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【書籍化】祖父母をたずねて家出兄弟二人旅  作者: 泉 きよらか
第3章 ヴァレーでの暮らし
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31. 魂の還るところ

【第2章のあらすじ】

故郷であるソル王国を離れ、アグリ国のヴァレーに向けて旅立ったルイとリュカ。

祖父母からの遣いである、自警団のドニ・ブノワ・チボーの3人が護衛として旅に同行している。

冬の時期かつ幼い子ども連れの馬車旅なので、進みはゆっくりだ。

それをいいことに、ルイは観光気分でリモンの村、湖の村など、道中の村々の美味しい特産や景色を楽しむ。時には、無自覚料理チートを披露することも。


それでも、ヴァレーの後継者問題について、忘れたわけではない。

学びの町セージビルでは、勉強のためにと立ち寄った教会図書館で、師となる教会図書館長で植物学者のテオドア・フィールドと出会い、教えを受ける。


旅を通して、ルイは心も体も少し成長し、リュカは隠れた才能の片鱗を見せた。

そうして、旅も終わり頃に、ミンクリスのメロディアや旅の治療師クレメントが加わり、一行はようやくヴァレーにたどり着いたのだった…。

 血の繋がりがあるとは言え、最初はおじいちゃんたちにどう接したら良いのか戸惑うことが多かった。

 それはおじいちゃんたちも同じことだったと思う。


 けれど、二人は穏やかに語った。


「焦らずにお互いを知っていって、ゆっくり家族になれたらいいのよ」

「そうだ。私たちにしたら、会えると思っていなかった孫たちに、こうして会えただけで奇跡なのだ」


 その飾らない言葉に、肩の力が抜けた。

 僕はいつの間にか、あれこれ考えすぎて、がんじがらめになっていたことに気づいた。


(無意識に、嫌われないように、気に入られるようにって思っていたな…)



 二人は陽当たりが良くて、窓から葡萄畑が見える部屋を僕とリュカに用意してくれていた。

 家具は小さな子どもでも危なくないように、丁寧に角が取られたものばかりだ。


 その柔らかくて落ち着いたインテリアで揃えられた部屋は、とても居心地が良かった。

 メロディアも、専用スペースで一緒に暮らしている。



 ヴァレー家の使用人たちも、温かく迎えてくれた。

 さすがに「坊っちゃま」と呼ばれるのは恥ずかしい年頃なので、名前で呼んでもらえるようには頼んだが、主家の人間として丁重な扱いだった。


 ここでは彼ら使用人がいるので、僕が家事をする必要はない。

 掃除や洗濯は女中がしてくれるし、食事は専属の調理人が毎食用意してくれる。


 特に、食事は子どもが食べやすいように工夫がされていて、とても美味しかった。さすがプロだ。

 リュカは食事の時間になると、「はやく、ごはんいく!」と僕をせっつくようになった。



 食事は、おじいちゃんとおばあちゃんも一緒だ。


 二人は健啖家で、気持ちの良い食べっぷりだった。

 夜は特に、食事の前におつまみとワインを楽しんで、その後に食事もしっかり食べるのだ。

 多い時で、二人でワインボトルを3本も空けていた。


 リュカの食いしん坊の遺伝子は、二人から引き継いでいたのか、と納得してしまった。

 この様子を見ると、飲兵衛も引き継ぎそうだ。



 そんな風に、ゆっくり時間をかけて、美味しい食事とワインを味わいながら、おしゃべりも楽しむ。


 おじいちゃんとおばあちゃんの話を聞くこともあれば、僕がこれまでの暮らしや僕とダミアン商会のこと、ヴァレーまでの旅の思い出などを話すこともあった。


 リュカも、おじいちゃんとおばあちゃんにすっかり懐いて、一生懸命「にいにのごはん、おいちいの」とか「めろちゃん、かあいい!」とおしゃべりする。

 二人が目尻を下げて話を聞いている様子は、まさに『祖父母と孫』だった。




 そうして、祖父母に見守られながら、僕たちは長旅の疲れを癒し、新しい環境に慣れていった。






 ヴァレーでの生活がはじまって、しばらくした頃。

 今日は、父さんの遺灰をヴァレーに還す日だ。


 ソル王国では教会に納骨するのが一般的だが、ヴァレーでは白の山脈の神々に還すという風習があるのだそうだ。


 おじいちゃんたちに、遺灰は故郷のアグリ国に納めて欲しいというのが父さんの遺言だと伝えると、そう教えてくれた。

 僕から骨壷を受け取ると、おじいちゃんは「親不孝ものめ…」と苦々しくつぶやいて、今日の日を準備してくれた。


 勝手に家を、ヴァレーを飛び出した息子が、小さな壺に入って帰ってきたのだ。

 恨み言の1つや2つ、言いたくなるのもわかる。

 二人の表情はどこか怒っていて、とても悲しそうだった。



 ……その様子を見て、僕も身につまされた。

 父さんの息子だからというのもそうだが、僕が前世で死んだ時も、こうして親を悲しませたのだなと思ったからだ。






 馬車で、町を抜けてしばらく進み、白の山脈の麓で降りる。

 ここからは登山だ。


 足の悪いおばあちゃんや体力のないリュカと、もう一人、かなり高齢の巫女が輿(こし)に乗っている。

 輿(こし)は、浮遊(フロート)の魔法を掛け、力自慢の男たちが運ぶのだ。


 僕たち以外にも、護衛や神職と、予想以上の人数がいた。

 これから向かう先は神域との境界とのことなので、クリーンで身を清めてから、全員で静かに登っていく。



 休憩を挟みつつ、1時間くらい登っただろうか。ようやく目的地についた。

 それほど整備されていない山道なので歩き辛く、息が上がっていた。


 そこは、少しひらけた場所に、石造りの祭壇があった。




 神職たちの準備が整うと、高齢の巫女が儀式を執り行う。

 とても厳かで、神聖な雰囲気が満ちていた。


 僕たち親族を先頭に、祭壇に向かって跪き頭を垂れた。

 この日のために、一通りの所作は教えてもらっていた。



 巫女が聞き慣れない祝詞を唱える。


 白の山脈の神々を讃え、その加護と祝福への感謝。

 この地に生まれ育ち、異国で死した魂の救済を(こいねが)う嘆願。


 おもむろに、巫女が祭壇の中央に骨壷を逆さにして、父さんの遺灰を盛る。



『…この者の魂、白の山脈に(おわ)す神々のもとに還らん

 白き光の中、永遠(とわ)の静寂と安らぎを賜らんことを』



 そう巫女が請願すると──



 突然、祭壇に光が差し込んだ。

 そして、さぁああと風が吹いたかと思うと、父さんの遺灰を巻き上げ……空へとさらっていった。



 僕はその様子を、呆然と見上げることしかできなかった。

 神や妖精といった存在が当たり前の世界だと知識では知っていたけれど、僕はこれまで身近に感じたことはなかった。

 魔法やスキルがあるのに変な話だが、僕は今の今まで、半信半疑だったのだ。


 でも、こんなの。

 神の存在を疑うなんて、できないじゃないか。



 祭壇の光が、だんだんと地上から消えていく。

 その軌跡と一緒に、小さな光が昇っていくのが見えたような気がした──

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― 新着の感想 ―
[一言] 神や妖精が当たり前の世界の割にどちらもまったく出番ないですね。妖精に関してはただの悪戯好きなら微笑ましいで済ませられますけど、どこかの原典みたいな無垢な邪悪なら出遭わない方が良いですね。
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