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53. 保育園を作りたい

 家に帰ってきた僕たちは、ソファーでゆっくりと過ごしていた。

 結局、大人たちの雪合戦は、日が陰ってきたきたことで、引き分けに終わった。



(全く、仕方ない大人たちだよね…)



 次は団長をコテンパンにしてやるっす!と悔しそうに言っていたチボーたちを思い出して、苦笑いしてしまう。


 リュカは眠いのか、よじよじと僕の膝に登ってきて、胸に耳をつけている。

 やっぱり、心臓の音を聞くと、落ち着くのだろうか?



「リュカ、今日は楽しかったね」

「あい…ふわあぁ」



 一日中、帽子を被っていてへたっているリュカの髪の毛を手櫛で整えながら、尋ねてみる。



「リュカは、やっぱりもっとお友達と遊びたい?」



 リュカは、ごそごそと身じろいで、今度は額を胸につけて、ぐりぐりしている。



「……あしょびたぃ」

「そっか。そうだよね」



 リュカはその後も、しばらく何かをもごもご喋っていたが、そのうち静かに寝入ってしまった。

 僕は、その小さな背中をゆるく抱きしめる。



(リュカがお友達と遊べるように、にいに、頑張るからね…!)






 そうして今、僕の目の前には、1枚の木板が置かれている。



『リュカに、普段から友達と遊べる機会を作ってあげたい』



 そのために必要なことや、方法、メリット、デメリットなどを考えようと思ったのだ。

 僕は頭の中で考えるより、書き出すほうが整理できるので、こうして机に向かっている。



(ずいぶん、原始的ではあるけれど…)



 インク壺の蓋をぱかっと開けて、筆を浸す。ふわっと鉄のような、何とも言えない匂いがした。

 木板の木目やささくれに、インクが滲んでしまわないように、気をつけながら書いていく。



(単純に考えるなら、学友みたいな存在でいいんだ)



 でも、他にも良い方法がないか、一旦考えてみる。

 まず、4歳のリュカが友達を作るとしたら、方法は2つしかない。


 家の中で作るか、家の外で作るかだ。


 家の中で作る場合、近所の年の近い子を招くとか、それこそ学友を選んでもいいだろう。それに、子ども同士の交流会を開催しても良い。



(ただ、問題は親だなあ。小作人の子どもの場合は、親の方が恐縮しちゃうし。かといって、下手に選ぶと、なんであそこの子が選ばれて、うちの子は選ばれてないのか、は出てきそうだし…)



 もうすでに出来上がっている関係性を、乱したいわけではないのだ。

 友達になる・ならないは、家や親は関係ない。結局は、本人同士の相性なのだ。

 もう少し気軽に、広く関わりを持てる方が良かった。



 家の外で作る場合は、保育園みたいな仕組みや、公園や子どもイベントが考えられる。

 けれど、そもそもこの世界にはどれもないものだし、公園やイベントは整備しようとすると予算がかかってしまう。



(なるべく小さく始めたいから、そうすると、やっぱり保育園みたいなのがいいのかな)



 セージビルの教会に通っていた頃や、今回のそり遊びでは、リュカは友達ができて楽しそうだった。

 あの笑顔を見てしまうと、遊び相手がメロディアしかいない現状は、少し心配になる。


 というのも、リュカはいまだにさ行やた行の発音が苦手で、少し成長がゆっくりに感じた。


 まだ4歳になったばかりだ。

 焦ることでもないし、ほかの子と比べても仕方のないことだと思うが、年の近い友達と関わっていく中で、成長が促せるかもと、ひそかに期待していた。



(あの舌足らずがかわいくはあるんだけど…)



 そんなことを考えつつ、保育園案の詳細を詰め、木板に書き込んでいく。


 始めるとしたら、まずは小作人たちの子どもを、福利厚生的に預かるのが始めやすいだろう。

 そうすると、子どもたちの面倒は誰が見るのか、場所や食事はどうするのか。費用やメリットなどをどんどん挙げていく。



(ただ、問題は、僕以外の人たちが、本当に保育園を必要だと思ってくれるかどうかだよなあ)



 僕は前世の知識から、子ども同士の交流が大切なことを知っている。

 けれど、この世界では家の中で育てることが普通だし、ある程度育てば働き手として数えられることもあった。

 諸手を挙げて、子どもを保育園に預けることが、喜ばれるとは限らない。



「悩んでても、しょうがない。聞いてみるか」



 僕は筆を置いて、立ち上がった。






 意気込んで僕がやってきたのは、醸造所(ワイナリー)とは反対の斜面の裾にある、ヌーヌおばさんの家だった。

 いつでも畑の様子が見れるようにと、この場所に住んでいるらしい。



「ルイがうちに来るなんて、珍しいねえ。一体、どうしたんだいっ?」



 休閑期で家にいたヌーヌおばさんは、突然訪ねてきた僕を快く招いて、お茶を出してくれた。

 僕は、そのお茶をありがたく啜る。


 鼻がスッとして、後味がどことなく甘いハーブティーが、胃をぽかぽかと温めてくれる。

 口を湿らせ、アネットの姿が見えないことに少し安堵した僕は、ゆっくりと話し始めた。



「──ということで、まずはお試しで、作業小屋で小作人たちの子どもを預かるのはどうかと、考えたんです。それで、ヌーヌおばさんに色々と助言をもらいたくて」

「あらやだ。あたしなんかでいいのかいっ?」



 ヌーヌおばさんは、冗談めかしているが、目がきらんと光ったような気がした。



「もし、本当に子どもを預かってくれるなら、あたしらはもちろん助かるねえっ」



 ヌーヌおばさんも、お茶を一口飲む。



「今は祖父母がみてくれたり、近所同士でなんとかしてるけど、冬以外は基本、どこも忙しいからねっ。泣く泣く休んだり、作業小屋に連れてくることもままあるのよっ」

「ああ、そうだったんですね」


「でも、連れてきても農作業があるでしょう?ずっと見てられるわけじゃないからね、落ち着かなくてねえっ」

「それは確かに…」



 そうして、1つ1つヌーヌおばさんと話をすると、色々と要望が出てくる出てくる。

 子どもが外で遊びたがるから、遊び場は欲しいけど、葡萄畑をうろちょろされるのは困る、とか。

 パンを持参することはできるけれど、できればスープを1杯つけて欲しい、とか。


 これまで表面化していなかっただけで、実は結構困っていたらしい。



「ヌーヌおばさん、ありがとうございました…。どうなるかわからないけど、僕おじいちゃんに提案してみます」

「このくらい、いつでも頼ってくれていいからねっ!期待してるよっ!」

「あいたっ」



 ヌーヌおばさんが、僕の背中をばーんっと叩いた。

 その衝撃に、僕はけほっと咳込んでしまった。

※2024年3月4日 9:36 加筆修正済み

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