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祖父母をたずねて家出兄弟二人旅  作者: 泉 きよらか
こぼれ話・おまけ・記念SS

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メロディアの大冒険

※リュカが保育園に行き出したあと〜葡萄の花が咲くまでの間の出来事です

「クククー!(リュカ、おにいちゃん、いってきま〜す!)」

「めろちゃん、ばいばい〜!」

「メロディア、気をつけていってらっしゃい」



 ルイとリュカに一声鳴いて、メロディアは尻尾をふりふり、葡萄畑へと走り出す。リュカと一緒に保育園に来たら、周囲を見回るのがメロディアの日課だった。

 メロディアは体こそ小さいが、ミンクリスらしくグングンと走り跳んで、すばしっこい。葡萄畑の下草(したくさ)も、ごろごろ転がる小石もなんのそのだ。葡萄の幹と幹の隙間を、さーっとすり抜けていく。



「ククク、ク〜(わるいやつ、どこ〜)」



 メロディアはピタッと立ち止まると、あたりをキョロキョロ。大きな葡萄の樹ばかりで、小さな体では遠くまで見渡せない。

 コテっと首を傾げると、すぐそばの樹を一直線に駆け登る。木登り上手なメロディアは、あっという間にてっぺんに辿り着いた。



「ク、ク、ク、ク! ククク〜(いない〜)」



 右左前後を、短く鳴きながら見て回る。ミンクリスの嗅覚は鋭いのだ。くんくんくんと鼻を(うごめ)かせれば、悪い(やつ)がいるかどうか、簡単にわかるのである。

 メロディアは()ぎ慣れたいつも通りであることを確認すると、ご満悦そうに尻尾をふりふり振った。

 ……とそこに、風に乗って数匹の白い蝶が。



「ククク!クク〜!(ひらひら、まって〜!)」



 あっさり見回りから蝶へと興味が移ったメロディアは、(たわむ)れるように群をなして飛ぶ蝶を追いかける。

 捕まえようと飛び跳ねるが、さっと(かわ)されていた。完全に蝶に翻弄(ほんろう)されている。そうとも気づかず、メロディアは蝶を追いかけて、保育園裏手の厩舎(きゅうしゃ)まで行き着いた。



 ♢



 白い蝶たちは、厩舎(きゅうしゃ)の水飲み場で羽を休める。中央の支柱から二箇所、管が伸びていて、ちょろちょろと水が吹き出していた。

 メロディアはくんくんくんくんと、小刻みに鼻を鳴らす。



「クク〜!(みず〜!)」



 ミンクリスは水遊びが大好きで、泳ぎも得意な動物だ。メロディアも例に漏れず、水の匂いを()ぎつけると、水飲み場の槽にばっしゃーんと飛び込む。

 その勢いと水飛沫に蝶たちは逃げ出してしまったが、メロディアはもう目もくれなかった。



「クク、ククク〜!(みず、きもち〜!)」



 自分の体長よりも深い槽でも、お構いなし。メロディアは悠々と泳ぎ回っている。いつもは大鍋で水遊びをしているので、喜びも一入(ひとしお)なのだろう。

 ごくごくと水を飲みつつ、春から夏に変わりつつある日差しを浴びて、メロディアはへそ天で水面にぷかぷか浮かんでいた。



 ♢



「クク〜ン(ねむいの……)」



 存分に水遊びをしたメロディアは、陽気に誘われてうとうと。まるで千鳥足だ。

 毛皮の水はぶるぶると払えたが、首から巻いたリボンはまだぐっしょり水を含んでいて、首が重そうである。

 くんくんと鼻の導くまま、覚束ない足取りのメロディアが入り込んだのは、薪・草用の小屋だった。



「ク〜、クク……ク……(ふわ〜、おや、す……)」



 小屋の中で保管されていたふかふかの干し草をベッドに、ふわふわの自分の尻尾を枕にして、メロディアはおやすみ三秒で寝落ち。小さくいびきをかいて眠る姿は、野生をどこかに置き忘れてきたようだ。


 しばらくすると、壁に空いた穴からもう一匹、小さな侵入者が。メロディアと同じ、ミンクリスだ。

 そのミンクリスは、干し草に埋もれるように眠るメロディアに気がつくと、雷に撃たれたように硬直した。口を開けて、手に持っていた木の実をぽとっと落としている。



「ク、ククク……!(め、めんこい……!)」



 どうやらオスらしいこのミンクリスは、メロディアに一目惚れしてしまったようだ。

 そわそわと落ち着かずに前肢を動かし、くるりと回れ右すると、また穴から外に出て行った。



 ♢



「ククク〜!(よくねた〜!)」



 メロディアはくわっとあくびをし、ぶるぶると毛皮を震わせて伸びをする。ご機嫌な目覚めのようだ。

 ……と、そんなメロディアに声を掛けるものが。



「ク、ククク(お、おはよ)」



 自分以外の存在にまったく気づいていなかったらしいメロディアが、一瞬飛び跳ねる。ぶわっと尻尾を広げて、精一杯の威嚇(いかく)をした。



「ク、クククー!(わ、わるいやつー!)」

「クククク!(ちがわい!)」



 オスのミンクリスは、警戒体制のメロディアに近づこうとはしない。ただ、足元の木の実を蹴ってころころとメロディアの方に転がした。

 ……そう。メロディアが眠っている間に、このオスのミンクリスがせっせと集めた木の実が、山になっていたのだ。涙ぐましい、ミンクリスの求愛行動の一つである。



「ククク……ククク?(ええと……はら、へってない?)」

「ククク……!(おなかなんて……!)」



 減ってない、とは言えないようだ。メロディアの視線は、木の実に注がれている。少しずつ尻尾の広がりが治まってくると、メロディアはそろそろと木の実に近づき、前肢にとった。

 悩むように転がしているが、所詮は動物だ。食欲には勝てず、カリカリカリカリと食べ出したらもう止まらなかった。



 ♢



「クククー!(おいしかった!)」

「ククク(よかったぜ)」



 メロディアは、先ほど威嚇(いかく)したことなどすっかり忘れてしまったようだ。食料をくれた=いい人という構造なのだろう。

 そんなメロディアに、オスのミンクリスも少しばかり胸毛を盛り上げて得意気のように見える。

 満足したメロディアはぺろぺろと食後の毛繕いをしていたが、途中ではっと何かに気づいたようだ。

 色んな欲が満たされて、やっと本来の生物時計が働いたのだろう。それはちょうど、いつもメロディアが保育園に帰る合図であった。



「! ククク!(もう、かえる!)」

「クククー!(えええー!)」

「ククク〜(ばいばい〜)」



 身を起こしたメロディアは、オスのミンクリスを置き去りにして、ダッと駆け出した。目指す場所は、すぐそこの保育園である。

 薄く開いた戸から、体をねじ込んで中に入った。すでに勝手知ったる場所なのだろう、足取りは堂々としたものであった。

 あちこちから伸ばされる子どもたちの手を()(くぐ)り、メロディアはおもちゃで遊んでいたリュカの肩に飛び乗る。



「あ! めろちゃん、おか〜り!」

「クク〜!(リュカ〜!)」



 リュカの小さい手が、メロディアの背中を撫でる。メロディアは目を細め、とても気持ち良さそうだ。



「きょうもー、たのちかった?」

「クク!(うん!)」



 そうして、一人と一匹は仲良くほっぺをすりすり。メロディアは一生懸命、今日の大冒険をリュカに話しているようだ。

 リュカも、まだ四歳児。メロディアの言葉を、きちんと理解しているわけではない。でも、小さなお友達が楽しそうに話す物語を、きゃあきゃあと喜んで聴いていた。

・メロディアは一人称で物語を進められるほど、さすがに知能はないはずなので、三人称に初挑戦してみました。(多分今作では最後)

・メロディアが保育園の外に「おでかけ」してたのは、元々はリュカのためでした

・メロディアとオスのミンクリスとの出会いはこんな感じです。ここから頑張って、ボーイフレンドにまでなりました

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