73. 無性に食べたくなるもの
ひっつき虫のリュカを膝に乗せながら、僕は少し遅めの朝食を食べる。
家族とは遅れてなので、温めなくても食べられるパンと果物のみだけど、誰かが作って用意してくれたというだけでありがたい。
リュカは時折、僕の顔をじっと見て、雛鳥みたいに口を開けるので、パンの欠片を入れてあげる。
美味しそうにもぐもぐしている様子を見るに、すっかり機嫌は治ったようだ。
(リュカ、重くなったな〜)
太ももにずしっとくる四歳児の重みに、しみじみと思う。こんな風に甘えてくれるのも、きっと今のうちだけだろう。
いつか、抱っこしたくてもさせてくれない日が、来るのだ。それまでは、家の中でくらい、甘やかしても良いかなと思ってしまう。
そうして、兄弟仲良く朝食を終えて、僕たちは厨房にやってきた。
隅っこを使わせてもらって、あれを作るのだ。
「にいには、これから美味しいごはんを作りたいと思います! お料理のお手伝い、してくれるひとー?」
「はーい!」
久しぶりに、お気に入りの黒猫ワッペンのエプロンを着たリュカが、ふんすと張り切って右手を挙げた。
長くなった榛色の髪をちゃんと1つに括って、メロディアとお揃いの青いリボンを結んでいる。
手伝いを申し出てくれた調理長のグルマンドも、やる気まんまんのリュカを、目を細めて見ていた。
今回作るものに必要な材料は、小麦粉・砂糖・塩・お湯・オイルの5つ。
前世で一度だけ、ドライイーストを使わないという謳い文句のレシピを、作った覚えがあった。
(確かあの時は、宅配が終わっているド深夜にどうしても食べたくなって、作ったんだよなあ)
正確な量は覚えていないので、適当……もとい目分量だ。
ボウルに小麦粉をカップ二杯。砂糖はスプーン二杯。塩は二つまみ。さっと粉だけで混ぜたら、カップ半量分のぬるま湯を注ぐ。
「さあ、リュカ。こうやって、粉をこねこねするんだよ」
「あいっ!」
一度、生地をまとめるように混ぜて見せる。
リュカは、ちっちゃなお手々で、一生懸命こねこねした。
(うんうん。リュカも力がついて、しっかり混ぜられてる)
立派にお手伝いをこなせているリュカに感動しながら、もう半量分のお湯を注ぐ。
合計カップ一杯分の水を混ぜたけれど、まだ生地は少しボソボソしていた。
ここで、オイルを入れる。
一気に入れると分離してしまうので、リュカが混ぜている隙間から、スプーンで少しずつだ。
「きゃはは〜! くしゅぐったい!」
オイルが、指の間を流れる感覚がくすぐったいらしい。リュカはきゅっと肩を竦めて笑っていた。
その鼻には、いつの間にか白い粉がついていて、僕も笑ってしまった。
スプーン三杯分ほどオイルを入れて、生地がほんのり黄色くなったら、つまんだり突いてみる。
良さそうだ。
あとはリュカから生地を引き取って、僕が体重を乗せて、しっかりこねる。
そうして、しっとりなめらかになり、手につかなくなったら、ピザ生地の完成だ!
僕たちと一緒に、別のボウルで生地をこねていたグルマンドは、「はふっはふっ」とすっかり息が荒くなっていた。
生地を丸く1つにまとめ、乾燥しないように濡れ布巾で包んで、しばらく寝かせる。
寝かせてる間に、ソースや具材の準備をしてしまおう。
定番はやっぱり、トマトソース・バジル・チーズだろう。ほかには……。
「……リュカは、ごはん、何が好き?」
「じぇんぶ!」
「ははは。全部か! おうちのごはん、美味しいもんね。じゃあ、一番は?」
「いちばん? うー。……あ! りゅー、ぶどう、しゅき!」
「葡萄か〜。そうしたら、デザートピザもいいかも」
グルマンドに使っても良い食材を聞き、手伝ってもらって具材を用意する。
「ルイ様、これはピザと言うのですかなっ?」
「うん。そうだよ。生地に好みのソースや具材を乗せて、焼くだけだよ。でも、食材の組み合わせは自由だし、食事にもデザートにもなるんだ」
「むふっ。それはそれは……。良いことを聞きましたな」
何やらグルマンドがぶつぶつ言ってるけれど、気にせず、生地を四等分に。
それぞれを丸めて、破れない程度に薄〜く棒で伸ばしたら、そのうえにソースと具材を乗せる。
リュカは、葡萄ジャムをスプーンで生地に塗りたくって、こっそり自分の口にも入れているのを見てしまった。
きっと僕たちにバレていないと思っているけれど、口の端に証拠がついている。
(はは。見てたら、つまみ食いしたくなるのは仕方ないか。見逃そう)
そうグルマンドと目で会話して、計八枚分のピザを仕上げたのだった。




