外灯
能力の低いぼくは営業の仕事で毎日が疲れ切って暗い気持ちだった。そんな生活を唯一明るく照らしてくれたのは彼女だった。唯一は言いすぎかもしれない。けど、あのとき、ぼくを元気づけていたのは間違いなく彼女だった。
そう考えていると、ふと伊豆に旅行したときを思い出す。晩ごはんは宿の近くに料理屋さんがあるだろうと目星をつけずに歩いた。お金のなかったぼくはちかくの居酒屋は高いと思い、探せば安いところがあるだろうと2kmほど離れた場所まで彼女と歩いた。伊豆の道路は狭く歩道まで草が生い茂ってきていた。外灯が長い間隔を開けてぼくらを闇から出し入れする。それはまるで彼女がぼくを闇から救い出すように。苦役という闇から、幸せという光に。深い深呼吸を繰り返すように。
彼女は笑っていた。ぼくもつられて笑う。光と闇は繰り返す。また闇に入ると分かっていたから光の中でも少し辛かった。
そしてこの外灯はこの先の道で、いつかなくなってしまうのではないかと怯えていた。
外灯は僕の予感していたとおりなくなってしまっていた。
彼女は僕に身を寄せながら「周りが暗くなると空が綺麗に見えるね」と見上げて言った。
ぼくは空を見た。
小さく見える星から力強く光が降り注いでいた。ぼくもそんな星になりたいと思った。