15. また会う日まで(後)
母さんとの別れの翌日。ついにぼくたちの出立日がやってきた。
ひっそりと旅立つつもりだったが、朝早くにも関わらず、ポリーヌさんやダミアンさん、エミリーさんが見送りに来てくれていた。
「はあ〜〜〜、寂しくなるねえ。ねえ、あんた」
「ああ。そうだね…。でもこれが一生の別れという訳ではないだろう。専売契約のこともある。それに、ルイたちの生活が落ち着いた頃に、一度私も行商ついでに様子を見に行こうと思っているんだが、良いかな?」
「ダミアンさん…ありがとうございます。ぜひ。いらっしゃるのを楽しみにしています。本当に、今までお世話になりました」
「では、また会う日まで。…ああ。契約金の支払いは、そちらの国の商人ギルドでもできるから、時々は確認するようにな」
「はい」
ポリーヌさんとハグを、ダミアンさんとは握手をする。
この人たちがいなかったら、ぼくたち家族は一体どうなっていたかわからない。
どれだけ感謝しても足りないくらいだった。アグリ国に行ったとしても、できる形で少しずつ恩を返して行きたい。
「ルイさん、リュカちゃん。アグリ国に行っても、どうかお元気で」
「エミリーさん、今まで本当にありがとうございました。リュカがこんなに素直に、元気に育ったのは、エミリーさんのおかげです」
「いえ。そんなことはありませんわ。ルイさんがしっかりされていたからこそです」
「えみー、だっこー」
別れの挨拶をしていると、リュカがいつものように、エミリーさんに抱っこをねだる。
リュカにとっては、生まれてからずっとそばにいてくれた人だ。上品で落ち着いたエミリーさんに、本当によく懐いていた。
(あれ、もしかして…。リュカ、エミリーさんを母親だとか思ってないよな…?)
ふと、まさかの可能性に思い至る。
(いやいやいやそんなことは……ある…かも)
嫌な予感を感じつつも、最後の抱っこをしたエミリーさんから、リュカを受け取る。
「さあ、リュカ。エミリーさんにバイバイしよう?」
「?ばいばい?えみー、いっちょ」
「エミリーさんとは、ここでバイバイだよ。にいにとリュカは、これからおじいちゃんとおばあちゃんのところに行くんだよ」
「ばいばい、ちあう。えみー、いっちょ」
「リュカちゃん…」
がんとしてバイバイじゃないと言い張るリュカが、かわいそかわいくて困る。
「さあ、坊ちゃん方。そろそろ出発しますぜ!」
「ああ。うん。それじゃあ…みなさんもどうか、お元気で」
リュカを抱っこしたまま、馬車に乗り込む。
すると、本当にお別れなことを察知したらしいリュカが、海老反りになって嫌がった。
「やああああああ、ばいばいちない〜〜〜!えみー!いっちょおっ!びええええええん」
「わあ、ちょっと、落ちるから!リュカ、落ち着いてっ」
ドニががっしりと支えてくれて、そのままビチビチと活きの良いリュカを捕獲してくれている。
その様子にみんなが苦笑してしまってなんとも締まらないが、リュカの叫び声を響かせたまま、馬車が走り出した。
「行ってらっしゃーーーい」という声が何度も後ろから聞こえて、溢れてきた涙をぐっと拭う。
「行ってきます!!!」
馬車の窓から身を乗り出して、ぼくは力一杯手を振った。
──そうしてぼくとリュカは、優しい人たちのいる故郷をあとにして、アグリ国へと旅立った。
これで完結のような終わり方ですが、完結しません。2章に続きます。




