120. 真意 1
コロナEXにて、『祖父母をたずねて家出兄弟二人旅@COMIC』の第三話 ② が本日配信されました。ぜひお読みください!(本文下のリンクから、コロナEXの作品ページに遷移できます)
また、ピッコマでも配信が開始しています。ぜひお読みください!
悪戯好きの精霊にでも、化かされているのだろうか。
お願いだから夢ならば覚めてくれ、と僕は左手の甲をギュッと抓る。痛い。……ということは、夢じゃない。
「我が孫と王女殿下とでは、あまりにも家格に差がございます。宮廷に要らぬ憶測を招きましょう。王家の威信も揺らぎかねないと愚行致します。どうか今一度、お考え直しください」
おじいちゃんはどうやら、反対のようだ。渋面を浮かべ、すかさず国王陛下に苦言を呈している。頼もしい。
「まあ、待て。辞するのは顔合わせを済ませてからでも、遅くはあるまい。誰か、第三王女をここへ」
苦言は百も承知なのだろう。国王陛下はおじいちゃんを軽くいなすと、侍従を遣いに出した。と思えば、侍従は近くで控室に待機していたらしい王女殿下を伴って、すぐに戻ってくる。
どうやら僕たちは嵌められた……というのは言葉が悪いけれど、周到に策を講じられていたらしい。よっぽど王家はこの婚約話に乗り気なようで、上手く丸め込まれてしまいそうな気配を濃く感じた。
(できるだけ穏便に、波風立てずに断るにはどうしたら良いんだろう……)
いっそ王女殿下の方から断ってくれれば、角が立たないのだけれど。
僕は頭を悩ませながら、お出迎えの一礼から顔を上げる。瞬間、見覚えのありすぎる王女殿下のお顔に、「まさか」と目を瞠った。
全身、清楚な白の総レースで肌の露出を徹底的に避けた装いに、ガーゼマスクのような包帯で覆った顔をベールで隠した王女殿下は……。
「お初にお目もじ致します。アグリ国が第三王女、ユヴェットにございます」
「ユヴィさん!?」
ハッと気がついて手で口を塞いでも、後の祭り。いくら驚いたとはいえ、王族の前で許しもなく叫ぶなんて。
衆人環視のなか、僕がダラダラと冷や汗をかいていると、ユヴィさん、いや王女殿下はパチパチと瞬きしたあと、柔らかく微笑んだ。
「はい。お久しぶりですね。ルイ様」
「首尾よく運びすぎたようだな。驚くのも無理はなかろう」
鷹揚な国王陛下に促されてソファにへたり込むと、非難じみたおじいちゃんの視線を感じた。
おばあちゃんは上品に手を口に添えて、おかしそうに笑っている。
「一体、どういうことだ、ルイ。王女殿下と面識があるとは、私は聞いておらんぞ」
「あらあら、まあまあ。ルイも隅に置けませんね」
「いや、えっと、その……」
王女殿下とは、一週間ほど前、王都観光した際にたまたま救児院で会いました……なんて、おじいちゃんたちに明かしても良いものだろうか。
僕がオロオロしていると、国王陛下が婚約打診の真意を話しはじめた。
「第三王女は、決して表舞台に立つことのない『秘された姫』である。理由は見ての通り、この顔にある」
「……皮膚病でございますか」
「いかにも。第三王女は幼き折に、『水炎症』という我が国では稀なる病に罹った」
「水炎症……」
はじめて聞く病だ。
それに、罹ったということは、いまはもう治っているということだろうか。
「いまでこそ、適切な治療を施せば命を落とすような病ではないことも、人から人へ伝播することも稀な病だとわかっておる。だが、当時は違った」
想像して、恐ろしくなる。
見たことも聞いたこともない病に罹った病人がいると聞いたら、接触を避けたいと思うのが普通だ。
でも、もし、病に罹ったのがリュカだったら……。
僕は感染ることも厭わず、なにがなんでもリュカを治す方法を見つけ出してみせるだろう。
「まるで皮膚の下を虫が食い荒らすかのような痒みに、血が滲むほど全身を掻きむしる。すると、膿疱が破れ、ひどい臭いとさらなら痒みが襲う。感染を恐れるあまり、手当すらもままならない日々が続いた。そして、ようやく『水炎症』だと知れた頃には……第三王女は、王家の姫としては致命的な瑕疵を負っていた」
淡々と話す国王陛下に、僕はつい顔を顰めた。感情が込められていないからこそ、凄みを感じてしまって。
「間一髪、上級ヒールポーションで一命を取り留めたものの、一度できてしまった痘痕は癒えることなく、その身に残る結果となってしまったのだ」
(なるほど、それでユヴィさんは顔どころか、皮膚という皮膚を隠しているのか……)
おそらく、痘痕状態で治った皮膚は『治った』ものとして、治癒の効果が発揮されなかったのだと思う。
ヒールポーションや魔法が万能ではないことを、僕は身をもって知っていた。
「痘痕があろうとも、予や王妃にとってはかわいい娘だ。何度、命があることを神に感謝したことか。というのに……。口さがのない宮廷のお喋り雀どもは、第三王女のことを『王宮の怪物』呼ばわりしおって!」
「それは……むかつ……じゃない、心中お察しいたします」
「そうか、其方はわかってくれるか」
痘痕も笑窪。リュカなら、きっと痘痕が残ってもかわいいだろう。
もし馬鹿にする奴がいたら、僕がぶん殴ってやる。
ついついリュカに当てはめて考えてしまった僕は、両陛下の気持ちが痛いほどよくわかって、鼻息荒く息巻いた。
「だが、それから第三王女はすっかり世を厭い、神の道に入ると申して聞かぬ。ならば、現実を知れば考えも変わろうと、身分を隠し救児院で奉仕をさせておった。その折に、其方と出会ったというわけだ」
「真意」は途中なので、来週20日月曜に続きを更新する予定です。




