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23. 学びの町セージビルでの出会い(前)

 湖の村を出発して、早くも1週間ほどが経った。


 遥か遠くに見えた白の山脈に、段々と近づいている。

 その山頂は雪が積もり、雲に覆われていた。その姿は神聖な雰囲気が漂う。


 馬車は緩やかな上り坂を進んでおり、風は徐々に冷たくなってきていた。少し肌寒さを感じる。


 お昼寝から起きて、隣でおやつを食べているリュカの顔や服の間から背中を触ってみるが、寒すぎたり逆に暑すぎて汗をかいているなんてことはないので、問題なさそうだ。


「う?」

「リュカ、寒くない?大丈夫?」

「だいどーぶ!」

「それならよかった。おやつは美味しい?」

「おいちい!りゅー、これしゅき!」


 ぱあーっと輝く笑顔で、あぐあぐとおいしそうに食べている。

 今日のリュカのおやつは、ヨーグルト入りのパンケーキだ。リュカが手に持って食べられる、小さめなサイズで焼いている。

 先日手に入った貴重なリモンのはちみつを使ってほんのり甘みを出していて、ぼくも味見したけれどもっちりとした食感が楽しい、飽きのこないおいしさだった。


「坊ちゃん方、そろそろ着きやすぜ」

「わかったー。次はどんなところ?」

「次はセージビルという町ですぜ。国境近くでは一番大きな町で、学びの町とも言われてやす」

「!いよいよ国境が近くなって来たんだね…」


 思えばもう一月半近く、旅をしてきた。ゆっくり進んできたとはいえ、故郷である王都はもうはるか遠くだ。


「ねえ、ドニ。なんでセージビルは学びの町と呼ばれているの?」

「へい。セージビルには、ソル王国でも有数の教会図書館があるためでさあ。その図書館目当てに、聖職者や学者、研究者なんかが多く集まっていやす。そうやって集まった奴らが、町の子どもらに教えたり、私塾を開いていたりして教育が盛んなんで、学びの町と言われてるんですぜ」

「へえ〜。そうなんだ…」


(教会図書館…。行ってみたいな。それに、私塾も気になる。ヴァレーのためになる知識を学べるかもしれないし、そうでなくても知識は腐らない)


「セージビルには、どのくらい滞在する予定?」

「情報収集の結果次第ですが、ひと月からふた月ほどかと。セージビルをでた先、アグリ国方面はこの時期雪が降って道が悪くなりやす。それに、白の山脈の麓にそって南西に進むんですが山は天候が変わりやすいんで、大事をとって春の雪解けまでは滞在することになるかと思いますぜ」

「なるほど。…それなら、ぼく、滞在期間中に教会図書館や私塾で学ぶことができるかな?」


 ぼくがそう言うと、ドニは難しい顔をして考え込んだ。


「教会図書館は誰にでも門戸を開いているんで、問題ないですぜ。ただ、私塾の方は難しいかもしれやせん。ああいうところは、ツテや紹介状がないとまず入れないと聞いたことがありやす。ましてや俺らは短い間しか滞在しやせんし」

「そっか。そうだよね…。ひと月とはいえ、その期間ただ何もせずにいるよりかは、何かヴァレーのために学ぶことができればと思ったんだけど…」


 ぼくが少し殊勝な様子でそういうと、騙されや…素直なドニは感激したようだった。


「坊ちゃん、さすがですぜ…!私塾は難しいかもしれやせんが、坊ちゃんのためにも、ほかに何かないか当たってみやす」

「ありがとう、ドニ。お願いね」






 セージビルに滞在し始めて数日が経った。今日はやっと教会図書館に行けることになった。

 もう少し早く行きたかったのだが、リュカが一人残されることを嫌がってひどくぐずってしまったり、護衛たちの手が空かなかったりということが重なって、結局今日になってしまった。


 さすがに3歳児は連れて行けないし、子どものぼくは大人の付き添いがないと教会図書館は利用できないのだから仕方ない。

 チボーに宿に残ってもらって、リュカがお昼寝をしている隙に少しだけだが、初めての場所にぼくはわくわくしていた。


 ちなみに、今日の護衛役には珍しくブノワがついている。ドニは町に着いてから、関係各所への連絡や調整などで忙しく出かけていることが多かった。



 ブノワに道案内してもらって、町の中心地にある教会図書館の前についた。正面には庭園があり、奥にある建物…おそらく図書館の壁面には宗教的なモチーフが彫刻されており、ドームが聳え立ったなんとも荘厳な建物だった。

 門にも建物の入り口付近にも警備が数人立っているうえ、巡回している姿も見える。


 想像以上に立派な建物に、ぼくは驚いてしまった。


「す、すごいところだね…」

「(こくこく)」


(そりゃあこんなところ、子どもが一人でなんて来れるわけないや…。それに本はとても高価だから、物々しい警備も当たり前か)


 門は開いていて、特に人が通っても咎められることはなかったので、ぼくも恐る恐る中に進んだ。子どものぼくが護衛つきとはいえ、教会図書館の建物に向かっていることに奇異な目を向けられたが、特に何も言われることはなかった。


 たどり着いた受付で名前や滞在先の宿などを記帳し、手荷物を預けて注意事項などの説明を受ける。

 それに、もし本を破損等したら罰金、ましてや盗難をしたら重大な犯罪として厳しい処罰を受けるなどの誓約書も書かされた。


 ぼくはこの時点でかなりびびってしまっていた。


 それでもブノワに促され、自分を奮い立たせてなんとか建物内を進む。こんな思いまでしてここまで来たんだから、せめて本の1冊でも読んで帰らないと割に合わない!

 そんな半ばヤケクソな気持ちで書庫に足を踏み入れたが、その絢爛な光景に言葉を失ってしまった。


 広い書庫には、高価で貴重な本がずらっと並んでいた。天井には宗教画が描かれていて、高い天窓からは明るい光が天使のはしごのように降り注いでいる。

 中央部には机と椅子が設置されていて、年配の学者か研究者らしき男性が数人座って静かに本を読んでいた。

 その呼吸をするのも憚られるくらいの静けさは、息苦しさを覚えてしまうほどだった。


 なんとか震える足を動かして、本棚をみて回る。

 床に絨毯が敷き詰められていてよかった。もし靴音が響いてしまうようなら、ぼくは回れ右で引き返して帰ってしまっていたかもしれない。


 本棚の分類をみてみると、教会図書館にはさまざまな種類の本が集められているようだった。

 ぼくでもなんとか入れるくらいの場所なので、希少な本は別に保管されているのだろうけれど。


 聖書・聖典・神学などの宗教関連や、諸外国の言語に関する文書。文学や美術書、各国各地の歴史書、医学、自然科学、動植物学など、本当にたくさんの本があった。

 この教会図書館は、この世の叡智が集まった、まさしく知識の宝庫だった。

出会う相手は後編で登場します

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― 新着の感想 ―
[一言] 誰にでも門戸を開いてるのに奇異の目で見られるんだ。
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