表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/134

50. 雪かきは甘くない

 冬のヴァレーの空模様は、気が塞ぐような、どんよりとした灰色だった。

 しんしんと雪が降り続け、一日一日と日が経つごとに、雪の層が厚くなる。

 時折、一晩でどかっと降ることもあり、朝夕2回、男性の使用人を中心に総出で雪かきをしていた。


 僕も、身体が鈍らないように参加した…のだが、思わず途方に暮れて、空を見上げてしまった。

 顔に当たる雪は冷たくて、「寒い」を通り越して感覚がない。

 吐く息は白く、空気を吸い込むと鼻の奥がツンと痛くなった。



(あああ〜、きつい…!腕も腰も痛い…!!)



 雪かきは、想像以上に重労働だった。当たり前だが、雪は水を含んでいて重い。

 筋肉がついてきたので、多少の重さくらい余裕かと思ったけれど、そんなことは全くなく。

 単調な作業に、腰や身体の節々が筋肉痛になり、身動きするとうめいてしまう程だった。


 それでも、雪は待ってくれない。毎日毎日、降り積もる。

 今も空から、ぱらぱらと容赦なく降っている。



(ソル王国は滅多に雪が降らなかったから、ヴァレーの雪を初めて見た時は感動したけれど…。今は、嫌いになりそう…)



 どんなに恨み言を言っても止むはずはなく、疲れたからと数日休めば、作業量は数倍になってしまう。

 だから、みんな黙って、毎日こつこつと雪かきをするのだ。


 なるべく、腰に負担がかからないようにスコップでかき集め、手が届かない場所は収納(ストレージ)に収納する。

 凍ってしまった接面部分は、生活魔法の発火(ファイア)発熱(ヒート)で溶かしたりと、スキルも活躍した。



(僕、ヴァレーに来てから、スキルを使うことが多くなったな)



 自然豊かだということは、反面、時に人間に厳しい表情を見せることもあるということだ。

 そんな自然と、スキル・魔法・生活の知恵を賢く使い、無理なく折り合いをつけて行くことも、僕がヴァレーに来てから学んだことの1つだった。



 知恵と言えば、ヴァレーの建物は石と煉瓦で作られていて、とても頑丈だった。

 それに、屋根が急斜面になっている。

 そのおかげで、雪が勝手に滑り落ちるので、重さで家が潰れる心配をしなくても良かった。


 さらに、どの家にも、地下に石室があった。

 収納(ストレージ)に生鮮食品を、石室に保存食を貯蔵しておくのだ。


 僕も一度だけ、家の石室を見せてもらったけれど、食料がびっしりと並んでいてびっくりした。

 麦などの穀物が入った袋。干し肉・干し野菜・干し果物などの乾物。ソーセージ、塩漬け肉、酢漬け。それに、たくさんのチーズやワイン。

 ヴァレー家と使用人たちが、一冬十分に食べられる量が貯蔵されていた。


 それに、飲み水を確保するためか、井戸まで掘られていた。



(裏庭に井戸があるし、水生成(ウォーター)もある。最悪、雪を飲み水にもできそうなのに、なんで石室にまで井戸が?)



 僕は、特に使われている気配のない井戸を見て、ふとそんな疑問を抱いた。

 …のだが、石室を出てしまうと、そんな些末なことはすぐに忘れてしまった。






 雪かきが終われば、あとは室内で過ごすばかりだ。

 日中はだいたい談話室に家族が集まって、それぞれ好きなことをしたり、おしゃべりをしてゆっくり過ごす。


 談話室の暖炉には火が入れられ、ぱちぱちと音を立てて薪が燃えていた。

 その音や薪の匂い、ゆらゆらゆらめくオレンジ色の炎はとても風情があり、手をかざすと冷えた身体がじんわりと温かくなった。


 おじいちゃんはワインとチーズを片手に、机で何やら手紙を(したた)めている。

 おばあちゃんは、暖炉近くの安楽椅子で、せっせと編み物をしていた。

 今は、僕のために春用のセーターを編んでくれているらしい。


 リュカとメロディアは、暖炉から少し離れたラグに寝転がって、一緒に遊んでいる。

 寝転んだリュカの背中をメロディアが反復横跳びをしたり、お腹をふみふみしたり。

 かと思えば、リュカがメロディアのふわふわの毛に顔を突っ込んで、ぐりぐりしていたり…。



「めろちゃん、ふわふわ〜。しゅき〜!」

「クククー!」



 1人と1匹は、今日も仲が良かった。



 僕はそんな様子を眺めつつ、ソファで本を読むことが最近のお気に入りだった。

 ヴァレー家には高価な本や資料などが収集されていたけれど、中でも面白かったのが、代々の当主が書き残した日記だ。


 当時のヴァレーで起こった出来事や、葡萄栽培やワイン醸造の試行錯誤。

 時折、葡萄樹喰いやそのほかの害虫に苦しめられたこと。

 そんな、苦労を乗り越えてきた人々の悲喜交々(ひきこもごも)は、物語を読んでいるみたいだった。



(おじいちゃんでヴァレー家は8代目だっけ。当主の日記を遡っていけば、何か面白いことが書かれて、そう、だな…)



「ふわあ〜」



 次第に、うとうとと眠くなってきた。瞼が重くて、あくびが止まらない。

 朝から雪かきをして疲れていたうえ、部屋はぽかぽかと温かく、ひどく眠気を誘う。

 手の力が抜け、膝で開いていた日記がぱたんと閉じたのがわかった。



(ちょっとだけ…ちょっとだけ、お昼寝、しよ、う…)



 また明日も明後日も、雪かきをしないといけないのだ。

 少しくらい寝て、体力を回復させても許されるだろう。


 そう自分を納得させて瞼を閉じると、すうと眠りに落ちていく。



「…こうして眠っているところを見ると、まだまだ子どもだ」

「あらあら、毛布をかけてあげましょうね」

「にいに、ねんね〜?」

「クククー?」



 家族のそんな言葉を聞いたのを最後に、僕の意識は夢に沈んでいった。

※ 2024/03/14 13:30 サブタイトル修正済み

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

\ 書籍第③巻、8月20日発売&予約受付中 /

▼ 画像をクリックすると、TOブックス公式ページ(別タブ)に飛びます ▼

カバーイラスト

既刊①②巻も好評発売中です。詳しくはこちらから

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ