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07. 布絵本の読み聞かせと芋のおやき

 母さんがその恋人にどう説明したかはわからないが、二日後の昼に食事会をすることが決まった。

 指定された店は、この辺りでは少しグレードが高めの料理店だった。

 格式張ってはいないが、ジャケットくらいは着用しないと浮いてしまいそうだ。


 手持ちの衣装では間に合わないので、急遽服を買い足す。

 ついでに、父さんの3周忌のミサの手配もしてしまう。

 3回目ともなれば慣れたものだし、司祭様とも顔見知りなので、世間話をしつつスムーズにお願いができた。


 そうして昼を過ぎたところでひと段落ついたので家に帰り、癒しを求めて子ども部屋に足を運ぶ。

 今日はぼくが準備をしている間、エミリーさんにつきっきりでリュカをみてもらっていたので、交代をしようと思ったのだ。

 いくら子守りが仕事とはいえ、気づまりもするだろうし、適宜休憩をとってもらうようにしている。



「エミリーさん、ただいま帰りました。ぼくの方は落ち着いたので交代します。少し休憩してください」

「あらルイさん。お帰りなさいませ。それではお言葉に甘えて、休憩させていただきますね」

「にぃに、おかーり」

「リュカ〜、にいにと遊ぼう〜。何がしたいかなー?」

「やっちゃー!これ〜!これ〜!にゃーにゃーの、ごほん!」



 リュカがせがんで来たのは、布絵本の読み聞かせだった。

 パッチワークで作られたこの布絵本を、リュカはとても気に入っていて、もう何回も読んでいる。


 黒猫の大きな口がポケットになっているので、これまた布で作られたごはんを「どうじょー」と食べさせたり。

 折りたたまれた猫の手でいないいないばあをしてきゃーきゃー笑ったり、かと思えばアヒル口の真剣な表情で、猫の首のリボンを結ぼうとしたり。


「たのちぃ〜!」とセリフもない、わずか数ページの布絵本をこれだけ喜んでもらえれば、作ってもらった甲斐がある。


 これは裁縫が苦手なぼくが、ポリーヌさんに説明して作ってもらったものだ。

 当初は売り物ではなく、純粋にリュカのためにあるといいなと思ってお願いをしたのだが、想像以上の出来栄えに「これは売れるね!」とあっという間に契約を結ぶことになった。


 なぜかパッチワークの概念がなかったので、少しでもカラフルになればくらいの軽い気持ちで伝えたのだが、それがよかったらしい。

 服飾関連の工房から出る端切れを安く仕入れて、手芸が得意な主婦たちが内職で作る。商会としても材料費・人件費を抑えつつ、目新しいので多少利益を上乗せしても売れる。


 その時どきで仕入れられる布や材料によって作られた布絵本は、内容は同じでも色合いや柄が1冊ずつ違うので、選ぶ楽しさもある。何より、本来は高価な本が手頃に買えると評判になっているようだ。


 ポリーヌさんに結構な種類のストーリー構成や仕掛けを書いて欲しいと言われたのは想定外だったが、この世界の植物や動物、数字や文字などを使ってなんとかアイデアをひねり出した。

 とても大変だった分、ロイヤリティーは良い収入になってくれているので文句はない。


 果実水での水分補給をこまめに挟みつつ、ほかにもボール遊び・かくれんぼ・積み木・輪投げと、とことんリュカと遊んでいると、かわいいリュカのお腹から「ぐぎゅぅ〜〜」と音が鳴った。



「リュカ、ぽんぽん空いてるんだね。おやつにしようか」

「!!おやちゅっ、たべうっ!」



 リュカのお腹がしきりと鳴って催促してくるので、ぼくはあるもので手早く作ることにした。


 甘味のある芋を細かく賽の目に切ってヤギ乳に浸し、生活魔法のヒートをかける。

 本当は芋は茹でるか蒸した方が良いのだろうが、今日は時短する。


 温まって芋が柔らかくなったら、ほんの少しお塩をしてマッシュし、干しておいたりんごを細かく切って混ぜる。

 ある程度混ざったら、一口大の大きさに丸めて、押し付けるようにフライパンで焼き色をつける。


 なんちゃって、芋のおやきの完成だ。

 ウィンドで人肌くらいまで冷ましてから、盛り付ける。リュカの目は、すでにおやきに釘付けだ。



「今日のおやつは、芋のおやきだよ」

「おあき、いたっきまーしゅっ」

「めしあがれ〜」



 リュカはフォークを握りしめたままお手々を合わせていて、本当にかわいい。

 すぐに一心不乱に食べはじめた。

 ぼくも、自分で作ったおやきを食べるが、素朴な甘さでなかなか美味しい。


 食べ終わってごちそうさまをする頃には、リュカはお腹いっぱいでうとうとしていた。

 そっと抱き上げて、子ども部屋のベッドに連れていく。ぼくもリュカの隣に横になって、お腹をとんとんしていると、すぐにすやぁと眠ってしまった。


 もう肌寒い季節なので、脇に抱いた幼児の体温が(ぬく)くて気持ちいい。

 ちょっと添い寝をするだけのつもりが、ぼくもいつの間にかリュカと一緒にお昼寝をしてしまった。

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― 新着の感想 ―
[一言] お店選びの時点で母親の恋人は相手のことを考えないただの見栄っ張りだと判明。あるかわからないけど喫茶店レベルじゃないかな紹介だけなら。
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