作る。あり得ない霊術。信じられないものであったのだ。


「核ミサイル基地のパスワードが勝手に入って発射準備になる『第十一霊術:勝手に核ミサイル発射準備』じゃぞ! タッチパネルと鍵程度なら100グラムしか持てぬ『霊帝の手』でも操作できるからと、そんな霊術を考えたのじゃぞ! あほか! 発射準備だけで向けられた他国から先制攻撃される可能性があるのじゃ。人類滅亡しちゃうのじゃぞ!」


「昔なら100グラムしか扱えぬ霊帝の手など使い物にならなかったのになぁ。今は100グラム扱えれば電子の世界で好き放題できるから………」


「一度作れば使いたくなるのは必定。霊帝は滅ぼすしかなかったのです」


 タッチパネル全盛のこの世界、もはや霊帝の手は最強となってしまったのである。そのため、霊帝を庇うものは少数でほとんどの神々は滅ぼすことに決めた。


「もしも滅びていなかったらどうするのです? 彼の者がこの世界に舞い戻ってきたときは? 肉体を持ち、神術が使えて、霊の力を保ち、すべての縛りが解除された者を誰が止められるのですか?」


「考えすぎだ! 今頃はたんぽぽにでも転生しているに違いない! ウハハハ」


「そうだぞ、イザナミ。そして我らは世界を救ったのだ。全ての生命体は偉業を成した我らを崇めるだろうよ」


「儂、奴が作っていた似非神域を破壊しておいた。めちゃくちゃにして天罰と壁に書いておいたぞ」


「俺も俺も。いつもいつも我らが介入できないからと、聖なる祭壇とかで天使の真似や仏の演技をしてやがって。霊峰とか名乗っていた場所を燃やしてやったわ!」


「おまいら、ひでーな。俺も古い鍾乳洞奥の祭壇に豚の血を撒き散らしたけどぉ〜」


「おいおい、皆ひでーな、それじゃ奴が苦労して作った似非聖域は全滅かぁ〜」


 鬱憤が溜まっていた神々は幼稚な仕返しをしたようである。楽しげに自分達の成果を話し合っていた。よほど霊帝に負けたのが悔しかったのだろう。


「善は勝利し、世界は平穏になった。全て我ら神々の力なり!」


 カンパーイとまたもや騒ぐ神々の姿を見て、イザナミは呆れて息を吐く。


「人類が平和に……霊帝がいなくなると本当に平和になるのです?」


 そして、無料ガチャの結果に舌打ちするのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 運命のダイスって3d6(6面ダイス✖️3)ですか?(目標値(達成値)3と言っていることから、%ダイス、所謂100面ダイスではないでしょうね。4面ダイスだと半々の確率だし。) ガープスだと判定…
[一言] 神の敗因:ダイスの女神を味方に引き込まなかった
[一言] 前話のダンジョンもそうですがこう言う明らかになっていく部分好きです むしろ役得があったとはいえ人類のために色々やってた感じなので神達のやってることは邪神的行為になっちゃいますよね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ